第17話
今回の話には、BL要素が含まれています。
苦手な方は、ご注意ください。
取り調べとやらの為に連れて来られた部屋で待っていたのは、神経質そうな男だった。
オレの取り調べは第1王女かと思ってたんだが、どうやら違ったらしい。
初対面のその男はオレがソファーに座ったのを確認すると、何枚もの書類を持って向かい側に座った。
何故か、オレを連れてきたギュスターがそのまま部屋に残っている。
しかも、部屋にはその2人とオレしかいない。
「はじめまして、イサオ殿。私はこの国で宰相を務めさせていただいております、イスクロ・アトカースと申します」
意外と丁寧に自己紹介をされて少し驚いたが、それより驚いたのは男の家名だった。
オレの記憶に間違いがなければ、入り口で控えているギュスターの家名も“アトカース”だったはずだ。
オレの表情に気が付いた宰相が、笑って親子ですよと言った。
「さっそくいくつか質問をさせて頂きますので、正直に答えてください」
思ったより穏やかに、取り調べが始まった。
これなら、早く終わりそうだ。
「現在、君には反逆の疑いがかけられていますが、心当たりは?」
「まったく無いね。オレ達は言われた通りに、レベルとやらを上げていただけだ」
オレが答える間、宰相はじっとオレを見つめていた。
多分嘘を見破る、何かしらのスキルを持っているのだろう。
隠ぺいの魔法はかかっているが、慎重に答えるに越したことはないだろう。
「君達兄妹の職業が“勇者”でない理由を、知っていれば教えて欲しい」
「最初にも聞かれたが、オレ達に分かるわけがない」
余計な事を喋らない様に、慎重に言葉を選ぶ。
だが、それに気づかれない様にしないとな。
「君の妹さんのステータスだが、テイムしたのが黒猫となっていた。これに間違いはないかい?」
「ああ。オレも最初はびっくりしたが、アスワドは魔法が使えるただの猫だよ」
こっちでも聞かれるとは…裏どりみたいなもんか?
答えは変わらないけどな。
「君達を召喚したその夜、勇者召喚の魔方陣が使えない様に書き換えられていた。それに心当たりは?」
「あるわけないだろ?逆に、何でそんな事オレに聞くんだよ」
少し呆れたように言い放ったが、一瞬驚いた。
証拠は残していないはずなんだが、どうやってオレと魔法陣の件を結びつけたんだろう。
この宰相、思ったより曲者かもしれん。
「ふむ。ステータスの鑑定をするので、この水晶に手を」
言われた通りに、水晶に手を翳す。
現れるのは、オレが作った偽造ステータスだ。
【黒霧 勲 25歳】
Lv.39 魔法剣士
体力:C
魔法力:B
攻撃力:B
防御力:D
魔法防御力:C
素早さ:D
魔力:C
器用さ:D
魅力:A
「ほう、思ったよりレベルが上がっていますね。次はスキルです。変に疑われたくないのなら、素直に鑑定に応じなさい」
くそっ、オレが反論する事も見越して言ってくるな。
確かに疑われるのは得策ではないので、渋々鑑定を受ける。
…宰相が楽しそうに見えるのは、オレの気のせいか?
【黒霧 勲 25歳】
≪スキル≫
・剣術
・気配察知
・魔力操作
・身体強化
・魔法剣(下級)
ちゃんと偽装したスキル一覧が表示されて、内心ほっとしている。
「最後は称号ですね」
称号まで見るのかよ。徹底していやがる。
一応偽装してあるけど、称号はある物しか使えないから難しいんだよな。変に思われなきゃいいけど。
オレはそう思いながら、最後の水晶に手を翳した。
【黒霧 勲 25歳】
『称号』
・最強のシスコン
・異世界より招かれし者
・ダンジョン踏破者
・?????
