第20話
前回の第19話を、大幅に書き直しております。
1度チェックしていただけると幸いです。
「兄さん、ウィリディスさん、早く!」
今日は、明日からのダンジョン攻略の為に市場に買い物に来ている。
何か紅音のテンションが妙に高いのは、ゆっくり買い物出来るのが嬉しいんだろう。
一応アイテムなんかのストックはあるのだが、オレが持ってるのは違う世界の物なので一通り買い揃えておいた。
コボルトの毛皮と魔石が結構いい値段になったので、懐には余裕がある。
「アカネちゃん、楽しそうだねぇ。次は、防具を見に行くんだっけ?」
「ああ。オーダーメイド出来るなら、コボルトの毛皮で何か作ってもらおうかと思ってる。流石にブラックドラゴンの皮は、ウィリディスが信頼してる職人に任せたいから出さないけどな」
「ははっ。その前に、加工できる職人がこの街にはいないよ」
そんな事を話しながら紅音の後をついて、この街で一番腕のいい職人がいる工房へと向かう。
街には何かを探している騎士があちこちにおり、住民が少し不安がっているようだ。まあ、彼らが捜しているのはオレと紅音なのだが。
ちなみに、2人ともコスプレして堂々と歩いていたりする。
オレの今日のコスプレは昨夜と違い、赤い髪で騎士っぽい格好をしている。
紅音が好きな乙女ゲーの攻略キャラらしくて、昔お願いされて作ったものだ。
紅音は、その乙女ゲーのライバルキャラのコスプレだ。ヒロインより、ライバルの方が好きらしい。
青寄りの紫色の髪を右側でまとめ、しっかりとした生地で作った服も髪と似たような色だ。
設定的には、良いトコのお嬢さんと護衛2人ってとこか?アスワドは目立つので、紅音の影に控えている。
「アカネちゃん、止まって。そこの工房だよ」
大通りから少し外れた路地の先、よく探さないと見つからないような所にその工房はあった。
看板は無いが、本当に工房らしい。中からは、何か作業をしているらしき音がする。
ウィリディスによれば、腕は確かだが紹介が無いと相手にもされないらしく、中級以上の冒険者達が好んで利用する工房の1つらしい。
ウィリディスが慣れた様子で中に入っていくので、後に付いて行く。
中は思ったより見やすく商品が陳列してあり、その商品にどんな効果が付与されいるのかとか、どういう条件でどういった効果が発動するとか細かく説明がついていた。
「いらっしゃいませ〜」
愛想よく出迎えてくれたのは、12・3歳位の栗色の髪の女の子だった。
「アハティちゃん、こんにちわ。ラズリーいる?」
「あ、ウィリディスさん!こんにちわ。ちょっと待ってて、すぐに呼んで来る!」
ウィリディスが声をかけると、彼女は奥に誰かを呼びに走って行った。
待つ間、オレと紅音は商品を色々見る事にした。
説明書きを見て思ったが、ここの工房主は下級の素材でも魔法の付与や素材の組み合わせで、攻撃力や防御力を上げる事が出来るようだ。
この世界における魔法の付与とは、魔法言語と呼ばれる文字を魔方陣にして書き込む事で付与する。
しかし、その魔方陣が意外と難しい。地球で言うプログラムの様な物で、精霊達にちゃんと意図が伝わる様に書き込まないと作動しないのだ。
精霊と呼ばれてはいるがそれはこの世界を管理する3柱の神の分身の様なもので、魔法言語とは神に語りかける言葉なのだ。テラリオルにはそう聞いたが、この世界の人達はこの事を知らない。
「お、お待たせしました」
しばらくして奥から出て来たのは、濃紺の髪を後ろで1つに束ねた内気そうな女性だった。
作業しやすそうな格好で頭にゴーグルを装備している事から、彼女がこの工房の主なのだろう。随分と若いな。
「久しぶりだね、ラズリー」
「は、はい、お久しぶりです。今日は、ど、どうされたんですか?」
「今日はね、彼らの防具を作ってもらおうと思って」
ウィリディスに手招きされて、オレと紅音も挨拶をする。
「わ、私は、ラズリーと言います。武器や防具の製造・加工をしています。よ、よろしくお願いします」
彼女もクァッド王子の支持者で、オレ達の事情もある程度知っていた。
ギルマスが話を通しておいてくれたそうだ。仕事早いな、あのおっさん。
「あたしはアハティ、ラズ姉の弟子なの!よろしくね!!」
最初に出迎えてくれた子も、元気いっぱいに自己紹介してくれた。
こちらも軽く自己紹介をし、商談用のテーブルに移動して本題に入る。
アハティは店番に戻って行ったが。
「今日は、オレと紅音に防具を作ってもらいたい。材料は、コボルトの毛皮と魔石だ」
鞄から毛皮数枚と数種類の属性の魔石を取り出しテーブルに並べると、ラズリーは手に取り品質を確認していく。
「あ、これも使っていいよ」
ウィリディスはそう言って、自分の鞄から何かの皮を取り出して毛皮の横に並べた。
ラズリーはその皮を手に取り、隅々まで確認していく。
