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時間が空いた時に、気ままに書きます。
電車に乗ると、すぐさまメールのチェックをする。それが約束となっているからだ。
案の定、いつものとおりの内容だった。
──どこに乗ってますか?
一両目の端とだけ、という返事を送る。
三分程後、甘い匂いと共にスッと隣に誰かが座る感触がした。俺はスマホで好きな曲を聴きながら目を瞑っているから、誰が来たのかは甘い匂いで気がついた。
そのまま目を閉じていると、いきなり腹の上にドンっと重いのが載せられ、思わず苦痛で前のめりの姿勢になってしまった。
「なっ、何すんだ?」
「あら、邪魔だからでしょう。私が来るのを分かっていながら、そんな態度をとっている、まこちゃんがそうさせたわけでしょう」
横に座る美少女は、あいも変わらずニコニコと愛想はいいけど、目が座っている。
無視してもよかったけども、あとが面倒だから、とりあえず謝ることにした。
「──ごめん、今日は眠くて」
「そうなの? 一人暮らしだから、ゲームとかで遅くまで起きていたんでしょう? あんまり自堕落な生活してると、お母さんに言いつけるわよ」
「いや、かーちゃんには言うな。ゲームもしてないし、色々と考えることがあったんだ」
「へぇー、なら私が聞いてあげようか?」
「いや、勘弁!」
「えっ、即答って……、……酷いよ」
両手で顔を覆う隣の美少女に、思わず溜息を吐く。いちいちリアクションすんなウザいから、と心の中で思いはしても、口に出して言う勇気は持ち合わせていない。
「はぁ、……ごめん」
「その、はぁって、どういうこと?」
「……ごめん」
「まっ、いっか。許してあげよう」
なんとか機嫌も直ったようだ。
この列車は、二人座りタイプの座席が左右にあり、真ん中に通路がある。俺が座るのは、通路側で、隣の窓側はいつも鞄を置いてとっている。こんなやりとりを、望んだことはないけど、既に日課という程になっている。
毎日のことながら、ほんの目の前を少し短めのスカートと太腿が通り過ぎるのを直視できる男子はいないという本音は、女子にはわからないだろう。そして、それを絶対に言うわけにはいかないし、さとられてもいけない。
かといって、通路側にこの子を座らせると、誰かに見られる可能性が高いから、それもできない。
こいつと一緒というだけで、色々と厄介なことが起きるだろうから、絶対に見つからないようにしている。
「さあ、行きましょう」
「ああ、よろしく」
地下鉄を乗り継いだ私鉄の電車でのやり取りは、もうどのくらいになるのか覚えていない。
ただ、なんで俺の母親の見舞いを、こいつが毎日するのかは何度聞いても教えてくれない。
以前、唯一、こいつが俺に話した理由がこれだった。
「なあ、どうして俺の母親の面倒を見てくれるか?」
「それって、理由は必要かな?私にはお母さんがいないのは知っているよね。叔母さまは、そんな私に、ずっと昔から色々とアドバイスをしてくれていたんだよね。これで、納得できないかな?」
「そうなのか、……ならお願いします」
それから、毎日、私鉄の電車に一緒に乗ることになってしまった。
読んでいただき、ありがとうございます。