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第12話

 何事もなく次の日になり、朝食を食べて後片付けと最終確認をした。

 昨日のアスワドはテンションが高かっただけで、やっぱり疲れていたようだ。

 ブラッシングの最中にうとうとし始め、ご飯を食べたらすぐに寝てしまったのだ。紅音もすぐに寝てしまった。

「2人とも見張り、ありがとね」

「気にしなくてもいいよ。戦闘は任せっきりだから、お相子だしね〜」

『アスワドも、気づいたら寝ちゃってた。ごめんなさい』

「いいんだ。ゆっくり休めたか?」

 のんびり話しながら、セーフゾーンから出発した。

 昨日気になった冒険者達はまだセーフゾーンにいたが、動きはなかった。でもやっぱり何かが引っ掛かる。

 一応、気にしておこう。ウィリディスも気にしてるみたいだし。



 昨日と同じ感じでサクサク階層を進んで地下8階まで来ると、ふいにウィリディスが口を開いた。

「そういえば、この辺りに隠し部屋があるとかいう噂があったなぁ。余裕もあるし、探してみる?」

「面白そうだな。紅音はどう思う?」

 隠し部屋にはお宝があるのが、何となくお約束な気がする。

「楽しそう!探してみよっか」

『なになに〜?アスワドもやる〜!』

 という事で、急きょ隠し部屋探しが始まったのである。

 オレが索敵、紅音とアスワドが戦闘、ウィリディスが探索と役割分担をして、辺りを丹念に調べて行く。

 索敵と並行してオレも探してみるが、今の所何も見つからない。

 紅音達も探しているようだ。

『ねぇ、姫。あれ、なぁに?』

「え?何か見つけたの?」

『あれあれ。上にあるやつ!』

 アスワドに言われて上を見てみると、小さなボタンの様なでっぱりがあった。

 周りに比べて異様に綺麗な丸で、間違いなく人工物だ。あんな小さいの、よく見つけたな。

「す〜ごいねぇ。よくあんなの見えるなぁ」

 ウィリディスも感心している。

 紅音はアスワドを褒めながらわしゃわしゃ撫でて、静電気を発生させてしまい慌てている。

「イサオ君。僕はアレを調べてみるから、周辺警戒をお願いしていいかな?」

「ああ。隠し部屋へのスイッチかもと思ったら、ちょっとわくわくしてきた」

 紅音とアスワドにも軽く声をかけ、≪気配察知≫を少し範囲を大きくして展開した。

 ウィリディスは何かのスキルを使っているのか、じっとボタンを見つめている。

 あ、コボルトだ。

「あk…」

 …紅音に声をかける前にアスワドが倒しちまった。

 切ない気持ちでドロップを拾い集める。コボルトのドロップ品は毛皮だ。

 その後も、魔物を見つけるとアスワドがすぐに倒してしまう。オレはドロップ集めに専念する事にした。

 オレが周辺警戒する意味よ…

「お待たせ…ってイサオ君、何でそんなに哀愁漂わせてんの?」

「気にしないでくれ」

 自分の存在意義について考えていたら、若干煤けていたようだ。

「…?とりあえず、あのスイッチはどこかの扉を開く物だという事は解ったんだけど、その扉がどこかが解らないんだよね。どうしようか?試しで押してみて、全然違う所で扉が開いて他の人にお宝盗られました〜とか嫌じゃない」

「あ、確かに。でもどこが開くか分かるのかな?」

「多分この手の仕掛けって、近くの物しか作動しないだろ」

『押してみれば分かるよ!えいっ』

「「「あ」」」

 あれやこれやとオレ達が言い合っているのをよそに、アスワドがジャンプしてボタンを押してしまった。

 カチリと小さな音がしたと思うと、ゴゴゴ…と大きな音をたてて天井が開いた。

 開いた先にはオレンジ色の渦があった。まさか天井が開くとは…。

 あまりの事にぽかーんと見ていると、オレンジの渦がキラリと光りオレ達を引き寄せ始める。その力は有無を言わせず、抵抗も空しくあっという間に体が浮いてしまい渦にのみ込まれた。

