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ー第7話 リプレイ




ー第7話リプレイ



ここでは、高宮愛のインタビューを書く所ですが、そのインタビューに前話5人の証言をプラスして、私なりに試合を再現リプレイしてみたいと思います。




その日。

8月という事は一致している。何日だったかは誰も覚えていない。

優勝者は、相田宮内と同じ中学校の2番手ペア向井 白井とだけ記録にあるが、日付はない。2人は教員として、現在ソフトテニスの指導に当たっている。

風はなく、雲ひとつ無い晴天だった事を、全員が覚えていた。どのコートだったかは、一番奥の片側がフェンスの無い場所だったと能登島が覚えていた。試合の当事者は誰も覚えていなかった。



バックラインのフェンスの向こうに、土手があり、その斜面で観戦できるようになっていた。

篠原 高宮組の土手には、阿部史也と三崎コーチ 能登島の3人に、椎名美花を含む仲良しグループ5人が座っている。他の部員は会場に散っていて居ない。

対象的に、相田 宮内組のフェンス際には、下級生20人が整列して立っている。決められた掛け声で、応援をするためだ。

篠原には、これがプレッシャーになったが、高宮には関係無かった。高宮には、相田宮内しか見えていない。応援団は自分達を負かす事も、自分達が応援団を負かす事も出来ないと思っていた。

相田宮内にとっては、応援団はいつもの事だった。しかし、パニックに陥る(おちいる)2人にとって、応援団は敗因のひとつになる。



審判台の前に、ネットを挟んで両チームが並ぶ。

「よろしくお願いします。」

挨拶あいさつがある。

前衛の篠原と相田がジャンケンを行う。負けた相田が、自分のラケットのマークのある側を示して、篠原側のコートで回転させる。回転させるのは、篠原のラケットの上。

相田は、マークのある側を篠原に向けて回した。この場合、高い確率でマークのある表面を上に倒れる事を、三崎コーチに聞かされていた。ラケットが倒れる前に、表か裏かをコールする。

「表。」

篠原はコールした。何としても、サービス権を穫らなければならない。試合は5ゲームマッチで、3ゲーム先取。サービスゲームは確実に取れると確信していた。問題は、レシーブゲームの前に相田宮内を、心理的パニックに陥れる(おとしいれる)事が必要だった。レシーブゲームをひとつ取れば勝てる…と云うのが、三崎コーチの戦略だった。落とせば、間違いなく修正し対応してくる相田宮内には、勝ち目がない。

ラケットは、表向きに倒れた。篠原はサービスを選択する。ルール的には、相田宮内はコートの選択権を得られる。無風で、どちらのサイドも太陽光は目に入らない。相田は自分が立っているコートを選択した。



乱打と呼ばれる試合前のウォーミングアップがある。相手チームとボールを打ち合う。教則本には、ここで相手の得意と弱点、プレイスタイルを見極めろと有る。後衛宮内は、高宮のフォア バックにボールを送った。ここでも三崎コーチの戦略が行われる。

すべてロビングで、フォアに回り込んで打ち返す。

これは、バックが苦手で早い勝負はせず、粘る(ねばる)プレイスタイルと云う解釈になる。

高宮はバックが苦手ではなく、クロスにもストレートにも、威力はないが確実にコート内へ返す事ができた。さらに、すべてのボールを相手コートに打ち込めと言われている。



「レディー。」

と主審がコールする。両チームがポジションに移動し、サービス権を取った高宮に、ボールが2個送られる。それを見定めて

「サービスサイド篠原高宮組。レシーブサイド相田宮内組。5ゲームマッチプレイボール。」

と主審がコールする。

最初のサービスは、高宮のコートの右側から。高宮はコートの右端に立っている。篠原は、左サイドに寄っている。

高宮のサービスは、クロス(対角線)に入る。万が一レシーブされれば、ボールはサイドにストレートに来る。

結果的に篠原は中央を開けた形になっている。それを見た宮内は

…後衛の打ち合いになる…

と思っていた。

高宮愛の情報は無い。乱打での印象から、さほどのサービスも無い。ならば、前衛アタックを考えた。



フェンスから三崎コーチが叫ぶ。

「高宮。気合いを入れろ!。決めるんだ!。」

続いて、阿部男子部長も叫ぶ。

「決めろ!!愛!!。」


高宮は、ゆっくりと間を取った後、頭上にボールを上げた。

それは、鋭いヘッドスピードでボールを打たきつぶすように見えた。

ボールは、山なりではなく、真っすぐにレーザービームのように、高速でサービスコートのクロスに入ってくる。

宮内は、ボールのコースを予測してバックスイングし、体を開きながら篠原に向かってラケットを振った。

しかし。手応えもラケットに当たる音もしない。

ボールはラケットに当たらず、後ろに抜けていった。宮内は一瞬、何が起こったか理解できなかった。初めてボールを打った時から、空振りをした事が無いのだ。振り切ったあと、宮内が目を見開くのが、篠原には見えた。高宮は、次のサービスの為に逆サイドに歩き始めている。篠原も逆サイドに動く。それを見て、何が起こったかに気づき、宮内は振り返ってフェンス際に転がっているボールを見た。

「宮内っ!。さっさとボールを拾え!。」

コーチがフェンスの外から怒鳴る。

その声に、あ然としていた20人の整列した下級生が同時に言う。

「ドンマイです!。ファイトばんかい!。」

宮内は走ってボールを取りにいく。

ボールは、高宮の手元に打ち返されてくる。今度は、前衛の相田に対してサービスが打たれる。

カウントは1ー0。

相田は、このサービスが弾まずに地面を這うのを見ていた。

ーすくい上げるしかないー

と相田は思った。

しかし、テニスエリートの相田のフォームは固定されており、ラケットが地面を擦るようなスイングができない。低く振ったつもりだが、ボールの上をラケットは通過していった。

