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ー第5話 篠原妙子




ー第5話 篠原妙子



上土居中学校テニス部元女子部長、篠原妙子はアメリカに居た。

日系3世のジョニー キミヅカ氏と結婚し、現在はアメリカ国籍を持っている。

息子のロバートは、成功率98パーセントを誇る時速200kmを超えるファーストサービスを武器に、プロテニス世界ランキング7位にランクされている。

造園関係の会社を経営するキミヅカ家は、広大な日本庭園の中に有った。彼方に、マンハッタンのビル群が望める。

巨大な盆栽?が置かれたエントランスに出て来たのは、あの写真の面影を残す、丸々としたママだった。

「竹山です。今日は取材は可能でしょうか?。」

「問題ありませんよ。あなたの書かれた、あの野球選手の記事を読みました。とても感動して…。あの記事を書かれた竹山さんに、お会い出来るなんて光栄です。」

「ありがとうございます。でも、ロバート キミヅカのお母さんにお会い出来るとは…。こちらこそ夢のようです。」

妙子キミヅカにダメ元で取材を申し込んだのは、正直な所だ。将来グランドスラムを達成するかもしれない…と期待されているロバート キミヅカのメンタル的な部分を、サポートしているのは、彼女に他ならない。私が記事を書いているクアトロナンバーズ誌も、一年以上前からインタビューを申し込んでいたが、取材殺到で断られ続けていた矢先だ。

「とにかく入って下さい。お茶を淹れますよ。」

妙子キミヅカは、この上なく幸せそうだった。



「何故、高宮愛を後衛に指名したんです?。」

日本庭園が見渡せるリビングは、外国である事を忘れそうになるくらい、空気がピンと張り詰めていた。

「…そう。愛は部をまとめられる資質を持ってました。ただ、勝とうとゆう欲が無い人でした。だから、勝つ喜びを持って欲しかったんです。私と組めば、1勝出来ると思ってました。若さのあやまちで、阿部君と映画を見に行ったんですが、それが私の後衛の坂巻さんを傷つけてしまったんです。」

「能登島さんによると、5〜6人が妙子さんと対立した?との事でしたが?。」

「えぇ。馬鹿ですね。中学生で、恋愛が何なのかも知らずにケンカしたんです。1勝できなかったら、阿部君と別れなさいって…映画を見に行ったくらいで、別れるもなにもないんでしょうけど…。当時は勝たなきゃって、それだけでした。だから、愛となら勝てると。そう思ったんです。」

「高宮さんは、その思いに応えてくれたんですね?。」

「愛は。私が阿部君にふさわしいから、勝ちましょうと言ってくれました。当時は嬉しかったですね。今思えば、愛の方がふさわしかった。阿部君が愛と結婚するかもしれないって、椎名さんから聞いた時は…なるようになったんだなと思いました。阿部君が亡くなったのは、今でも信じられません。そんな結末は、受け入れる事は私には無理です。2人は、幸せにならなければ嘘だとね…。」

妙子キミヅカは、一瞬あの写真のように、目の奥に憤り(いきどおり)を浮かべた。

「あの試合で、妙子さんが写っている写真を、高宮さんに見せてもらえたんですが。その写真の目と同じ目をされました。今。」

妙子キミヅカは、ちょっと驚いて、外の日本庭園を見た。

「怒ってました。向こうのコーチが試合中にタイムを掛けて、フェンスに呼びつけて話をするんです。明らかにルール違反です。でも相手は全日本チャンピオンだし…言えなかったですね。だから、あの試合中ずっと怒ってました。」

「三崎コーチは、やればやるほど相手が不利になるから、黙ってたらしいです。」

「三崎コーチですか。策略家ですから。あの方らしい。ルール違反でなければ、すべての手を尽くせって言ってました。中学生にです。でも真正面から正々堂々と勝たないと、頂点は極められません。上手い選手になれても、決勝で勝てる選手にはなれません。」

三崎コーチがシルバーコレクターの異名を持っている事が、頭に浮かんだ。

「勝った後。阿部さんとはデートされたんですか?。」

「どうでもよくなりました。そんな事は。愛が教えてくれたんです。自分の欲の為に必死になってた自分が、私の欲の為に必死になってる愛を見て。大切なのは、人の為につくす事だと。自分で作り上げたシナリオに酔ってた自分に気づいたんですね。そんなシナリオなんかよりも、もっと素晴らしい物がある事にも。」

庭を小鳥が横切っていった。

「今でも。テニスはされるんですか?。」

「しますよ。軟式テニスのクラブを、私が運営してるんです。アメリカでは、あまりやる人は居ませんけど。ワンダーだって。不思議なゲームだって言いますね。すごくロジック…理論的なテニスだと。」

「理論的?。」

「力押しでは勝てない。理論的に心理戦で相手を追い込み、仕留めるゲームだって。まるで、詰め将棋のようだと…。」

「そう言われると…そんな感じはしますね。」

「でも愛は。理論的に追い込んでくる相田さん宮内さんを、力押しで封じ込めた。あんな事のできるプレイヤーは彼女しかいません。」

そう。

高宮愛は、戦術と戦略と謀略を弾まないサービスで、メンタル面から崩壊させたのだ。





ー次話!

第6話 相田良子 宮内道代につづく






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