その世界は窮屈で
悲しい作品を書こうとした結果です。
どうしてここにいるのだろう。
私はふと思う。
真っ白な世界。
そこに大地が生まれ。
緑が宿り。
やがて家が建ち。
川が流れ。
兎が生まれ。
空ができ。
小鳥が飛び。
雲が生まれた。
私は最後。
真っ赤なドレスに身を包み、ただ笑顔を向けるだけ。
それで十分。
でもどうして。
私は一人なのだろう。
「ねぇ、小鳥さん」
私は小鳥に話しかけてみる。
「どうして小鳥さんはずっと同じ場所を飛び続けるの?」
その質問に小鳥は答えてくれない。
「ねぇ、兎さん」
私は兎に話しかけてみる。
「どうして家に入れないの?」
その質問に兎は答えてくれない。
当たり前だ。
小鳥も兎もどうして生まれたのか答えは知らない。
この世界を知らない。
私のように。
そう。
私は一人。
ずっと。
私の前に一人の少年がやってきた。
親子で来たみたいだ。
青と白の帽子を被り、興味津々な様子で私を見る。
「ねぇ、お母さん。これなんて読むの?」
少年が私に指を向けて母に聞いた。
「悲しみ、よ」
「悲しみ? どこも悲しそうに見えないけども」
「それはね」
母が少年にその意味を教えている。
私も知りたい。
でもちょっと遠い。
私たちの名前は何なのだろう。
その答えを少年は知ったみたいだ。
でも、少年と会話はできない。
それは仕方のないこと。
私は一人。
私はずっと。
このままの姿で。
「悲しいからこそ世界が生まれる」
老人が言った。
私はその言葉の意味が分からなかった。
老人は杖を突き、興味深そうに私を直視する。
赤い縄を超えて私に触れようとして、警備員に止められる。
ああ、惜しい。
あともう少しで私に触れられたのに。
もしも老人が私に触れられたら。
私の世界は変わったのだろうか?
それは分からない。
悲しいからこそ、世界が生まれる。
この意味に気づいたとき。
私の世界は変わるのだろうか?
それも分からない。
「悲しいものだ」
老人は最後にそう呟いた。
その老人はその次の日も来てくれた。
またその次の日も。
それがすごく嬉しかった。
「悲しみ」
それが私たちの題名だと彼は教えてくれた。
私には母と父がいたらしい。
私が笑顔を向けるのは悲しい過去があるかららしい。
彼は教えてくれる。
どうして?
なんて疑問を持っても彼は答えてくれない。
ただ、彼の思い描いた世界を教えてくれるだけ。
私に思い出はない。
私に悲しみの感情はない。
あるのは真っ白な心だけ。
私はどうして生まれたのだろう?
それは分からない。
でもそれで良い。
それを知ってはいけない。