28.新たな挑戦
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どうしても誤字脱字は無くなりませんから。(汗)
無事に複数の中位精霊と契約した武明らは、ザンデの村へ戻ってきた。
そしてまずは助言してくれたザンデの魔女に、会いにいく。
「おぬしら一体、なにをしてきたんじゃ?」
「私たち、がんばりました。おかげで私も、契約できたんですよ、おばば様」
「ニケも、がんばったでしゅ」
「まあこれも、魔女殿の助言のおかげ、ですかね」
魔女の家の中には、武明、オルジー、ニケの他に、複数の精霊が顕現していた。
武明のミズキ、マヤ、フランだけでなく、オルジーのアレザと、ニケのニヤもいる。
そんな精霊たちがキャッキャと戯れる様を見て、魔女は呆れてしまう。
「しかしまさか、中位精霊が4体も揃うとはのう。さすがはタイオワの使者と、精霊の落とし子なのか……」
「う~ん、どうなんでしょう。でも普通は何年も掛かるのを、1ヶ月程度で見つけたんだから、やっぱり何かあるんでしょうね」
「当たり前じゃ。普通は一生に一度、会えるかどうかなんじゃぞ。それにしても、オルジーまで中位精霊を連れ帰るとはのう」
「はい、私も夢のようです」
魔女の言葉に、オルジーが顔を輝かせる。
今まで彼女が肩身の狭い思いをしていたのを知る魔女は、それを喜びつつも、表情を引き締めた。
「まあ、戦力の強化が成って、何よりじゃ。しかし本当の戦いは、これからじゃぞ」
「もちろん、そのつもりです」
「うむ、それでこれから、どうするつもりじゃ?」
「まずはトゥククへ行って、ポワカさんを説得します」
「ふむ、ポワカか。妥当なところじゃ。あいつを味方に引き込めば、自然に周りも付いてくる。問題は、ちゃんと説得できるかどうかじゃがのう」
魔女が難しい顔をするのを見て、オルジーが尋ねる。
「えっと、タケアキさんが3属性持ちになったから、従うんじゃないんですか?」
「それはあくまで、話を聞かせるための前提じゃ。ただ従えと言われたって、判断できないじゃろうに」
そんなことも分かっていないのか、という顔でオルジーを叱る。
そこで武明は言葉を選びながら、思いを語る。
「ええ、魔女殿の言うとおりですね。ただ精霊を従えるだけでなく、どうすれば彼らに未来を見せられるのか? それを俺は、旅の間中ずっと考えていました」
「うむ。全てとは言わんが、それなりに将来像が描けねば、我らもついてはいけぬ。新しい体制に踏み出すには、かなりの覚悟がいるのじゃ。して、お前はどのようにして、人族に対抗せんとする?」
ズバリ聞かれ、武明はしばし間をおいてから口を開いた。
「……まずは周辺の村長を集め、会議を開きます。そこで正式にタイオワ連合を組織して、俺が首長になることを認めさせます」
「ふむ、それで?」
「それから集落間の道を整備するのと並行して、ハーフリング族に6脚馬を増やしてもらい、輸送力を強化します」
「輸送力を高めるのは分かるが、ムツアシを増やせるのか? ハーフリング族にそんな余裕があるとは、とても思えんがのう」
魔女のその質問に、武明は意味ありげに答える。
「それについては、腹案があります。実は俺のマヤは、闇の低位精霊を紹介できるんですよ」
「なんじゃと? もしそれが本当なら、ハーフリング族の闇使いが増やせるではないか。なるほど。それだったら彼らも、協力してくれるかもしれんな」
「ええ。もちろん食料なんかの物資は、他から出してもらわないといけませんけどね。でもこれで流通が活発になれば、集落間で物資を融通できます。互いに得意な商品の生産に励めば、今よりは余裕ができるでしょう」
「ふ~む……たしかに多少は余裕ができるじゃろうが、それぐらいでは大して変わらんのではないか?」
なおも納得できない魔女に、武明はさらに説明を続ける。
「もちろん、それだけじゃありませんよ。ドワーフ族と協力して、鉄の生産を増やします。そして作った鉄器を連合内に配って、生産性を上げるんです。農業にしろ、狩りにしろ、収穫量は増えますよね?」
「鉄を増やすなんて、そう簡単にできるのか?」
「なんとかやれると思いますよ。ちょっと見せてもらいましたけど、この世界の製鉄はかなり非効率ですからね」
紙作りでドワーフの村へ行った時、武明は製鉄風景も見せてもらった。
それは木炭と鉄鉱石を使った、原始的な製鉄方法である。
武明も専門家ではないが、製鉄の原理ぐらいは理解していた。
その知識をもってすれば、近代の高炉とまではいかなくとも、それ以前のものぐらいは、やれるのではないかと考えていた。
「う~む。その真偽は別として、仮にできたとしよう。その後はどうする?」
「生産力と流通の向上を図りつつ、このザンデを強化したいと思います」
「ここを強化する? なぜじゃ?」
「ご存知のように、シュドウがやられた今、次に狙われるのはここの可能性が高いです。皆さんはまだ先だと思ってるようですが、さほど時間は掛からないでしょう。大至急、守りを固め、戦力を集結させる必要があります」
「むう、それほど急な話か……」
ザンデの村は人族の植民地から北西に位置し、そこより南の集落はほぼ壊滅していた。
故にザンデの戦力増強は急務なのだが、いまだ村人の危機感は薄い。
それを指摘されて、魔女はしばし黙り込んだ。
「……ふむ、食料生産を増やして、武器と戦力を強化する。それはいいじゃろう。しかしそれで、人族の侵攻を完全に抑えられるのか?」
「いえ、それだけでは一時しのぎにしかならないと思います」
「では、どうするのじゃ?」
「連合の加盟者をもっと増やします。具体的には3大獣人種と、さらにエルフ族も巻き込みたいですね」
すると魔女は、苦々しい顔でそれを否定した。
「そんなことが簡単にできると、思っておるのか? あいつらは話を聞くような連中ではないぞ」
「簡単でないことは承知のうえです。しかし、連合を繁栄させながら、勝利を重ねれば、彼らも話に乗ってくると思いませんか?」
「う~む……それはそうかもしれんが、本当に上手くいくのか?」
「さあ、絶対の自信なんて、ありませんよ。だけど、みんなの協力があれば、不可能じゃないと思ってます。他にもいろいろと考えていることは、ありますし」
それを聞いた魔女は、まじまじと武明を見つめる。
やがてため息をひとつ吐いてから、降参の意思を示した。
「分かった。おぬしを全面的に支持しよう。今から村長の所へ行って、説得するぞ」
「ありがとうございます……ほんと、心強いですよ」
「ハンッ、何をかわいらしいことを。しかしこれだけのことをやろうと言うのじゃ。味方は少しでも多い方がいいぞ」
「ええ、皆が一丸となって取り組まないと、いつまでも進みません。そのために力を貸してください」
「ああ、儂ら自身のためじゃからな」
その後、魔女と武明は村長の家へ赴き、タイオワ連合の強化構想を語った。
さすがに長を始めとする重鎮たちは驚いていたが、彼らも人族の脅威は感じている。
そして何より、3属性の中位精霊を持つ武明を、もう無視できなかった。
彼らは渋々ながら武明の提案を受け入れ、強化構想は動きだすこととなる。