第14話
久々に紅音の手料理に大満足して食後のお茶を飲んでいる。
紅音が作ってくれたのは、典型的な和食だった。
白飯と鮭の塩焼き、沢庵に味噌汁と野菜の煮物と足りないだろうからと、ハンバーグまで作ってくれた。
アスワドは鮭とハンバーグをおいしー!と言いながら食べてたし、ウィリディスもこんなにほっとする味は初めてだ、とか言いながら結構な量を食べていた。
紅音も皆が美味そうに食べているのを見て、満足げだった。
「腹も満たされたし、そろそろドロップ品とかの確認をするか」
「そうだね。手伝うよ」
オレは頷くと、しまっていた毛皮以外のドロップ品を取り出した。紅音も同様に毛皮以外を取り出している。
大体が魔石で、ごく稀にアイテムといった感じだ。
「毛皮が凄い数になってるけど、どうしよう。兄さん、防具とか作ったり出来ないの?」
「一応作れるけど、やっぱり本職には敵わないからなぁ。何か欲しい物でもあるのか?」
「防具とかなら、僕の馴染みの職人を紹介してあげるよ〜。魔族でちょっと変わってるけど、腕は確かだよ」
この世界の武器防具は、支給されたものしか持ってないからな。ここで新しく仕立てるのも、悪くないかもしれないな。
鑑定スキルを発動して毛皮を調べてみると、思ったより質が良い事が分かった。一応、ダンジョン補正が掛かっているらしい。
この世界の素材は、何故かダンジョン産の物の方が質が良い傾向にある。
ダンジョン外の生態系保護の為の措置なのか、レベルを上げさせる為なのか…良くは分からないが、テラリオルにも何か考えがあるのだろう。
「ここから戻ったら、防具でも作りに行くか。次は、魔石だな。魔石も結構な数になったなぁ」
「種類が豊富だねえ。無属性から炎・水・雷・土・風…あ、凄い!これ光属性の魔石じゃん。この属性でこの大きさなら、かなりの値がつくよ」
ほぼ無限湧きの将軍を倒していたから、魔石が多いのは分かる。しかし、種類も多いとは思わなかったよ。
ウィリディスも鑑定スキルを持っているようで、魔石を見ながら質や大きさごとに分けてくれている。このまま任せてしまおう。
紅音はよく分からないアイテムを、アスワドと楽しそうに見ていた。
オレは鑑定スキルを使い、そのアイテムの仕分けをしていく。
「よし、これで仕分けは完了だな」
「はぁ〜、疲れた」
オレとウィリディスの2人で、毛皮以外の全てのアイテムと魔石の仕分けを終えた。
「2人とも、お疲れ様」
『おつかれさま〜』
オレ達の前に紅茶を置き、紅音とアスワドがねぎらってくれる。
アスワドをもふもふしながら、疲れた目を休めた。
「じゃあ、この魔石はオレが《無限収納》に預かるからな。換金するか装備を作るのに回すかは、後で考えよう。アイテムも預かるけど、回復系の物は紅音とウィリディスで分けて持っといて」
回復系のアイテムを2人に渡しながら、半分づつに分ける。
紅音は《無限収納》に、ウィリディスは自前の魔法の鞄にアイテムをしまっていく。
「イサオ君は、回復アイテムいらないの?」
「ああ、オレには必要ないからな」
次は、皇妃からドロップした短剣を手に取る。
この短剣は斬る事ではなく突く事を前提として作られたもので、スティレットという種類のものだ。
稀に麻痺の追加効果が出る、少し珍しい武器のようだ。
「この短剣を紅音に持たせたいと思うんだが、ウィリディスはどう思う?」
短剣をウィリディスに手渡しながら、お伺いを立てる。
「僕もいいと思うよ。この短剣なら、不意に近寄られた時に突き刺すだけだから自衛に使えるし」
ウィリディスはそう言って、短剣を紅音に渡した。
「いいの?ありがとう。兄さん、今度護身術教えてね。足手まといにはなりたくないから、接近戦も出来るようになりたいの」
