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第18話

 オレとバカ王子の試合は、何故かこの国の上層貴族どもの娯楽になったようだ。

 昨日の今日でここまで準備するとか、この国の連中は暇人ばっかだな。

 奴らはオレがどのようにやられるかとか、どの位の時間持ちこたえるか等で賭けを行っている。

 バカ王子とのレベル差を見て、彼らの中でオレの負けは確定しているらしい。

 国王も例外ではないらしく、側近とバカ王子がどうやってオレを痛めつけるのか予想しあっている。

 国王の隣には王女が勇者と思われる青年と、談笑しながら試合の開始を待っていた。

 ひょっとしなくても、この国の要人が全てここに集まってないか?

 全部始末すれば、この国は救われるんじゃないかねぇ。ま、やらないけど。

 紅音と女勇者がそれぞれ控えの席に戻ると、審判席の様な1段高い所に宰相が現れた。

「お2人とも、準備はよろしいですか?」

 開始の合図は宰相がするらしく、剣を構えたオレ達に向かって確認する。

「もちろんだ」

 バカ王子が答え、オレは無言で頷く。

 この試合は、相手を殺さなければ何でもアリで、どちらかの戦闘不能または降参で決着がつく。

 魔法の鞄(マジックバッグ)を持ち込めば、アイテムも使い放題と言う訳だ。

 現に、バカ王子の腰にはいつもは無いウエストポーチが付いている。

 『いたぶってやる』と言う宣言から、それ用のアイテムが入っているんだろう。

 しかしオレのレベルとスキルは偽装だから問題は無いが、本来ならレベルとスキル構成が知られた時点でアウトなんだよな。

 今回は、それを逆手に取って遊んでやろう。

「試合開始!」

 開始の合図と共に、バカ王子が斬り掛かって来た。

 慌てず冷静に、剣に氷の魔法を(まと)わせて滑らせるように逸らす。

 逸らして体制を崩した横っ腹に、軽く蹴りを入れてやるとカエルが潰れたような声を出して吹っ飛んで行った。

 今日はステータスを半分位にしか抑えていないので、思いっきりやったらグロテスクな事になってしまう。

 力加減に気を付けないとと思いながら、氷の魔法をバカ王子に叩き込む。

 何とか起き上がっていたバカ王子は、ウエストポーチからアイテムを出して防いでいた。

「…お前のレベルは39だったはずだ」

 魔法を防ぎ切ったバカ王子が、唸るようにオレのレベルを確認してくる。

 やっぱり、バカ王子はオレのステータスを知っている様だ。

 ステータスからどの位の攻撃が来るとか、色々予想していたのだろう。

 しかし、この世界の人間はレベルで強さを判断しすぎだと思う。

 元の世界の経験とか訓練の有無、そういう事を加味しなさすぎると思う。

「お前らは、レベルで物事を判断しすぎだ。オレと他の勇者達とでは、地力が違うんだよ」

「どういう事だ」

 何でそんなに不思議そうな顔をするのか。少しは自分で考えろよ。

 教えてやる義理もないので、不敵に笑っておく。

「チッ」

 バカ王子は舌打ちすると、ウエストポーチから魔石を数個取り出し魔力を流してこちらへ投げつけて来た。

 オレは反射的に、その魔石を斬り捨ててしまった。

 それを見たバカ王子がにやりと笑うのが見え、しまったと思った瞬間に魔石が爆発を起こした。

 咄嗟に魔力障壁を張るが、爆発後に噴出した炎に包まれてしまう。ダメージはほぼないが、熱い。

「ははははは!炎属性の魔石を壊すとどうなるか、そんな事も知らないとはな。俺様に逆らい、あれこれ言った事を後悔してあの世へ逝くがいい!!」

 この程度の爆発と炎でオレが死んだと思っているのか、バカ王子が勝ち誇って何か叫んでいる。

 まあ炎にまかれたら大概の人間は死ぬだろうけど、生憎オレは普通じゃない。

 少し多めに魔力を放出し、炎を氷に変えていく。

 魔石から放たれた炎は魔法に分類されるので、魔力操作と魔力制御が高レベルで出来れば魔法を書き換える事は難しくない。

「な、なぜ生きている!なぜ炎が氷になるんだ!」

 この国には高レベルの魔術師はいないのか、単に見たことが無いだけなのか反対属性に変化する現象を見て、バカ王子が混乱しまくっている。

 周りもざわついている事から、緻密(ちみつ)な魔力操作と制御が出来る奴はいないようだ。

 そうなるとこれが出来ると知られた事で、オレに利用価値が出来てしまった。今日、ここを出ると決めていて良かった。

 ちらりと国王の方を見ると、こちらを見る目が興味深げな物に変わっている。

 やっぱり興味を引いてしまったようだ。

 それなら、もう遠慮はしなくて良いだろう。予定通り、バカ王子をボコります!

