句集:冬
どこまでも月と一緒の帰り道
夜寒かなビルの谷間に星一つ
終電車しわぶきの声此処あそこ
雪虫がすうっと頬を撫ぜていく
ストーブに灯油汲む音午後十時
やんだかな滑って転んで青い空
焼き芋を売る声に醒む昼下がり
三日月が波に帆立てる雲の海
雪の上落ちた赤いナナカマド
まだ明けない風の音遠くトラックが行く
どこまでも踏み分けていく白い道
朝が来ない出来なかったことばかり思い出す
除雪車が地響き立てて進む夜
手がかじかむうす青い空粉雪がふわり
夜明けて積もった雨雪歩くさくさく
霜やけて女学生の膝赤い
まだ死なぬうちから葬式の手配している
皮膚の下にされこうべ透けて見えている
病室に尿の匂いずっと耐えている
吹雪の夜飛ばされそうな月現れて消え
木枯らしに吹かれて笑う寒椿
木枯らしに悶える梢咆ゆる犬
総出してツルハシで割る残り雪
米をとぐ水の温みに春を知る
根雪落ち青空に輝るトタン屋根