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ソウセキ2017  作者: 多田野 水鏡
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ソウセキ2017 番外編 

 今回の話は、本編とは一切関係ありません。本編の箸休めとして書きました。しかし、色々と大丈夫かなぁ……。まずかったら消します。

 携帯電話のアラームが鳴る。オレは眠い目をこすり、ゆっくり身体を起こす。日曜日というこの日。入れ替わる前はゆっくり昼過ぎまで寝ていたのだが、入れ替わってからはそうはいかない。と言っても、別に立木家の風習という訳ではない。

 部屋を出て、ゆっくり階段を下りる。居間に入るが、まだ家族は起きていない。むしろ都合が良い。仁奈は言うまでもない、母親に見られた日には何かとうるさいに違いない。桜が見ていたとは思えないし、見ていたとしたら記憶が戻ったのか、とうるさく聞かれるだろう。

 テレビの電源のリモコンを握り、電源をつける。テレビのチャンネルは、オレが見たい番組とは違う。見たい番組を放送しているリモコンの番号を押す。

『仮免ドライバーイースト、この後すぐ!』

 ちょうど前の番組が終わり、ジャンクションが流れているところだ。オレが見たかったのは、この『仮免ドライバー』シリーズである。この番組は大人気の特撮番組であり、この『仮免ドライバー』は約一年で新しいシリーズになるのだが、丁度今日が新しいシリーズが開始するのだ。

 大学生のころから見始めていた。正確には保育園時代に見ていたが、小学生に入った事を機に卒業した。そして色々あって大学生になって再び視聴するようになった。

 

 オープニングが始まり、今年のドライバーがテレビに映る。そう言う雑誌を見れば新しいヒーローの情報が分かるのかもしれないが、オレはそんな雑誌は読まない。興味はむしろあるが、先に知ってしまうと楽しみがなくなるからだ。

 しかし今年のヒーロー、あれは一体何だ。顔が食パンそのもので、その中央に歴代のドライバーと似たような顔がくっついている。スーツの色はいわゆる小麦色で、どう見てもパンである。腰のベルトは黒で、メロンパンの様なものが付いているが、果たしてあんなベルトが売れるのだろうか。今までのドライバーはもっと格好良かったというのに、どうした事か。

 まぁ、まだ見てもいないのに頭ごなしに批判するのは娯楽を楽しむ者の正しい姿勢ではない。また、本来子供向けの番組なのだ。ターゲットの子供が楽しんで見ているのならそれで良いではないか。大人が偉そうに口出しするものではない。

 それに、放送開始当時はボロクソに言われていても、いざ続けてみればどんどんその良さが分かり、最終的にはその終わりを悲しむようになるだろう。これまで初めは『格好悪い』と言われていたドライバー達も、皆そうだったのだ。

 ソファーに腰掛け、テレビに集中する。

『いらっしゃいませー! 丁度今焼きたてですよ!』

 テレビには、トングを片手にしたエプロン姿の青年が笑顔で接客している。入れ替わる前のオレと同じ位の年頃の青年がいるそこは、パン屋らしい。何種類ものパンが置かれており、もう片手にはパンが乗ったトレーがある。 

 歴代ドライバーは様々な職業に就いていたが、中には働いていない者までいた。しかし、パン屋に勤めるヒーローというのは、今年のドライバーが初めてかもしれない。

飯太郎(いいたろう)くん、お疲れ!』

 初老の同じくエプロン姿の男が、店の奥から現れる。主人公の名前は飯太郎というらしい。飯太郎は、エプロン男と笑顔で話している。中々明るい性格のようだ。

 勤めが終わり、店を出る飯太郎。商店街を歩いていると、八百屋だの魚屋だのの店員から声を掛けられている。いずれも親し気に話しかけており、飯太郎の人気ぶりを窺える。たまに、煎餅やら飴やらを飯太郎に渡すおばちゃんもいる。

