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ー第6話 相田良子 宮内道代




ー第6話相田良子 宮内道代




相田良子と宮内道代のインタビューは、私が記事を書いているクアトロナンバーズ誌の、別の取材に便乗させてもらった。

2人とも190cmの身長と、絞り込まれた肉体は無敵と呼ぶに相応ふさわしかった。

テニスウェアで、写真撮影も同時進行で、インタビューが行われるのを脇で見ていた。2人は、これから世界に出て行き、伊達公子以降空いている穴を埋めるべく期待されている。

メインの取材は、1時間30分程で終わり、私は呼ばれた。

「すいません。竹山透と申します。よろしくお願いします。」

相田は笑顔で、私を見て言った。

「よろしくお願いします。これは、どんな形で記事になるんですか?。」

「まったく別の記事になります。覚えていらっしゃいますでしょうか?。篠原妙子。高宮愛を?」

反応は速かった。相田と宮内は、同時に言った。

「もちろん。忘れた事は有りません。」

ハモった事に気づいて、2人は顔を見合わせた後、笑った。

「実は、あの試合を取材してるんです。」

宮内がそれに答えた。陽気な相田と対象的に沈着冷静な人物だった。

「どこからその話を?。」

「実は、別の取材で高宮愛を取材したんです。その時写真が有りまして。その中に相田さんが写ってましたので、もしやと思って聞いたんです。」

宮内は懐かしそうな顔で言った。

「高宮さんは、今どこに?。」

「岐阜ですが…。聞いた事有りませんか?。性同一性障害の研究家になっておられますが?。」

宮内は相田を見て言った。

「なんとなく…。でもあんまり、そっちの方に興味がなくて…意外ですね。研究家ってイメージはねぇ、良子?。」

「…そうね。でも、私は試合が近づくと、高宮さんには毎晩会ってるんです。もちろん、夢の中でですけど。」

「夢に出るんですか?。」

「私は今の姿だけど、高宮さんは中学生のままなんです。軟式ラケットでサービスを打って来るんですけど…ボールは硬式なんです。でも、あのサービスなんです。コートに落ちて地面を這って(はって)ゆくんです。必死でボールを上に揚げようとするんですけど、ラケットに当たらないんです。そこで必ず目が覚めます。」

宮内は、それにうなづいて言った。

「まったく同じ。私もその夢を見る。それが、ウィンブルドンの決勝なの…私の場合。」

「あ〜負けた。私はUSオープン。」

2人はお互いの肩に手を当てて笑った。

「それはダブルスですか?。シングルスですか?。」

「それが…2対1なのね。篠原さんまでいるの…道代も?。」

「私の夢は、中学生じゃなくてロバートママの姿よ。」

「じゃあ道代は勝てそうじゃん。なんとかレシーブすれば。」

「デカイの。ロバートママとラケット…コートの半分をカバーしてるの。」

「え〜どういう事?。半分カバーしてるって。」

「コートの半分の大きさなの。上にも10mくらい有って、ロビングも使えないのね。」

「道代のキャラじゃないよ。それは、私のキャラじゃない?。」

「そうね。意外に私も良子と中身は同じかも?。」

また2人は笑う。

メインの取材をしていたフリーライターの北島が面食らっていた。この2人はこれほど笑わないのだ。



「…相田さん。宮内さん。夢にまで出てくる高宮愛と云う人物は、おふたりにとって、どんな存在なんですか?。」

相田は遠い目をして言った。

「私達の基礎を形成してくれた人ね。テニスにどう向き合うかという部分の。」

「向き合う?。と言うと?。」

「試合って。勝ちたいって気持ちだけでは駄目で…それに、もう一つ必要なんです。」

「何でしょう?。」

「…相手を負かして、その負けた悔しさ悲しさも受け入れて、包み込んでゆく大きさが必要なんです。そうでないと、攻めが甘くなってしまうんです。意識せずに。その大きさを、高宮さんは持ってました。私が勝ち続けられるのは、あの試合の高宮さんを見たからです。道代はどう?。」

「…同じね。私達が負けた時、篠原さんは泣いてたけど…高宮さんは、果てしないってくらい澄んだ目をして、私達と篠原さんを見てた。それで言ったんです。」

「何と?。」

「すいません。負けてくださって。ありがとうございます。一生忘れませんと。」

そう言った宮内の横で相田は、コートの中の目になって言った。

「私は。まだそんな風に言えない。けど…いつかそんな風に言えるプレイヤーになりたい。そう思います。」

宮内は相田に手を重ねた。私も同じだと…。

2人はそして、涙を浮かべた。

またもや、メインのスタッフが驚いた。この2人は泣き顔を見せた事などないのだ。

「終わりましょうか。申し訳ありません。泣かせてしまいました。」

私は立ち上がろうとした。

「竹山さん。篠原さんと高宮さんとの対談を企画してもらえないでしょうか?。」

宮内が私を見上げて言った。

「はい?。それは、こちらからお願いしたい位の企画ですが?。お二人共、スケジュール的には大丈夫ですか?」

「セッティングして頂ければ、スケジュールは合わせます。」

「分かりました。やってみましょう。」

相田と宮内は、私に手を差し出した。

私は、その意外に柔らかい2つの手と握手した。





ー次話!

第7話リプレイにつづく






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