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第6話

 あれから1週間、戦闘訓練と座学を順調にこなし、魔法の訓練も一通り終わった。

 この世界の魔法は前の世界と違って、世界に存在する精霊に魔力を対価として渡し、望む事象を起こしてもらうという感じの様だ。

 前の世界の魔法は魔力で世界の理に干渉して望む事象を自力で起こす感じだったから、想像力が大事だったんだよな。無詠唱で済んだし。

 魔法の訓練も済んだという事で、今日は王都近くの森にレベル上げに来ている。

 メンバーは、オレと紅音、ディナトさんとグラーサさんの4人だ。

 オレには鋼鉄の剣と皮の胸当てが。紅音には、鋼の鞭とローブがクァッド王子から支給されている。

 そして、この辺りはスライムの生息地域らしく、辺りに数体のスライムが蠢いている。

 オレはさっきから、この気持ち悪いスライムを延々と斬っている。

 スライムは積極的に襲ってこないから、単純作業になってしまっていてすぐに飽きてくる。

「イサオ、そろそろ良いですよ」

 ディナトさんに止められ、ようやくスライムを斬る作業を終了した。

 オレの足元には斬られたたくさんのスライムが、でろでろに溶けている。

「これで、3ぐらいはレベルが上がったはずです。次はアカネのレベルを上げましょう」

「了解」

 ディナトさんについて、森を奥へと進んでいく。

 この森はゴブリンの目撃情報が多いらしく、間引きも兼ねてレベルを上げる事になったらしい。

 紅音をの様子を窺うと、緊張しているのか鞭の柄をギュッと握りしめている。

「紅音、気を張りすぎだ。もうちょっとゆるく構えとけ」

「でも、兄さん…」

 不安そうな紅音の頭を撫でてにっこり笑ってやると、少し緊張が解けたのか上がっていた肩が下がった。

 良かった。緊張でガチガチでは、普段通りに動けないから危ないんだよな。

 ディナトさんとグラーサさんがいるから、オレが出来るフォローも限られてしまう。

 しばらく進むと、辺りにちらほらゴブリンの痕跡が見られるようになってきた。

「2人とも、そろそろゴブリンが出そうだよ。周りの警戒を怠らないように」

「「はい」」

 グラーサさんに言われて気を引き締めなおす。

 常時気配は探ってるから、めったな事は無いはずだけど…っと言ってる傍から前方に2体の気配がある。

「アカネ、前方に2体いるよ。ゆっくりでいい、狙いを定めて打ち込んでやりな。イサオは、他が来ないか周りを警戒」

 素早くグラーサさんから指示が飛ぶ。

 今回ディナトさんは監督みたいな役割らしい。

 大まかな指示だけ出して細かい事はグラーサさんに任せている。グラーサさんの訓練も兼ねているようだ。

 ゴブリンはまだこちらに気づいていない。

「…行きます!」

 紅音が大きく深呼吸をし、狙いを定めて鞭を横に打ち込んだ。

 鞭は正確に、2匹のゴブリンの頭を打ちぬく。ゴキンという鈍い音がして、ゴブリンが事切れた。

「よし、ちゃんと訓練通りに出来てるね。良い動きだったよ」

 グラーサさんはちゃんと動けた紅音の肩を叩きながら、よくやったと褒めて先へと進んで行く。

 オレはグラーサさんの後ろをついて行きながら、紅音の横に移動した。

「紅音、大丈夫か?」

「…うん」

 生き物の命を意志を持って奪う。しかも、人型だ。

 紅音が感じるストレスは、並大抵のものじゃないだろう。オレもそうだったからな。

 無意識だろう、微かに震える手でオレの服の裾をきゅっと握っている。

「気にするなって方が無理だけど、あまり考え過ぎるなよ」

「…うん。ありがとう」

 うーん。今夜あたり、ちゃんとフォローしとかないとなぁ。

 ディナトさんが、少しこっちを気にしてるな。紅音の事は他の奴には任せられないから、任せろという意味を込めて頷いてみる。

 …ちゃんと伝わったみたいだな。

「アカネ、イサオ。まだ周りにゴブリンがいる様なんですが、行けますか?」

「オレは大丈夫」

「…わたしも大丈夫です」

 ディナトさんはオレ達の答えに頷いた。

 すでにグラーサさんが、周りの状況を確認しているようだ。

「右から5体来るよ。次はイサオ、あんたが行きな」

「了解」

 オレは意識を集中すると、飛び出してきたゴブリンの首を次々と斬り落としていく。

 血が流れ、ゴブリン特有の嫌な臭いが辺りに漂う。

 この匂いに誘われて、他の魔物が寄って来る事があると座学で教えられたな。

「ちょっと臭いけど、この匂いに寄って来る魔物を2人で倒してみようか。集まりすぎたら、あたいもフォローするから安心しな」

 影から鳥型の魔物、ヴォレーラを召喚したグラーサさんは少し後ろに下がり、周りの状況を偵察するよう指示を出している。

 オレも『気配察知』のスキルを発動させ、近くの魔物を感知できるようにした。

 この世界のスキルというものは、基本的に許可が無ければ鑑定しても他人が見る事は出来ない。

 称号も同じく、許可制との事。…この世界の人達は、あまり称号は気にしないみたいだけど。

 オレがレベル上げ前の鑑定で公開したのは、『剣術』『魔力操作』『気配察知』の3種類。紅音は『鞭術』『テイム』『魅了』『魔力操作』の4種類で、怪しまれない程度に偽装してある。