 しばらく歩いていると、誰かとすれ違う。その相手は、飯太郎と同じくらいの歳の男だ。そのシーンをスローで映していたので、もしかするとあの男は今後何らかの形で飯太郎と絡むのかもしれない。飯太郎は一度後ろを振り返ると、そのまま歩いて行った。


 場面が変わり、暗い部屋が映る。そこにはいかにも悪の親玉らしいコスチュームに身を包んだ男が、白い細身の集団の前で演説をしている。今回の敵の組織は、メンルイダーというらしい。主人公の見た目や敵の名前から見るに、今回のモチーフは炭水化物らしい。という事は白い集団は本作の戦闘員で、そのモチーフはうどんやそうめん辺りだろうか。

 演説の内容は、一言で言えば『今から世界征服するから、皆で頑張ろう』という事だ。悪役の王道といった野望である。

 演説が終わると、鬨の声が上がる。満足げな笑みを見せる親玉。と、そこでCMが始まる。

 

 CMが終わり、舞台は市街地に変わる。今は丁度昼頃で、レストランは昼食を食べている人で賑わっている。家族連れ、カップル、中には一人で昼食をとっている者もいる。まさに、幸せな時間といった風だ。

 その時、誰かの悲鳴が。カメラが悲鳴の主を映す。

『オラ、うどんだよ! うどん食えよ!』

『日本人はうどんさえ食えりゃあ幸せなんだろう? 食え、食えよ!』

 白い装束に身を包んだ集団が、カップルの口に白く長いものを詰め込んでいる。二人の発言からするに、それはうどんのようだ。

『インスタ映えとか言ってんじゃあねぇよ! お前らはうどん食ってろ!』

 次々に白一色の戦闘員が現れる。逃げ惑う人々を捕まえ、無理やりうどんを食べさせる。さっきまでの幸せそうな光景が一転、奇妙な集団によって辺りは地獄と化した。

 その白い集団を従えているのは、蜘蛛を思わせる見た目の怪人だ。その怪人は、黒いマントを背中に着けている。顔は蜘蛛らしいが腕が左右一本ずつしかない。

 口から白い糸の様なものを吐いては、それを戦闘員に手渡している。あれはもしかするとうどんだろうか。事によると、うどんへの盛大な風評被害を与えているかもしれない。某県民に怒られないと良いのだが。

『やめろ!』

 どこかから飯太郎が現れる。その眼は、怒りに燃えている。右手を前に突き出す。あれは、歴代ドライバーに漏れず、変身ポーズをとっているのだろう。右手を勢いよく引っ込め、そのまま何かを切るように左手を水平に振る。そして、その左手を右斜め上に突き出す。

『変身!』

 掛け声と共に、飯太郎の腰にベルトが現れる。そのベルトが激しい光を放つ。光が止むと、そこには食パンの様な顔のヒーローが立っていた。果たして、あんなヒーローがどうやって敵と戦うのか。まともに戦えるのか。期待というより心配になってくる。

『仮免ドライバー、イースト!』

 ポーズと共に、背後が爆発する。決めポーズなど取っている場合ではないと思うが、こういう番組においてその辺りの事は言ってはいけない。イーストは、勢いよく白い集団に向かって駆け出す。

 一番初めにイーストにつかみかかる白い戦闘員に向かい、勢いよく右手でパンチを繰り出す。それを食らった白いのが地面を転げる。別の白いのがイーストに襲い掛かるが、ソイツは両手で剣を持っている。それを黙って食らうヒーローではない。

 自分に振り下ろされる両手を掴み、白いのの腹に蹴りを食らわせる。その際ちゃっかり相手の剣を奪っている。 その剣で、次の戦闘員の剣を受け止める。そして、腕を動かして相手の剣を払いのけ、戦闘員に剣を振り下ろす。白いのは、悲鳴を上げて倒れる。それを確認すると、剣を捨てて構えを取る。