短剣を受け取った紅音は、さっきの戦闘で接近戦が出来なかった事を気にしているようだ。
本当はアスワドがいるから必要ないと思うが、万一の時の為に出来るに越したことはないので了承する。
最後は皇帝からドロップした、薄緑色のローブだ。
鑑定した結果、このローブは『真の探索者のローブ』という探索者専用の防具で、隠密性と探索・解析能力が上がる効果が付与されている。
「…と言う訳で、このローブはウィリディスが使ってくれ。まあ、これ以上の装備を持っているなら売ってくれても構わない」
「本当に僕がもらってもいいの?正直、今の装備より良いヤツだから嬉しいんだけど」
ローブを手にして眺めながら、ウィリディスは嬉しそうにしている。
「探索者専用装備みたいだから、オレと紅音には装備出来ないんだよ」
「じゃあ、遠慮なく〜。冒険者やって長いけど、専用装備って初めて見たよ」
そう言ってローブを装備するウィリディスは、実年齢よりかなり幼く見える。
最初はチャラいだけかと思ったけど、意外と可愛い所があるな。
「次は、ステータスの確認だな。どれだけ皆のレベルが上がったか、楽しみだ」
「アスワドもレベル上がったと思うから、一緒に確認しようね」
『する!』
さっそく、紅音のステータスから確認する。
【黒霧 紅音 20歳】
Lv.97 勇者・テイマー
体力:A
魔法力:A
攻撃力:B
防御力:A
魔法防御力:S
素早さ:A
魔力:S
器用さ:A
魅力:A
テイム枠:5 残 4
テイムモンスター:アスワド(グーロ希少種)
「…22もレベル上がってる。なんで?」
「オレの経験値、均等にお前らにも割り振ってやったからな。『取得経験値10倍』は伊達じゃないって事だ」
「何、そのスキル。と言うか、その話だと僕のレベルも…」
『アスワドは〜?』
紅音自身のスキル『取得経験値5倍』と、オレが10倍で稼いだ経験値の1/4を合わせて、22レベルも上昇していた。
思ったより上がってて、ちょっと笑う。
次は、アスワドだな。
【アスワド(グーロ希少種:幼体) 5歳】
Lv.221 ランク S
体力:S
魔法力:A
攻撃力:S
防御力:S
魔法防御力:A
素早さ:SS
魔力:A
器用さ:A
魅力:S
『わーい、上がってる〜』
「6つ上がったか。まあまあ、だな」
「よかったね〜、アスワド〜」
「200超えてるのに、6つも上がるとか。笑うしかないわ」
アスワドは、魔法関係がちょっと強化されたようだな。
喜ぶアスワドを紅音がわしゃわしゃ撫でて、また静電気を起こして笑っていた。
次は、ウィリディスの番だ。
「見るのこえーよー」
そんな事を言いながら、ステータスを呼び出す。
【ウィリディス・ウェナトール 30歳】
Lv.219 猟師・探索者
体力:A
魔法力:A
攻撃力:A
防御力:A
魔法防御力:B
素早さ:S
魔力:A
器用さ:SS
魅力:A
「あ、あは、あははは」
「お、9つ上がってる」
「アスワドに追いつきそうだね」
『弓のお兄チャン、いっぱい倒してたもんね。すご〜い』
ウィリディスが壊れかけている。
雑魚でも結構な数を倒してるし、将軍コボルトも湧いてくるだけ倒してたからなあ。
最後の方に出て来た将軍コボルト、ちょっと特殊なタイプみたいだったし。経験値おいしいヤツだろ、あれ。
「兄さんは?レベル上がってないの?」
なぜそんなに楽しそうなのだ、我が妹よ。
【黒霧 勲 25歳】
Lv.733 勇者・賢者
体力:EX
魔法力:EX
攻撃力:EX
防御力:SS
魔法防御力:SS
素早さ:SS
魔力:SS
器用さ:SS
魅力:EX
「あ、1つ上がった」
「嘘!凄い凄い、本当に上がってる」
