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ドアを開けると、いつも元気な笑顔が迎えてくれる。
「まあ、まこちゃんに美鈴ちゃん、いらっしゃーい」
「母さん、元気そうだね」
「叔母さま、お加減はどうですか?」
隣の美少女は、病院前にある花屋で買ったオレンジとイエローの薔薇とかすみ草を持って、早速、窓側の棚に置いてある花瓶に向かう。
そんな彼女を母がとても嬉しそうに見つめている。こんなに元気なのに、……やはり病気とは信じられない。
母の横にある椅子に座り、ボーっと二人のことを見ていたら、不意に声がかけられた。
「まこちゃん、決まった?」
「ああ、俺は、大島のままにする。親父のことは許せないけど、いまさら苗字を変えたら、今までの自分を否定するみたいで、それが嫌だと思ったよ」
「ふーん。お母さんと一緒に、橋本の性になれば良かったのに! それに、せっかく美鈴ちゃんとも同じになれるのに……」
母さんの話は残念そうだけど、声音からは楽しんでいるみたいだ。この人は、ずっと昔から俺をからかうのを楽しみにしているふしがある、だから素直に信用はできない。
「あら、あら、疑っているみたいね。でも、美鈴ちゃんは、がっかりだったみたいよ。あなたの言葉を聞いた時、溜息が出てわよ。だから今から変えていいんだよ」
「いや、俺の決心は簡単には変えません。それに、美鈴に限って、そんなことはあり得ない」
「……そ、そうだよ。叔母さま、悪い冗談ですよ。
じゃあ、私は花を花瓶に活けて来ます」
そう言うが早いか、美鈴はパタパタとスリッパの音をさせながら素早く部屋から出て行った。
「さあ、真くん。君はいつまで人を、特に女子を避けているのかな?」
「いや、……たぶんずっとかな」
「ふーん。なら、練習してみましょう。あっ、いや、これはリハビリと言うべきでしょうか」
にこやかな笑顔から毒が吐かれる。
「じゃあ、まずは美鈴ちゃんと一緒に登校してあげなさい」
「それは、相手が嫌がる可能性があるし、その確率は高いのですけど?」
「いや、大丈夫。ほら、あなた達の再会の時にお母さんのお願いを聞いてくれることになったことを思い出して」
その言葉を聞いて、嫌なことまで思い出してしまった。