05-2:そんな殺伐とした山の中腹に救世主が!!
「爺ちゃんは畑?」
「分かりません、でもきっとまた怒ってるんじゃないですか?」
「んー……」
アカネさんは両手の指を持て余すように合わせ、苦々しく笑う。
「また探して謝らないと、ですね」
「そうだねぇ、そうしないともっと怒るからねぇ」
「私がグンマさんのお手伝いをします。だから……」
「ありがとう、ナナちゃん」
アカネさんは私に後押しされたのか、おじいさんを探して畑の方へと歩いていった。
彼女の後ろ姿を暫く眺め、次はお楽しみの荷車へ。
すると既に荷運びを始めていたグンマさんが、箱を抱えて倉庫へ歩いていく。
「さあ、手伝いますよー!」
「あ、ナナさんは運ぶより中の方で整理頼む」
「はい!」
荷物の中から燻製肉を一つ持ち、その香りを楽しみながら、私は倉庫へと向かった。
……そもそもおじいさんが怒っているのは、アカネさんの素行も関係している。
結論から言うと、彼女はギャンブル依存症の癖があった。
そしてここが複雑なのだけれど実は彼女、異能の持ち主でその力を使い家に貢献をしている。
――異能。
それは魔術とは明らかに性質の異なった力、神に授けられし力と言われていた。
理を歪めるのが魔術であるのに対し、異能は理から逸れた力だという説明がある。
選ばれたもののみが有する、その根源を必要としない、無限の能力。
そしてアカネさんは、『釘を操る』能力を持っていた。
で、その異能を使って……コパチンをしている。
そう、箱の中で小さい球がカラカラ飛んで、ゴールに入ったら幾らとかいう賭博の機械だ。
……最初説明された時はお酒でも飲んでるのかなと思っていた。
それに異能と銘打つ割には、ちょっと残念な響きに聞こえる。
というか、そんな力が本当にあるのだろうかと疑いさえ持ってしまっていた。
でも実際その力を使ってコパチンで勝ち、景品に換え持って返ってきてくれている。
だから、能力については信じる他無かったし、実際結構有り難くもあった。
けれどお爺さんは普段の素行の割に、そういう不道徳な事を許せないらしい……。
……許せないんだけれど、自分も同じ様に食べているものだから複雑で。
まるで子供みたいと言うか、相手の方から来て謝ってもらえるのをその都度待つ、不思議な関係を作っていた。
後、彼女が全然家に帰ってこないのも、関係が面倒な事になる原因の一つでもある。
その原因こそが、彼女が依存症であるという証拠になっていて……。
彼女は……辺りのコパチン屋さんから出入り禁止になっていた。
本人曰く、派手に打つ性で不正を疑われ、結果追い出されてしまうのだという。
というか、不正は確かにしているのだけれどそれは……。
ともかく彼女が『稼ごう』とすると、自分のことが知られていない遠くに出向くしか道は無く、結果数日家を空けることになってしまう。
だから缶詰が多いのは日持ちが効き、持って帰りやすいからだった。
「あっはー、やっと許してもらえた。いやー苦しい苦しい」
やっとおじいさんのご機嫌を戻すことに成功した様で、アカネさんが戻ってくる。
毎度こうしてあっけらかんと話す様は、カラッとしていていっそ清々しい。
私はそんなアカネさんを他の人と同様、家族のように慕っている。
「お肉、有難うございます。今から燻製肉でお食事作りますね」
「お願いー」
彼女は力尽きるように椅子へと腰掛け、大きく息をついた。
先にお茶を出すと一気に飲み干して「フハー」と豪快に声を出す。
ここまででやっと一仕事といった風に、ようやく落ち着いて見せた。
私が考えるに、きっと2人は互いに分かってチャンバラをしていて。
でも嘘っぽくなると心と関係のバランスが取れないから、余計に気を使い合っている。
そんな複雑で、離れられない間柄なんだろうなと思う。
なんて想像をしていると、料理が更に楽しくなった。
2人は私の作った『こんがり焼き目のハムサンド』、どんな顔で食べてくれるだろう。
「さあ、久々の全員集合。久々のお肉ですよー!」
◇
テファちゃんは料理の途中から匂いで物凄い興奮をしていて、せがむように近くで見ていた。
見かねた私が薄く焼いたお肉をつまみ食いさせてあげると、とても喜んで食べる。
この家の起床時間は大体5時前後、日の出に合わせて皆起きる。
朝食は6時に終わり、昼食は10時頃で夕食は4時前後。
だから今出した料理はおやつといった所。
保存用の燻製肉と言ったって、どうしても痛みは進んでしまう。
だから寧ろ美味しい内に食べるのが良いかなと出したけれど、皆喜んでいるようで良かった。
「テファ、俺の半分食べるか?」
「えーーーー!! 食べる!!」
出されて直ぐペロリとサンドイッチを平らげるテファちゃんを見て、グンマさんは自分の分を半分差し出す。
「さすがお兄さん、優しいですね」
「いや別に、そういうのじゃ……」
「じゃあ、美味しくなかったとか?」
「違う違う、美味しかったよ」
「有難うございます!」
私が少し誂うと、グンマさんは参ったと言った風に縁側に戻っていった。
以前おじいさんは、彼が私の料理を残さず食べている事に驚いて話をしてくれたことがある。
