第22話
扉を開けると、とても広い空間に出た。
1階層丸々ボス部屋なのだから、当たり前と言えば当たり前か。
少し進むと、ボスの姿が見えてきた。
「あれがボス?」
「そのようだね。ヴァンパイアかな?」
そこに立っていたのは黒いマントを着た男と、側仕えのように見えるフードを被った性別不明の2人だった。
オレはすかさず『鑑定』を発動させた。
【ヴァンパイア 亜種】
Lv.150 ランク A
体力:S
魔法力:A
攻撃力:S
防御力:S
魔法防御力:A
素早さ:A
魔力:S
器用さ:A
魅力:S
やっぱりヴァンパイアか。しかも亜種らしい。
他の2人はどうだ?
【デヴォーレヴァンプ】
Lv.102 ランク B
体力:A
魔法力:B
攻撃力:A
防御力:B
魔法防御力:B
素早さ:A
魔力:A
器用さ:B
魅力:A
【デヴォーレヴァンプ 亜種】
Lv.95 ランク B
体力:A
魔法力:A
攻撃力:B
防御力:B
魔法防御力:A
素早さ:A
魔力:A
器用さ:B
魅力:A
なかなかのレベルだな。これは面白い戦いになりそうだ。
紅音とウィリディスは軽く打ち合わせをして、ヴァンパイアに向かって行く。
その間、ヴァンパイアは値踏みする様に2人を見ていた。
「そこの美しいお嬢さん、私のモノになりなさい。その美しさは、わたしに愛でられるにふさわしい」
あのヴァンパイア、戦闘を開始しようとしていた紅音をナンパしだしたよ。当の紅音はと言うと、眉間にこれでもかって位皺が寄っている。
ウィリディスは、無言で矢をつがえてヴァンパイアを狙っている。
よく見るとつがえている矢は、アンデットとデーモン系に効果が高い結構高価な矢だった。
「さあ、お嬢さん!私の腕の中においでなさい」
2人の反応も意に介さず、自分の世界に酔っているヴァンパイア。側仕えの2人は動かない。
「兄さんより弱い男にも、あたしより弱い男にも興味はないわ!」
紅音はそう言って、思いっきり鞭を打ち込んだ。
その時初めて、デヴォーレヴァンプの2人が動いた。
ノーマルの方は鞭がヴァンパイアに当たる前に受け止め、亜種の方は紅音に向かって走り出していた。その両手には短剣が握られている。
それを察したアスワドが紅音を守るために迎撃の体制に入り、ウィリディスは引き絞っていた矢をノーマルの方に向かって放った。
ノーマルが矢に気づき、鞭を離してヴァンパイアの近くまで引いた。紅音はノーマルが鞭を離した瞬間に追撃の一撃を放っていたが、それは綺麗に躱されてしまった。
「アカネちゃん、まずあの2人から倒さないとダメみたいだね。アスワド君も良いかな」
「右からでいいかな?アスワド、行ける?」
『うん。お兄チャンがくれた魔法もあるし、頑張るよ!』
攻撃の方針が決まったようで、それぞれが攻撃しやすい位置に移動して行く。
≪世界を照らす光の加護よ、我らを守る鎧となれ≫
最初に動いたのは紅音だった。
ヴァンパイアはアンデット系の魔物なので、光属性の守りを全員に付与する魔法を使ったようだ。
一応、オレもパーティーに入っていると認識されたようで、魔法の効果を受け体がほんのり光っていた。
ヴァンパイアは戦闘に参加せずに見学しているオレが気になるようで、じっとこちらを見ている。
「そこの君は参加しないのかい?」
「ああ。あいつらが倒れたら、その時は相手してやるよ」
「ふふふ。君達は皆美しいから、全員私のモノにするよ。楽しみだ」
イマイチ会話になっていない気がするが、あいつはオレ達全員を倒して愛でる気らしい。
紅音達の戦いを見守りながら、ヴァンパイアの動きに注意を払っておく。ウィリディスも警戒してるから大丈夫だとは思うが、気を付けるに越した事は無いからな。
紅音達はノーマルの方から倒す事にしたらしく、ヴァンパイアの護衛についている亜種は警戒だけして放置している。
デヴォーレヴァンプ達も役割があるのか、ノーマルの方が主に攻撃をしてきている。
しかし、ノーマルの方強いな。紅音の鞭も、アスワドの爪も、ウィリディスの矢ですらひらりひらりと躱している。
結構いい連携で攻めてるんだが、相手の回避能力が高くてなかなか攻撃が当たらない。
そんな中、紅音の鞭がノーマルのフードを切り裂いた。
露になったのは、金髪の美女だった。
彼女は破れたローブを脱ぎ捨てると、改めて短剣を構えなおす。そこに、アスワドが炎の塊を放った。
「!?」
アスワドが魔法を使うとは思わなかったのか、金髪美女にまともにあたって燃えあがる。
好機とばかりにウィリディスが連続して矢を放ち、紅音も鞭を打ち込んだ。
「あああああああああ!!」
炎にまかれて避けられず全ての攻撃を受けた金髪美女は、断末魔の叫びを上げて灰となって消えた。
「姉様!!」
「なに?!」
金髪美女が倒されるとは微塵も思っていなかったのだろう。
