「え?趣味で小説書いてるの?読ませてよ」と言われた時のための小説
殺すしかない。
学校の友達に『それ』がバレた時、私はそう決心した。
一体どういう流れでそんな会話になったのか、よく覚えていない。気がつくと私は机の上に間違って持ってきてしまった『創作ノート』を広げ、名前も知らないクラスメイトにそれをジロジロと見られていた。油断していたのだろうか、それとも浮かれていたのだろうか。真っ白になっていた頭が、だんだんと現実を受け止めていく。まるで心の奥の奥の奥まで全部見つめられているようで、裸を見られるよりも恥ずかしかった。
何せ『ノート』に書いた物語は、私の『癖』を隠しもせず生身でぶつけた痛々しいものだったのだ。男性キャラクター達は、小学校の頃から私が温めてきた理想の男性像をこれでもかというくらい詰め込んだ『クソイケメン野郎』だったし、女キャラに至っては、自分自身の良いところを美化に美化しまくった自意識がダダ漏れの『クソメルヘン勘違い女』だった。ノートを手に取ったクラスメイトが感嘆の声を上げた。
「え? 何これ? あなたが考えたの?」
「いや……あの……」
残酷な言葉がナイフのように、ショート寸前の思考をズバズバ断ち切っていく。
「オッドアイ?」
「フゥン。この人、子供の頃ドイツでヴァイオリンを習ってたんだ」
「身長190cmに体重40kgって、ヤバくない?」
その一つ一つがクリティカルヒットし、私の胸を抉った。まずい。このままでは致命傷になりかねない。
「すごォイ! ねね、今度続きも見せてよ! お願い、誰にも言わないから!」
彼女は『ノート』の最後の方に書き殴られた物語の、『次回へ続く……。』の文字を指差しながらはしゃいだ。私は慌てて『ノート』を引ったくった。顔が熱いなんてもんじゃない。一体何故こんな物語を書いてしまったのか。自分で自分を鬼のように呪った。
「ありがとう、じゃあ明日ね! 約束だよ! バイバイ!」
私が何もいう前に、彼女は私に感謝し、一方的に明日の約束をして教室を出て行った。
「ま……待って!」
真っ黒になった頭で、私は転がるように彼女の後を追った。このまま彼女を逃してしまっては、大変なことになる。『誰にも言わないから!』と言って、次の日クラス全員に創作趣味のことが知れ渡ってしまったらどうしよう。きっと私の知らないSNSのチャットグループとかで、晒されてめちゃくちゃ笑われるに違いない。
やっぱり、殺すしかない。
私はポケットに隠し持っていたバタフライナイフを素早く取り出した。廊下に辿り着いた時には、彼女の姿はすでに見えなくなっていた。仮に学校を出たとしても、まだそう遠くへは行っていないはずだ。
少し考えた後、正門を越え、彼女らしき影を追って走った。私は唇を噛んだ。『秘密』を知ったものは、何人たりとも生かしてはおけない。たとえ二次元の向こう側だろうが、どこまでも追って行って始末しなければ。そう、たとえばこうやって、一線を越え
ることになってしまっても。