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ソウセキ2017  作者: 多田野 水鏡
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十三番目の不死鳥と逆時計

 今回は、総集編となっています。一応、ここまでで前半戦は終了と考えています。

 それから何の問題もなく月日は流れ、いつの間にか夏休みになっていた。当然社会人に夏休みなどある訳がないので、これも久しぶりの事だった。特に何をする予定はないが、せっかくの夏休み。どうせなら、無駄に過ごしたくはない。もしかしたら柚菜や美音が遊びに誘ってくれるかもしれない。オレの実家は田舎だったので、やる事と言ってもたかが知れていた。都会の高校生の夏休みを過ごすのは、初めてだ。何か都会でしかできない面白いことを期待しよう。

 その内眠くなったので、歯を磨いて寝る事にした。部屋にクーラーなんてものはついていない。だから、部屋の窓を開けて眠る。窓を開けても、聞こえるのは車のうるさい音や馬鹿が騒ぐ声ばかり。オレの田舎なら、蛙の鳴き声が聞こえたものだ。全く、都会というのは情緒がない。こんな所、遊ぶのはともかく住むのにはてんで向いていない。

 文句を言っても仕方がない。今のオレは一介の女子高生。就職するまでは親の庇護の下にあるのだ。出ていきたいなら、親の傘から出てからだ。薄っぺらい夏布団で腹だけを隠してベッドに寝転がる。だんだん暗闇に意識が引っ張られていく。


 気が付くと、オレは教室にいた。そこで、雪華や柚菜、美音と談笑している。はて、と首をひねったが、すぐにこれは夢なのだと思った。オレは確かに、自分の部屋のベッドで眠っていたのだから。そして、どうやら自分の過去と言うか桜になってからのオレの日々を夢として振り返っているのだろう。単にテストの夢だけかもしれないので、まだ断定はできない。

「あぁあ、テスト酷かったなぁ」

 柚菜がこんな事を言う。私も、と美音が小さく続く。テストとは、期末試験の事だ。元社会人としては情けない話だが、オレも良い結果とは言えなかった。文系科目は問題ない。問題は理系だ。理科は低くはあってもどうしてもダメという程ではなかった。しかし、数学は壊滅的だった。四十人いる内で、数学の順位はなんと三十九位だった。

 こっちが嫌いだと思っている内は誰が相手でも仲良くできないように、苦手意識を持っている内はいくら勉強しても頭に入ってくれないのかもしれない。

「二人はどうだった?」 

 柚菜がオレたちに振る。数学は壊滅的だったよ。そう言おうとすると、勝手に口が動いて思った事を言ってくれた。というより、あの時オレが言った事をそのまま言った。どうやら、回想の夢だけあってあの時とは違う事は言えないし出来ないらしい。現に、足も勝手に動いた。

「まぁ、アタシも人を笑えるほどの成績じゃあなかったが、あれはさすがにひどいぞ」

 雪華がオレの肩に手を置きながら、ため息混じりに言う。

「雪華も英語はボロボロだったろう? 人のこと言えねぇや」

 雪華の奴、英語の点数はオレの数学より低かった。他はどれも心配はなかったが、英語だけは心配になるレベルだった。

「うぅ……」

 オレが言い返すと、雪華は黙ってしまった。別にへこませるために言った訳ではない。そんな顔をされると、困ってしまう。

「だったらさ、桜が教えてあげれば良いんだよ」

 柚菜が助け舟を出す。雪華は満更でもなさそうだが、オレはそうもいかない。雪華が嫌なのではない。確かに、英語は他よりは得意だ。どういう因縁があるかは知らないが、オレは英語だけは他の科目より頭一つ抜けていたのだ。

 なら何が嫌なのか、人に勉強を教えるなんてオレには初めての経験なのだ。雪華を友達だと思うからこそ、まずい教え方はできないししたくない。だから「はい」と言えないが、「いいえ」と切り捨てたくもない。どう答えたものか。


 そんな事を考えていると、いつの間にか体育館にいた。ステージのホワイトボードを見るに、今は球技大会の最中らしい。あの後から、クラスの連中はオレに普通に声をかけてくれるようになった。オレが柚菜と美音を応援した事、ジャガイモと平江とを和解させた事で、オレの悪評が薄れたらしい。雪華に後で聞いたが、柚菜と美音が本当の事をクラス中に教えてくれたことで、完全に濡れ衣が証明された。二人には、頭が下がる。

 今ではジャガイモと平江は仲良くしているようだ。というのを、前に柚菜に聞いた。やはり、仲が悪いよりは良いのに越したことはない。

 それから新聞だ。赤石の奴、球技大会の新聞を書いてその端に小さくオレの事の訂正記事を書いた。書いたことは書いたのだが、あんな小さい記事では分かる訳がない。それでいて、『書くことは書いたのだから読まない奴が悪い』というスタンスを決め込むつもりだ。どこまでも汚い奴だ。だから、クラス以外でのオレの評判は依然として変わっていない。