残りの2人、特に亜種の方は妹だったようで、激怒している。
しかし、アスワドが使うと生活魔法でも攻撃魔法になってしまうのか。これは予想外だ。
今度、他の魔法もどうなるか検証しないとだな。
のんきにそんな事を考えていると、亜種の方がローブを脱ぎ捨て姉と同じように短剣を構える。姉に似た、銀髪の美女だ。
バンパイアの方もようやくあの3人が強敵だと分かったようで、レイピアを構えて魔法の詠唱を始めた。
亜種の方も何かつぶやいているので、魔法が使えるのだろう。
「彼らは魔法が使えるみたいだから、気を付けてね。アカネちゃんは補助魔法を、アスワド君は攻撃をよろしく。僕が隙を見て矢を叩き込むから、どうにか隙を作って欲しい」
「うん、任せて」
『分かったよ、弓のお兄チャン』
ウィリディスの指示で2人が動き出す。
紅音が詠唱している間、アスワドが銀髪美女を相手にしている。ウィリディスは魔法を封じる矢に持ち替えて、ヴァンパイアの魔法が発動しないように牽制している。
ヴァンパイアは詠唱の邪魔をされて、イライラしているようだ。
≪風のごとき疾さを、彼の者に≫
紅音がアスワドに素早さが上がる補助魔法をかけると、アスワドの攻撃速度が上がり銀髪美女を押し始める。
徐々に銀髪美女の傷が増えて行き、動きが鈍くなっていく。
ヴァンパイアも援護しようとしているが、全てウィリディスの矢に阻まれている。うわぁ、怒り狂ってる。
先にウィリディスを攻撃しようと動くと、させないとばかりに紅音の鞭が飛んでくる。それを避けても、さらに追い打ちでウィリディスが矢を放っている。
アスワドとウィリディスで攻めながら、状況をみて紅音がフォローに回る。いい連携だな。
『これでどーだー!』
アスワドが掛け声と共に、その爪で銀髪美女を切り裂いた。
「きゃああああ!」
「アスワド君、ナイス!」
その隙を見逃さず、ウィリディスが会心の矢を放った。
矢は狙い違わず、銀髪美女の眉間に突き刺さる。銀髪美女はそのまま声もなく崩れ落ち、姉と同じく灰となって消えた。
後はヴァンパイアだけだな。
「よくも、よくも彼女たちを!!」
ヴァンパイアから感じる魔力が一気に膨れ上がり、急激に収束する。
魔力を全身に纏い、身体能力を強化したようだ。まあ、魔法は詠唱しても途中でウィリディスに潰されるから、近接で戦うしかないだろうな。
ヴァンパイアは先程までのにやけ顔ではなく、真顔でレイピアを構えている。そこに隙はない。
ウィリディスが様子見で矢を放つもことごとく弾き落とされ、同時に紅音が鞭で攻撃するも冷静に躱される。
さて、この状況をどうやって打破するのか。
しばらく紅音達が攻めあぐねていると、ヴァンパイアの方が動いた。
強化した身体能力で一気にアスワドに近づくと、レイピアで連撃を繰り出す。アスワドも避けてはいるが、全ては避けられず傷を負ってしまう。
「アスワドっ!」
紅音があわてて回復魔法の詠唱を始めると、途端に標的を紅音に変えて詠唱の邪魔をする。相変わらず、戦闘中の回復は長い詠唱をしないと使えないんだな。
ウィリディスが矢を放とうとするも、常に射線に紅音が入るようにして撃てない。
さっきまで自身がやられていた事を、お返しとばかりにしてきた。本気になったら嫌な攻撃してくるな、あいつ。
それでも何とか隙を見てアスワドを回復して、態勢を立て直す。
「どうしよう、攻めらんないよ」
「困ったねぇ」
『姫、弓のお兄チャン。やってみたい事があるんだけど、いい?』
「「もちろん」」
アスワドの提案に2人は間髪入れずに賛成し、軽く打ち合わせて攻撃を再開した。
アスワドが突っ込んで連撃を繰り出すが、レイピアで捌かれる。
ヴァンパイアの突きを後ろに飛んで避ける瞬間に、魔法で水をぶっかけた。
生活魔法の水を出す奴の様だが、量がおかしかった。あの魔法って、コップ1杯分位の水が出るだけじゃなかったっけ?
今アスワドが放った水は、風呂1杯分位の水量があったぞ。
「くっ。何だ…ただの水?」
びしょびしょになったヴァンパイアは、訳が分からず戸惑っている。戸惑っている所に、アスワドからもう一発水が放たれる。
あーあ。足元に水たまりが出来てるよ。
濡れまくっているヴァンパイアにウィリディスが矢を放つが、流石に弾かれてしまった。
ヴァンパイアが不敵な笑みを浮かべた瞬間、横からアスワドがまた魔法を放つ。今度は水ではなく、冷気を放つ魔法だった。
この魔法も本来は食材を少しひんやりさせる位の威力しかないはずが、ブリザードのような冷気がヴァンパイアを襲っている。
水で濡らしたのはこの為か!
魔法が終わる頃には、ヴァンパイアの氷漬けが出来上がっていた。
紅音が鞭で氷漬けを叩き壊すと、光が部屋の中央に集まり宝箱が現れた。
これで、ボス部屋(ボス階?)クリアだな。




