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ワンライ投稿作品

ノーサイドの用心棒

作者: yokosa

【第94回フリーワンライ】

お題:

ニセモノヒロイン

ウソツキヒーロー


フリーワンライ企画概要

http://privatter.net/p/271257

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負

「やあ、いらっしゃい。うちはバーボンしか置いてないが……見ない顔だが、どこから来なすった。アスパーモントから?

 へっへっへ、相部屋で良けりゃ、二階に部屋が空いて……何? わざわざラスシティの方へ? あんたがた、なんでまたあんな色気のない町へ。あすこは今、ゴロツキのグループが対立しててやばいんだぜ。住民が賞金かけて、保安官まで出張ってる札付きのワルどもさ。

 方や鉄の掟のイスト団、もう一方は血の盟約ウェストー家だ。あすこの連中には悪いがね、ここらじゃこれも娯楽の一部さ。へっへっへ……」


 *


「食らえボンクラ!」

 その語尾で火薬が弾けたのが約十分前のことだった。

 ウェストー家の現頭首にして長男、ハモンド・ウェストーは手下二人とともに馬具屋の裏で貼り付けにされていた。

 縄張り内だからと、馬具の調達に手ぶらで来たのはまずかった。二丁のコルト・アーミーを代わる代わる間断なく使ってくる相手に、手出し出来なかった。四十四口径の鉛に生身を晒すよりは、壁に身を寄せて増援を待つのが無難だ。

「血の盟約の団長もその程度かよ! 鶏の血でも飲んでろ!」

 イスト団を虚仮にされて黙っていられるか、とさすがのハモンドも飛び出しかけたが、それを静止する声があった。

「団長って本当? いくら出す?」

 壁の向こうからの声だった。馬具屋の客らしい。その口ぶりからすると、銃を持っているらしい。

 逡巡するハモンドの鼻先を、木屑がかすめた。銃弾で飛び散った壁枠だ。

「望むだけ出してやる! あいつをなんとかしてくれ!」

「オーケー」

 突然の助っ人は答えを確信していたらしい。返答と同時に号砲が響く。

 一発目は馬具屋の表の窓を破壊した。これは牽制。トリガーガードと一体化したレバーを前後してコッキング。開いた窓枠にウィンチェスターライフルの長銃身を預け、必中の二射目を撃つ。

 狙い違わず、コルト・アーミーの銃口を覗かせていた樽が吹き飛んだ。どうやら一発目で逃げの体勢にあったらしく、襲撃者を仕留めることは出来なかった。

 たった数秒間の応射で決着が付いた。ハモンドが呆然としていると、助っ人が顔を出した。

「とりあえず払うもん払ってもらいましょうか?」

 ウィンチェスターを背負ったその人物は、女だった。

 彼女は自らをベスと名乗った。


 *


「ウェストーの連中、腕利きを雇ったらしいな」

「流れ者に襲われて、肝を冷やしたそうだ」

「あの馬鹿兄弟に一泡吹かせたんなら、是非ともイスト団に引き入れてえもんだが……」


 *


「兄貴がこんな娘っこに守られただってぇ?」

 信じられねえ、と笑い飛ばすのは次男のリチャード・ウェストーだった。

 襲撃後、気の休まらなかったハモンドだが、ウェストー家の屋敷に戻って一安心していたところだ。

「そんな長モノ振り回すより、俺の長モノを丁重にもてなしてもらいたいねえ」

 無遠慮なリチャードの手がベスを引き寄せる。

「そんなにして欲しけりゃ、気持ちだけでなく魂ごと天に送ってやるよ」

 いつの間にかベスの右手には小型拳銃デリンジャーが握られており、その寸詰まりな銃口はリチャードの股間に突き付けられていた。

「別に無駄なモノを振り回さなくったって、あんたとあんたの子孫を根絶やしには出来るんだよ。わかったかい、坊や?」

 ウェストー家とイスト団は集団規模が同じぐらいだった。互いに出方を伺って手詰まりになっていたが、この用心棒がいれば膠着状態を打開出来るだろう。ハモンドはほくそ笑んだ。

 なんだったら、ベスを娶ってウェストー家をさらに盤石にしてもいい。


 *


「聞いたかね、保安官? あの悪党ども、お互いに流れの用心棒を雇って決闘やらかすんだと」

「町中でドンパチされたんじゃあ、たまらんぞ。いつどこでだ」

「明日の正午。二者総出で北の枯れ渓谷へ行くんだとさ」


 *


 翌日。

 無人の渓谷でイスト団とウェストー団の抗争が行われた。用心棒の決闘ではない。全面抗争だ。

 切り札として雇い入れた用心棒が時間になっても現れず、どちらからともなく血気に逸った構成員が撃ち合いを始め、結果として共倒れとなった。

 保安官は仮の拠点に定めた一室で、感嘆のため息をついた。

「たまげたね。本当にたった二人で悪党を潰しちまうなんて」

 保安官の目の前には二人の人物がいた。片方はウィンチェスターを担いだベス。もう一人は腰の両側にコルト・アーミーを吊った男だった。

「ま、ジョニー&ベスにかかればこんなもんさ」

 男――ジョニーがおどけで肩をすくめた。

「あんたは最初に脅しかけただけでしょうが」

 ベスがブーツでその臑を蹴りつける。

「いや、大したもんだよ。ついでに両陣営から用心棒代までふんだくったそうじゃないか?」

 保安官がにやりと笑う。本当の悪党を認めた顔だった。

 ベスは鼻を鳴らした。

「貰えるもんは貰っておかないとね。ほら、そっちもさっさと賞金渡しな。でなけりゃ、この町からもう一つ勢力を消すことになるよ」



『ノーサイドの用心棒』了

 なんかこう、悪党からふんだくって、官憲からもせしめる、みたいな話にしようと思ったんだけど。西部劇なんて初めてなのに、慣れないことはするもんじゃねーわ。

 予定ではもっとこう、SAAとウィンチェスターをバンバン撃ちまくらせるはずだったんだが。

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