第19話
ギルドに着くと、すぐにギルマスの部屋に連れて行かれた。
部屋に入ると、ギルマスとクァッド王子が真剣に何かを話し合っている。
「がっはっは!やっぱり無事だったな、イサオ!」
「やっぱりってなんだよ…」
オレ達の姿を見たギルマスは豪快に笑い、クアッド王子は申し訳なさそうな顔でこちらを見た。
しかしオレの本当のレベルを知っているからか、ギルマスの何でもなかっただろ感がイラっとするわ。
促されるままソファに座り、情報の交換を開始する。
「まずは謝罪させて下さい。私の所為で、あなた方に危険が及んでしまった」
深く頭を下げ、謝罪の言葉を口にする王子。本当に真面目だな。
「気にしなくて良いですよ。悪いのは、この国の上層にいる人達ですから」
「その通り。その辺の情報もあるから、すり合わせしようぜ」
「そうですね。では、私の方からこれまでの状況を説明しましょう」
そう言って王子はどうして追われる事になったのか、詳しく説明してくれた。
オレ達がダンジョンに入った次の日にギルマスに渡していた招待状にあったパーティー、この国の上層に反意を持つ者達の集会があったそうだ。
王子はその反意を持つ者達、いわゆる反乱軍のリーダーなのだそうだ。
地道に反意を持つ者達を集め、国軍に対抗できるだけのかろうじて軍と呼べるような組織を作り上げた。
どういう訳かそれを国王に察知され、幹部が集まる集会場を包囲されたそうだ。
何とか秘密の抜け道から逃げてギルマスに匿ってもらった、という事らしい。
一応反乱軍の人達は逃げ延びて、再集結も完了しているとの事。
近々クーデターを起こそうかと考えているらしく、その相談をしていた所にオレ達が来たと。タイミングが良いんだか、悪いんだか。
「大変だったな」
「いや、君達程じゃないよ。ダンジョンを出て、すぐに拘束されるとは思わなかった」
「わたし達は、そこまで酷い扱いはされませんでしたので大丈夫ですよ」
やっぱりすまなさそうにしている王子に、紅音が優しく笑いかけている。
紅音がそう言った事で少し安心したのか、王子もようやく笑ってくれた。その顔がほんのり赤いのは、今回は見なかった事にしてやろう。
こちらの状況は逐一…ではないが報告していたので特に言う事は無いが、宰相の事だけは言っとかないとな。
「こっちからの報告は1つ。宰相がこちら側に付いた事だけだな」
「「!?」」
軽く報告してみたが、ギルマスも王子もすっごい目を見開いて驚いている。
まあそうだろうな、宰相は国王の腹心の様なポジションにいたし。
「イサオ殿、どうやってあのイスクロを説得したのですか?!」
「あいつ、嫁さんが難病で臥せってるのを国の治癒士を付けてやるとかで人質同然にされて、更に娘はコミールスのバカに無理やり側室にされたんだよ。加えて息子は直属部隊に持ってかれて、実質監視と拘束に近い状態。素直に従ってはいるが、本当は国王を殺したいほど憎んでるんだぜ」
あの日オレが宰相から聞いたのはそこら辺の事情で、無理やり従わされてるなら趣味に走らなきゃやってられないとか言いやがったから徹底的に調教してやった。悦んでたけど。
その時、彼らに特殊な魔法がかけられているのに気が付いた。
対象の位置を把握する魔法で、何者かに常にどこにいるか把握されている状態だったのだ。
本人達に確認すると国王が魔道具を使ってかけたらしく、少しでも不審な動きだと思われるとすぐに王の近衛兵が確認に来るらしい。
忌々しげに話す宰相に嫁と娘の救出と引き換えに、こちらに協力するように持ちかけたと言う訳だ。
オレのスキル≪魔法・魔術理解≫を使って彼らからその魔法を解除する事なく引き剥がす事で、彼らには信用してもらった。解除したらしたで、魔道具が反応するらしい。
引き剥がした魔法はダンジョンで大量に手に入れた無属性のコボルトの魔石に張り付けて、国王にばれない様に2人に渡しておいた。
こちらの保険としてオレ達に不利な事をすると分かる奴隷紋を刻みたいと言ったら、2人そろって『是非!』と言われたのは黙っておこう。
その辺の事情も保険の事は言わずに2人に伝えると、ちょっと呆れられた。
「お前は本当に、予想の斜め上を行ってくれるな。わしらも掴めなかった情報を、こうも簡単に掴んでくるとは…」