「何をしたんだ!答えろ!」

 まだわめいているバカ王子に、剣を鞘に納めてゆっくり近づきスキル≪手加減≫を発動させてから右ストレート。

 混乱したまま状況が判断出来ないバカ王子は、抵抗もせず殴られてくれた。

 そのまま連打し、最後に回し蹴りでもう一度吹き飛ばす。

 全てが綺麗に決まったのでこちらとしてはスッキリで気持ちがいいが、殴られた本人と観客は唖然としている。

「覚悟しろよバカ王子、まだ終わりじゃねぇぞ」

 吹き飛ばしたバカ王子に近づきながら、見ていた紅音曰くすごい悪人顔で笑って指をパキポキとならす。

 倒れて固まっているバカ王子の胸ぐらを掴んで強制的に立たせ、ボディに膝をくれてやった。

「ぐっ…」

 呻いて崩れ落ちるバカ王子。正直もう少しやってくれると期待していただけに、あっけなくてがっかりする。

「レベル100以上だって聞いてたが、案外弱いんだな。もう少し、頭を使って戦ったらどうなんだ?」

「く、くそっ。いい気になるなよ…」

 バカ王子はよろよろと立ちあがると、ウエストポーチから新しい剣を取り出してかまえた。

 ここまで挑発すれば、ちゃんと相手をしてくれるだろう。

 オレも剣を構え余裕の笑みを浮かべ、さらに挑発するように手のひらを上に向けて手招きをする。

 散々やられて幾分か冷静になったのか、バカ王子はもう突っ込んでこない。

《剣技 2段疾風斬り!》

 バカ王子が叫んで剣を十字に振ると、振られた軌道に風の刃が生まれこちらに襲い掛かって来る。

 オレは風を剣に(まと)わせると、真向から放たれた風の刃を叩き斬った。

《剣技 疾風突き!!》

 風の刃の後ろから突っ込んで来ていたバカ王子が、気合と共にスキルを発動する。

 素早い突きを何回も繰り出すスキルの様で、間一髪で初撃を避けて連撃をいなす。ちょっと危なかった。

《魔法剣 炎龍の宴》

 お返しに、炎の魔法剣をお見舞いする。

 オレが剣を一振りすると5匹の炎の龍がバカ王子の周りを取り囲み、次々に体当たりと噛みつきを仕掛ける。

 この《魔法剣 炎龍の宴》は中級の魔法剣で、炎の龍が敵を取り囲み次々に攻撃を仕掛けるものだ。術者のレベル次第で龍の数を増やす事が出来るので、殲滅戦(せんめつせん)や、強敵の足止めなどにも効果が高い。

