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少し書き方を変えてます。
大島真の名前を見つけたのは、一年B組だった。
正午にあと少しという時間だが、私立桜ノ宮学園の校庭には、合否の発表を待ちわびた受験生の群れが溢れている。
皆、ほとんどが親子連れで見に来ているか、友達と一緒に見に来ているかだったが、真は自分の番号を見つけるとその場を離れた。
顔色からは、何も読み取れないほどすましている。
何故か、重いな足取りで、受験生の群れから離れると、気怠そうにスマホをジャンパーの内ポケットから取り出し、履歴から一つの名前を選んで、耳に当てた。
「もしもし、俺。…………あったよ」
「えっ、えええー、わーおっ!しんちゃん、おめでとう。よかったね!ホントよかった。お母さん、今日は一緒に行けなくてとても心苦しかったの。でも、よかった。あっ、じゃあ……」
弾丸のように話が止まらない母の言葉を強引に止める。俺の名前を「まこと」と名付けた張本人が、興奮した時によく使う呼び名、そんなふうに呼ぶなよといつも思うのだが、それが母の特権と認め、諦めたのは小学生の高学年の頃だっただろうか。
母のせいで友達からも「しんちゃん」扱いされ始めた時に自分の名前は「まこと」だと言いはって、小競り合いになってからは友達からはその名では呼ばれない。
だから今となっては、母のみの呼び名となっている。だが、美鈴が俺達の生活に入り込んでから、はじめて口にしたことに気がついた。母も美鈴に多少は気を使っていたのだろう。
だが、そんなことはどうでもいい、まずは伝えるべき言葉がある。
「母さん、聞いて、……いや、聞けよ。
病人がこれないのは当然でしょう。それに前の学校よりもレベル低いから受かって当然だし、むしろ落ちたら恥ずかしい。あの試験で落ちるなんて、自己嫌悪で暫く再起不能ものだ。
だから、かーちゃんは安心して、ベッドに横になって安静にしといてください。
言っとくけど、看護師さんから怒られるのは、あなたじゃなくて俺なんだからね。ちっとは自覚してくれよな」
「ごっめーん。つい嬉しくて、はしゃいじゃったわ。じゃあ、しんちゃんの要望どおり横になるから、帰りには少し寄りなさい。あと、受験が終わったから、前から考えていたお願いが一つあるんだけど……。ねぇ、その話を聞いてくれないかしら?」
「んっ、わかった。まあ、時間があればね。じゃあ」
ぴっと音がした後、スマホを無造作にポケットにしまう。
真は、一旦、スマホをしまった後に少し考えて、短いメールを打ち、再びポケットにしまった。
多分、返事はないだろうけど。
母の考えは、昔からよく分からない所がある。
変な性格と一言では表せられない。
よく言えば、自分の気持ちに素直なのだと思う。悪く言えば、はっきり言って、わがままだ。
しかし、その性格に付き合わされる者としては、勘弁して欲しいことが多々ある。
少しは自粛してもらいたいものだ。
今更なのだが、親父と別れた時に、その理由を聞き、母に肩入れしついて来たのだが、親父はほぼ毎日、定時に帰って来ていたし、出張の時も母や俺に毎回、ウザいほどメールをくれていた。
そんな訳で、今では父の浮気話など信じていない。
だから、一言だけ。
「春から桜ノ宮学園の生徒です」