10-1:戦闘の途中だけど突如現れる異世界ロボット成分
あまりにも激しい動きだと、体は無呼吸状態になってしまう。
すると後から追いつくようにして、疲労が体を襲ってくるらしい。
でも、それは危機的状況の終わりでもあった。
「ハァッ! ハァッ!」
唖然とする気力のない一人を除いて、場はシンと静まり返っている。
「ハァッ、ハァッ……テファー、何それー……」
突如現れたそれは巨人と呼ぶには少し小さく、丁度膨らんだお爺さんと同じ大きさだった。
「い……」
しかし体積は横に広く、全体が角ばって手や足? は自棄にずんぐりむっくりとしている。
「ハァ……ハァ」
特に足は太く大きく、体の3分の2程を占め、両膝から伸びた盾が体を覆うように聳える。
「家出くん一号……」
高く掲げられた私の足下で、丁度頭が来そうな場所、操作部分から顔を出す彼女が答える。
「……家出?」
私はテファちゃんの乗った不思議な人型機械に引っ張られ、助け出されていた。
「……ナナお姉ちゃん、大丈夫?」
「あの、テファちゃんありがとうございます。ところでこの機械、手が……」
しかし話す間もなく場が正常に戻り初め、魔物たちがざわつく。
「何だ! あのポンコツとガキはぁ!?」
「見たことねぇぞ、あんなの……」
未知の者の参戦に警戒を強めているのだろう。
魔物達はお互いを押し合う様にして、機械人形への対応を決めあぐねている。
でも、それだけでは済まない。
押し付け合うと同時に狙われる人物もまた、直ぐに決まってしまった。
再び無数の殺意が、アカネさんを襲う。
「そんな訳の分からない奴は後回しなんだよなぁ! 先にこの女からっ……」
瞬間、大きな風圧と共に、言いかけた言葉を置いて魔物は何処かへと消えた。
同時に土埃が舞い、辺り一帯が何も見えなくなってしまう。
「……がぁぁぁぁ! 一体こいつらは、何なんだぁ!」
「くっそ、何も見えねえええ!」
でも私には一瞬、もう一つの機械の手が飛んでいく様子が見えていた。
その手は多分反対側の腕の鎖に繋がっていて、今はジャラジャラと引きずり巻き返している。
きっと私もその飛んで行く機械の手に助けられたのだろう。
……そして、高く掲げられた私の隣に、いつの間にかアカネさんも居た。
「アカネお姉ちゃんを……アカネお姉ちゃんを虐めないでぇ!」
舞う埃の中に潜む魔物に向かって、テファちゃんが可愛らしく吠える。
可愛いけれど……
「……ああ」
なんというか、気が抜けるようだった。
「……アハッ、アハハハー」
アカネさんは血だらけどころか、埃を被って真っ黒な姿で、何時も通り笑っている。
何となく今の気持ちがわかった、一生懸命戦って、張り詰めた気が抜ける感じ。
でも私は笑えない、本当に……草臥れた。
「テファ、凄いの作ったねー」
「あのね……2人にちょっとお願いがあるの」
「うん?」
「この機械のこと……お爺ちゃんには、内緒にして?」
私はホッとしたのか、テファちゃん達の会話で洗濯機の事を思い出す。
重そうな機械の持ち運び、それに樽の中に入れる為の水汲み。
そんな重労働、子供ではきっと出来ない。
でも漸く繋がった……テファちゃんはこの機械でやっていたんだ。
「アッハハ! じゃあ、下ろしてくれたら内緒にしてあげるねー」
「でも、アカネお姉ちゃん凄い痛そうだよ?」
「うん? そうでもないよー。ほらそこの貯水槽の水、私にかけて綺麗にして」
「いいの?」
そう言いながらアカネさんを降ろすと、その体に持ち上げた貯水槽から水をかける。
「ふぅ、きもちいいねー」
彼女はいつの間にか体から血を流しておらず、悪鬼の形相も消えていた。
徐々に埃も地面に落ちていき、やがて魔物が再び目の前に現れ始める。
唸る無数の悪意は混乱しつつも、またこちらに目を光らせていた。
「……まだ、戦わないといけませんね」
「そうだねー、でもきっと大丈夫」
下半身を包む布も晒しだろうか。
水を吸って重くなった装束を脱ぎ終えた彼女は、私の言葉に答えた。
そして追いかける様に、テファちゃんの言葉がアカネさんに届く。
「わっ、私も……私がやっつける!」
その言葉に、アカネさんは何か救われたように、フワリと表情を溶かす。
「そろそろ私も下ろしてもらえますか?」
「あ、うん!」
しかし、それも一瞬だった。
「テファ、ナナお姉ちゃん守れるね」
「うん!」
アカネさんはまた折れた剣を、強く握りしめる。
「絶対だよ……何があっても絶対に守ってね」
「……うん!」
アカネさんはそれだけ聞くと、腕のかすり傷から血を舐め取る。
そして手首の鈴を鳴らし、瞼を閉じた後、拍手を2回打った。
また何かの魔術だ。
魔物を倒す魔術の類だろうか。でも彼女は今回、蜜柑の皮のお茶を飲んでいない。
……血?
気付いた時にはもう、彼女はそこに居なかった。