最後の奴、外れなかったんだよなぁ。仕方ないから、伏字にしといた。
「最後のは何ですか?」
「さあね。オレにもわからん」
案の定聞かれたから、さらっと流しておく。
全ての結果を紙に書き写し、宰相は一旦水晶を片付ける。
宰相は、最後の書類を見てため息をついた。
「明日、コミールス殿下と勝負をするそうですが、勝算はあるのですか?ステータスとスキルを見る限り、君が殿下に勝てる可能性はありませんよ」
「…何が言いたい」
「私なら、良いようにとりなしてあげられます」
にやりと、面白がりつつ何かを企んでいる顔で宰相が笑う。
この状況を使って、自分に有利な条件で何かを交渉する気か。
黙っていると、宰相は小瓶をオレの前にコトリと置いた。薄紫の液体が入っている。
「その小瓶の中身を飲み干して私の言う事を聞くのなら、殿下と妹さんの事は私が責任を持って何とかしましょう。さあ、どうしますか?」
その小瓶を鑑定して、眉間に皺が寄るのを抑えられなかった。
宰相はそれを悩んでいると勘違いしてくれたようで、楽しそうに微笑んでいる。
オレは部屋にこっそり防音結界、耐物理・魔法結界、隔絶結界の3つを張ると、上着に隠していたかの様に見せて《無限収納》から銃を取り出して立ち上がった。
宰相も、ギュスターも、それが何か分からずに対処が遅れる。
オレは迷わず、引き金を引いた。
今回取り出したのは、「ベレッタM9」と呼ばれる銃だ。アメリカ軍を筆頭に幅広く使われている銃で、オレのお気に入りの1つでもある。
オレのは消音処理と非殺処理を施してあり、生け捕り目的で良く使った物だ。
パシュン、と小さな音がして、打ち出された弾が宰相の右太腿を打ち抜いた。
「「!!」」
ギュスターが剣を抜き斬りかかって来るが、即座にその場から飛びのく。
ギュスターの剣は、ソファーを真っ二つに切り裂いた。
その隙に、ギュスターの右手を撃つ。狙い通り右手を打ち抜き、剣の柄も破壊できた。
「何をするんですか!これで反逆確定ですよ!」
痛みに耐えながら、それでもオレに向かって宰相が叫ぶ。
回復魔法が使えるのか、太腿を抑えた手が淡く光っていた。ギュスターも同様に、右手を抑えている。
だが止血位しかできない様で、完全に治す事は出来ないらしい。
「オレはバカ王子に負ける気もないし、あんたらの人形になる気もない。あんたらは、オレを侮り過ぎだ」
2人に銃を向けたまま、オレはため息をつく。
「先に召喚された2人に話を聞いてたんだろうが、オレはそいつらとは違って戦闘経験者でね。平和な世界から来たから戦えない、なんて決めつけは良くないぜ」
宰相たちは何も言えないようで、忌々しげに睨みつけてくる。
「お前は何を考えている!?このまま、ここから逃げられるとでも思っているのか?」
「逃げる気なんてねぇよ。明日、バカ王子をボコらなきゃならんしな」
ギュスターが叫ぶが、何言ってんの?的に返す。
バカ王子ボコるのは、確定事項だからな。
「では、どうするつもりなのです?その内、この部屋の異変に気づいて誰か来ますよ」
「それは無いね。周りに兵士の気配も、使用人の気配もないからな。大方人払いでもしてあるんだろ?」
図星だったのか、宰相が目を見開き悔しそうにしている。
結界も張ってあるし、誰もこの部屋に入る事は出来ない。
3つの内の1つ、隔絶の結界は、文字通りこの部屋を他から切り離してつながりを絶っている。
つまり、この部屋は完全に密室で、オレの許可が無ければ出入りが出来ない状態にある。
さあ、どうしようか。そう思った時に、未だ机に置かれた小瓶が目に入った。
良い事思いついた。
「よし、おまえらその小瓶の中身を半分づつ飲め」
「「なっ」」
あ、ギュスターも中身が何か知ってるのか。じゃあ、同罪だな。
中身を知ってるだけあって、2人ともなかなか飲もうとしない。さっさと飲めよ。
とりあえず、2人の態度でこの後どうするか決めたので、遠慮なく動く事にした。
魔力で2人を拘束し、ギュスターが斬って粗大ごみになったソファーを蹴って部屋の隅に押しやる。
小瓶を手に取り机も蹴飛ばし、2人に半分づつ無理やり飲ませてしばらく放置してみた。
その間、唯一残ったソファーでくつろがせてもらう。
「…ぁ…」
「くぅ…」
よし、効いてきたみたいだな。
小瓶の中身は、強力な媚薬だった。こいつらの目的は、オレの体だったと言う訳だ。
正直オレは男女どっちでもイケるが、タチ専なので勘弁して欲しい。
さて、こいつらはどうやって調教しよう。あんまり時間かけられないしな。
ちゃちゃっと済ませるか。
数時間後、オレは何もなかったように紅音の待つ部屋に戻って来た。
「明日はコミールス殿下との決闘だから、準備をしておくように」
「はいよ。ごくろーさん」
ギュスターに軽く挨拶して別れると、ベッドにダイブした。
ああ、疲れた。
「お疲れ様。兄さん、あの人に何かしたの?」
「…何でそう思うんだ?」
「今までと態度が違うもん。わたしの時は、もっと冷たかった」
流石に鋭いな。
しょうがないので取り調べで何があったのか軽く話すと、思った通り喰い付いてきた。
「詳しく!そこの所を、もっと詳しく!!」
くっ、この腐女子め。兄が襲われそうになったのに、嬉々として聞くんじゃない!