 称号も適当にでっち上げておいた。

「紅音、左に1体。ゴブリン」

 こっちに召喚されるまで一緒にやっていた、オンラインRPGでやっていたように紅音に指示を出す。多分慣れているこの方が、紅音のストレスも少ないだろう。

 紅音は頷いて、左に意識を向ける。

 ゴブリンが木の隙間に見えた瞬間に、鞭を叩き込んだ。

『ゴアー!!』

 左肩から右脇腹までを鞭に裂かれ、ゴブリンが断末魔の叫び声を上げる。

 さらに血が流れ、臭いもきつくなる。

「前方、3体。スライム。これは無視していい」

 のっそりと前方から現れたスライムは、ゴブリンの死骸に群がっていく。

 ゆっくりとゴブリンの死骸が溶かされていく。

 …気持ち悪ッ。この世界のスライムは、どうしても好きになれないなぁ。なる必要はないけど。

 そんな感じで、数体のゴブリンとコボルトを倒した。しかし、どうも様子がおかしい。

 こちらに来る魔物の数がどんどん増えているし、こちらに来てもオレ達を無視する魔物が多い。

 何かから逃げている。そんな感じがする。

 気になったので、もう少し『気配察知』の範囲を広げようとした時、後ろで見ていたグラーサさんが叫んだ。

「2人とも、下がりな!」

「「!?」」

 2人して反射的にバックステップで2・3歩下がる。

 すかさずグラーサさんとディナトさんが前に出ていく。グラーサさんは狼型の魔物、クルークスをいつの間にか呼び出していた。

 その直後、数十体のゴブリンがこちらに走って来る。相当パニックに陥っているのか、喚きながら走っていてうるさい。

 ゴブリン達はオレ達を無視すると、森の入り口方面へと消えていった。

 ゴブリンだけではなく、コボルトの小さな群れも駆け抜けて行った。駆け抜ける際に、数体がこちらにちょっかいをかけて来たので、ディナトさんに斬られていた。

「奥から、相当強い魔物が出てきたみたいだね。狙いはあたいらみたいだ」

「なぜオレ達が狙われているんだ?」

「さあね。もうすぐ顔が見えるから、そいつに聞いてみたらどうだい?」

 2人の会話の直後、オレ達の前に姿を現したのは、大きな猫型の魔物だった。

 虎より少し大きい黒い毛並みのそれは、ゆっくりとオレ達の周りを歩き紅音の前で止まった。

「な、なんでグーロがここに?」

「グーロ?」

 あの猫型の魔物はグーロというらしい。グラーサさんの反応から、相当強い魔物だという事は分かる。

 クルークスのしっぽが股の間に入り込んでいた。…鑑定してみるか。

≪鑑定≫

 小さな声でスキルを発動して、グーロを鑑定してみた。


【グーロ 希少種】

Lv.213 ランク S


体力:S

魔法力:B

攻撃力:S

防御力:A

魔法防御力:A

素早さ:SS

魔力:B

器用さ:A

魅力:S


 …ヤバいなんてもんじゃない。レベル高いわ、希少種だわでお腹一杯です。

 でも不思議と敵意は感じないし、じっと紅音を見ている。

「なあ紅音、もしかしてそいつ、テイムできるんじゃないか?」

「うん。多分そうだと思う」

「本気かい?!グーロはテイムしにくいモンスターで有名なんだよ!」

 近づこうとした紅音に向かって、グラーサさんが制止をかける。

 紅音が思わず止まるとグーロは焦れたのか、紅音の方にゆっくり歩み寄って来た。

『グルルルル…』

 敵意は無いと言わんばかりに、紅音の足に頭をこすり付けている。完全に、猫が飼い主によくやるマーキングだ。

 紅音は猫派なので、はわはわしている。撫でたいのだろう。

「やっぱり大丈夫じゃないか?」

「…だね」

 グラーサさんは何故か力が抜けたようになっていて、ディナトさんに至っては、開いた口が塞がっていない。

「紅音、大丈夫だ」

「うん」

 紅音が意を決したように、魔力を纏わせた手でグーロを撫でた。

 紅音の魔力を受けてグーロが淡い緑色に光る。光るのは魔物側が、テイマーを受け入れた証らしい。

「…君の名前はアスワド。黒という意味があるんだよ」

『ガウっ』

 グーロ、いや、アスワドは嬉しそうに紅音の顔を舐めた。

「ふふっ、くすぐったい」

 テイム出来たのがよほど嬉しいのか、紅音はアスワドを撫でまわしている。

 アスワドは少し長毛で、胸の周りの毛がもふもふしている。

「兄さん!テイム出来たよ!」

 アスワドを連れて紅音がこっちに来る。

 アスワドはオレを見ると、オレにも額をこすり付けてきた。とりあえず、撫でておく。

「よかったな、紅音。アスワド、紅音をよろしくな」

『ゴロゴロゴロ…』

 喉を鳴らしてご機嫌なアスワドの胸毛をそっともふる。ふかふかだ…定期的にもふらせてもらおう。

「…すごいね、本当にグーロをテイムしちまった。しかもその子、希少種だよ」

「初めてのテイム、おめでとう。だが、この事実は陛下に知られない方がいい。グーロの希少種などテイムした事が知られれば、問答無用で囲われてしまうぞ」

 紅音はグラーサさんとディナトさんから褒められたが、同時に不安な事も言われる。

 確かにこれだけ強力な魔物をテイムしたとなれば、あの国王の事だ、良からぬことに使われてしまうだろう。

 いい感じで紅音のレベルも上がったので、国王達への対策を考えながら城に戻ることになった。

 オレのレベル?上がるわけないだろ。…偽装ステータスの方は、少し上げといたけどな。

やっと紅音がテイム出来ました。

もふもふは正義だと思ってます。

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