話終えると、ギルマスが天を仰いで片手で目元を覆っている。王子に至っては、口が開きっぱなしだ。
宰相の事情は、国王以外は数名の【スキア】と呼ばれる諜報部隊しか知らない事だったらしいから仕方ないかも。
「ガリーザ殿の言う通り、イサオ殿は規格外なのですねぇ」
我に返った王子は、半ば呆れている。ギルマス、王子に何を言ったんだよ。
軽く睨むと、ギルマスはバツが悪そうに視線をそらした。
隣でウィリディスが、可笑しそうに笑いをこらえてプルプルしている。紅音も一緒にプルプルしてるのが、何気に可愛い。
「で、これからどうするんだ?正直言って、あんたらに勝ち目は無いと思うぞ」
「なぜそう言い切れる?こちらは少数とはいえ、高レベルの冒険者がそろってるんだぞ」
不思議そうな顔でギルマスが聞いてくるが、この様子だとちゃんと情報収集出来ていないようだ。
国王は、中規模の私兵を隠し持っている。しかも国軍より練度が高く、レベルも高い。
更にレベルだけに頼らず技術も磨いているという、正真正銘の国王の切り札らしい。
その事を話すと、オレの情報収集能力はどうなっている!とギルマスに詰め寄られてしまった。
暑苦しいおっさんに詰め寄られるのは、勘弁願いたい。
情報収集能力については答えられないが、これは宰相経由の話なので信頼性は高いと伝える。
「そうですか…。時間はあまりありませんが、策を練り直す必要がありますね」
「レベルと練度の高い兵が控えているとなると、こちらもレベルを上げて鍛えねばなりませんな」
これ、オレ達もクーデターに参加する流れか?あんまり気が進まないなぁ。
「あ、言い忘れてたけど、国王にちょっとした深手を負わせておいた。治るのに時間がかかると思うから、少しだが時間に余裕が出来たはずだ。細工もしといたし」
何気なく言ったが、オレと紅音以外が固まってしまった。え?なに?
「父上に深手…?ありえない…」
え、何で?国王ってそんなに強いの?
「イサオ君、この国の国王ってレベルが200近くて、【堅牢重騎士】って珍しくてめちゃくちゃ堅い職業なんだけど…。傷付けたの?」
ウィリディスが、驚きと呆れを半々にしたような表情で確認してくる。
そういう事か。
防御特化の職業でレベルも高いとなると、そう簡単に傷は付けられんわな。
だけどオレのレベルを考えれば、別に不思議でも何でもないんじゃないか?
そんな感じで皆を驚かせつつ、夜が更けるまで今後について話し合いをした。結局、クーデターを手伝う羽目になってしまった。面倒な事になったなぁ。
日が沈み、酒場が賑わう時間帯。オレは約束通り、宰相の屋敷を訪ねていた。
「すまない、この屋敷の主人はいるか?」
屋敷の門を警備していた2人の兵に話かけ、宰相に取り次いでもらうようにお願いする。
追われているはずのオレが、堂々と宰相に会いに来れたのには訳がある。
「何者だ」
「黒の使いだと言ってもらえれば、ここの主人には伝わる」
門番は訝しみながらも、1人が確認の為に屋敷に戻って行く。
オレは今、背中に剣を2本差し、白髪のウィッグをかぶって要所要所に金属を使った皮鎧を身に着けた、傭兵風の格好をしている。
大好きなゲームのキャラのコスプレをして、堂々と来たのだ。
いやぁ、この世界はコスプレしてても違和感ないから、変装にはもってこいだな。
コスプレ衣装を《無限収納》に仕舞っといて正解だったよ。
「イスクロ様がお会いになるそうだ、ついて来い」
門番と一緒に来た別の兵について宰相の部屋まで行くと、中で座って待つよう言われたので大人しく待つ。
少し待つと、宰相が戻って来た。
「お待たせしました」
軽く挨拶をすると、人払いをする。
「さて、これでゆっくり話が出来ますね。彼の使いの方だそうですが、何か預かっていたりするのですか?」
「何だ、気付いてないのか。本人だよ」
ウィッグで髪の色を、カラコンで目の色を変えただけで分からなくなるもんなんだな。
「イサオ殿は、自在に髪と目の色を変えられるのですか?」
「いや、髪はカツラ。目はコンタクトっていうオレ達の世界にある、目に装着する薄い膜みたいなアイテムで色を変えてるんだ」
