第16話
あけましておめでとうございます。
遅くなりましたが、今年初めての更新です。
今年もゆっくり更新になると思いますが、よろしくお願いします。
「これより、お前達の取り調べを行う。アカネ・クロキリから、別室に来てもらおう」
拘束されて2日経った朝、相変わらず眉間にしわを寄せた国王直属部隊のギュスターが来ていきなりそう言い放った。
時間はあったので、別々になっても良いように準備はしてある。
紅音には、どうしてもダメなら実力行使に出ても良いと言ってあるから大丈夫だろう。
「行ってくるね、兄さん」
『ナァオ(行ってきまーす)』
何でもないように言って、紅音はギュスターについていく。
心配だが行かせるしかないので、オレは無言で見送った。
わたし達を捕まえた人に連れられて少し離れた部屋に行くと、待っていたのは第1王子だった。
隣には、日本人と思われる女の子が座っている。
多分、彼女がわたし達の前に召喚された、兄さんの言う所の職業・勇者なのだろう。
第1王子に落とされたというのは、本当みたい。王子を見る目がハートだわ。
「さて、アカネよ。お前には反逆の疑いがかけられているが、心当たりはあるか?」
「ないですけど」
即答する。
知らない罪を問われても、知らないとしか言えないよね。
「そうか」
「疑われるような事はしてないので、なぜこんな事になってるのか理解出来ません」
ステータス偽造の事は棚の上にポイして、しれっと言っておく。
クァッド王子が提出したステータスについては知らないけど、多分アスワドの種族は改ざんされているんだと思う。
「クァッドから提出されたステータス表に、疑わしい点がある。テイムしたのがただの黒猫というのは、納得がいかないんだよ」
やっぱり、アスワドの事かぁ。
じゃあ、用意しといた言い訳でもしますか。
「黒猫ですよ?ちょっと魔法が使えるだけの、可愛いにゃんこです。ねー、アスワド?」
『にゃ〜(ねー)』
アスワドと顔を見合わせて、打ち合わせ通りに笑い合う。
はぁ、可愛い。可愛いからいっぱい撫でちゃう。
変に思われない様に手入れが最小限しか出来てないから、ふわふわ感が減って来てるなぁ。
「魔法が使える黒猫?どういう事だ。そんなの、聞いたことがないぞ」
おお、良い感じに混乱してるね。
兄さんが回数制限有りでアスワドが魔法を使える様にしてくれて、新種の猫だって言い張れって言われたんだよね。
しかも、生活魔法のみで利用価値を見出せない筈だって言ってた。
流石兄さん、そういう事に良く気がつくよねー。
しかも、この仕様にもちょっとした意図があるとか言ってたし。
「では、その猫はどんな魔法が使えるんだ?全て答えろ」
「別に珍しい魔法じゃないですよ。辺りを照らす光の球をだしたり、焚き火の火種に出来そうな小さな火が出せるとか、キレイな飲み水が作れるとかそんな感じです」
あ、王子が絶句した。
多分、思ってた魔法と違ったんだろうね〜。間抜け面ウケるわぁ。
「あ、あの!その猫ちゃん、触らせてもらえませんか?」
固まった王子の代わりに、隣の女の子が話しかけて来る。アスワドに触りたいんだって。
アスワドに問う様に視線を向けると、ちゃんと答えが帰って来た。
『にゃん!(ヤダ!)』
あらら、彼女に触られるのは嫌なのか。
アスワドは彼女に視線を向けると、威嚇する様に唸り始めてしまった。
「うーん、貴女に触られるのは嫌みたい。ごめんなさい」
「そんな…」
彼女も猫派なのかな、地味にショックを受けてるみたい。
彼女の気持ちも分かるけど、アスワドが嫌だって言うのだから仕方がないよね。うん。
でもステータスに納得がいかないってだけで反逆の疑いかけるとか、正直ありえないと思うんだよね。絶対これ、裏あるでしょ。
多分、クァッド王子が反乱とか考えてたんじゃないかな。相当、国のやり方に怒ってたし。
で、担当のわたし達も…って感じがする。
疑いかけておいて、取引とかで国に縛って少しでも戦力にしたいって事かな。使い捨ての駒として、とかね。
兄さんは第1王子がわたしを狙ってるとか言ってたけど、目の前の彼女の様に落として自分の良いようにしようとか考えてるなら、鼻で笑っちゃう。
「あ、そうだ。自己紹介がまだでした」
そんな事を考えているわたしに構わず、彼女はのんきに自己紹介をしだした。自由だね、君。
「わたしは、今井早姫と言います。この世界に召喚されたのは1年半前で、職業は勇者と戦乙女の2つです。この間、レベルが86になりました」
「おいサキ、勝手にレベルまで明かすんじゃない」
彼女の自己紹介に、固まってた王子が正気に戻った。
「あ!ごめんなさい、コミールス様」
「まあ良い、今からアカネにも鑑定を受けてもらう。ダンジョンでどれだけレベルが上がったのか、見せてもらおう」
「わたしの担当はクァッド王子では?」
何の権限があって、勝手に鑑定するとか言い出したんだこのバカ王子。
何となく分かるけど、分からないふりして聞いてみる。この手の人種って、情報を勝手にしゃべってくれるイメージがあるんだけど…どうかな?
