第13話
さーて、どうしようかな。
オレが突っ込んである程度数を減らすか、全員でやっていくか…。
「ウィリディス、接近戦は大丈夫か?」
「正直、あんまり得意じゃないんだよ。弓ならどうとでも出来るんだけど…」
「了解。紅音、お前は?」
「わたしも、自信ない」
鞭で接近戦は辛いよな。
近づかれた時の戦闘術とかも教わってたはずだけど、数が違うから対応出来るか心配なんだろう。
やっぱり、ある程度減らすか。
「2人ともよく聞け。オレが入って来た扉までの道を作るから、走って一気に扉の前まで行け。オレはそのままこいつらの数を減らすから出来ればでいい、援護してくれ」
紅音は若干不安そうな顔で頷いたが、ウィリディスは真剣な顔で頷いた。
しかし、流石にこの装備でこの数は相手に出来ない。
オレは今持っている剣を《無限収納》しまい、前の世界で相棒として使っていた剣を取り出した。
刀身から柄まで全て黒で統一されたとても美しい剣で、銘を〈ヴィミラニエ〉といい絶滅と言う意味を持つ。元々は呪われた剣だったが、女神アースフィリアに浄化されオレに託された魔法剣を使うには最高の剣だ。
オレは息をするように剣に魔力を流し、風の属性を付与していく。
その気配を感じたのか、コボルト達が一斉に動き出した。皇帝の命を受け、将軍が指示を出す。
少し距離があるとはいえ、ゆっくりとしている時間はないな。
剣にある程度の魔力を込めると、扉の方向に向かって横薙ぎに振りぬく。真空の刃が一直線に進み、その進路上にいたコボルト達を全て倒して道を作った。
「走れ!!」
2人を走らせ、オレは近くのコボルトに斬りかかった。コボルトは持っていた剣で受けようとするが、その剣ごと斬り捨てる。
剣の属性を炎に変え、次々と斬り倒していく。2部隊ほど斬り捨て、一度にかかってきた将軍を相手にしていた。
左右から同時に打ち込んでくる剣を、右側を受け流し左側を半歩引いて躱す。左側の将軍に蹴りを入れて距離を取り、右側の将軍の首を斬り落とす。
左側のが態勢を立て直す前に、袈裟懸けに斬る。その時に後ろから斬りかかってきたコボルトは、ウィリディスの矢に眉間を貫かれて息絶えた。
この距離と密集度で当ててくるとか、神業だな。
ちらりと扉の方を見ると、紅音が中距離を鞭で。近距離をアスワドが。遠距離をウィリディスがそれぞれ片付けている。
あっちは大丈夫そうだな。
「しかし、皇帝と皇妃を倒さないと無限湧きなのか?倒しても倒しても減らん」
しばらく倒し続けていたが、一向に減る様子がない。
よく見てみると、ある程度数が減る度に皇帝が持っている杖を上にかざし、杖の先の宝玉が光ってコボルトが生み出されていた。
あの宝玉さえ壊せればこの無限湧きも終わるんだろうけど、ここからだと距離があるな。
よし!あの武器のお披露目をしよう。手に入れてから改良したけど、使う機会がなかったからな。
周りのコボルトをある程度斬り捨て、一旦下がって《無限収納》からお目当ての武器を取り出した。
皇帝の杖の先、宝玉めがけてぶっ放す。
―― ドガァァァン ――
オレが使ったのは50口径のマグナム弾を発射する事が出来るリボルバー銃で、更にそれを魔改造してある。
しかし流石50口径、宝玉が粉々だ。
撃った時の音と反動がすごいけど、オレのステータスなら普通に撃てるな。…音は困るから、サプレッサーが付けられるようにまた改造しよう。
コボルト達の耳が銃の音でやられてるみたいだから、サクッと終わらせますか。耳が良いのも大変だ。
銃を《無限収納》にしまって、耳を押さえて固まっているコボルト達を片っ端から倒していく。流石に、将軍コボルトはあの音にも耐えて襲ってくるな。
1匹将軍を仕留めたと思うと、すぐに次の将軍が襲ってくる。
周りの雑魚は、後ろからのウィリディスの矢と紅音の魔法に倒れる。後ろは片付いたようだな。
「イサオ君!援護するから皇帝と皇妃をやっちゃって!!」
「了〜解っ!!」
相手にしていた将軍の眉間に矢が突き刺さる。その瞬間、オレは玉座に向かって走り出す。
残っていた将軍は3体。弓、槍、剣を持った将軍コボルト達だ。
まず動いたのは、真ん中にいた槍を持った将軍だった。
突っ込んだオレの動きに合わせて、鋭く踏み込んで突きを繰り出してくる。良い動きだな、おい。
咄嗟に左に逸れて突きを躱し、横を通り過ぎる槍将軍の両腕を叩き斬る。
『ギャワンッ!』
痛みに叫ぶ将軍の首を、後ろから斬る。
『!?』
ゴトリと首が落ちた。これで、残りは2。
弓将軍と剣将軍は一緒にかかってくるようだ。
剣将軍が斬りかかってくる後ろで、弓将軍がオレに狙いを定めて弓を引き絞っている。
オレはあえて剣将軍の剣を受けた。そこを狙って弓将軍が矢を放つが、オレにあたる前にウィリディスの矢に撃ち落された。
