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ー第11話 ゲームセット




ー第11話ゲームセット



妙子「愛?。ヒールとワンピでテニスするつもり?。」

高宮「別に、サービスを打つだけで、打ち合うわけじゃないので…裸足はだしでやります。」

相田「待って。24のテニスシューズは大き過ぎる?。」

高宮「ピッタリです。」

相田「じゃあ、これを使って下さい。」

相田さんはバックの中から、予備のテニスシューズを取り出した。高宮さんはーすいませんーと言って、相田さんの所に歩いて行って履き替えた。

相田「ジャージも有りますけど?。」

高宮さんは、サービスのフォームでラケットを振って、言った。

高宮「いえ。これで行きます。」




4人がコートに散った。

もはや私が入り込める余地は無い。空気が張り詰めた。

これは試合ではない。ないが、明らかに相田宮内組のリターンマッチだった。


宮内「練習しなくても大丈夫ですか?。」

宮内さんは持球態勢に入っている。

高宮「大丈夫です。でも時間は下さい。行く時は、行きますと言いますから。楽にしてて下さい。」

高宮さんは、ラケットとボールを体の前に、揃える(そろえる)姿で目を閉じていた。

何かを待っているように見えた。



三崎コーチが観客席から叫んだ。

「高宮!。気合いを入れろ。決めるんだ!。」

それは。あの日一本目のサービスを打つ前に、三崎コーチが叫んだ言葉だ。そして、阿部史也がー決めろ!!愛ーと叫んだが、その阿部は亡くなっている。

「決めろ!!。愛。」

それは能登島秀彦だった。

その声と同時に、何かの匂い(におい)が漂ってきた。

私はつぶやいた。

「タバコ?。」

しかし、10人のスタッフの中にも、観客席にも、コートの中の4人にも、タバコに火をつけている人間はいない。

そして。

高宮愛は、目を開いた。

「宮内さん。行きます。打ち返してください。」

宮内は待球態勢になった。

カメラマンの杉本君が、シャッターを押しっ放しにして、連続写真を撮り始めるのと同時に、高宮愛の手からトスが上がった。



高宮愛は上を向き、ボールはその顔の上に上がっている。

かなり高い。ラケットの先端ギリギリに当たる高さに思えた。ラケットが振り出され、体重は左足に移動する。右足は地面から離れた。

ボールが頂点に達した瞬間に、ボールはラケットの鋭い残像の中に消えた。

ボールはラケットの先端て、押し潰されて張り付きながら、手首の返しが直角になるまで離れなかった。その真下を向いたラケットから、ボールが飛び出してゆく。後で見た連続写真と、ハンディカムで撮られたビデオには、完全に押し潰されて楕円形だえんけいになった、鏡餅状のボールが写っていた。

それが、ネットギリギリをかすめて、サービスコート6m40cmの長さいっぱいに入る。

宮内は、限界まで体を落として、フレームを削ったラケットを地面に平行に滑らせてゆく。

ラケットがボールと接触する。

宮内は、スイングの中間地点まではラケットを上に向けている。そこから、ラケットを振り上げながら、張り付いてきたボールを、ラケットでかぶせるようにして振り抜いた。

ラケットの軌道だけ見ると、地面を擦る(こする)ように平行に動き、急に山なりに上がり、肩まで振り抜かれた。



ボールは、無回転から順回転のドライブが掛けられて、いったん上に上がった後、急激に落ちた。

角度は、宮内から見ると左に45度で、サイドラインのラインテープにオンラインして、弾んだ。

そこには、気づくと高宮愛がいた。

花柄のワンピースを翻し(ひるがえし)、サイドからネットポストと審判台の間を通して、打ち返した。

このコースを読んでいたであろう相田は、バックラインまで下がっていて、体を開きながら妙子キミヅカの頭の上を越えるボールを打ち返した。

しかし、ウィークエンドプレーヤーの妙子キミヅカは、背走はいそうして向き直ると、コートの中間に落ちてきたボールをスマッシュする。それを、ネットに詰めていた硬式テニスプロの宮内が、当然のようにハーフボレーで、妙子キミヅカの横に流した。ボールは2バウンドした。




終わりかと思ったが、高宮愛は相田にサービスを打つために、逆サイドに歩き始める。相田はサービスコートの後ろで待球態勢に入る。

タバコの匂いは、し続けている。

タバコを持っている人間はいない。

次のサービスも同じように、クロスに入った。

宮内と同様のフォームで、相田は振り抜いた。ボールは、妙子キミヅカの真正面に飛んだ。

前衛アタックだ。

妙子キミヅカは、それをボレーした。

そして。

またしても宮内は、ネットに突進してきて、そのボレーをダイレクトで妙子キミヅカの真正面に拾い返した。




妙子キミヅカのラケットは左を向いている。その右に来たボールに対して、切り返せない。そのラケットと交差して、右手が出てボレーした。

あの日の相田のように。

相田に向かってきた、そのボールを再度ストレートに打ち抜いた。高宮は走ったが…ラケットの先をボールは通過した。



「ゲームセット。」

三崎コーチが叫んだ。

そして、ロバート キミヅカが付け加えた。

「ベストゲーム。オブ ザ 4ガールズ ライフ。」

北島が日本語で言う。

「最高のゲーム。4人の少女の人生の中で。」




4人の、かつての少女達は、ネットに集まり、

「ありがとうございました。」

と声をそろえた。

あの日と同じように。

そして4人で抱き合って泣いた。

妙子キミヅカが言った。

「阿部君がいればね…。」

高宮は答えた。

「マルボロの匂いがしてたでしょ?。彼は居てくれたんですよ。」

と。






ー次話!

ー第12話椎名美花につづく!







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