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13.聞き込み

 ハーフリング族の商隊に紛れて、武明は人族の植民地を訪れた。

 そこでハムニは、フリオという男と取引きを始める。

 倉庫の前で荷物を広げると、フリオがそれを確認していく。


「ほうほう、なかなかいい毛皮じゃないか。この武器も、なかなか良さそうだ」

「ええ、この大陸には腕のいい狩人が揃っておりますから。それにこのドワーフ族の鍛冶も、人族に劣らないでしょう?」

「ああ、そのとおりだな。しかしこっちも負けてねえぜ。何しろ新しい船が入ったからな」

「ほほう、また船が。何か珍しい品が、ありますかな? 人族の技術には、目をみはる物がありますからなぁ」


 その後、フリオからは、麻や絹らしき布や衣類、針金や釣り針などの金属製品、宝石、ガラス類、そして酒が提示された。

 ハムニらは大仰にそれらの製品を褒め称え、自分たちの商品との取引きをまとめていく。

 今のところ、貨幣を介しての取引きはないようだ。


 武明やニケが感心しながら見ていると、やがて商談も終わり、次の話に移る。


「ところでフリオさん、実は最近、この方を保護したんですが、どうやら記憶がないそうなのです」

「なんだって? ほう、一応人族みてえだが、顔の造りは変わってるな。黒い目ってのも珍しい。おい、あんた。本当に何も覚えてないのか?」


 フリオたちはラテン系で彫りの深い顔が多く、髪の色も金から黒まで様々だ。

 目の色は、色素の薄い青から灰色系が多い。


「わからない。おれ、きがついたら、このひとたちに、たすけられてた」


 その問いかけに、武明はなるべくたどたどしく答え、記憶喪失を装った。

 それを見たフリオはうさん臭げな顔をしたが、やがてどうでもいいと思ったようだ。

 彼は親切さを装いながら、武明に誘いを掛ける。


「そうかい。同族もいない未開の地で、さぞ心細かっただろう。どうだい? なんだったら俺のところで、雇ってやるぜ」

「それは、うれしい。けど、しごと、なにする?」

「う~ん、見たとこ力も強くなさそうだし、とりあえず下働きだな。何、給金も出してやるから、いずれ故郷へ帰れるかもしれんぞ」


 さも優し気に言っているが、武明はそれに下心を感じた。

 大方、雇ったら安くこき使ってやろうとでも思っているのだろう。

 しかし潜入して内情を探るのもいいかと思い、ハムニを見る。

 すると彼がかすかに首を横に振ったので、考えを変えた。


「……ありがたいけど、おれ、ハムニさんたち、おんある。おんがえし、おわったら、またおねがい、するかもしれない」

「せっかく同族のよしみで誘ってやってるのに、変わった奴だな。まあいい、気が変わったらまた来いや」

「すみません。ところで、フリオさんのくに、どんなところ?」

「ん? 俺の国のことか? 俺の故郷は遥か東のイスパノってとこだ。うちの国は航海術に優れていてな、世界中を旅してる。この魔大陸だって、最初に見つけたのは俺たちなんだぜ。しかし最近は、ブリテニアとフレンドルの奴らも目を付けてるらしい。他の国の奴らは、悪党ばかりだからな。気をつけるんだぞ」


 自分たちのことは棚に上げ、フリオはひとしきり他国の悪口を並べ立てた。

 武明はそれにうなずきながら、少しずつ情報を引き出す。

 やがてフリオが話に飽きてきたのを察すると、話を切り上げた。


「おもしろい、はなし、ありがとう、ございました。いつか、イスパノ、いってみたいです」

「おう、そん時は相談に乗ってやるよ」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 植民地を後にした武明らは、さっさと帰路に就いた。

 そしてその日の晩の野営中に、彼らは成果を話し合う。


「今日の訪問はいかがでしたかな? タケアキ殿」

「いろいろと見聞きできて、有意義でしたよ。やはり人づてに話を聞くのとは、大違いですね」

「ホッホ。それで、多少は人族の意図をつかめましたかな?」

「ええ、やはり彼らの侵略の意図は、明白だと思います。言葉の端々はしばしに、先住民への侮蔑や、植民地化の意図が見えましたからね。もうほとんど隠すつもりがないっていうか、悪いことだとすら、思ってないんでしょうね」