 飲み込まれた後は視界を光に侵されて何も見えず、体を奇妙な浮遊感が襲う。どうやら転移の渦だったようだ。

 ヤバいな。全員が別々に飛ばされたら、厄介な事この上ないぞ。

 視界が回復すると、目の前に鉄で出来ているであろう重厚な扉があった。

「どこだ、ここ…」

 急いで辺りを確認すると、近くにちゃんと全員そろっていた。

 良かった、最悪の事態はさけられたか。だが、何故か背筋がぞわぞわする。

「ウィリディスさん、ここって地図に載ってる場所かな?」

「ちょっと見てみるから、辺り警戒しててくれるかな?」

『分かったよ、弓のお兄チャン』

 ウィルディスが難しい顔で地図を広げて現在地の特定をしている間に、オレは能力を封印していた装備を外す。

 久々に全ての感覚が最大まで引き上げられる。スキル使用制限も外し、何が起こっても対処できるように備えた。

 もう、こうなったらステータスがばれても構わない。死ぬよりはマシだ。

 2人と1匹で最大限警戒をする。

「え〜っと、残念なお知らせです。ここ、地図に載ってないわ」

 ウィリディスがお手上げ、と言った感じで地図を放りだした。

「先に進むしかないって事か。…ウィリディス、オレ達に秘密がある事はギルマスに聞いてるか?」

 オレがいきなり切りだしたので、ウィリディスは驚きながら頷いた。

 このまま色々秘密にしていると正直動きににくいし、万が一が起こるかも知れない。それだけは避けなければいけないので、全部ばらす事にした。

 短い時間しか一緒にいなかったが、こいつなら信用してもいいと思う。

「多分ギルドでオレ達のステータスを見たと思うんだが、あれは偽造だ」

「はぁ?何で偽装する必要があんのよ。あんたら、勇者召喚で呼ばれたんでしょ?」

 やっぱりその辺りの事情は聞いてたか。

 紅音が心配そうにオレの袖を引っ張っているが、アスワドがすり寄ると少し落ち着いたようだった。

「逆だ。召喚されたから、偽装してる」

「どういう事だよ。勇者なら、城で贅沢三昧出来るんじゃないの?他の2人の勇者みたいにさ」

「他の奴には会った事ないから知らないが、オレ達にはやる事があるんだよ。時期を見てこの国から出るつもりだ。これ以上の詳しい事は、このダンジョンを出てから話す。今はここから出る事が最優先事項だからな」

「…分かった。でもせめて、正確なステータスを教えてよ。僕のも教えるから」

 確かに正確なステータスを知らないと、何が得意かとかカバーしなきゃいけない事とか分からないからな。

 オレも紅音も了承して、お互いにステータスを見せあう事になった。

「これが、僕のステータスね」


【ウィリディス・ウェナトール 30歳】

Lv.210 猟師・探索者


体力:A

魔法力:B

攻撃力:A

防御力:B

魔法防御力:C

素早さ:S

魔力:B

器用さ:SS

魅力:A


「え!?ウィリディスって30歳なの?」

「見えない…種族的な物なのかな」

「えっと、驚く所ってそこ?」

『?』

 ステータスより、年齢の方で驚いてしまった。オレと同じ位だと思ってたのに…。

 しかしステータスも流石討伐ランクA、魔法防御力以外は高い。職業の関係か、器用さはかなりの物だ。

「次はあたし!」


【黒霧 紅音 20歳】

Lv.75 勇者・テイマー


体力:B

魔法力:A

攻撃力:C

防御力:B

魔法防御力:A

素早さ:A

魔力:A

器用さ:A

魅力:A

テイム枠:3 残 2

テイムモンスター:アスワド(グーロ希少種)


「何コレ。見せてもらったのと、ぜんっぜん違うじゃん」

「あ、この間より7つレベル上がってる」

「う〜ん、でも攻撃力がイマイチ上がらねぇな」

 昨日今日の戦闘で、7つもレベルが上がっている。これからが楽しみだ。

『アスワドも!!』

「はいはい」

 紅音が笑いながら、アスワドのステータスを表示する。


【アスワド(グーロ希少種:幼体) 5歳】

Lv.215 ランク S


体力:S

魔法力:B

攻撃力:S

防御力:A

魔法防御力:A

素早さ:SS

魔力:B

器用さ:A

魅力:S


「僕よりレベル高いし。しかも、これだけ強いのにまだ子供って…」

「あ、会った時より1つレベルが上がってる」

「お前、まだ幼体だったのか。成体になったら、どんだけ大きくなるんだ?」

『父上は、アスワドよりおっきかったよ』

 今でも虎位の大きさなのに、これ以上大きくなるのか。

 楽しみでもあるけど、食事の量とか大丈夫か?

