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合格発表を見た帰りに、やはり母のもとにやって来た。どうにも、母の言葉に逆らえない雰囲気があったというべきだろうか、それともそれは俺の言い訳に過ぎないのだろうか、どちらでも構わないが、マザコンなのは確定だろう。
久々に美鈴とは別行動を取ることができたのも、母の配慮からだった。
俺の合格発表について来たいという、美鈴の言葉を遮り、母は美鈴に買い物を依頼した。
それも、どうしてもこの日、この時にとせがむ母の言葉を美鈴は無視できなかった。
昔から、美鈴の心の中に俺の母が実の母のように存在しているからだろうか、美鈴は本当に母の言葉を優先する。
買い物の話が決まると、俺には合否のメールを送ることを要求したのだが、お試しみたいな立場だけど、俺の彼女という立場に美鈴がいるのだから、当然だと押し切られた。
当然のことながら、メールはした。
そして、「おめでとう」と一言だけ返信があり、美鈴との連絡は終わった。
病院に着いて、売店にも寄らず母の病室を訪ねる。盛大なお迎えがあるのかと内心、ヒヤヒヤしていたが、母の顔はいつもと反対で、真面目な顔で俺を待っていた。
合格のお祝いの言葉をひと通り、話した後、母は話題を変更し、今日の本題にすぐさま入る。
いつになく、真面目な雰囲気なのは、俺の心配を呼び起こすには十分だった。
「で、話ってなに?」
「まこと、いまからお母さんが言うことは、冗談抜きだから、そのつもりで聞いてちょうだい」
そう前置きをして、母は話し出した。
その内容は、母の願いごとの話だった。
ただ、母からのお願いは、願いというか、強制というか、どちらかといえば、後者に属すると思える。
そして、そのお願いは、俺には到底理解できないものだった。
「まこちゃん。あなた、私の兄の養子になりなさい。それなら、私はいつココから居なくなっても心配いらないわ。私達にとって、とてもいい話でしょう」
「そんな、急に言われても決心できません」
その頃、母の依頼を済ませて、既に病院に来ていた美鈴は、俺より前に母の願いを聞かされていたのか、微動だにしない。
俺は、いたたまれなくなってベッドの上の母から視線を外し、ふぅー、と軽く溜息を吐きながら、窓の景色を眺めて目を瞑り、頭の中を整理した。
母が生き急いでる、ということは認識していたが、こんなことを言うなんて、予想もしていなかった。
「お母さんは、もう、あなたの力になれなくなってしまう。お父さんも、海外に転勤することが決まっていたから、あなたのことを考えて、最良の居場所を作ることにしたのよ。それが、私の兄の養子になること。すぐには結論は出ないだろうけど、よく考えてみて。美鈴も兄妹ができるのは歓迎だそうだから、それは大丈夫。あとはまこと次第だからね」
「…………」
「まあ、あまりに急過ぎだから、仕方ないか」
「あっ、ごめん。まだ、母さんがいなくなるって、実感がないし、考えたくもない。もう少しだけ、時間が欲しい。ごめん、今日は帰る」
母の顔を見ずに、俺はそう答えて、そのまま母の病室から出てしまった。美鈴が心配して、追いかけて来たみたいだけど、その顔を見る前に俺の乗り込んだエレベーターは扉を閉じた。
夕方に母からメールが届いた。
「ちゃんとご飯は、食べなさい」とのことだったが、食欲はない。
美鈴からもご飯のお誘いがあったが、返信もせずにベッドに潜り込むと、疲れがどっと押し寄せたのか、いつのまにか寝てしまっていた。