『お兄チャン、やっぱりつよーい』
「まだ上がるんかい!」
魔法防御力が増えたようだ。
まさか上がるとは思ってなかったから、心底びっくりしている。
本当はこれ以上、上がらないで欲しいんだがなあ。
一通りステータスを確認し、スキルなどは各自で確認する事にした。多分、紅音が一番大変だろう。
ここからは、真面目な話をしよう。いや、今までも真面目に話してたけど。
「最後に、オレ達の事だな。ダンジョン出た後だと話せないかもしれないから、今話そうと思う」
これからの事を考えると、ウィリディスには話しておかなければならないだろう。
「君達の事情ってやつだね。いいのかい?」
姿勢を正したウィリディスに頷くと、紅音にお茶のお代わりをもらい喉を潤してから話し始めた。
オレが異世界に召喚されたのが2度目である事。
紅音が召喚される際に、無理に割り込んで一緒に来た事。
最初の世界で唯一の勇者として魔王と呼ばれる存在を討伐し、魔物以外の者が生活できる領域を取り戻す為に戦いに明け暮れた事。
この世界に紅音が必要とされている事。
テラリオルのお願いの事。
「と、いうわけだ」
そう締めくくると、ウィリディスは驚きと呆れの混じった何とも表現しにくい表情でため息をついた。
「なるほどねぇ。信じられない様な話だけど本当の事だってのは、君のおかしなステータスが証明してくれてる…か。やらなければいけない事も、その理由も、僕なんかが聞いて良かったの?」
「ああ、あんただから聞いてもらったんだ。このダンジョンをクリアした後も一緒にパーティーを組んでやって行きたいと思う位には、信用してるからな」
正直に胸の内を明かすと、ウィリディスの顔がみるみる赤くなっていく。
どうしたのかとそのまま見つめていると、明らかにわたわたとして最後には手で顔を覆ってしまった。
「イサオく〜ん、その顔でそのセリフは反則だよ〜。男だって分かってるのに、不覚にもときめいちゃったじゃんよ〜」
「流石兄さん、リアルインキュバスと呼ばれていただけあるわね…」
『お兄チャン、淫魔だったの?』
「アスワド、オレは人間だ」
正直に話しただけなのに、何だこの扱いは。と言うか、インキュバスとか言われてたのかオレ。
「ああ、恥ずかし。でも、そこまで言ってもらえると僕もうれしいけどね」
「じゃあ」
「うん、正式に僕をパーティーに入れてくれるかな」
断られたらどうしようかと思ってたから、ほっとした。
後は、テラリオルに報告しないとだな。
―― お兄ちゃん、よかったね。ボクからも、ささやかだけど祝福を… ――
またテラリオルの声が聞こえたかと思うと、ウィリディスの体が淡く光った。
テラリオルが何かしてくれたようだ。
「な、なにこれ!光ってる!ちょ、え?」
ウィリディスがパニクってるが、失礼して鑑定してみよう。
結果、“ショタっ子の祝福”というものがついていた。
加護に比べて効果は少ないが、恩恵はある…といった感じの物らしい。一応、ウィリディスに伝える。
「“ショタっ子の祝福”?何それ。ショタっ子って何」
余計混乱した。
見てて面白いが、きちんと説明する。
「小さいけど、テラリオル様から加護をもらえたって事?ヤバいね」
もう何聞いても驚かないって感じで、ウィリディスは肩をすくめた。
「オレ達も加護をもらってるから、気にしなくて良いと思うがな。ちなみに、紅音のは“ショタっ子の加護”だ」
「イサオ君のは?」
やっぱり、そこ聞きますか。
「オレのは、“創世3神の加護”。テラリオルの姉達からも、加護をもらってる」
「「………」」
あれ?紅音にも言ってなかったっけ?
2人とも固まっちまった。これは、もう1つの加護の事は言わない方が良いな。