 戦闘員たちは、動きが止まる。白い戦闘員を率いていた蜘蛛の怪人は、戦闘員たちに戦うように命令する。しかし、彼らは動けない。イーストを恐れているのだろうか。

『えぇい、こうなればオレ様が相手だぁ! 覚悟しろ、パン野郎!』

 蜘蛛がイーストに襲い掛かる。蜘蛛はイーストに向かい右手でパンチを繰り出す。その腕を掴み、背負い投げを決める。受け身を間に合わない。勢いよく地面にたたきつけられた。呻き声を挙げながらも、すぐに立ち上がり右足で蹴りを喰らわせる。

『やるな。なら、こうだぁ!』

 蜘蛛の背中から、左右二本ずつ腕が生えてきた。いや、あれは背中のマントで腕を隠していただけだ。大方、イーストの実力を知って本気を出したのだろう。その四本の腕には、細い剣を握っている。

『フフ、この剣には毒が塗られている。かすり傷でもお前の命を奪うには充分だぁ』

 右手の内の一本が握っている剣で、近くにあった店の看板を浅く斬る。その切り口からは、白い煙が出ている。しゅうぅ、と音がする。切り口が溶けているのだろう。

『行くぞ!』

 四本の腕で、素早い突きのラッシュを繰り出す。さすがにイーストも厳しいのか、蜘蛛の怪人が優勢になる。思わず唾を飲み込む。蜘蛛の口が開く。その口から、白い糸が噴き出す。そこはさすが蜘蛛といったところか。糸が絡み、イーストの動きが鈍る。

『くっ……!』

『ハハハハハッ! 死ねェい!』

 蜘蛛はいい気になっている。このままでは四本の剣でイーストは刺されてしまう。思わず唾を飲みこみ、画面に見入ってしまう。

 剣先が、イーストの胴体に向かって唸りをあげて突っ込んでくる。

『そうだ!』

 イーストは、剣を避けない。そのままでは刺されてしまう。イーストの顔が、アップで映される。イーストは、剣が刺さる寸前で身体を捻る。身体に刃が当たるか当たらないかのギリギリのところだ。

 何かが溶ける音が聞こえる。白い煙がイーストの身体から出ている。イーストは、剣を避けることが出来なかったのか。

『何ぃ!』

 驚いた声を上げたのは、怪人の方だ。剣は、イーストを斬ることは出来なかった。剣が捉えたのは、イーストの身体に絡みついた糸だったのだ。

『貴様ぁ……!』

 糸から解放されたイーストは、綺麗な、しかし力強い回し蹴りを決める。それは蜘蛛の顔面に直撃し、蜘蛛は後ろに倒れる。怪人が倒れている隙に、イーストは腰を落として深く息を吐く。そして、蜘蛛の怪人に向かって走り出す。怪人に近づくと、地面を蹴り高く跳ぶ。跳び上がると同時に、右足が赤い光を放つ。

 空中で一回転して、右足を怪人に突き出す。怪人に跳び蹴りを喰らわせる。イーストの右足は、蜘蛛の胸板を強く蹴る。怪人は再び後ろに倒れ、呻き声を上げる。少し経つと、蜘蛛は爆発した。その爆発を見届けると、イーストは変身を解かないで去っていく。

 間もなく、エンディングが始まる。オレは、大きく息を吐く。気が付くと、両手を強く握っていた。それだけ熱中していたということだろう。

 変にごちゃごちゃしておらず、昔に返ったような渋い演出だった。まだパンらしい所は見せていないが、これからに期待するには充分といったところか。一週間の楽しみが出来た。

 

 翌日、クラスの陰気そうな男子グループは早速昨日の『仮免ドライバー』の話題で盛り上がっていた。是非オレも仲間に入れてほしい所なのだが。女子グループの化粧品やらアイドルの話なんか、微塵も興味が湧かない。桜が男だったら、もう少し楽だっただろうに。頭を落とし、溜め息をついた。

 こんなもの書いてる暇があるなら本編書けよ……。

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