しかも、弓将軍の矢を撃ち落した矢の後ろにもう一本矢が放たれていたらしく、弓将軍の額に吸い込まれていった。
オレは受けた剣を力技で弾き飛ばし、よろけた所を脳天から真っ二つにする。
「あと2体!」
これで残りは、皇帝と皇妃だけだ。
オレが2匹に目を向けると、すごい形相で睨まれた。まぁ、ここまでやられたら怒るわな。
皇帝が光ったと思ったら、豪奢な服が鎧へと変化していた。武器もオレが破壊した杖から、大剣に変わっている。
皇妃の方はすでに魔法を発動していて、その手には雷が纏わりついていた。
皇妃はオレにその手を向け、魔力を十分に蓄えた雷を放った。
避ける事は簡単だが、位置が悪い。避けたら後ろにいる紅音達に当たってしまうのだ。
オレは剣に最大限の魔力を込めて、雷を払うように振った。
皇妃の魔力をオレの魔力の圧でかき消し、魔法の存在自体を消し去る。その隙をついて近くまで来ていたらしいアスワドが皇妃に飛びかかり、その喉笛を喰いちぎった。
『……!!』
悲鳴にならない声を上げて、皇妃が崩れ落ちて行く。
怒った皇帝がアスワドに向かって大剣を振り下ろすが、素早く飛びのいたアスワドに当たるはずも無く地面に突き刺さる。
隙とみて斬りかかるが器用に躱され、逆に地面から引き抜かれた大剣が頭上から迫って来た。慌てて右に避ける。
態勢を立て直し、斬りかかる。
皇帝のどこにそんな力があるのか、軽々と大剣を振り回してオレの攻撃を防ぐ。
皇帝と言うだけあって、その1撃が重い。
何回か打ち合って不毛だと悟ると、一度後ろに飛んで距離を取った。
剣に魔力を込め、空間属性を付与する。
《魔法剣 空間斬撃》
空間ごと切り裂く魔法剣を使い、斬りかかる。皇帝は大剣で受けようとするが、それは悪手だ。
大剣をバターの様に斬り、右肩からバッサリと袈裟懸けにした。
『ぐおぉぉぉ!』
断末魔の雄たけびをあげて、皇帝が事切れる。うるせぇ。
ポンっと音をたててコボルト達がドロップに変わり、大量の毛皮と中くらいの魔石が床にころがった。
皇妃のいた場所には大きな魔石と錐のような形の短剣が、皇帝のいた場所には大きな魔石と薄緑色のローブが落ちている。
しかし、大分鈍ってるなぁ。これだけ倒すのに結構な時間をかけてしまった。
「兄さん!お疲れ様」
「いや〜、強いねぇ。皇帝コボルトと皇妃コボルトをセットで討伐出来る奴って、あんまりいないんだよ?」
後ろから2人がドロップを拾いながら近づいてくる。
大量のドロップ品は、紅音の《無限収納》にしまっているようだ。
オレは皇帝と皇妃のドロップを拾うと、2人に合流するためにその他のドロップを拾いながら近づいて行った。
「いや、久々すぎて全然動けなかった。オレもまだまだだよ」
「…嫌味にしか聞こえないんですけど…」
ウィリディスがすごい顔してる。
「それより、ウィリディスの弓の腕の方が凄かった。敵が撃った矢を撃ち落すとか、あんなん神業だろ」
「そりゃぁ、練習したからねぇ」
男2人で先程の戦闘の反省やら褒めあいやらをしていると、遠くのドロップを拾いに行っていた紅音とアスワドが戻って来た。
「2人ともかっこよかった。兄さんの剣も凄かったし、ウィリディスさんの弓を撃つ姿も綺麗だったよ!」
少し興奮気味の紅音に褒められて、ウィリディスと顔を見合わせて笑う。
「この部屋はこれで安全になったみたいだから、今日はここで休んで行こうぜ」
「そうだね〜、僕も流石にヘトヘトだわ」
今日はゆっくりベッドで寝たい。だから、前の世界で使っていたテントを使おう。
《無限収納》から『安らぎのテント』と呼ばれるアイテムを取り出し部屋の中央付近、玉座の近くに設置する。
「2人とも、今日はこの中で休もう。このテントは自動的に結界も張ってくれるし、広いからゆっくり寝れるぞ」
「それ、どう見ても1人用のテントだよね?」
そう。このテント見た目は一人用なのだが空間魔法が付与されていて、中にはキッチンと個室が5部屋、それに少し広めのリビングがある。
それを説明して、皆で中に入る。
「わわっ、本当に広ーい。今日はわたしが、ご飯作るね」
キッチンを見つけた紅音は、さっそく何があるか調べている。
一応、オレがちょこちょこカスタマイズしていたから、日本のキッチンとほぼ同じ物をそろえてある。
「冷蔵庫にIHコンロ、オーブンに電子レンジまであるよ!すごーい。冷蔵庫の中身も確認したから、今日は頑張って作るね」
「頼むわ。あっちに部屋があるから、先に荷物置いて来い。好きな部屋使っていいぞ」
「じゃあ、一番手前の部屋使うね」
ウィリディスにも声をかけ部屋に案内して、オレも荷物を置きに行く。
一息ついたら今回手に入れたアイテムとレベルの確認、ウィリディスにオレ達の事を説明しないとな。




