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ソウセキ2017  作者: 多田野 水鏡
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ソウセキ2017 番外編 2

物語中では九月になったばかりですが、番外編ということで時系列は気にしないで下さい。

昨日焼き芋を食べて、つい焼き芋の話が書きたくなったのです。

「いやぁ、寒いなぁ」

 十一月の終わり頃、オレは雪華と歩いていた。スカートというのは、足を露出させるために寒い。まして桜と体が入れ替わっているため、寒さにも弱くなっている。オレの故郷ほど寒くないはずなのだが、寒くてたまらない。

「寒いと言えば、もっと寒く感じるぞ」

 オレの隣で、雪華が言う。そう言いながらも、雪華も手を擦る。オレは手をポケットに突っ込んでいる。吐く息も白い。

「あ」

 歩いていると、後ろから何かが聞こえてきた。それは、石焼き芋の文句だった。そうだ、こんな寒い日には焼き芋なんか食べたら美味いだろう。オレの身体は、磁石を近づけた釘の様にフラフラと声の方に引き寄せられた。

「待て」

 オレの肩を、雪華が掴む。

「どこへ行く」

 呆れたように尋ねる。

「あれが聞こえなかったのか? 焼き芋買いに行くんだよ」

 声が聞こえた方を指さしながら返す。雪華はため息をつく。

「これから図書館に行くのを忘れたか?」

 そうだ。オレたちは図書館に向かう途中だったのだ。一応学校の授業と関係がある事なので、学校帰りではあるが怒られはしないだろう。東京というのは図書館もやたらとあり、一つの区に七つくらいはある。そして、東京都の人間ならどの区の図書館でも図書カードを作ることが出来るのだ。オレも、入れ替わる前に初めて訪れた区の図書館でカードを作ったものだ。尤も、アパートや学校の周辺以外の図書館は殆ど行かなかったが。

「『芋を食った人間は図書館に行ってはいけない』って日本国憲法のどっかに書いてあんのかぁ?」

「あってたまるかそんな法。やる事があるんだから、今度にしろ」

 食べながら入ってはいけないだろうが、食べた後なら入っても良いだろう。着く前に食べてしまえば良いだけだ。オレも、本を読みながらものを食べる事はしない。

 そんな事を言いながらも、雪華はじっと声が聞こえた方を見ている。なるほど。口では言いながら雪華も芋が食べたいのだ。

「そんな事言ってぇ、雪華だって食べたいんじゃあないのぅ?」

 少し意地悪をしてやる。そこで思い出す。男子小学生というのは、気になる異性にはつい意地悪をしてみたくなるものだという。あれ、という事は、オレの精神は小学生並みという事だろうか。

「な、アタシは別に……!」

 トマト女になった雪華は、手を振りながら否定する。いや、ここは季節的にも、リンゴ女の方が良いだろうか。そんな事を言っている内に、焼き芋のトラックが近づいてきた。

「あっそ。じゃあ私だけ食ぁべよ」

 オレはトラックに近づく。

「焼き芋(くぅだ)さい!」

 出てきたのは、ガタイの良い白髪混じりのおっちゃんだ。

「あいよ。嬢ちゃん可愛いから大きいの入れてやる!」

「わぁい」

 こんな時、美人は得だ。オレは、二つ買った。確かに、両方とも大きい。笑顔のオレをよそに、トラックはゆっくり走っていく。その後ろ姿を、雪華はどこか残念そうに見ている。オレにはそう見える。

「弱ったなぁ」

 口から、そう漏らす。

「『可愛いから』ってオマケしてくれたけど、二つも食べられないなぁ。どうすっかなぁ」

 オレがそう言うと、雪華は一瞬オレの顔を見る。思った通りだ。

「誰か一つ食べてくれないかなぁ?」

 雪華の顔をみながら、一つを袋から取り出す。新聞紙に包まれているとはいえ、中々に熱い。

「し、仕方がないな……。た、食べ物を粗末にしてはいけないからな……」

 何か言いながら、こちらに手を差し出す。初めから雪華にも食わせてやるつもりで買ったのだから、別に困っていない。しかし、ここでさっさと渡しても面白くない。オレの子供心に火が付いた。

「そうだ、持って帰って仁奈にあげようかなぁ」

 そんな雪華を、敢えて無視する。本当は仁奈にやるつもりはない。仁奈にくれてやるくらいなら、便所に流した方がよっぽどマシだ。

「え……」

 案の定、雪華は残念そうな顔をする。こんな顔をするなんて、学校の連中が知ったらどんな顔をするだろうか。雨の日に捨てられた子犬みたいな目で見られると、流石に少し可哀想になってくる。

「冗談だよ、雪華」

 引っ込めようとした手に、焼き芋を乗せる。いきなりの事で熱かったのか、顔をしかめる。

「桜ぁ?」

 少し声に怒気を込めている。やりすぎただろうか。

「いやぁ、ごめんごめん。ついからかいたくなってさ」

 頭をかきながら謝る。機嫌を直した雪華は、ベンチで座って食べようと言ってきた。丁度、近くにあるのだ。確かに買い食いはするが、歩きながら食べるのは行儀が良いとは言えない。オレたちは、ベンチにゆっくり腰を下ろす。錆びた鉄のベンチは、公衆便所の便器の様に冷たい。

 紙の包みから芋を取り出し、ゆっくり口に運ぶ。固い皮と柔らかい中身が、口の中を占める。熱い。皮を噛んでいると、甘い中身が少しずつとろけていく。飲み込むと、身体が暖かくなっていく。

 雪華は何も話さずに、芋を食べ続けている。その幸せそうな顔は、まさに年頃の少女のそれだ。いつもの仏頂面ではない。焼き芋と同時に、ささやかな幸せも一緒に噛み締めているようだ。思わず、オレも笑顔になる。

 焼き芋を食べ終えた。さて、図書館に向かおう。そう思って立ち上がったその時、五時を告げる鐘が鳴った。

「あ」

「やっべ」

 二人同時に声を出す。顔を見合わせる。オレも人のことは言えないのだろうが、雪華は中々の間抜け面だった。おかしくなり、思わず吹き出す。と同時に、雪華も吹き出した。その後数秒の静寂が十一月の風と共に通り過ぎ、オレたちは一緒に笑いだした。

「いやぁ、写真にでも撮っておけば良かったかねぇ。今の雪華の顔」

 オレがそう言うと、雪華は顔を赤くして反論する。顔が赤いのは、寒さのせいではないようだ。

「な、何ぃ! あ、アンタだって似たような顔だったじゃあないか!」

「そうだっけぇ?」

 そんな事を言いながら、オレたちは立ち上がる。当初の目的である、図書館に向かわなければ。


本編は、もう少しお待ち下さい。

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