軽く話した意味がないじゃないか。
…結局、オレは妹にとことん甘いので全て話す羽目になりました。
「じゃあ、宰相さんもギュスターさんも、兄さんの奴隷って事?」
「まあな」
あの後ちゃんと調教して、2人に奴隷印を刻んできた。
Sっぽく見せて、2人ともMだったもんなぁ。楽な調教でした。はい。
能力に関しての疑問とかもあっただろうけど、快楽の前に消え去ったようだ。
これで強力な味方が出来た訳だが、この手が後でどう響くかちゃんと考える必要があるな。
まあいいや。明日の決闘の事もあるし、今日はさっさと寝てしまおう。
次の日、目を覚ますとアスワドが胸の上に乗っていた。
子猫サイズだから重くはないが、動けないので腕だけ出してアスワドを撫でる。
相変わらず、もふもふでふわふわの肌触りだ。
『お兄チャン、おはよー』
「おはよう。どいてくれるか?起き上がりたい」
『はーい』
アスワドにどいてもらって起き上がると、紅音がメイドから朝食を受け取っている所だった。
少し寝過ぎたようだ。
ベッドから出て着替え、用意された水で顔を洗う。
今日はバカ王子をボコす日なので、インナーを防御力の高い物に変えておく。
「兄さん、おはよう。朝食の準備出来たよ」
「おはよう、紅音。いつも準備させて悪いな」
「本当は、自分で作りたいんだけどね」
そんな事を話しながら朝食をとり、いつ呼ばれても良いように装備の点検をする。
今日使用するのは鋼の剣に見せかけたミスリルの剣と、昨日も使用した「ベレッタM9」だ。
紅音によれば、バカ王子のレベルは100以上。少し期待してしまう。
いい試合になればいいんだが。
そんな事を考えていると、宰相が直々に呼びに来た。
「イサオ殿、アカネ殿、おはようございます。決闘の準備が整いましたので、闘技場までご案内いたします」
何か、期待に満ちた目でこっち見てるな。やめろ、ちゃんと隠せ。
軽く睨んでおくが、ご褒美になってしまったようだ。
闘技場まで移動すると、既にバカ王子が待っていた。
「遅かったな。俺様に恐れをなして、逃げ出したのかと思ったぞ」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら、お決まりの様なセリフを言っている。
特に興味もなく、後ろに控えている女の子を見た。
彼女が、最初に召喚された勇者か。申し訳ないが、見るからにチョロそうな子だ。
彼女はこちらをみて、何故か驚いている。
どっかで会った事あるっけ?記憶にないんだが…
「兄さん、彼女に会った事あるの?何か驚いてるけど」
「いや、記憶にない」
正直に答えるが、紅音は不思議そうな顔をしている。
いや、本当に知らんって。
その後、オレとバカ王子を残して全員観覧席へと移動した。
「身の程知らずが、存分にいたぶってやるから覚悟しろよ」
「はいはい。御託は良いからかかってきな」
王子は、軽い挑発ですでに頭に血が上ったようだ。
瞬間湯沸かし器みたいだ、と思いながら剣を構え開始の合図を待つ。
「2人とも、良い勝負を期待しているぞ」
何故か、国王が見に来ている。
闘技場全体が良く見える特等席から、こちらに言葉をかけて来た。
観客も多く、そのほとんどが国の上層を占める貴族らしい。
ここに来るまでに、宰相から教えてもらった。
だから、本当にこの勝負が終わったら速攻でこの城を出るつもりだ。
紅音にも伝えてある。
ウィリディスにも城の近くで待機するように連絡したし、最悪オレの全能力を使って逃げる。
その前に徹底的にボコってやるから、お前が覚悟しろよバカ王子!!
 




