第3話
ショタっ子神の最初のお願いを叶えるために、オレ達が最初に召喚された部屋に来ていた。
彼のお願いは、この召喚陣を使用不能にする事だ。
「紅音が作った魔力結晶を真ん中にセットしてー、オレの魔力結晶を十字に配置。最後に魔力を流せば…」
オレの魔力結晶から紅音の魔力結晶へ魔力が流れ込み、パチパチと音を立ててスパークし始める。
スパークが激しくなり、最後には紅音の魔力結晶の真下に流れて行き、魔力結晶がパキリと小さな音をたてて崩れた。
「これでよし。見た目は変わらないけど、使用不可になったぞ」
この召喚陣の仕組みは、地中の魔力の流れに干渉し無理やり動力にする、かなり無茶な物だ。
魔力の流れを無理やり捻じ曲げているので、地表にもかなり影響が出るはずだ。
一応、今回は使用された魔力と同等程度の魔力を補ったので、大事には至らないと思う。
オレがしたのは、『魔力の流れに干渉する』という部分の破壊だ。
これで大量の魔力を必要とする陣が地中の流れに干渉できなくなる事によって、この陣を起動させた者の魔力でのみ発動するようになり起動まで至らないようにしといた。
普通の魔法使い程度では最悪、魔力枯渇で死ぬ。
きちんと起動させようと思ったら、高レベルの魔法使いをかなりの数必要とするはずだ。
「よしよし、これで二度と勇者召喚は出来ないな」
地中の魔力の流れとは、テラリオルが管理するために流している力の事だ。勝手に使っていいものではない。
ま、これでお願いの一つ『勇者召喚陣を使えなくする』はおしまいだな。戻って寝よ。
次の日の朝、朝食を食べ終えたオレ達は第2王子の執務室に連れて行かれた。
今日のメイドは、感じ良いな。
第2王子は仕事中だったらしく、結構な量の書類に囲まれていた。
「クァッド様、お2人をお連れしました」
「あ、おはようございます。すみません、もう少しでキリがつくのでそちらに座ってお待ちください」
王子は書類からこちらに目を移し、さわやかに微笑んで正面のソファーに座るように促す。
昨夜の不機嫌さが嘘のようだ。
オレ達は言われるがままソファーに座り、出されたお茶を飲みながら待っていた。
色々と出来る対策は済ませているので、あまり気を張らずに行こう、と紅音とは話し合っている。
しかし、この王子の対応は昨日の王の対応と正反対だ。
キリが付いたのか、王子は数枚の書類を持ってオレ達の正面に座った。
「おまたせしました。第2王子の、クァッド・ティル・アルファードです。今日から私があなた方のお世話をさせていただきます」
すぐに命令口調で何か言われると思っていたオレは、少し面喰ってしまった。
「まずは、謝罪を。こちらの都合で来ていただいたにも関わらず、父も兄も妹もあなた方が従うのが当然のように振る舞っている。あなた方には、とても嫌な思いをさせてしまいました。申し訳ありません」
王子はそう言うと、深く頭を下げた。
ひょっとしたらこの王子はマトモなのかもしれない。
そういえば昨日の晩餐の時も、彼と彼に似た美人からは蔑みや侮蔑の雰囲気を感じなかった。
彼なら、少しは信用してもいいのかもしれない。
「あの、あなたが頭を下げる必要はありませんよ。指示したのはあの国王だし、実際に動いたのは第1王女でしょ?」
「そうだな。オレ達が許せないのはあいつらだ。あんたじゃないよ」
「ですが…いえ。この話は平行線になってしまいそうですね」
王子は苦笑して、持っていた書類をこちらに差し出してきた。
幸い、文字は『言語理解』のスキルのおかげで読める。
「読めますか?」
「ああ」
「はい」
紅音も同じスキルを持っているはずだから、読めるだろう。
軽く目を通すと、冒険者ギルドの加入用の書類だった。なぜ、今この書類をオレ達に?
「ご覧の通り、冒険者ギルドへの加入用紙です。先にギルドに加入していただいて、戦闘訓練をしつつ依頼をこなしてレベルを上げていただきます」
ん?テラリオルにもらった知識だと、別に冒険者ギルドに加入しなくてもレベルは上げられるはずなんだが。
確か、街の外には普通に魔物がいるはず。
騎士とか兵士とかはそれを狩って、治安維持のついでにレベルアップしているはずだ。
「あなた方をギルドへ加入させるのは、ダンジョンに入るにはギルドに加入していなければいけないのが1つ目の理由です」
「他に理由があるのですか?」
多分、紅音もオレと同じ事を思っていたのだろう。可愛く首をかしげて王子に疑問を投げかけている。
「ええ。ギルドに加入すれば、身分証がもらえます。…あなた方がこの国を出ても、それがあれば困らないでしょう」
「は?どういうつもりだ」
どうやら、この王子はオレ達をこの国から逃がすつもりらしい。
あの王の指示に逆らうのか?何を考えているんだ?
「私は父のやり方…というより、この国の上層部の考えが気に入らないのです。民を家畜程度にしか考えていない。上に立つ者として、間違っていると思うのです。この際だから言ってしまいますが、今回の召喚は領土拡大の為に駒となる者を呼び出したのです。以前に呼び出した2人の勇者は、男性はツィアリダの魅了に。女性は兄上が口説き落としてしまって彼らの言いなりです」
マジか。オレ達の前に呼ばれた奴ら、チョロすぎるだろ。
紅音も眉間に皺を寄せている。
…というか、2人も勇者がいるのにまた召喚したのかよ。テラリオルが怒るわけだ。
「あなた方は勇者では無かったので、あまり権力のない私に預けられたんだと思います」
「権力がない?第2王子なのにか?」
「はい。私は側室の子なので、必要以上の力は与えられていないのです」
少し困ったように笑う王子は、何かを悟っているようだった。
ふーん。側室側に力を与えないって事は、何か事情がありそうだな。
後で調べてみるか。面白そうだし。
「複雑な事情があるみたいだが、オレ達はまだあんたを全面的に信用した訳じゃないからな」
「うん。申し訳ないけど、簡単には信用できないよ。いい人だとは思うんだけど…」
最初の印象が悪すぎて、どうにもなぁ。
多分信用してもいいとは思うが決定打がないから何とも言えないし、裏とらないと安心できないんだよな。
「私はお二方にこの世界の知識と、戦える力を身に着けて頂ければ構いません」
「分かった。とりあえず書類に記入しよう。紅音もいいな」
「うん」
オレ達は登録書類に必要事項を記入していく。書く方も、スキルのおかげで大丈夫だ。
必須なのは名前と職業、それだけだった。
どこの世界も冒険者ギルドはシンプルに出来てるなぁ。年齢とかも関係ないのか?
「ありがとうございます。登録はこちらでしておきます。この冊子でギルドについて分かりますので、目を通しておいてください」
「了解」
小さな冊子を受け取って、軽く目を通す。
お、この世界のギルドは2つの項目でランク分けされるのか。面白そうだな。
ちらっと紅音を見ると、冊子を一生懸命読んでいる。
王子が小さなベルを鳴らすと、2人の騎士が入ってきた。
一人は赤茶の長髪を後ろで一つにまとめた、鋭い目つきの青年。もう一人は水色の髪を三つ編みにした、素朴な感じの女性だった。
女性の方は、剣の反対側に鞭を装備している。
「彼らは私の親衛隊の者です。これから彼らに付いて剣術と、鞭の扱いを学んでください」
親衛隊か。それなりのレベルだろうから、この世界の平均を知るにはいいだろう。
…素人の演技とか出来るかな。