「こ、これ、ダジェレザールの皮ですよね?こんなに状態の良い物、は、初めて見ました」
「ここに来る時に、たまたま狩ったやつだけどね。それ使えば、結構いい物出来るんじゃない?」
ダジェレザールと言うのはランクBの魔物で、素早くて賢く、爪に毒も持っている厄介な魔物だそうだ。
解体するにも技術がいる魔物で、市場に出れば同じランクBの魔物の素材よりいい値が付くらしい。
そんな素材を使っていいのかと問うと、ウィリディスはこれもらったからね〜、とローブを指差して笑った。
ありがたく使わせてもらおう。
「わ、わかりました。アカネさんには、動きやすくて可愛いローブを。イサオさんには、インナーとして着用出来る革鎧を作りましょう」
いいですか?と問われ、不満はないのでお願いした。
デザインはある程度決めて欲しいとの事だったので、紙にデザインを描いてあれこれ相談する。
結局、何通りかのデザインから、ラズリーの作りやすい物をアレンジして使ってもらう事にした。
サイズは事前にこちらの世界の単位に合わせた物を用意してきていたので、それを渡しておく。
ダンジョンから戻る頃には出来上がるとの事だったので、楽しみにしておこう。
その後は食料品を大量に買い込み、紅音の行きたがっていた雑貨屋等をまわって仮拠点のギルド宿泊施設へと戻った。
後は、明日の為にパーティーの登録と、中級ダンジョンの入場許可書をもらっておかないとな。
昨日、コミールス様と戦った人。
わたしと同じ世界から召喚された、勇者じゃない人。
話を聞いた時、少しだけ気になった。
同じ世界から来た人なら、ひょっとしたら知ってる人かもしれないっておもった。
「はぁ、まさかあの人だったなんて・・・」
昨日、初めて会ってすごく驚いた。
だって、元の世界で好きだった人だから。
また会えると、思っていなかったから。
彼はわたしの事を覚えていないみたいだったけど、それはそうだろう。
会ったのは数回、彼の働く執事喫茶でのみだったんだから。
初めて会ったのは、失恋した次の日。
友達と友達のお姉ちゃんに連れて行ってもらった執事喫茶で、わたしの目元が赤いのに気が付いた彼が慰めてくれたのが始まり。
『おや、そちらのお嬢様は何か悲しい事でも?目元がうっすら赤いですよ』
化粧で隠したつもりだったんだけど、彼には見抜かれてしまった。
友達も友達のお姉ちゃんも気づいていなかったのに、何で分かったのかいまだに分からない。
失恋した事を話したら、友達に謝られてしまった。
連れ出してくれた事に感謝してたんだけどな。
謝らないで、と友達に笑っていたら、無理に笑わなくていいって頭を撫でてくれたっけ。
『しかし、こんなに可愛らしいお嬢様を袖にするとは、その男は全く見る目がないですね。そんな男、お付き合いしなくて正解ですよ』
お世辞だろうけど、彼はそう言って慰めてくれた。
その後、ナイショだよって言ってケーキもサービスしてくれたんだよね。
その気遣いが嬉しくて、失恋の痛みが大分気にならなくなってた。不思議だよね。
その執事喫茶で皆で時間いっぱい話して、すごくスッキリした気分になれた。
帰りも、お土産って言ってクッキーをくれた。
「あのクッキー、すごくおいしかったなぁ」
彼の動作がさりげなさすぎて、全然嫌じゃなかった。
後日聞いたら、女の子が悲しんでる時は、慰めるのが紳士として当然とか冗談っぽく言ってた。
多分、そのあたりから少しづつ惹かれたんだと思う。
友達も、彼の事が気になるって言ってたもんね。
その後この世界に召喚されて、コミールス様に出会った。
コミールス様を好きになった事に後悔とかはないけど、あの人とはもう一度話がしたい。
なぜ、この国の為に戦ってくれないのか。
なぜ、レベルが低いはずなのにコミールス様に勝ったのか。
なぜ、勇者じゃないのに強いのか。
「最後に彼が使ったのは、銃だった。何でそんな物、もってたんだろ」
分からない事が多すぎる。
コミールス様に聞いても、分からないとしか答えてもらえないし。
誰に聞いても、ちゃんとした答えが返ってこない。
わたしも、あの人達を探しに行った方がいいのかな?
それとも、レベルを上げた方がいいのかな?
このままここに居たら、彼とは完全に敵対関係になっちゃうのかな?
ぐるぐる考えていたら、ドアがノックされる音が聞こえた。
「はーい」
ドアを開けると、コミールス様が立っていた。
いつもの自信に満ち溢れた表情じゃなく、憎悪に顔をゆがめている。
彼に負けた事が、相当許せないんだろう。
「サキ、すまないがレベル上げに付き合って欲しい。俺様は、どうしてもあいつに勝ちたい」
「…分かりました。どこに潜るんですか?」
こんなコミールス様は初めて見る。
どうなるかは分からないけど、今はコミールス様を信じよう。
…その結果が、どんなものでも。