笑いながら説明すると、宰相は感心したようにオレの髪と目を見ている。
雑談も良いが、そろそろ本題に入るか。
「そういえば、国王はどうだった?結構いい所に当たっただろ」
「陛下は肩を負傷されて、治療を受けています。しばらくは治療に専念するでしょう」
まずは狙い通り、国王が直接指揮を執れないように出来たな。
あの魔力弾には仕込みをしといたから、後々必要になったら発動させるとしよう。どうせ、摘出されてないだろ。
「陛下は大変お怒りで、貴方達に執着してしまいましたよ。どうするんです?」
「そこは、仕方がないと思ってる。当分傷は治らないだろうから、その間はダンジョンに逃げる予定だ」
「分かりました。捜索隊は、適当にあちこち行かせましょう。で、クァッド王子とは合流できたのですか?」
ちゃんと合流し、クーデターの準備がある事まで教えておく。その最終段階で、ダンジョンに行く必要があるとも伝える。
「クァッド王子は上級ダンジョンでもう少しレベル上げした後、体制を整えて挙兵するつもりらしい。クーデターが始まったら、オレと紅音は遊撃でふらふらする予定だ」
「そうですか。ではこちらも色々準備をしておきますので、どうか妻と娘をお願いします」
「ああ。オレ達は中級ダンジョンを攻略する予定だから、攻略後に2人を救出するよ」
オレの言葉に、宰相は何も言わずに深く頭を下げた。
彼の妻と娘を救出した後は、冒険者ギルドに匿う予定だ。
ぬか喜びさせるのは申し訳ないので言わないが、テラリオルの許可が出ればアースフィリアの万能薬を提供するつもりでいる。
「連絡事項は、これ位か?」
「そうですね。ああ、コミールス王子が血眼になって貴方達を探していますよ。ダンジョンに入ったという情報を手に入れたら追いかけるでしょうから、一応覚えておいて下さい」
「うわ、面倒くせぇ。殺っちまっていいかな」
オレのセリフに宰相はイエスともノーとも答えず、困った顔をするだけだった。
その場の状況に応じて、って事か。
そうだ、勇者の事を聞いておかないといけないんだった。
「そう言えば、勇者2人は王家の人間から離せないのか?」
クーデターを起こすにしても、無理やり呼び出された同郷の人間を相手にするのは気が引ける。
「彼らを王家から引き離すのは、多分無理でしょう。男の勇者様は完全にツィアリダ姫に支配され、女の勇者様はコミールス王子以外の言葉に耳を貸しませんからね」
宰相はやれやれと言った感じで、大げさにため息をつく。だがその状況を考えると、仕方ないかもしれない。
どうするかなー。ま、いい歳だし自己責任でいいだろ。
“あの人”に頼めば、元の世界に帰してやれるんだろうけどしょうがないな。
「じゃあ、ほっとくか。でも、彼らの情報だけは逐次報告してくれ」
「了解しました。勇者の情報は、密かに集めておきましょう。こうなると、貴方が諜報部隊【スキア】を制圧してくださっていたのが役に立ちますね」
以前オレ達を監視していた奴に、オレを主人だと思い込む魔法をかけておいたのだ。
そいつを2重スパイの様に使い、オレ達に有利になるように情報の収集と操作をしていた。
たまたまそいつが諜報部隊の長だったというだけなのだが、運が良かった。
今は宰相に従うように言ってあるので、上手い事使ってくれるだろう。
「さて、そろそろ帰るか。今度からこの格好で来るから、よろしく」
「門番にはすぐにお通しするよう、伝えておきましょう。この後、すぐにダンジョンに行かれるんですか?」
「明日準備して、あさってには潜るつもりだ」
彼はそうですかと言った後、懐から小さなアイテムを取り出してこちらに差し出してきた。
良く見ると、それはカフスだった。
ミスリルで出来ており、繊細な細工が施されている。その細工が分かりにくいが魔法文字になっており、何かの効果が付与されていた。
「これは『聖者の守り』と呼ばれるもので、アンデットや悪魔の邪気から身を守ってくれます。ダンジョンで役にたつと思いますので、お持ちください」
「ありがたく使わせてもらおうかな。もう少しの辛抱だから、頑張ってくれよ」
そう言ってカフスを着け、オレは屋敷を後にしてギルドに戻った。
2019/2/20 色々とおかしかったので、大幅に改稿しました。