「最後は、兄さんね」

 何でオレがステータス出す時、紅音はそんなに楽しそうなんだよ。


【黒霧 勲 25歳】

Lv.732 勇者・賢者


体力:EX

魔法力:EX

攻撃力:EX

防御力:SS

魔法防御力:S

素早さ:SS

魔力:SS

器用さ:SS

魅力:EX


「……僕の目、おかしくなったのかな。レベル、限界値超えてない?」

「レベル変わってないね。つまんない」

『お兄チャン、つよーい』

 ウィリディスが遠い目をしている。

 やっぱり、オレのステータスはここでは異常でしかないんだな。本当にどうしよう。

 前の世界では、限界値が高かったからな。それでも、オレのレベルは高い方だったけど。

 ステータスの公開もおわったから、そろそろ先に進まないとな。

「ほら、確認も済んだんだから、先に進もうぜ」

「あの扉だよね?あそこしか道、ないもんね」

 まだ呆けているウィリディスをそのままにして、紅音と話す。

 扉の先は特殊な魔法でもかかっているのか、気配も何も感じ取れない。

「おーい、ウィリディス!先に進むぞー」

「はっ!ごめん、ちょっと意識が飛んでたわ」

 意識が戻って来たウィリディスは、自分の頬を軽く叩いて気合を入れている。あれなら大丈夫だろう。

 この先は、本当に何があるか分からないからな。

「開けていい?」

 紅音とアスワドが扉の前で、今か今かと待っている。

「ウィリディス、大丈夫か?」

「もちろん。いつでもど〜ぞ」

「開けるよー」

 紅音が扉に触ると扉が淡く光り、ゆっくりとひとりでに開いた。

 中はかなり広い部屋になっており、天井が光っていて暗くは無い。

 部屋の中央まで来ると少し先に少し高くなっている場所があり、そこには2つの玉座が見えた。

「玉座が2つ…嫌な予感しかしないね」

 ウィリディスがつぶやいた途端、高濃度の魔力がどこからか流れ込んで来て玉座に集まって行く。

 相当な量の魔力が集まったかと思うと、その魔力が魔物を形作った。

 2つの魔力の塊が作りだしたのは、豪奢な服に身を包んだ2匹のコボルトだった。

「あれは、皇帝コボルトと皇妃コボルトだね」

「え!?あれがそうなんですか?あれが出たら、騎士団総出の案件だって聞きましたけど」

「紅音ちゃん、よく知ってるね。確かに騎士団なら総出の案件だけど、冒険者なら討伐ランクAが5人もいれば倒せるよ。まあ、群れの規模にもよるけどさ」

 オレが2匹だけなら何とかなりそうだと思った時、皇帝コボルトは立ち上がると右手を一振りした。

 その瞬間オレ達の前には10体程の将軍コボルトが現れ、更にその部下までが勢ぞろいしてしまった。

 1体の将軍に部下10人程度の編成で、オレ達を囲むように大軍隊が形成されてしまった。

「あらら、これはちょっと…ヤバいんじゃないかな」

「に、兄さん、どうしよう…」

 紅音とウィリディスは武器を構えてはいるが、数の多さに少し圧倒されているようだ。

『姫は、アスワドが絶対に守る!』

 アスワドは紅音の前に立ち、低い唸り声を発してコボルト達を威嚇している。

 とりあえず、皇帝と皇妃を鑑定してみるか。

≪鑑定≫


【皇帝コボルト】

Lv.150 ランク A


体力:A

魔法力:C

攻撃力:A

防御力:B

魔法防御力:B

素早さ:A

魔力:B

器用さ:C

魅力:B


【皇妃コボルト】

Lv.150 ランク A


体力:B

魔法力:B

攻撃力:C

防御力:C

魔法防御力:A

素早さ:A

魔力:A

器用さ:C

魅力:B


 ついでに、将軍も鑑定しとくか。

≪鑑定≫


【将軍コボルト】

Lv.90 ランク B


体力:C

魔法力:D

攻撃力:B

防御力:B

魔法防御力:C

素早さ:B

魔力:D

器用さ:D

魅力:C


 1体1体はそこまで強くはないが、こいつらは連携して襲ってくるのが基本だから厄介なんだよな。

 オレ1人なら何も考えず突っ込むだけでいいんだが、後衛2人を守りながらだとそうもいかない。

 ちょっとお宝探しのつもりが、とんでもない事になったな。

 とりあえず、どう切り抜けるか考えよう。

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