 バカ王子は炎の龍の攻撃をかわすのがやっとの様だが、この炎の龍は倒さないと消えないという特徴がある。

 気づくのが先か、力尽きるのが先か…ま、その内あのお嬢さんが助けに入るだろ。

 この隙にここから逃げるか。

「紅音!」

 オレの呼びかけに、何を意味するか理解した紅音がアスワドを連れて駆け寄ってくる。

 その後ろを、ギュスターと警備の騎士が追いかけてくる。

 ちらりとバカ王子の方を見れば、こちらの異変を察知した女勇者が助けに入る所だった。

 紅音と合流し、ギュスター達と対峙する。

「イサオ殿!何をしているのですか!!」

 そう言いながら斬りかかってくるギュスターの剣を正面から受け止め、鍔迫(つばぜ)()いの状態で対峙する。

「クァッド様と合流するのですね。西門の警備が手薄です、そちらから抜けてください」

「助かる。イスクロにもよろしく言っといてくれ、夜にはそっちに顔を出すから」

 力が拮抗しているかのように見せかけ、オレ達は小声で会話する。

「了解です。ご武運を」

「サンキュー。じゃあ、蹴るから吹っ飛ばされたふりして離れてくれ。もう一発炎龍を放つ」

「分かりました」

 話が終わると打ち合わせ通りに、鍔迫(つばぜ)()いの状態から剣を弾いてギュスターの体制を崩し、軽く蹴り飛ばした。

 いい感じにギュスターが離れたので、もう1発《炎龍の宴》を放った。今度は足止めの目的もあるので、10体程炎の龍を出現させる。

「紅音、アスワドを元の大きさに戻しとけ。このまま逃げるぞ!」

「うん!」

 紅音が頷いてアスワドを元に戻すと、その姿を見た観客達が騒ぎ出した。やはり、グーロは恐れられているようだな。

 だが国王だけは目の色を変えてこちらを見、周りに何やら指示を出している。多分オレ達を捕えろとか、そんなところだろう。

 最後に、置き土産でも置いていくか。

 《無限収納》からスナイパーライフルを取り出し、狙いを定める。

「紅音、少し持ちこたえてくれ」

「オッケー、あいつに一泡吹かせてやって!」

 オレのやろうとしている事が分かったのか、アスワドが後ろににらみを利かせ、紅音はオレを守るように鞭を構えた。

 オレは口端だけで笑うと、迷わずに引き金を引く。弾丸は狙い違わず、国王の右肩を撃ち抜いた。

 痛みで崩れ落ちて行く国王をスコープ越しに見て、少し胸がすっとする。

「兄さん、ナイスショット!」

「行くぞ。紅音、アスワド」

 よっぽどストレスが溜まっていたのか、すごくいい笑顔で紅音が褒めてくれた。

 そのまま西門に向って走り出す。

 この城のマップは、クァッド王子に何が起こってもいいようにと教えてもらっている。

 向かってくる騎士や衛兵をけちらし西門前の広場へと辿りつくと、“ヒポグリフ”と呼ばれる魔物が2匹待ち構えていた。

「逃がさんぞ!やれ、お前達」

『があ!(ダメ!)』

 城のお抱えテイマー達のテイムモンスターらしく命令通り襲ってくるが、アスワドの爪で翼と左目に傷を負い下がっていく。

 ヒポグリフはランクBの魔物だが、流石にランクSのアスワドには敵わないらしい。

 一撃を食らって、完全に戦意喪失してしまっていた。

 こいつらの相手をゆっくりしている暇はないので、紅音をかばう様にしながら門まで走る。

 テイマーの一人が動かないヒポグリフを捨て置き、もう1体のモンスターで攻撃をしてきた。

「紅音、お前はそのまま走り抜けろ。外でウィリディスが待ってるはずだ」

「兄さんはどうするの!?」

「あいつを倒してから、合流する」

 攻撃をしてきたのは“ブラッドファングボア”と呼ばれるランクAの魔物だ。

 イノシシの様な見た目の、非常に凶暴な魔物らしい。テイマーの指示に従って、こちらに突進してくる。

 オレは懐からM9を取り出すと、ブラッドファングボアの脚を狙って撃ち動きを止めた。

 知らない奴のテイムモンスターでも、なるべく殺したくはない。

 過剰放出した魔力で魔物とテイマー達を威圧し、完全に動けない様にしてしまう。

「これ以上攻撃してくるなら、オレはもう遠慮しない。このまま行かせてくれるなら何もしないが、どうする?」

 オレの問いかけに、威圧を受けた彼らはそろって両手を上げた。このまま行かせてくれるらしい。

 そのまま西門を抜け待ち合わせの場所まで行くと、紅音がウィリディスと一緒に待っていた。

「あ、イサオ君!」

 ウィリディスはオレを見つけると、嬉しそうに手を振ってくれる。

 紅音も満面の笑みで迎えてくれた。

「良かった〜。じゃあ、ギルドに行こう」

「ああ。待たせて悪かったな」

 やっと自由になれた。これで、何に縛られる事もなく動けるぞ。

 最低限の偽装は必要になるが、それでも今までの様に細かい調整が必要なくなる事の方がうれしい。地味に面倒なんだよな、ステータス作り変えるの。

 さあ、ギルドに行って、報告と今後の相談をするか。




「あ奴ら、やはり色々と隠しておったわ。しかも、見知らぬ武器でわしに手傷を負わせよった!許せぬ!!何としても捕え、わしの前に連れてくるのだ!!」

 撃ち抜かれた肩の処置を受けながら、国王が怒鳴り散らしていた。

 その剣幕に、周りの者は怒りの矛先が自分に向かないかとビクビクしている。

「承知いたしました。すぐに捜索隊を組み、王都をしらみつぶしに探します。しばしお待ちください」

「全てそなたに任せる故、必ずあの兄妹を連れて来い。でなければ、どうなるか分かっているな?」

 宰相の言葉に、脅しで答える国王。

 宰相は慣れているのか表情も変えず、一礼して部屋から出て行った。

 その後、治療が終わり医師達も退出すると、国王は痛む肩を抑えながら寝台に横になった。

「あの力、あの武器、そしてグーロの希少種。必ずわしの物にしてやる…」

 そう呟きながら、投与された痛み止めと睡眠剤の効果で回復の為の眠りにつくのだった。

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