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27.風の精霊

 オルジーが水の中位精霊を手に入れたことにより、残るは武明の契約のみとなった。

 しかし、お目当ての風精霊は、そう簡単に見つからない。


「は~~、なかなか見つからないな」

「そうですね。あれから1週間も探してるのに、手がかりすらないなんて」

「ちかれたでしゅ」


 風精霊ということで、風の強そうな渓谷や尾根を探しては、精力的に歩き回っていた。

 しかし単純に風が強いだけでなく、魔素も濃い部分でないと、強い精霊は住み着かない。

 そんな魔素溜まりとか、地中から魔素が噴き出すような場所となると、めったに見つからないのが実状だ。


「精霊の落とし子がいるのに会えないって、どんだけ少ないんだ? 中位精霊」

「いえいえ、そんなもんですって。普通は何年も探し続けて、ようやく会えるものなんですよ。10日間で2回も遭遇しただけで、十分異常です」

「まあ、そうだろうなぁ。でも早く戻らないと、また別の村が襲われそうでなあ」

「それもそうですけど、焦っても仕方ないですよ」

「そうは言ってもな……」


 オルジーの言うことはもっともだが、武明は焦っていた。

 早く戻って、タイオワ連合を強化しないと、また新たな犠牲者が出るのではないか?

 そんな思いがぬぐえずに、悶々としてしまう。


「いっそのこと、今の状態でいっぺん戻ろうか。俺は2体だけど、オルジーのアレザを含めれば、3体だろ?」

「う~ん、たしかにそれだけでも、発言力はだいぶ高まりますね……だけどやっぱり、弱いと思います」

「そうかな?」

「はい。やはり異なる種族をまとめるには、3属性持ちぐらいじゃないとダメです。それぐらい圧倒的じゃないと、言うこと聞いてくれないと思います」

「そうは言ってもな……」


 武明は頭をガリガリかきながら、少し考える。


「もう1日、いや2日探してダメだったら、1度もどろう。何か事件が起きてるかもしれないし、食料も尽きたからな」

「あ~、たしかに最近、お肉ばっかりですからね」

「ニケは、へいきでしゅ」


 出発時に持ってきた穀物や調味料は、ほとんど尽きていた。

 そのため最近はもっぱら、ニケの狩ってくる獲物を焼いて食べる日々だ。


「分かりました。明後日まで探してダメなら、戻りましょう。それまでに見つかると、いいですね」

「ああ、ホントだよ」

「きっと、みつかる、でしゅ」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ここまでと期限を切ったのがよかったのか、それともニケの恩恵か。

 翌日の午後に、武明はあっさりと風の中位精霊を見つけた。


「やりましたね、タケアキさん。風の中位精霊ですよ! ほら」

「ああ、まだ契約できてないけどな」


 そこは、風がビュウビュウと吹きすさぶ、尾根の上だった。

 そこに鎮座する巨岩の下から、魔素が湧いているらしく、絶好の風精霊の住み家になっていた。

 その近くを通りかかったら、マヤから警告があり、精霊の発見に至ったのだ。


「さて、おとなしく契約してくれるかな?」

「気をつけてください。逃げなくても、荒っぽいのはいるらしいですから」


 オルジーの言うように、そもそも相性の悪い精霊は、さっさと逃げてしまう。

 しかし逃げずとも、相手の力量を計ろうと、いきなり突っかかってくるものもいる。

 その場合はどうにかして相手を屈服させねば、契約はできないのだ。


 ここでニケが手伝いを申し出た。


「タケしゃま、おんぶしてくだしゃい。ニケも、てつだいましゅ」

「ん、大丈夫か? でもマヤの時は、ニケに助けられたからな。今回もニケの恩恵を、いただくとするか」

「はいでしゅ」


 武明が腰を下ろして背中を向けると、ニケが背中に取りつき、首に手を回す。

 彼女は大好きな武明の臭いを確かめるように鼻をこすりつけると、満足そうに笑った。

 それを見ていたオルジーが、少しうらやましそうにしていたのを、武明は知らない。


 武明がニケを背負って立ち上がると、右手を前に出して、風精霊に近づいた。

 風精霊といっても、現状はわずかに空間がゆらめいているような、淡い存在だ。

 それはフワフワとゆらめきながら、武明を観察していた。


 とうとう手が触れた瞬間、それはブルリと震えながら身を引いたが、完全に逃げようとはしなかった。

 そのため、これならいけるかと油断した途端、武明はふっ飛ばされていた。


「うわっ!」

「ふえっ!」


 3メートルほど飛ばされた武明は、ゴロゴロと地面を転がったものの、すぐに起き上がって周囲を確認した。

 するとニケがすぐ側で、頭を押さえていた。


「うう、いたいでしゅ」

「大丈夫か?!」


 しかさず駆け寄って確認すると、ちょっとコブができたぐらいで、大したことはなかった。

 武明が手を当てて治癒魔法を施すと、すぐに腫れもひく。


「なおった、でしゅ。ありがと、でしゅ」

「ああ、大したことなくてよかった。それにしても、あの野郎。よくもやってくれたな」


 軽傷とはいえニケを傷つけられたことに、武明はひどく怒っていた。

 彼は指をボキボキ鳴らしながら、風精霊をにらみつけてやる。

 するとニケがまた武明の背中に張りついて、号令を掛ける。


「ギャフンと、いわしぇるでしゅ」

「ああ、そうしてやろう」


 武明は両手に魔力を籠めながら、風精霊に近づいた。

 そして一気に間合いを詰めると、精霊のいる辺りを両手ではたくように包み込む。


「!!」


 精霊が驚き、抵抗しているのを感じたが、武明は構わずに押し込む。

 すると逃げられない精霊が、手の中でジタバタしはじめた。

 武明はそんな相手に容赦せず、今度はジワジワと魔力を流し込む。


 その途端、風精霊が悲鳴を上げ、抗っているように感じた。

 そのままさらに圧迫を続けていると、やがて抵抗がなくなり、相手が屈したのがなんとなく分かった。

 さっきよりもだいぶ小さくなった空気の塊をつかんだまま、武明は契約の意思を問う。


「汝、我に従うか?」


 その途端、霧がドクンと脈動してから、シュルシュルと渦を巻いて形を変えはじめた。

 しばし様子を見ていると、やがてそこに少し白みの掛かった透明な少女が現れた。


「や、やりましたね、タケアキさん」

「ああ、なんとかな。さて、こいつの名前はなんにするか…………よし、お前の名は風嵐フランだ」

「!!」


 その瞬間、またもや風精霊との間に確かな経路が確立され、武明から魔力を奪い取っていった。

 それと同時に精霊の実体化が進み、白っぽい水晶のような彫像に変化する。

 その容貌は、勝気そうな10歳くらいのお嬢さんといった感じだ。


 もちろん美少女ではあろうが、あごをツンとそらして、一方的に隷従はしないとでも、言いたげだ。

 ちなみにその体には、風の精霊らしいヒラヒラした薄絹をまとっていた。

 そんな彼女が、武明に挑戦的な視線を投げかける。


 武明は今回、フランの名前に風と嵐という2文字を当てた。

 それは風という属性を明確に与えると共に、嵐という荒々しい性格も決定づけた。

 これによって想像を超えるほど強力な精霊が誕生したことに、彼はまだ気づいていない。


「なんか、きがつよしょうでしゅ」

「本当ですね。使いこなせるなら、やってみろって感じ?」

「う~ん、ちょっと苦労するかも」


 我の強そうなフランに不安を覚えるものの、それは武明が3属性の中位精霊を従えるという、快挙を成し遂げた瞬間であった。

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