04-2:そもそも何で町に引っ越さないんだ?
出かけに聞いたおじいさんの変態発言が吹き飛ぶくらい、辛い。
「……ふぅ」
話ではもうすぐ斜面の道も終わって、後は平地をその倍ほど歩けば着くらしいけれど……。
家を発ったのが7時半。そして到着は10時頃。
実際体験をしてみると、街に行くことがどれほど億劫なことか分かる。
というか……私用にと貰った外履きのサンダルが、斜面で足にどんどん食い込んで痛かった。
少し歩き方を変えてみたりしても駄目で、思わず自分の足を見つめてしまう。
甲を抑えておく部分こそ革なものの、サンダルそのものは木で出来ている。
状態の悪い道での長距離歩行。
素材故の歩き辛さが、顕著に足へと現れていた。
「同じこと2度言って悪い。けど、別に荷車に乗っても良いんだぞ」
「……」
「いや、さっきから自分の足ばっか見てるし……歩きにくいだろ?」
最初に一度、私は荷車に乗っての同行を断っている。
理由は色々あって、例えば彼が途中で寝ない様横について歩いてあげたいとかもあったのだけど……。
「あの……」
そう一言言って、申し訳なく顔を覗かせる。
すると彼は少し苦笑いを見せて、その後視線を外した。
――あとは好きにしろ、といった感じだろうか。敵わない。
遠慮も、変な上から目線も、体力の低さも、用意不足も、自分への無知も。
全て飲み込んで、私はそっと荷車の後ろに乗る。
グンマさんは何も言わずにずっと荷車を牽いてくれた。
私も、もう変に勘ぐらず素直に任せようと思った。
でも、なんというか……。
期待するのと放置するのは違うということをすぐ勉強させられる。
「……ぇ! ……まれ! 止まれぇーーーー!」
「ハッ!?」
不意に大きな声が耳に入り、私は起きた。
しまった……つい寝ていた、と思いながらも何かの異常かと荷車の上からグンマさんを見る。
すると、前方30メートル先には町を囲う石壁が見えた。
そして当のグンマさんは、恐らくその門を守衛であろう人達の手で、必死に押されている。
いや、違う。押しているのはグンマさんの方だった。
守衛の人達は、寝ながら荷車を牽く彼にいち早く気づき、止まらない彼をそれでも必死に抑えていたのだ!
「に、荷車にもう一人いたのか!? おい娘っ、こいつはどうしたら止まるんだぁ!!」
「うあああああ! 早く、早く止めないとまた外壁がっ!?」
「……zzz」
格式の高そうな礼装を身にした守衛さんは、その趣に似つかわしくもない必死さで両足を地面へと食い込ませている。
しかし荷車の後ろには、どこから抑えていたのかわからないぐらい土をえぐる跡が残っており、靴にも穴が空いて親指が見えていた。
それだけ彼の押す力が強かったのだ!
寝ながら私を乗せた超重量の荷車を引いて、しかもそれは勢いでもなく純粋な牽引力。
そこから更に大の男数人に押さえつけられても、まだ動き続ける。
一体、どんな力をしているの!?
「とっ、とりあえず脇腹に手刀で! 捻りを加えながらえぐるように突いてみて下さい!!」
「そんな事をしてこの人は大丈夫なのか!? 君は責任が取れるんだろうな!!」
「はい多分、いや絶対丈夫なんで思いっきりやって下さい! 何ならお二人で両側から!!」
「あああもう、知らないからなぁ!!」
やがて守衛さんがままよと彼に手刀を繰り出す。
すると、迫る外壁にまるでカエルの鳴き声みたいな音が反射して返ってきた。
「イテテ……もう着いた、か?」