極道な日々
俺の名前は極。
町内イベントの管理、入手しにくい物品の調達販売、住民トラブルの解決など、地域に密着した幅広い活動を行い、もって公益の増進に努めつつ、様々な公共機関と折り合いをつけていく団体業の跡継ぎだ。
え? 分かりにくいって? 要するにヤクザだよ。
「ぼっちゃん、お帰りなさいませ」
この眼帯をつけた凛々しい女は、ともえ。
組のボディガードだ。今は中学生だが、4月から高校。
年齢と性別で判断すると、ひどいことになるぜ。試してみるか?
「俺の留守中に、なにかあったか?」
「なにごとも」
とりあえず、コートでも脱ぐか。部屋が暑くてかなわねぇ。
「商談は、うまくいきましたか?」
「円安だから、ちょいと値が張ったな」
輸入業はつらいぜ。ルーブルで買えりゃ、話は別なんだが……。
今どき、ロシア産のトカレフなんて、誰も使ってないからな。
「妹は?」
プレゼント、ちゃんと買って来たぜ。
ピエトロ・ベレッタ92。
15発装填のダブルアクション。
妹はガンマニアだから、喜んでくれるだろうな。
「お嬢様は、外出中です」
また外をほっつき歩いてるのか……。
そういうことは、して欲しくないんだけどよ。
他の組に拉致されたら、どうするんだ。
つっても、死体が2、3転がるだけか。妹もそんなにひ弱じゃねぇしな。
「最近、やたらと外出が多いな。どこへ行ってるんだ?」
「それは伺っておりません」
「ボディガードだから、ちゃんと確認しておけ」
「申し訳ございません」
妹も同じような指示出してるんだろうな……ついて来るなって。
ともえは妹の右腕だし、命令も妹の方が優先だ。
縦社会の宿命。
だが、どうにも嫌な予感がする。
「まさか、男ができたんじゃないだろうな?」
「お嬢様にですか? ……そのような気配はございませんが」
ともえじゃ、雰囲気が読めないだろ。俺も読めないけどよ。
「前までインドアだったのに、生活パターンが変わったのはおかしいだろ」
「しきりに外出を勧めていたのは、ぼっちゃんだと記憶していますが……」
ぐッ……そうだったかもしれねぇ。
「そりゃ、屋敷の中に毎日閉じこもられてもな……」
「ならば、よいではありませんか。社交的になられた証拠です」
ともえの言うことにも、一理あるな。
男ができたならできたで、始末すればいいだけだ。
別に焦る話でもねぇ。
「ところで、おまえは市立に進学するんだよな?」
ヤクザと言えども、このご時世、学歴は大事だぜ。俺も大学生だ。
それに、ともえを市立へ通わせるメリットは、他にもある。
「遊子のボディガードも、やりやすくなるだろ。しっかり頼むぞ」
「草薙巴、来島組のために、誠心誠意働かせていただきます」