新学期
すいません、やっと投稿出来ました。この季節だとリアルが忙しいのです……。
八月の終わり頃、ようやく新学期が始まった。始まったのは良いが、初日に早速試験があった。例によって数学はボロボロだった。なんていつまでも言っていられない。実は、数日前に雪華と柚菜、美音とで勉強会を開いたのだ。
提案したのは、やはり柚菜だった。オレが雪華も誘って良いかと聞いたら、二人は喜んで受け入れてくれた。というより、二人も本当は雪華を誘いたかったらしいが、二人とも雪華の番号を知らなかったのでオレに誘うよう頼もうと思っていたらしい。オレは美音に数学を教わった。これは後で柚菜がこっそり教えてくれたのだが、オレが球技大会の時に応援した恩返し、との事らしい。
オレは雪華に英語を教えた。確か雪華は柚菜に古文を教えて、柚菜は美音に日本史を教えていた筈だ。丁度一周しているわけだ。少し面白かった。
勉強会の中で、柚菜は良く雪華に話しかけていた。しかし、美音は雪華の風評のせいもあってか話しかけにくそうだった。本人も話したいとは思っているようだが、少し怖いのかもしれない。
そこで、
「あれ、ねぇ、美音。『~にとって〇〇は……だ』って何だっけ? 雪華に教えてあげてくれないかなぁ?」
オレは雪華に英語を教えている最中、敢えて美音に話を振る、という事を何度かやった。雪華に教得るよう頼むことで、話すきっかけを与えようと思ったのだ。最初こそおっかなびっくりで話していたが、終わり頃にはオレや柚菜にやるように話せるようになっていた。とりあえず、甲斐はあったという事だろう。
勉強会のおかげか、今回のテストはいつもより答案の穴を埋める事が出来た。それが合っているかどうかは、返ってきてからのお楽しみという所か。
今日から学校という事だったが、学食は残念ながら開いていなかった。桜と入れ替わる前のオレが通っていた高校には、学食なんて面白いものはなかった。やはり、そこは田舎と都会の違いという奴か。
弁当はあるのだが、数学のテストにいつもより手ごたえを感じたため、『自分への御褒美』という奴を頂くことにしたのだ。学食は開いていないが、購買は開いている。と言っても、学食があるからか大したものは置いていない。乳飲料とパン、その他筆記用具が幾つかといった具合だ。大したものはない、と言ったがそれは都会の学生基準であり、田舎の学生からしたらこんなものか、と思える品揃えだ。
昼休みになると混むというのは、どこでも同じなようだ。だから、オレは二時間目の終わったこの休み時間に購買に来たのだ。雪華が気まぐれを起こして、一緒についてきた。アイツはいつも弁当で、購買も学食も使っていなかった。
オレは、生クリームを間に挟みチョコレートでコーティングしたパンに手を伸ばす。それは、昔のオレがよく買っていたのと同じ物だ。最後の一個だ。久しぶりということもあり、やはり最後の一つは重みが違う。
と、誰かの手とオレの手がぶつかる。
「あっと、すいません」
相手の顔を見る。
「あれぇ、お前確か……」
「それに、空樹雪華ぁ……」
それは、前に鶴竹に絡んでいた上級生だ。他の奴なら譲ることも厭わない。しかし、コイツ等に譲ってやるつもりもない。また、雪華の名前を忌々し気に呼んだのも気に入らない。
「ここはさぁ、先輩に譲るのが普通じゃない?」
あえて優しい口調で話す。コイツを知っている奴は、むしろ恐怖を感じるのだろう。オレもコイツ等を知っているが、恐怖は感じない。むしろ、『先輩に譲るのが』と言っているのが気に入らない。コイツ等が言う事が正論なら、むしろコイツ等がオレに譲るべきだ。こちらの中身は社会人なのだから。
それに、よってたかって後輩に絡むような奴を先輩と呼びたくないし敬いたくもない。たかがパン一つの話だが、その『たかが』すら、コイツ等が相手だと譲る気がなくなる。そして、コイツ等を先輩として敬いたくないというのは、雪華も同じらしい。アイツの表情を見れば、それが分かる。
「後輩に集団で絡んで、ぞの上それを口止めしたような奴らを先輩って呼べってか? ふざけんなぃ」
それに、鶴竹とのこともある。アイツがオレに虐められたと雪華に言ったのは、大方コイツ等が鶴竹を脅したのだろう。オレはそう思っている。というか、アイツがわざわざオレを犯人に仕立て上げる理由が分からないので、それしかないだろう。
「はぁ? 何の事だよ」
上級生たちは、とぼけて見せる。生徒指導の前で正直に認めたのだ。今更とぼける事もないものだ。オレがそう言うと、
「いや、口止めの事は知らねぇって」
そう言って手を振る。後ろの仲間たちも、同じ様に知らないと同調する。その態度に頭に来たのか、雪華が少し強めに詰め寄る。オレより鶴竹を知っているからか、オレより怒りが大きいのだろうか。
