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ソウセキ2017  作者: 多田野 水鏡
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二人三脚

 どうして二月の終わりに九月の話を書いているのでしょうか……。

 屋上で『御前さん』と話した翌日から、本格的にある行事が進行しだした。体育祭だ。実を言うと、何と言うかワクワクしている。柚菜の話では、この学校では秋ごろに文化祭があるようだ。しかし、高校と大学とでは規模が違う。大学のに比べると、高校の文化祭なんて低レベルだ。

 一方大学では、体育祭なんてものはなかった。別に入れ替わる前(生前)活躍したわけでもないのに楽しみに思うのは、つまり体育祭が久しぶりだからだ。

 そしてもう一つ。体育祭の競技もオレの高校とは違う。今日の一時間目の総合の授業では、誰がどの競技に出場するかを決める話し合いだった。クラス委員が、競技の名前を黒板に書いていく。

 そこはオレの故郷である田舎と、この東京と言う都会との違いだろうか。羅列されている競技。一言で言えば、面白そうなのだ。障害物競走や借り物競争、パン食い競争なんて漫画の中でしか聞いたことがない。他には部活対抗リレーもあったが、部活動に入っていないオレには関係ない話だ。

 そう言えば、柚菜から朝のホームルームの前に幾つか競技の内容について話を聞いていた。それを聞いて、二人三脚だけはやらない、と柚菜にも言った。元々そういう団体競技と言うか、チームワークとかいう奴が必要なのは好きではない。もしオレの故郷でもパン食い競争を経験していたとしても、オレは迷わずパン食い競争を選んでいただろう。

 オレは、出場したことがない競技に出場する事に決めた。但し、全部の競技に参加できるわけではない。考えた結果、障害物競走とパン食い競争に参加しよう。与えられた少しの考える時間の中で、オレはそう決めた。

 先に、障害物競走と借り物競争どちらに参加するかを選ぶ。オレは、決めたとおりに障害物競走に参加することになった。

 次は、パン食い競争か二人三脚だ。思いの外、二人三脚を選ぶ連中が多かった。そこは女子、恥じらいというのがあって人前で口を開けて飛び跳ねる、という事は出来ないのだろうか。朝に言った通り、オレは二人三脚をやる気は絶対にない。

 見ると、雪華も二人三脚に手を挙げていた。夏祭りの時もそうだったが、気が強くて近づき難いように見えて、やっぱり雪華も少女なのだ。

「あら」

 クラス担任である谷岡が、間抜けな声を出す。二人三脚の選手が、奇数なのだ。今更言うまでもないだろうが、二人三脚は二人一組で行うものだ。

 そう言えば雪華の奴、一緒に組むアテはあるのだろうか。相変わらず、雪華に話しかけるのはオレか柚菜、美音くらいだ。こんな事を言っては悪いが、そんな状態の雪華と組んでやる奴がいるとは思えない。それを本人も分かっているのか、極まりの悪い顔をしている。

「誰かもう一人、二人三脚に参加したい人はいませんか?」

 そこで『誰かパン食い競争に移動しないか?』と言わないだけ、良心的だろうか。他の連中は、既に相手がいるか組もうと頼める奴がいるかだろう。そんな事を言えば、実質『雪華に二人三脚から外れろ』と言っている事になる。そうなると、どこかの団体がガチャガチャうるさいだろう。それに、谷岡がそんな生徒を傷つけるような物言いを好き好んでするようには思えない。

 もう一度、雪華の顔を見る。やはり気まずそうだ。もう少し時間が経てば、雪華は渋々ながらパン食い競争に移動するのだろう。自分から手を上げる位なのだ。やはり二人三脚がやりたいのだろう。

 オレの手は、勝手に上がっていた。

「私、二人三脚やります」

 口から勝手に言葉が出ていた。何故だろう。団体競技なんて絶対やりたくないのに。あんな大して面白くなさそうな競技に、なぜオレは立候補したのだろう。パン食い競争なんて人生で初めてやるので、面白そうだと思っていたのに。それを蹴ってまで、何故。


