第23話
プライベートのごたごたで、更新が遅くなってしまいました。
待っていてくださった方、申し訳ありません。
その分、今回はちょっと長めです。
「3人とも、お疲れさん」
戦闘を終えて一息ついていた3人に近づき、軽く声をかける。
「いや〜、マジで厄介な相手だった。最初に油断しててくれたから、何とかなったけど」
「ムカつく敵だった〜。早く宝箱開けて次に行こうよ。ここが開くの、待ってる人がいるかもしれないし」
宝箱に向かいながら、紅音が手招きしている。
確かに、オレ達の後に来た冒険者がいるかもしれない。もらう物もらって先に進みますか。
宝箱からアイテムを回収し、奥に出現した階段で上の階に進むと、塔の中とは思えない森の中に出た。
ウィリディスが言うにはこの階に罠は無いらしいので、休憩できそうな場所を探しながら進む事にした。
「兄さん、ここ本当に塔の中?」
「塔タイプのダンジョンでこれは、オレも初めてだな」
周りをきょろきょろと見回しながら進むオレ達を見て、ウィリディスが笑っている。
「何笑ってんだよ」
「いやね、あんまり動じないイサオ君がぽかーんって顔で口開けてるのが何かおかしくってさ」
確かに珍しくはあったけど、口開いてたか?
そう思った時に無意識に口に手を当てていた様で、それを見てさらにウィリディスが笑う。
くそっ、笑い過ぎだろ!
『お兄チャン達〜、あっちに小さい小屋みたいなのがあったよ〜』
少し先を楽しそうに見て回っていたアスワドが、こっちこっちと呼んでいる。
アスワドについて行くと、本当に小さな小屋があった。休憩にはちょうど良さそうだ。
軽く警戒しながら小屋の扉を開くと、中には少人数のパーティーが休憩できるテーブルとイスがある。
「休憩がてら、さっきのアイテムを鑑定するか。疲れてるだろ?」
「正直、そうしてもらえると助かるよ」
「そうだね。ちょっと休みたいかも」
『お兄チャンのおやつある?』
小屋の中に入り、ボス戦後のティータイムにする。
アスワドの希望通りおやつを出すと、歓声が上がった。今回出したのは、チョコレートケーキだ。
アスワドは食べられないかとも思ったが、問題ないようだ。
「さて、今回手に入れたアイテムは4つだな。順番に鑑定していくか」
「どんなアイテムか、楽しみだね」
先程手に入れたアイテムを取り出し、テーブルの上に並べる。
1つ目は、金にも銀にも見える金属の呼び鈴。
2つ目は、黒銀の呼び鈴。
3つ目は、一口サイズの虹色をした飴。
4つ目は、装飾の美しい瓶に入った虹色の液体。
まずは、金にも銀にも見える金属の呼び鈴から鑑定する事にした。
<双月の呼び鈴>
魔力を流して鳴らすと、デヴォーレヴァンプの姉妹を呼び出す事が出来る。
1度呼び出されると、呼び鈴を鳴らした人物を主人と認識して消滅するまで仕える。
呼び出される姉妹の強さや能力は、呼び鈴を鳴らした人物の影響を受ける。
「兄さん、これってあの2人を呼び出すアイテムって事?」
「どうだろうな」
アイテムの鑑定結果を聞いて、紅音が驚いた顔をしている。
確かにボス部屋で戦った姉妹の様なデヴォーレヴァンプを呼び出すアイテムの様だが、あの姉妹を呼び出せるとは限らないだろう。
そうすると、もう一つの呼び鈴の効果も想像が出来てしまうな。
<宵闇の呼び鈴>
魔力を流して鳴らすと、ヴァンパイアを呼び出す事が出来る。
1度呼び出されると、呼び鈴を鳴らした人物を主人と認識して消滅するまで仕える。
呼び出されるヴァンパイアの強さや能力・性別は、呼び鈴を鳴らした人物の影響を受ける。
やっぱり、こっちはヴァンパイアを呼び出すアイテムの様だ。
紅音が、ものすごく嫌な物を見る目で宵闇の呼び鈴を見ている。
「アカネちゃん、すっごく嫌そうに見ないの。アレが出るとは限らないんだからさ」
よっぽど嫌だったんだな。
万が一呼び出す事があったら、性格がまともな奴がいいな。それか、女性。
次は、飴を鑑定するか。
<究極の美容飴>
慈愛の女神が長い時をかけて作りだした、究極の美容薬。
飴にする事で食べやすく、かつ様々な成分を吸収しやすくした一品。
究極の美容液と併用すると2日程で赤ちゃんの様なもっちり肌になる、究極と呼ぶにふさわしい物。
本来は下界に出回る品ではないが、今回は日々頑張る勇者へのアルティレーヌからの贈り物。
さあ、女神の本気を見よ!!
