10-3:戦闘の途中だけど突如現れる異世界ロボット成分
私は野菜を細かく切り、なるべく暖かくて柔らかい、即席鍋を作った。
近くに持って行くと、匙を使って彼女の口へと導く。
しかし、彼女は自分で食べると言って匙を受け取ると、笑った。
「多分ナナさんからすると、聞きたいことがいっぱいあるよね」
「……」
こんな時に言葉に甘えて、根掘り葉掘り聞けるほど、私は無神経になれない。
でも、私の視線は下へ下へと落ちていった。
すると彼女は匙を口に加え、布団の中の右手を出す。
私が布でぐるぐる巻きにしていたので、窮屈だったみたいだ。
手を貸して布を取り除くと、折れて半分になった剣が、今も握りしめられている。
いくら引き剥がそうとしても決して手放さなかったが故の処置だった。
彼女はその手を、空いた手で一本一本指を剥がし剥いていく。
守ろうという硬く強い決意が、解れていく瞬間、漸く膝の上に剣が落ちる。
そして、今まで戦ってくれていたその手を休める事無く、今度は私の膝に乗せた。
「私が率先して戦ったのは、その力があったから」
「……」
「テファを戦わせたくない……ってね。あの子を守る為に貴方と同じ事をしただけ」
「……同じ、事」
呟くと、アカネさんは私の腕に残った瘡蓋を指差し、笑った。
「アハハッ、いい傷だね。これがテファちゃんを守った証の勲章だよ」
何か言葉になりそうで、何も言葉に出来ない。
喉の奥で色々なものが支えて、出てこなかった。
「ありがとう。私はもういいから、テファを見に行ってあげて」
「……はい、はいっ!」
倉庫の裏の工房は吊るされた光が極端に絞られていて、薄暗かった。
それでも光があるということは、テファちゃんが居るという証拠でもある筈。
全体を目で追い、私は彼女を探す。でも居ない。
しかし、よく見ると工房の奥の床下から光の漏れている場所がある。
隠すように置いてあった分厚い木の板を起こし、そこに見えた階段を降りていく。
彼女は工房の下に隠された地下で、さっきの機械人形に隠れ泣いていた。
「テファちゃん、お姉ちゃん大丈夫だったよ。……だから、行こ?」
「……っぐ!」
私が話しかけると、テファちゃんは背中を向けたままビックリして肩を上げる。
彼女は、きっと魔物に怯えて隠れているわけじゃない。
そうじゃなければ、魔物がいる中、飛び出して来ない筈。
ましてや、アカネさんが全て終わらせてくれたあの後、突然逃げ出したのは変だった。
さっきまではアカネさんの様子があまりに酷くて、テファちゃんを見る余裕が無かった。
でも彼女の行動は、今も一番私の心に蟠りを作っている。
膝を抱える彼女にそっと近づいて、隣りに座るとまた一瞬、彼女の肩が跳ね上がる。
それでも私が何も言わずにじっとしていると、やがて彼女は語り始めた。
「私ね、変なの……」
「どうして?」
「だって……分かるの」
「……うん」
「機械の……部品がね、魔源が通って形が変わっていくのがね……目で見えるの」
異能だろうか。私は最初、そう思った。
「魔物の来るのも……分かるの」
その言葉に突然鼓動が早まる。
魔物が来る感覚……言葉にされて初めて私にも、その覚えがあったことに気付いたからだ。
「おかしいんだ……だって私、この家で1人だけ魔力が凄いの」
「……それは」
「だからね、小さい頃から機械にずっと魔力を吸ってもらってた……」
私が気にしていた……バッテリーの話。
「ねえ、私の目を見て」
彼女が私に顔を向けた。
頬は涙で腫れ、目は赤く充血して……まるで魔物の様に揺らめく光を放っていた。
「ねえ……ナナお姉ちゃんには、どんな風に見える?」
「テファちゃん」
「……私、きっと魔物なの」
「……」
「だから……機械の魔力が伝わるのが見えるの」
「……」
「だから、だからきっと、魔物が私を探してるの」
「……」
「……ずっとずっと、いっぱい来て、皆に怖い思いさせちゃう……の」
それらが全部本当なら、グンマさんに手が出るのも何となく説明がつくようにも思えた。
でも
「じゃあ、テファちゃんは優しい魔物さんなんだね」
「……え」
私は彼女の頬に触れ、親指でそっと擦った。
また涙があふれる。
「テファちゃんみたいな魔物さんなら、私はずっと一緒に居たいな。皆だって絶対そう言うよ」
彼女は漸く心を解き解し、私に飛びついた。
……彼女が魔物かどうか、それは私には分からない。
でも彼女にとってはそう疑ってしまう程、他と違う色々な差異と経験があって。
それらが導き出した結果、家の人が苦しむ元が自分だという結論に届いたのだろう。
8歳の子供には、あまりに重すぎる心の荷物。
こんな多感な子供を頰って、グンマさんの両親は他に何の用事で出ているのか。
……今、膝を抱えて凭れている機械の事を、彼女は家出くん一号と名付けていた。
どんな思いでこの機械を作っていたのかと考えると、胸が締め付けられる。
膝枕から甘えるように私の親指を咥え、甘噛する彼女の八重歯が、チクチクと刺さった。