「桜、良かったの?」

 二時限目の前の休み時間、柚菜がオレに尋ねてきた。絶対やりたくない、とまで言っていたのにやると立候補したのだ。変な顔をするのも当然だろう。

「そうなんだけど、何か手ぇ上げちゃってさ」

 頭を掻きながら返す。話し合いが終わった今でも、二人三脚なんざやりたくないという気持ちは変わらない。しかし、今更『やっぱ嫌』なんていう訳にもいかないだろう。


 放課後、雪華に呼び出される。なんでも、二人三脚の練習をしたいのだそうだ。そんな面倒なことはしたくないのだが、雪華の意思をくむ事にした。雪華が思い出を大切にしたいという事は、この前の夏祭りで良く分かった。オレと協力しての競技を思い出にしたいというなら、その思いに応えよう。

 更衣室で着替えて、体操服姿になる。校庭に向かう途中で、鶴竹と会う。

「……あら、立木さん」

 相変わらず不気味な奴だ。いじめを肯定するつもりはないが、これでは敬遠されても仕方がないだろう。

「どこか、行くのかしら……?」

 別に隠すつもりもない。雪華と二人三脚の練習をするのだ、と返す。

「……そう」

 元々暗い物言いだったが、今のはさっきまでより幾らか不機嫌そうに聞こえる。心なしか、目つきも鋭くなっているような気がする。それ以上鶴竹と会話をする事もなく、オレは校庭へ向かった。


「おっす」

「『おっす』じゃあない。遅いぞ」

 雪華に指摘される。実は鶴竹と別れてから、別の奴と少し喋ってしまったのだ。何時間も遅れた訳ではないが、この練習も雪華は思い出にしたいのだろう。だとすれば、数分の遅刻でも機嫌を悪くするのは分かる。オレが素直に謝ると、あっさり許してくれた。

 雪華がオレの隣に立つ。身体を屈めて、オレの脚と自分の脚を縛る。二人の身体が密着する。雪華の手がオレの肩に置かれる。オレも、雪華の肩に手をかける。二人とも半袖なので、雪華の体温が尚更はっきり伝わってくる。オレの脚に、雪華の脚の暖かさ、綺麗な肌の感触が伝わる。

 女として生きていても、やはりオレは男。ついドキドキしてしまう。情けない話だが、生まれてこの方彼女なんてものはいた事がない哀れな男。多少の邪念は許して頂きたい。

「さ、行くぞ」

 雪華の掛け声で、オレたちは同時に足を出す。オレたちのコンビネーションは抜群で、何の苦もなく走ることが出来た。サッカー部などグラウンドを使う運動部も、オレたちの走る姿に目を奪われていたようだ。

「いやぁ、すごいな。息がピッタリじゃあないか!」

 たまたま見ていたいかにも体育の先生といった風体のジャージ男が、オレたちの雄姿をやたらと褒めてくれた。オレたちは顔を合わせ、頷きあった。なんだ、二人三脚ってのはこんなに楽しい競技だったのか。オレは、年甲斐もなくやる気という奴に燃えてきた。

 ……なんて事になるはずもなく、オレたちは盛大にスッ転んだ。今日初めて、二人で練習したのだ。そんなあっさりこなせるなら、この世に練習とか努力とか言う言葉は存在しない。

 すごいのは雪華で、真っ先にオレを心配する文句を口から吐いた。

「大丈夫か、桜?」

 オレなんかは早速嫌になって来たというのに、泣き言の一つも口にしない。胸は平らだが、オレなんざよかよっぽど雪華は大人だ。

「何、大丈夫大丈夫」

 見ると、雪華の方が怪我をしていた。怪我と言っても、足がなくなっていたとかそんな重症ではない。しかし、オレを真っ先に気遣ってくれた奴の怪我を放っておくというのは、怪我の大小に関係なく後味が悪い。

「雪華こそ、怪我してんぞ」

 オレが言ってやると、自分は大丈夫だ、なんて言っている。そんな綺麗な脚に怪我をさせてそのままにしておくというのは、オレの男としての申し訳程度の尊厳が許さない。

「良いから。作戦会議も兼ねて、傷口洗いに行くぞ」

 それだけ言って、赤い鉢巻を解いて雪華に返す。言い忘れていたが、朝のホームルームでオレたちの団が発表された。オレたちは赤組で、その際に団の色のハチマキが渡されたのだ。因みに、団は赤、青、黄の三つある。

 観念したらしく、雪華はオレに連れられる形で水道へと向かった。

 新作を投稿したので、また投稿が遅れるかもしれません。温かい目で見守ってやって下さい。

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