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第2話 子供たちがいなくなる

 近寄るとメリーゴーランドの音楽が聞こえてくる。音量はいつもより小さくしているようだ。

 奇妙なことに馬車や馬にマネキン人形が腰かけている。

 マネキン人形はデパートの服飾売り場のようにカジュアルウェアに身を包み、男性、女性、子供など老若男女がそろっていた。

 私はあることに気づいてゾッとした。マネキン人形がすべて白いホッケーマスクで顔を隠しているのだ。明るい曲であるはずの音楽もホッケーマスクのせいか、ホラー映画のBGMに思えてくる。

「なんか気味悪いわね」

 わたしがつぶやく。

「やっぱりここは心霊スポットだ。ネットの噂通りだ」

 サトシが言う。

「ネットの噂?」

「知らないのかい。裏野ドリームランドは表向きは経営不振で廃園になったことになってるけど、本当は違うんだ。

 バブル時代にくらべれば観客動員数は半減したみたいだけど、リニューアルオープンしてから、そこそこ黒字経営を維持していたらしい」

 サトシの説明によると、もともと裏野ドリームランドは地元の地銀の子会社が設立したが、外資系ファンドが買収して、裏野市に本社がある中堅外食企業、裏野フーズに株式の大半を売却したとのことだった。

 裏野フーズ株式会社は全国に百店舗以上のハンバーガーチェーン店『ウラノバーガー』を展開する二部上場企業だ。

 『ウラノバーガー』でハンバーガーを食べると、同社が発行するユーポイントカードのポイントがたまる。すると裏野ドリームランドの入場料やアトラクションの搭乗券が割引になる。

 一方、家族づれで裏野ドリームランドで一日遊ぶとユーポイントカードのポイントがたまり、全国の『ウラノバーガー』でバンバーガーが二個以上、無料で食べられる。

 親会社のハンバーガーチェーン店との相乗効果で、裏野ドリームランドは他のアミューズメント施設と違い、存続できる程度の収益は十分上げていた。

 サトシはそう説明した。

「じゃあ、どうして廃園になったの?」

「裏野ドリームランドでは、子供がよく行方不明になるらしいんだ。おそらく何者かに誘拐された可能性が高い。親たちは警察に捜索願を出して、園内も警察が入念に調査するようになっていった。

 ところがどうやら裏野ドリームランドの運営会社自体が、子供たちの誘拐犯グループと関係していたらしいんだ。いや運営会社自身が誘拐犯の主犯で、チンピラを雇って子供をさらっていたらしい。

 そこで運営会社としてはこれ以上、警察に真相を知られないために廃園にした、というのがネットの噂なんだ。

 そもそも子供を誘拐すること自体を目的に遊園地を経営していたのかもしれない」

「信じられないわ。そんな話」

「嘘だと思うなら、ネットで調べてみろよ」

 わたしはキュロットスカートのポケットからスマートフォンを取り出し、ブラウザの検索エンジンに「裏野ドリームランドの噂」を入れてみた。

 すると、検索結果のタイトルやサマリーになぜか、ジェットコースターに関する記述が多い。その一方で子供の行方不明に関する記述は見つからなかった。

 裏野ドリームランドと言えばジェットコースターに都市伝説が集中しているようなのだ。

 裏野ドリームドリームのジェットコースターを三日続けて乗ると、1週間以内に交通事故に会う。

 真夜中、ジェットコースターに首なし死体の行列が搭乗しているのを見た。

 ジェットコースターの最前席からドラゴンが飛び出すのを目撃した。

 ジェットコースターはよく脱輪による死亡事故が起きるが、運営会社の広報部がマスコミを完璧にシャットアウトして、絶対に表沙汰にしない......。

 同じ裏野ドリームランドのジェットコースターにまつわる噂だが、その内容はまちまちだった。

「サトシ、検索してみたけど、子供が誘拐されるっていう話はないよ。ジェットコースターの話ばかりじゃない」

「いや、根気よく探していくと必ず見つかるはずだよ」

 わたしは検索を続ける。三ページ目くらいで下の方にようやくそれらしき記述が見つかった。

 裏野ドリームランドのジェットコースターの搭乗口付近に人気の少ない場所があり、屈強な大人の男が子供を背後から羽交い絞めにして、クロロホルムを染み込ませたハンカチで鼻と口を覆う。すると子供は意識を失い、男は子供をスーツケースに入れて連れ去る。男は裏野ドリームランド株式会社の派遣社員......。

「一週間前ぐらいだとすぐ見つかったんだが、多分、運営会社側のステマ効果で見つかりにくくなったんだと思う」

 サトシによれば、ジェットコースターの搭乗口付近で子供が誘拐されているという事実を隠すために、ステルスマーケティング要員を雇って、ジョットコースターという語を使った偽の噂をブログやSNSに情報拡散させたとのことだった。

 ジェットコースターにまつわる都市伝説は多いものの、どれも少しずつ内容が違うのはこういうわけだった。

 合法違法を問わず、ネットのステルスマーティングを専門に請け負う専門業者が世の中には複数あり、そもそも裏野ドリームランドはステマが成功した典型的なテーマパークの一つだった。

 つまり”さくら”を雇って、ブログやSNSに、裏野ドリームランドに遊びに行ったけど、よその行楽地にくらべ楽しかったと絶賛し、それを読んで騙された人々が次のウイークエンドの客になる、という広報戦略である。

「裏野ドリームランドで子供が行方不明になる。こういうネット上の噂を隠すのは、運営会社の広報部が得意とする仕事だったわけだ。これまでやってきたステマ宣伝を応用すればいいだけだし......」

「でも一つわからないわ」

 わたしが言う。

「どうして運営会社は子供を誘拐しなくちゃいけないの」

 すると音楽が止まり、メリーゴーランドが停止した。

 馬車に乗っていたマネキン人形が、突然、外に飛び出して走り去る。

 マネキン人形ではない。人間がホッケーマスクを被り、中に紛れていたのだ。

 オレンジのつなぎ服に身を包み、黒いカンフーシューズを履いている。

「あいつは何者だ」

 サトシはホッケーマスクの男を追いかける。

「待って、危ないわ」

 わたしはサトシの後を追う。

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