それでも、連中は口止めの事は認めなかった。更に雪華が何か言おうと口を開いたが、丁度チャイムが鳴った。次は国語のテストがあったはずだ。
「やっべ」
仕方なく、オレは雪華の手を引き教室へ帰る。コイツ等の事は許せないが、だからこそこんな連中のせいで教師に怒られるというのもつまらない。
ただ、あそこまで否定するとなると、本当に知らないのでは、と思えてくる。一応連中も、鶴竹に絡んだことは認めている。オレはともかく雪華はその場にいなかったので、意地でも『オレが鶴竹を虐めていてそれを止めようとしたコイツ等がオレに返り討ちに遭った』とでも言い通せば良いのだ。そうすれば、オレと雪華の仲を裂くまではいかなくとも幾らかの疑念を持たせることは出来るはずだ。
それをしないのは、雪華がそれを鵜呑みにしないくらいにはコイツ等を信用していないことを知っているのか、或いは本当に口止めに関しては知らないのか。しかし、それが仮に本当だとすると鶴竹がオレに悪意を持っているという事か。どういう事だろう。オレはアイツに恨まれる覚えはない。入れ替わってからは勿論、入れ替わる前も。アイツとは、この学校で初めて会ったのだから。テストの間も、ずっとそれを考えていた。
テストが終わってからの休み時間でも、雪華は険しい顔のままだった。昼休みにいつものメンバーで昼飯を食べている時に、ようやく顔から険しさがなくなった。
放課後、再び掲示板を見てみた。というより、目に入ったといった方が正しいか。そこには、一枚の大きな紙が貼られていた。学校新聞とかいう紙の無駄遣いではない。『生徒会からのお知らせ』と太い字で書かれていた。
「えっと、『体育祭準備のためのボランティア募集』ねぇ……」
当然、オレに参加する意思はない。もう一つ、面白い事が書かれていた。何でも、どれだけ貢献したところで内申といった事には一切影響しないという事だ。某国がオリンピックのために徴収しているボランティアでさえ学生をニンジンで釣っていたというのに、要するに何の報酬もないという事だ。
何の報酬もないなんて、わざわざ書く必要があるのだろうか。いっそ点数稼ぎに必死になっている学生を集めた方が、よく働いてくれるのではないだろうか。
「これ書いた奴、そう頭良くないんじゃあねぇか?」
ため息混じりに呟くと、
「悪かったわね」
後ろから鋭い声が聞こえた。振り返ると、オレより少し背の低い少女が立っていた。この校舎の中にいてオレと同じ制服という事は、この学校の生徒だろう。スリッパの色がオレと違うので、二年生か三年生だろう。
見覚えのある顔だったが、どこで見たのか思い出せなかった。いかにも性格のきつそうな、吊り上がった眼だ。『御前さん』は冷酷な女帝といった風だが、こちらはいかにも語尾に『ざます』がつきそうな、PTAの会長でもやってそうな厳しい女といった風だ。
「あらぁ……」
何とも気まずい空気になる。こういう時に、誰か助け船を出してくれないだろうか。そう思いながら、目を動かす。誰もいない。
「あ、用事を思い出した」
苦し紛れの手本の様な文句を吐き、オレはその場を去った。あの発言からすると、あの女は体育祭の実行委員か生徒会の人間だろうか。ただでさえオレは生徒指導に目を付けられているというのに、もし生徒会の人間ならまた面倒なことになりそうだ。
帰り道、オレはいつもの様に自転車で家に帰っていた。八月の終わり、まだ暑い。オレは、コンビニの前に自転車を止める。さて、何を買おうか。
冷たい飲み物を買い、満足しながら店を出る。その時、何かがオレの顔を覆う。
「何だよコレ……」
それは、一枚の紙だった。あまり綺麗とは言えない。内容も、『アホらしい』の一言に尽きる。
「えっと、『死神募集』ねぇ……」
可哀想に。これを書いた奴は、暑さに頭をやられているのだろうか。それかよほどの暇人だ。何が死神だ。人を騙して遊ぶなら、もっと真面目にネタを考えるが良い。死神募集と書いて、なりたいと思う奴がいると思うのか。しかし、遊びで作ったにしてはえらく手が込んでいる。まともな会社の募集要項とそこまで差はない。書かれた紙の汚さを除けばだが。
それに、紙に書いてある給料もオレが前に勤めていた会社の方がまだ高い。いくら職に就きにくい時代でも、こんなものに本気ですがる奴がいるのだろうか。こんなものを作る奴も作る奴だが、釣られる奴も釣られる奴だ。オレが人のことを言える義理ではないが、そんな奴がいるのなら就職活動を舐めているとしか思えない。
尤も、こんなお遊びを真剣に批評しているあたりオレも同じ穴の貉か。自嘲を込めて、小さく笑う。オレは、その紙を丸めてゴミ箱に捨てる。そして自転車にまたがり、ペダルを踏んだ。
ところで、ちゃんと伏線ははれてるのでしょうか。
出来てないなら出来てないで、次の課題にしたいです。