…マジか。
じゃあ、最後の1つは美容液か。
<究極の美容液>
慈愛の女神が長い時をかけて作りだした、究極の美容液。
肌に染み込ませる事で、ダメージを回復しハリと艶のある透明肌に。
究極の美容飴と併用すると2日程で赤ちゃんの様なもっちり肌になる、究極と呼ぶにふさわしい物。
本来は下界に出回る品ではないが、今回は日々頑張る勇者へのアルティレーヌからの贈り物。
さあ、女神の本気を見よ!!
本気を見よ!!って。慈愛の女神様、何してんの?
とりあえず、2つとも紅音に渡しておこう。
「これは、紅音のだ」
「え、どういう事?」
美容飴と美容液を紅音に手渡し、鑑定結果を伝える。
「きゃー!アルティレーヌ様、大感謝です!愛してます!」
紅音は受け取った2つを掲げて、大歓声をあげた。
そう言えば、この世界の化粧品はあんまり質の良い物が無いって言ってたっけ。
「女神様も粋な事するね〜。でもそれだと、ドロップ品は呼び鈴2つだけって事になるね」
「そうだな。とりあえず、これはオレが預かっとく。使うか売るかは、後日決めよう」
「了解。じゃあ、そろそろ出発しようか」
食器などを片付けて小屋を後にすると、ウィリディスが《探索》のスキルを発動させ次の階への階段を探し出す。
この階は罠が無い代わりに、次の階に進む階段が色々な所にランダムで出現する。
しかも一定時間で場所が変わるらしく、厄介な事この上ない。
運が悪いと何日もこの階に閉じ込められる事になったり、見つけた階段が目の前で消えたりするそうだ。
「うーん。多分、こっちかな」
周りをオレとアスワドと紅音で警戒しながら、ウィリディスについて行く。
たまに猿型の魔物やら蛇型の魔物やらが出るが、アスワドと紅音で問題なく対処出来ている。
奥まで進むと、紅音がしきりに周りを気にしだした。
アスワドも、何かを探すように周りを見回している。
あまりにも動きがおかしいので、ウィリディスに一旦止まってもらって話を聞く事にした。
「紅音、どうかしたのか?」
「誰かが呼んでるの。助けてって、すごく必死に」
『姫にも聞こえたの?アスワドも、かすかにだけど聞こえたよ』
オレとウィリディスには聞こえない声が、紅音とアスワドには聞こえているようだ。
ウィリディスに視線を送ると、オレの言いたい事を察したのか頷いてくれた。
「声はどっちから聞こえるんだ?気になるなら行ってみよう」
「いいの?」
オレとウィリディスが頷くと、紅音はありがとうと言って笑った。
「声はどこから聞こえるのか、よく分からなくて。アスワドは分かる?」
『んー、多分こっち!嫌な気配もするよ』
アスワドが示す方向に向かうと、紅音が頭を押さえて辛そうにしている。
「大丈夫か、紅音」
「うん。でも、早く行ってあげないと…。間に合わなくなっちゃう」
『姫!いたよ!!』
アスワドが見つけた方向を見ると、5人組の冒険者が30cm位の蝶型の魔物と戦っているのが見えた。
よく見ると後ろに巣があり、虹色の綺麗な翅をした蝶型の魔物が他の蝶型の魔物に守られている。
「あれは!?」
蝶型の魔物を視認したウィリディスが、驚きの声を上げた。
「ウィリディス、何か知ってるのか?」
「うん。あの魔物はファルピヨンって言って、花の蜜と魔力を主食とする魔物なんだ。大人しいから、人を襲う事はしないはずなんだけど…」
という事は、冒険者の方から手を出したって事か。
