09-4:中世風の世界観で出てくる刀って存在そのものが無双感
家の裏の広い庭、そこは以前お風呂の中で見た戦いの場になった所。
鬱蒼と並ぶ木々は、玄関と繋がる頂上への道をいとも簡単に呑み込んでいる。
テファちゃんを探して色々な場所を周った私は最後、そこに居た。
足元は凹凸が目立つ半面、魔物の跡もなく、林の影が作っているのか、苔が多い。
……私は、魔物との戦いを見る前からこの森が怖かった。
今も何か起きるんじゃないかと嫌な予感しか感じない。
そして……予感の通り、私のざわつきは木々に移り、揺れた。
「家の中に入っていた方が良い」
不意に声が届く。
気がつくと玄関裏とは反対側、倉庫の方からアカネさんが私を見ていた。
「ごめんねー、今は私しか居ないんだ」
彼女は苦笑いしている。
体はぐるぐるに巻かれた晒、白い異国の装束を纏い、手には薄白い曲がった棒。
袖を最後まで捲りあげ紐で縛った姿に、私は何が起こるのか何となく分かってしまう。
「あの、テファちゃんが居なくて」
「爺さんが躾けてたみたいだし森にはきっと行ってない。家の中なら……私が守りきる」
「あ、アカネさんも女性じゃないですか。……一緒に中に入りましょう」
彼女は私の言葉に顔を作り、必死に笑う表情を見せた。
そして視線を外し瞼を閉じると、手の中の棒を剥く。
するとそこから鈍い光を放ち、剣が現れた。
細く長く靭やかで、黒光りした刃の全容はまるで長い髪を持つ女性を模したかの様。
ゆっくりと刃が抜けていく光景に呑まれる。
美しい曲線がみるみる露れる様子は、まるで男性の前で開けるかの如く妖しく視線を誘う。
そして全てが剥き出しになる頃、悪寒が全身に巡った。
力を誇示する様に、精神を通して一体になるかの様に、彼女に何かが絡まり広がっていく。
そんな呪いにも似た剣の視線が、見返る髪の隙間から、私までをも睨んでいた。
まるで今から守られる私の後ろめたさを抉られる感覚に、思わず声が出る。
「わ、私もテファちゃんを守ります!」
「無理だね!」
彼女は目を開くと、悪鬼の形相に変わっていた。
刃先が私に向けられる。
「早く、家に、戻れ! 今……私の目には、全てが惡く見えている!」
瞬間、彼女は横に薙いだ。
一歩踏み出す足先は視線とまるで違う向きを捉え、そこで一体の魔物が事切れている。
「早く……早く……」
……彼女の言葉が今の状況そのものだった。
山の上から、森の中から、ざわめく木々の声に混じり、呻きが束となって徐々に迫り来る。
「あ、ああ……」
私は怯えた。
戦慄く声と共に家に戻った。
後悔と懺悔で己を包んだ。
「怖い、怖い、怖い!」
私は守られてばかり、同世代の、華奢な体つきの女性にまで守られてしまっている。
でも……でも怖い。
それに、あんな剣一本でどうにかなる訳がない。
「死ぬ、私はここで死ぬ……あ!」
恐怖心が鍵を掛け忘れた玄関を思い出させ、焦ってすぐに閉め直す。
すると一瞬だけ、無音になった。
しかし奇声や木々が割れる響きが徐々に籠もって聞こえ、家全体を包んでいく。
「いやだ、いやだ……」
狂いそうだ、頭を抱えこんで塞ぎ込んでも余計に闇が迫りくる。
でもそれじゃ、どうして身を守れば良いだろうか。
「あ……」
突然グンマさんが頭の中に浮かぶ。
武器、そうだ武器だ。
彼は確か、バットという武器を縁側に立てかけていた筈。
思い出した途端、空回りするように私の足がワタワタと動き走り出す。
我先にと言った風に体が手が、前に伸びた。
縁側へと駆けて行き、私はバットを掴む。
そして……。
そして、体が落ち着きを取り戻した。
「……あれ?」
掴んだはずの手を見ると、バットは無い。
しかし何故か不思議と恐怖心は抜けていて、外の音も風切り音程度にしか聞こえない。
バットはまだ立てかけてある……でも
「違う、そんなことはどうでもいい。アカネさんばかりを戦わせちゃいけない!」
私は別の後悔から玄関の鍵を開け、気になるアカネさんの様子を見に出る。




