epilogue
私は神様の自伝を読み終えてすぐ、店を出た。これ以上、長居はできそうになかった。
胸が打たれて冷静ではいられなかったのもあるし、好奇心やら、嫉妬やらに身を任せて、店に迷惑をかけてしまうことがわかっていたからだ。
住まいのある高層ビルに戻り、その通路で立ち止まる。身体で風を受けながらそっと目を閉じ、感想をまとめることにした。
確かに、神様の半生は英雄譚とは言えない。
楽園は神様の創ったシステムにより、ライフラインの8割を自動で供給しているため、誰かが維持する必要はない。だからこそ、働く必要のなくなった人々は娯楽に集中するようになった。だが、そんなシステムを、国家も飢餓も貧困も戦争も事故もない楽園を創ったのに、自殺や死人のでない争い等々はなくさなかったのかという問いを私はずっと持っていた。神様にしては不完全すぎると。
今回、それ対して、理由はこれだろうという目星を一つに絞ることはできた。神様が言いたかったことが伝えわったような気がする。
彼は 鋏を握り続けられなかった臆病者だったと告白したのだ。
故に、神様は自分を卑下し責める。そして、鋏を握っていたことも、罪と考えているのだ。世界の剪定は可能性を否定する殺人行為で、自分はそれを何度も行ったと自覚している。
自分は決して、善や正しさだけで構成された存在ではないと、神様は疑わない。
つまり神様は、正しさを押しつけ決められなかったから、世界の人々にその選択を託したのだ。
擦り付けた、とも言えるだろう。だけど、私はそんな風には思えないし、諦めと罵ることもできない。
全てを拾い上げようとした不器用な神様の決断として尊敬できる。彼が選んだのが、一人でも多く見捨てないための妥協案だとしても。
その結果が、痛みも癒しも不幸も幸せも捨てることはできなかったのだ、と理解しても変わらない。
そう、神様は鋏を捨てる前に、誰をも尊重しすぎた。人を善と悪で分けられなかった。否定することもできなかった。人は複雑で可能性に満ちていると信じていたがために。
だから、宙ぶらりんな楽園になった。できるだけの人を自由に生きさせる選択を神様は取った。
ここまで整理できても、神様に答え合わせはしなくていい、と私は考えを改めた。一部を知って決めつけたがるのは悪い癖だ。人間は可能性に満ちているのだから、始まりだけで判断なんてできない。答えも月日の分、複雑なのだ。
わかるのは立ち止まっても牽連したものを杖に、最後には立ちあがって進んだということだけ。
進む過程で色んなことがあって、積み重ねてきたのだ。神様も人ということである。
だから、私は愛しているのだ。不器用で多様性と可能性に囚われた神様を。一人の男性として。
完結です。処女作なので、粗だらけだったと思いますが、最後まで読んでくださった方ありがとうございました。
次回作もすぐ更新します。そのレベルアップもしたいので、感想、助言を頂けたらありがたいです。