 そうかと思うと、いきなり雪華がオレの顔を殴ってきた。あの時の雪華との喧嘩だ。殴られたはずなのに痛くないのは、夢だからだろうか。あの時は、雪華とこんな風に友達と呼びあえる仲になるとは夢にも思わなかった。

 ふと見ると、赤石がこちらを見ている。あの時は気付かなかったが、雪華がオレをここまで連れてきたときに、何事かと思って後をつけていたようだ。オレたちの喧嘩を見ているアイツの顔は、実に楽しそうだ。

 アイツを殴りに行きたいが、そうもいかない。生憎これは夢で、オレの思うようには動けないのだ。そして、夢の中でオレが雪華を殴り出す。いくら前の事とはいえ、雪華を殴りたくはない。やめてくれ。オレの癖に、オレの思う様に動けないのは悔しいものだ。

 赤石の奴、オレがこの場を離れようとするのを見てすぐに逃げてしまった。どこまでも卑怯な奴だ。


 それから、雪華にバレーを教えた事、柚菜や美音と遊びに行った事、入学式やクラスでの自己紹介の事などを振り返っていった。桜の入れ替わる前の、本来のオレの高校生活よりかなり華がある時間を過ごせた様に思う。


 また場面が変わる。さっきまでと比べると、視界が少し高くなったような気がする。そして、ここは公園だ。雪華が竹刀を振るっているのが目に入る。という事は、これは入れ替わる前の出来事か。数か月しか経っていないのに、なんだか懐かしい気がする。

 オレの足は、勝手に歩き出す。確かこの後桜を助けて、目を覚ましたら桜と入れ替わっていたんだ。このままオレが桜を助けなければ、オレはオレのままでいられる。しかし、それでは桜は死んでしまう。いや、オレにいつまでも連絡がない以上桜は死んだと見る他はない。

 そういえば、オレが入れ替わってからすぐ読んだ病院の新聞には、桜は誰かに殴られて怪我をした、と書かれていた。という事は、オレがあそこで桜を庇った事と入れ替わった事は関係ないのだろうか。もしかすると、オレがあそこで桜を助けたのは無駄だったのか。

 そんな事を考えている間に、オレの足は道路に向かっている。いくら夢でも、もう一回車に轢かれに行くというのはやはり怖い。あの時は何も考えないでただ突っ込んだが、今回は違う。

 オレの身体は、勢いよく車に向かって突っ込んでいく。車の運転席が見えた。そこには運転手らしき人物の顔が見えた。オレと大差ない若い男は、飛び出んばかりに目を大きく開き、ブレーキを踏んでいるのか歯を食いしばっている。その顔が、一瞬ぶれる。いや、あの男の顔に、もう一つの顔が重なった。どこかで見た顔だ。どこで見たのか。

 その後、視界が大きく動いた。今、車に轢かれたのだろう。痛みを感じないのがせめてもの救いか。

 だんだん視界が暗くなっていく。あの時のオレの視界を再現している。男の何か焦っているような声も聞こえる。そのセリフも再現されている。というより、前よりもやけにはっきり聞こえた気がする。

 その時、いきなり視界に何かが映った。それは、桜と入れ替わってから何度か見た汚い身なりの男だ。歳は三十代後半といった所か。髪はボサボサで、白が少し混ざっているのが特徴的だ。そうだ。あの顔は……。

 思い出したところで、ソイツがオレに向かって手をかざす。

 

 そこで、目が覚める。

 そうだ。思い出した。アイツは、夢で見た顔だ。オレがお化け屋敷の様な薄暗く不気味な場所にいて、誰かに運ばれている夢、アイツはそこでオレをどこかに運んでいたのだ。それなら、尚更おかしい。どうして、夢の中の存在であるはずの奴の顔が、オレの過去を振り返る夢に出てきたのか。なぜ、あそこで運転手と顔が重なったのか。

 あの男は、何者だ。あんな男、入れ替わる前は見なかった。運転手ではないだろう。運転手は、一瞬見えた若い男であってコイツではない。あそこにいた野次馬だとしても、あんな視界でアイツの顔だけがはっきり見えたのはおかしい。

 これはただの夢で、あの男が何者かは気にしなくて良いのだろうか。いや、それならなんであんなにはっきりあの男の顔が見えたのだろうか。あの男のような服装の奴は何人か見たが、あの顔は今まで会ったどの顔でもない。

 半袖のパジャマが、汗でべったりと体にくっついている。それを気持ち悪いと感じる事を忘れるほどに、オレの心を冷たいものが占めている。単純に、夢で見た知らない男がオレに手をかざした事が気味悪かったばかりではない。アイツはオレが説明できる者ではないような、言葉では上手く説明できない、得体の知れない感情をあの男から感じた。

 夏だというのに、背筋が震える。アイツは、何なんだ。

 ああああああああああああああああああああああああ! 八月中に夏回投稿したかったのにぃぃぃぃっぃぃぃ!

 ……色々とリアルで忙しかったのです……。

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