「クァッドは今、反逆罪で手配中だ。だからお前達にも疑いが掛かっていて、お前の事は俺様が任されたんだよ。黙って命令を聞いてれば、疑いなどすぐに晴れるぞ」
…やっぱりそういう感じなんだ。
仕方ないから、今は言う事を聞いておこう。
「分かりました、鑑定を受けます」
「分かればいいんだよ」
王子は勝ち誇った顔でニヤニヤ笑っている、無性に殴りたい。
アスワドも、唸り声をあげている。
怒りを抑えている間に、鑑定の準備が整った。言われるがままに、鑑定用の水晶に手を翳す。
【黒霧 紅音 20歳】
Lv.36 テイマー
体力:D
魔法力:C
攻撃力:D
防御力:D
魔法防御力:C
素早さ:C
魔力:C
器用さ:C
魅力:A
テイム枠:2 残 1
従魔:アスワド(黒猫)
表示されたのは、兄さんが作ってくれた偽装用のステータスだ。
ちゃんと、ダンジョンに行く前よりレベルが上がっていた。
王子も彼女も、じっくりわたしのステータスを見ている。
「思ったより、レベルが上がっていないな」
「うわ〜、魅力の値がAだ。そうだよね、すっごい美人だもんね…」
2人が何か言っているが、無視して黙っておく。
その間に水晶を持って来た人が、2枚の紙にわたしのステータスを書き写している。
もう1人、違う水晶を持った人が部屋に入って来た。
「よし、次はスキルの鑑定を受けろ。もちろん、拒否しないよな?」
「…」
スキルまで鑑定されるのか…ま、わたしが反抗しても抑えられるようにだろうね。
一応、兄さんが偽装してくれてるらしいけど、大丈夫かな。
でも、断れないからしょうがない。覚悟を決めて、水晶に手を翳す。
【黒霧 紅音 20歳】
≪スキル≫
・鞭術
・テイム
・魅了
・回復魔法(下級)
・補助魔法(下級)
良かった、ちゃんと偽装用のスキルが表示されてる。
わたしのスキルは下手に戦える事がばれない様に、完全に回復・補助の構成にしてあるって兄さんが言ってたっけ。
テイマーはテイムした魔物に戦闘を任せるのが基本だから、補助とかを覚えやすいってグラーサさんが言ってたしね。
まあ、同じテイマーでも個人差はあるとも言ってたけど。
「支援特化の方なんですね」
「テイマーだからな、そんなもんだろ」
王子の言い方が、いちいちムカつく…。
本人にその気はないんだろうけど、ナチュラルに見下されてるよ。
勇者サマは、俺様王子が好みだったんだろうか。ちょっとだけ、気になる。
ちなみに、わたしは全くときめかないです。強い男の人は好きだけどね。
「コミールス様、彼女は連れて行くんですか?」
「ああ。サキは不満だろうが、俺様の1番はお前しかいない。悪いが、理解してくれ」
急に意味不明なやり取りがされて、一瞬頭が?で埋め尽くされる。
「アカネ、お前には俺様の後宮に部屋を移してもらう。側室としてな」
「は?何で、わたしがあんたの側室にならなきゃいけないのよ」
いかん。あまりの事に、思いっ切り素で反応しちゃった。
大人しくいう事を聞くとでも思っていたのか、王子がびっくりしている。
勇者サマも、わたしが言い返すとは思わなかったみたい。
でも、仕方ないと思う訳よ。
何で、好きでもない男の所へ行かなきゃいけないのよ。しかも、暗に2番目以下だって言われた後に。
「…俺様の所に来るのを、なぜ拒否する」
「当たり前でしょ。興味もない男の所なんて、行きたいわけないじゃない」
「コミールス様に失礼です!」
おい王子、拒否られる意味が分からんって顔するな。
勇者サマは、恋する乙女フィルターを外せ。
めんどくさい事になったなぁ。
「俺様に興味がない、だと?どうしてだ!!」
「…日本でも言ってた事だけど、わたしは兄さんより弱い男に興味はないのよ」
これは本当。
まあ、兄さんより強い男なんていないけど、断るには最高のセリフだよね。
友達には“基準がお兄さんなんだ”って言われたけど、変なのかな?
実際に付きまとわれてた時に、相手にこのセリフを言ったら兄さんに勝負を挑んだらしい。
その後は、二度と近づいて来なかった。
「あんなレベルの奴に、俺様が勝てないと思っているのか。よし!明日、お前の目の前で兄を叩きのめしてやろう。それなら、文句を言わずに俺様の所へ来るんだな?」
「勝てればね」
もう勝った気でいる王子を、鼻で笑ってやる。
申し訳ないけど、この件は兄さんに丸投げさせてもらおうっと。自分ではどうにもならないし。
「参考までに教えておいてやろう、俺様のレベルは100を超えている。お前の兄がどう足掻こうと、倍以上のレベル差はどうにもならん」
「それは、この世界でのレベルでしょ?元の世界の経験は、反映されないじゃない」
そんな事で、勝ち誇った顔をしないで欲しいわ。兄さんの実際のレベルより、断然低いくせに。
明日、兄さんにボコボコにされればいい。
紅音は部屋に戻ってくると、取り調べとやらの一部始終を話してくれた。
…あの野郎、明日はボッコボコにしてやるよ。
「事情は分かった。オレがあのバカ王子、泣かせてやるよ」
「兄さんなら、そう言ってくれると思った。ごめんね、目立つような事させて」
可愛い妹の為なら、ひと肌でもふた肌でも脱ぐわ。
それに、クァッド王子がここにいないのなら、オレ達もここにいる必要はないしな。
明日、オレとバカ王子の勝負が終わったら、城から脱出するか。
ウィリディスに迎えに来るように、後で連絡を入れておこう。
今日はオレの取り調べは無いのか…と思っていたら、ギュスターが来てオレは別の部屋へと連れて行かれた。
そこにいたのは白髪交じりの茶髪をオールバックにした、神経質そうな男だった。
バカ王子をボコる前に、こいつの取り調べとやらをこなしますか。