紅音の方に視線を向けると、止める間もなく冒険者とファルピヨンの間に入って行った。
「貴方達、やめなさい!」
紅音は制止の声と共に、冒険者の剣を鞭で叩き落とした。
アスワドは、虹色の翅のファルピヨンの方に行って何かしている様だ。
「何だい、お嬢ちゃん。ダンジョンでは、人の獲物に手を出したらダメだって教わらなかったのか?」
「そうだぞ。マナー違反でギルドに訴えても良いんだぞ」
リーダーらしき男が紅音のマナー違反を咎める。
剣を叩き落とされた男は、それに便乗してギルドに訴えると言い出した。
まあ確かにマナー違反になるかもしれないが、助けを求められたらしょうがないよな。
「訴えても良いけど、罰せられるのは君達の方になっちゃうよ?」
ウィリディスが紅音の横に立ち、男達に向かって微笑むが目が笑っていない。
「何だと?おれ達は魔物を狩っていただけだ。それの何処が悪いんだよ」
「どうせファルピヨンの魔力蜜が狙いなんだろうけど、ファルピヨンは保護魔獣に指定されているんだよ。殺したら良くて降格、悪くて登録抹消なんだけど。知らなかった?」
へえ、保護魔獣とかいるんだ。絶滅危惧種みたいなもんだろうか。
ウィリディスの言葉を聞いた男達は、途端に顔色を変えておろおろしだした。この様子だと、知らなかったんだろうな。
だが、リーダーの男は知っていたようだ。
「それがどうした。どうせダンジョンじゃ死体は残らないんだ、殺して蜜を取った方がいい金になるじゃないか」
「そう。後ろの人達はどうするの?彼に従うの?」
戦闘態勢に入ったリーダーとは逆で、他の4人は顔を見合わせた後、武器をしまって両手を上げる。
「ちっ、役にたたねぇな!おれはこれでも討伐ランクBなんだ、1人でもお前らなんかに負けるかよ!」
男はそう叫びながら、紅音とウィルディスの方へ突っ込んで行く。
2人は冷静にそれを避け、紅音は男の右足を鞭で打ちウィリディスはその隙に弓を構えた。
右足を鞭で打たれた男は痛みに態勢を崩すも、すぐに立て直し紅音に向かって氷の魔法を放つ。
紅音が放たれた氷塊を鞭で叩き落とすと、そこに男が突っ込んで行く。
紅音は迎撃は間に合わないと読んで横に飛んで避け、そこにウィリディスが矢を放つ。
放った矢は肩に刺さり、男は武器を落としてしまった。
どうやら、ウィリディスが放った矢は即効性の麻痺毒が塗られた物らしい。
「君、そんなんで討伐ランクBなの?実力が伴ってないよ。もっと下からやり直したら?」
「ウィリディスさん、この人どうします?」
矢の毒が周り動けなくなった男を縛り上げ、地面に転がしてどうするか相談している。
オレは、密かに逃げようとしていた4人を捕まえて監視していた。
「なあ、こいつらにギルドまで連れて行かせればいいんじゃないか?」
「そうだね。君達、彼を外まで連れて行って、ギルド職員に事情を説明してくれる?僕からも一筆書いておくから、フィークス副ギルドマスターが良いように取り計らってくれるはずだよ」
そう言って、ウィリディスは鞄から筆記用具を取り出してフィークスさん宛てに手紙を書いている。
「な、なあ。あんた達何者なんだ?」
「何者って言われてもなぁ。オレと紅音は討伐ランクC、あそこのウィリディスは討伐ランクAの冒険者だよ」
オレ達のランクを聞いて、4人はびっくりしている。
話を聞いてみると、彼らは討伐ランクDの冒険者でリーダーの男にレベル上げを手伝ってやると半ば強引にここまで連れて来られたそうだ。