カウント2ー0を主審がコールする。

相田はボールを取りにフェンス際に走った。すると、コーチが相田と宮内の名前を呼んだ。2人は反射的にコーチの所へ走ってゆく。

高宮は平静に、次のサービスの為に逆サイドに歩いて行く。篠原は振り返って、三崎コーチを見た。試合中に呼びつけて、アドバイスするのはルールで禁止されている。しかし、三崎コーチは阿部史也と能登島の横で、動かない。椎名美花と仲間は、それがルール違反である事を知らない。

三崎コーチは、高宮のサービスに対して、何のアドバイスも効果が無い事を知っていた。このアドバイスは、悪い方向に追い込むだけであり、抗議するつもりは無かった。

三崎コーチの読んだ通り、このアドバイスはマイナスに作用する。

コーチはこう言った。

「何やっとる。あんなのに好きにやらすな。一本打ち返せば、ネットかバックアウトや。」

相田と宮内は、技術的にも精神的にも、放っておけば勝手に伸びてゆく選手だった。怒ってやれば、発奮はっぷんして、自分達で打開策を見つけられる…今までは。

しかし見た事もない、地を這うサービスに打開策は1つしかない。ラケットを地面に立てて、フレームに当たったボールが、偶然ネットを越える事を祈るしかない。しかし、その唯一ゆいいつの打開策を思いつく前に、4ー0で第1ゲームは終わった。生まれて始めて、ノーポイントでゲームを奪われた。2人はパニックに陥った(おちいった)。何の修正も思いつかないまま、コーチの叱責しっせきに、勝たなければ…と云う思いだけが先走った。



2ゲーム目は、サイドチェンジして宮内のサービスになる。

しかし。パニックになった筋肉は、生命の危機と判断して、固く緊張してしまっている。

「ばんかい!。ファイト!。」

と言う応援のリズムが、トスと(ラケットの)スイングのリズムを狂わせた。

ボールは、真っすぐに高宮の頭上を抜けて、フェンスに激突した。

「フォルト。」

と主審にコールされる。

セカンドサービスは、ラケットが出て来ず、かろうじてラケットに当てたものの山なりに飛んで、サービスコートの外に落ちた。

「ダブルフォルト。」

ここでまたも、コーチが宮内を呼びつける。

…タワケか!ちゃんとやれ!。しっかりしろ…

と、能登島の所まで声が聞こえてきた。ちなみに、タワケとは関西ならアホ、武田鉄矢ならバカチンが〜と言ったニュアンスの方言である。主に東海地方岐阜愛知で使われている。

「言えば言う程、あかんようになる。」三崎コーチがつぶやく。その言葉通り、次のサービスは、2本ともネットに掛かった。

カウント0ー2。

それでも宮内は、修正を試みた。上からのサービスをあきらめ、下からラケットを出すカットサービスに切り替えた。

これは、上にあげるサービスよりタイミングが取りやすい。斜めの逆回転がかかったボールが、高宮のサービスコートになんとか入った。

ー打ち合うな。どんな球が来ても、打ち込んで決めろ!ー

三崎コーチの言った通り、高宮はフルスイングして相田に前衛アタックした。

相田も固くなっていた。左側を抜けてゆくボールに、ラケットが出ない。

カウント0ー3。

宮内はなすすべなく、カットサービスを篠原に入れる。篠原は安全に、宮内にクロスで返球した。宮内はそれを、前に出てきた篠原の頭を越えるロビングで返した。

つもりだった。

それは、頭を越えず篠原の頭上に落ち、篠原はストレートにスマッシュを打たき込んだ。

ゲームカウントは、篠原高宮組の2ー0。

もはや相田宮内組は、1セットも落とせない。しかもサービス権は篠原高宮組にある。



3ゲーム目。

宮内は最初からラケットをコートに立てた。高宮のサービスは、1cmの狂いもなく同じコースに入ってきていた。

ボールはラケットに当たったが、上に上がらずそのまま地を這って、ネットまで跳ね返った。

カウント1ー0。

相田は、わずかに角度を上に向けた。ボールは、ネットの上のテープに当たり、越えない。

カウント2ー0

宮内は、相田より角度を上に向けた。

ボールは今度もネットのテープに当たったが、ネットを越えて落ちた。

篠原がすくい上げようとしたが、ネットに触れた。

「ネットタッチ。」

主審がコールする。

カウント2ー1。

相田も宮内をマネた。またも、ネットの上に乗ってコロリと篠原の前に落ちた。これもネットに近すぎて返せない。

カウント2ー2。

宮内は、次のサービスもネットに当てて落とした。

カウント2ー3。

篠原は

…負ける…

と心の中で叫んで、高宮を振り返った。

しかし高宮は、いたって普通だった。振り返った篠原に、高宮はサービスする位置のまま言った。

「先輩。先輩は、阿部さんに相応しい(ふさわしい)です。だから勝ちましょう!。」

その言葉を、相田も宮内も記憶していた。これだけ自分達を押し込んでなお、いたって普通でいられるこの選手に、なにやら好意を抱いてしまったと云う。

高宮はポイントを取られてからも、まったく同じサービスを、相田に打ち込んだ。

またもネットを越えるが、今度はネットに当たっていない。篠原はワンバウンドしたボールを、すくい上げる。

今度は相田の前にボールが落ちてくる。しかし、真上にしか上がらない。

カウント3ー3。

「ジュース。」

主審がコールした。



ー次話!

第8話 リプレイPart2

につづく!





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