何でも彼はブーカが嫌いで、おじいさんも料理で食材に使わなかったらしい。
でも今では何でも食べる。それは偏に私の温かい料理づくりのお陰なのだ、と。
そういえば最初の頃、皆に味の濃さとかどんな物が好きか色々聞いたことがあった。
多分それでグンマさんは、毎日の事で気を使わせちゃいけないと思ってくれたのだと思う。
ちょっと遠慮がちでのんびりとしていて、でも町の時の様に色々気遣ってくれる彼。
そんな彼を見て、未だ知れない過去に対する焦りも消え、私も癒やしを与えてもらっていた。
「久々の肉は美味しかったわいナナさん! あの厚み、肉汁、香ばしさがたまらん」
「有難うございます」
おじいさんの言葉が嫌味をを含んでいるのかどうか分からず、苦笑いで返答する私。
アカネさんも笑いながら、それを持って帰ってきたのは私なんだけどなぁ、と言いたそうにしていた。
「ホント美味しかった! もうっ……毎日食べたい!!」
「そうじゃの、じゃあちょっとお兄ちゃんに頼んでみようか」
興奮するテファちゃんを多岐tけるお爺さん。
……本当に、悪戯の度が強いと言うか、ギリギリと言うか。
テファちゃんはまだ幼いから遠慮もなく話すけれど、それを良いことに上手くけしかけるのだから質が悪い。
「お兄ちゃん、外で働かないのー?」
テファちゃんはナイフで木を削っているグンマさんに近づき、背中をゆすりながら話かける。
「ちょっと、危ない。起きたら畑はやってるから」
そう。実は外にある広い畑の農作業は、グンマさんがほぼ1人でやっていた。
よくお爺さんが1人で畑に出ているけれど、実際様子を見ているだけで管理者に近い。
でもだからといってお爺さんで畑を維持できるかと言うと年齢的に無理だと思うし、グンマさんが外に働きに行くと家には私以外に老人と子供しかいなくなる。
そして私は記憶がないので、そういった諸々を考慮してくれているのでは……と察していた。
「でも作ってるの野菜ばっかりじゃん」
「畑のお肉もある」
「お豆の話は聞いたの!」
おやつを食べて元気が戻ったのか、テファちゃんがやけに熱い。
お兄さんで遊んでいるのか、それとも構ってほしいのか。
テファちゃんが揺らすので、いい加減彼は妹の方を向いて「いいか?」と前置きして話し始めた。
「実は兄ちゃん、選ばれた人間で異能使いなんだ。だから働きに行かなくて良いんだよ」
「えっ!?」
私は突然飛び出し、まるでその場を取り繕う嘘のような言葉に驚いて水洗い場から振り向く。
「ふーん、で? どんな異能?」
急にテファちゃんの言葉が音階を無くし、単調な言葉遣いに変わった。
「フ……そんなに聞きたいか?」
彼は自慢げに、わざと焦らすように返す。
でもそんなに盛って良いのかと心配する私と違って、テファちゃんの急かす言葉は強かった。
「いいから早く言いなよ」
それでもめげず、壮大に思わせたい意図があるのか彼は一泊おいてその異能名を口にする。
「異能名は『フルコンバージョン』。どんな食べ物でも美味しく食せる能力だ……」
「は?」
私は外野なのに思わず声が漏れて口を塞ぐ。
その異能名は自分で付けたのだろうか。
能力との差異に一瞬理解できなくて、深く考える程ちぐはぐに感じるし……。
でも直ぐ、ああ成る程と納得して彼の話が嘘だと気付く。
「……それ普通にご飯食べてるだけだよね?」
「まあ、どうしたってそう見えるよね」
テファちゃんの言葉に返す彼の適当な返事といったら、思わす私も気が抜けてしまう。
……なんというか、能力はともかくこの家に異能使いが二人もいるのかと興奮して損した気分だった。
気がつくとお爺さんも居ないし、お姉さんも疲れたので寝ると言って2階に上がっていく。
そしてどうやらテファちゃんも私と同じ様に興味を失った様で、話は大きく逸れた。
「で? そのフルコンバージョンの異能を持ってるお兄ちゃんは今何してるの?」
「ああ、これか。『バット』という物を作ってる」
「へー」
「昔の本に載ってあった絵に記されてた物だ。持ち手が細くて握りやすく、且つ手から抜けないように終わりが膨らませてあって、ああ使いやすそうだと前々から思ってたんだ」
「へーすごいねー」
テファちゃんの声は本当に興味が無さそうだ。
むしろどちらかと言えば、遊んで欲しいとせがんでいるようにも聞こえるけれど、女性特有のおねだりを理解できる男性は少ない。
「……でも、それで完成って訳でも無くてな。後は釘を打ち込んで」
「もう、お兄ちゃんの話つまんない! 私あっち行って遊ぶ!」
結局、テファちゃんは怒ってどこかに行ってしまった。
「……」
きっとグンマさんも相手が何故怒ったのか理解できないだろうと思う。
まだ幼いのにテファちゃんはおませさんだ。私からすると物凄く女の子らしくて、可愛い。
……それにしても今日は早く起きてきたなと思っていたら、昔の本?
そのバットという物がどんな形に仕上がるのか、私はそちらに少し興味が湧いた。
そして2人だけが残った空間で、私は彼の思わぬ一面を見る。
「……ねえ、俺の話ってつまらない?」
「……え、気にしてるんですか?」