で、たまたまファルピヨンを見つけて、金になるからって事で巣にある魔力蜜と呼ばれる蜜と、女王個体を捕獲して連れて帰るつもりだったらしい。
闇商人にでも売るつもりだったんだろうな。
「じゃあ、よろしくね。このアイテムで入り口まですぐに戻すからね」
「はい。ご迷惑をおかけして、すみません。色々とありがとうございました」
ウィリディスは羽根の様なアイテムを使って、4人を入り口まで送り返した。
彼らは知らなかっただけで良い奴らだったみたいだし、今後は変な奴に捕まらないようにフィークスさんが目をかけてくれるだろう。
「紅音、そっちはどうだ?」
ファルピヨンの方と話をしていた紅音に声をかけると、いい笑顔でこっちを向いた。
「話はついたよ。この子をわたしがテイムする事になったんだけど、テイムすると群れごとついてくるんだって。しかも、テイム枠2つ使うみたい」
『アナタガコノ方ノ兄上カ。コノタビハ、我ラノ群レヲ救ッテ頂キ、感謝イタシマス』
どうもこの女王個体、希少種みたいで念話が使えるらしい。
助けを求める声が聞こえたのは、紅音と波長が合ったからという事のようだ。
「気にするな。これからはオレ達が守るから、さっさとテイムされな」
「そうだね。でも群れごとテイムしたら、巣ってどうなるのかな?」
そうだよな、オレもそれが気になった。
『多分、今アル巣ハ放棄シナケレバナラナイト思ウ。ダガ巣ハマタ作レルカラ、気ニシナイデ欲シイ』
女王は気にせず、今ある巣から持ち出せるだけの蜜を持ち出すと良いと言ってくれた。
どうやら、紅音の魔力がとてもおいしいので蜜は無くてもいいらしい。いつの間に味見したのやら。
「じゃあ、先にテイムするね」
そう言うと、紅音は女王がとまっている右手に魔力を纏わせた。
その魔力を嬉しそうに吸い、女王が淡く光る。
「あなたの名前は、ミテラ。母という意味があるんだよ」
『ミテラ。それが妾の名…』
紅音がテイムした事で、聞き取りにくかった念話がスムーズに聞こえるようになり、若干口調も変わっている。
群れの方も淡く光っていて、かなりの数のファルピヨンが嬉しそうにオレ達の周りを飛んでいる。
ある程度飛んだら気が済んだのか、女王以外は紅音の影に入って行った。
「じゃあ、ステータスを確認させてもらうね」
【ミテラ(ファルピヨン希少種:女王) 特殊個体】
Lv.187 ランク A
体力:A
魔法力:A
攻撃力:F
防御力:S
魔法防御力:S
素早さ:D
魔力:A
器用さ:C
魅力:S
やっぱり希少種か。しかも、極端な防御・魔法特化型。
他の個体は大きさも翅の色もまちまちだったから、ステータスも役割もまた違うんだろうな。
落ち着いたら各個体の役割とか教えてもらいつつ、巣の事も考えないと。
まあ、今は紅音が嬉しそうだからいいか。
「これからよろしくね、ミテラ」
『こちらこそよろしくなのじゃ、主殿』
『ミテラ、よろしく!アスワドと一緒に姫を守ろうね〜』
『もちろんじゃ、アスワド殿。これからよろしくの』
ミテラは紅音の手から離れ、アスワドの頭にとまった。
ミテラの定位置は、そこになりそうだな。
気づいたら、ブックマークが100件超えててびっくりしております。
レビューも頂けて、とても嬉しいです!ありがとうございます。
これからも、よろしくお願いします(^^)