「言われてみれば、そのとおりですな。我らが交易で利をもたらしている間は、ていねいに対応してくれますが、ひとたび都合が悪くなれば、すぐに牙をむくでしょう」


 するとニケが顔をしかめて、武明に訴える。


「あいつら、いやなにおい、したでしゅ」

「嫌な臭いって、なんだ?」

「タケしゃまのめんどう、みるいってたけど、うしょでしゅ。わるいこと、かんがえてました」

「ああ、あのことか。ニケには嘘ついてる時の違いが分かるのか? だったら今度、教えてくれな」


 武明が笑いながらニケの頭を撫でると、彼女は不安そうにすがりついてきた。


「ニケのこと、しゅてないでしゅか?」

「ニケを捨てるって……ああ、俺が人族の中に入るのを恐れてるんだな。安心しろ。俺は決して、お前を置いていきはしないから」


 そう言ってやると、ニケはグリグリと頭をこすりつけてきた。

 そうすることで、不安を拭い去ろうとしているかのようだ。

 そんな彼女をあやしながら、武明は話を続ける。


「いずれにしても、人族がこれ以上、占領地を広げないよう、手を打たないといけませんね。それには先住民の団結が必要です。いや、先住民っていう言葉自体が、人族から見たものだから、そもそもふさわしくないんだよな。ハムニさん、この地の民を表す言葉って、何かありませんか?」

「そう言われましても、我らはこの大地の外に、別の地があることすら知りませんでした。なので特別な呼び方などは、使っていないのです」

「まあ、それもそうですよね……それじゃあ、皆さんに伝わる神話とか、どうですか? 例えば、この世を創った話とか」

「それでしたら、創造神タイオワの神話があります。かの神がこの大地を造り、そこに我らの命が生み出されたと、言い伝えられておりますな」

「創造神タイオワ、か。それって、他の種族にも通じます?」

「もちろんです。この地に住む者であれば、獣人種から妖精種まで、全てが知ることですぞ」

「よし。それなら俺たちは、”タイオワの民”を名乗りましょう。そして諸部族を糾合して”タイオワ連合”を結成し、人族の侵略に対抗するんです」

「タイオワの民……」


 武明がそう提案すると、その場にいた者たちが、呆けたように言葉を失った。

 何かまずいことを言ったかと、武明が心配していると、やがてハムニが我に返る。


「失礼しました。あまりにしっくりとくる呼び方だったものですから。たしかに我らは、タイオワの下に産まれた兄弟のようなもの。そして星呼びの儀式で呼びだされたタケアキ殿も、タイオワの使者と言ってよいでしょう。そのように説明すれば、他の部族も協力してくれるかもしれません」

「あ~、俺を呼びだした儀式も、タイオワに関係があるんですか?」

「はい、霊力のある巫女がタイオワに祈ることによって、実現する儀式ですから」

「なるほど。なら俺も、堂々とタイオワの民を名乗れるわけだ。その線で、他の集落を巻き込んでやりますか」

「ええ、それはよいですな」


 こうして今後の方針が決まると、彼らはその後も夢を語り合った。

 困難な目標に対し、初めて展望が開けたような気がして、彼らの気持ちは少し明るくなっていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 しかし意気揚々と帰還した武明らに対し、ハーフリングのおさが現実を突きつける。


「ふ~む、難しいじゃろうのう。タイオワ連合を謳うのはいいとして、どこが主導権を取るんじゃ?」

「えっ、それは……ハーフリング族で、いいんじゃないですかね」


 あまり深く考えずに武明が答えると、長が苦笑しながら首を横に振る。


「無理じゃ、無理じゃ。ただでさえ我らは、交易によって利を貪っておると、考えられている。それが連合のまとめ役だなどと言っても、誰も付いてはこんじゃろう」

「それなら、誰がいいんですか?」

「それがおらんから、難しいと言っておる。エルフ族は排他的じゃし、獣人種も基本的に自分らのことしか考えておらん。そもそも大陸規模の視野を持つ者など、ほとんどおらんのじゃ。それではまとまるはずも、なかろうて」


 どこか他人事のような言い方に、武明は反発を覚えた。

 たしかに困難は伴うだろうが、やってみなければ何も始まらないではないか、と。


「とりあえず、周辺の村との連絡網を作るまでは、やらせてください」

「まあ、それぐらいならいいじゃろう。ついでに他の村を回って、現実を見てくるといい」


 突き放すように言われ、武明は憮然とした表情で退室していく。

 その後、彼が去った部屋で、ハムニは長を責めた。


「長、いかに難しいとはいえ、もう少し言い方があるのでは?」

「フンッ、もっと優しい言葉を掛けてやれとでも? そんな生ぬるいやり方では、我らは生き残れんぞ」

「!! それほどの事態だと思っておられるのですか?」

「当然じゃ。タケアキ殿の世界であれ、この世界であれ、人族の欲望を舐めてはならん。ぐずぐずしていては、いずれこの地に国を造られ、大陸ごと乗っ取られるじゃろう。それを避けるためには、全種族を糾合して、人族に対抗せねばならん。タケアキ殿には、その旗頭になっていただくのじゃ」

「しかし、彼は精霊術が少々使えるだけで、異界の記憶を持つ青年に過ぎないのですぞ」

「いいや、タイオワの導きによって現れた者が、それだけの存在であるはずがない。遠からず、頭角を現すじゃろう。その時は我ら、一丸となって彼を支えるのじゃ」

「ハッ、かしこまりました」


 長がにらんだように、今後の世界は過酷さを増していく。

 タイオワの民に、時間はそれほど残されていないのだ。

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