白髪な日々
アハハ、こんにちは、僕の名前は捨神九十九。
今日もいい天気だね。よろしく。
ベッドから出たらお昼になってたよ。徹夜で将棋してたせいかな。
まずは顔を洗って……と。弱視で前がよく見えないや。
将棋が原因じゃなくて、体質。先天性色素欠乏症なんだよね。
だから髪の毛が真っ白。染めてるんじゃないよ、これ。
「コンタクト、コンタクト……」
あった。
これつけないと、見えない上に、赤目で怖がられちゃうからね……装着完了。
それじゃ、待ち合わせ場所に急ごうか。髪がぼさぼさだけど、別にオッケー。
マンションを出たら、右に曲がって、大通りを真っ直ぐ。
この前の竜王戦の棋譜でも思い出そう。7六歩、8四歩、7八金……。
50手目の6五歩は、ほんとに成立してるのかな? 同歩、9五歩……。
136手目に9八香成じゃなくて3一香だと……あ、到着しちゃった。
カランカラン
箕辺くんたちは……あ、いたいた。
「遅かったな」
「ごめんごめん、タイマーで午前と午後間違えちゃった」
「つっくんって、そのへんがおっちょこちょいだよねぇ」
三つ子の魂、百までってね。
じゃあ、座ってコーヒーを注文。
「大事な話ってなんだ?」
そう、今日は大事な話があるんだよ。とても大事な、ね。
「この2人を呼んだってことは、来年度の運営についてか?」
「アハハ、違うよ」
言われてみたら、会長と副会長だね、この面子。
「だったら、なんだ? どっちにしろ将棋の話だよな?」
「実はね……」
どうしよう、これ言っちゃっていいのかな。
友だちの前なのに、緊張してきたよ。
「好きな子が……できたんだ」
……………………
……………………
…………………
………………
なんでふたりともそんな顔するの?
「ふえぇ……つっくんが変になった……」
アハハ、僕は、もとから変だよ。
「おい、ふたば、言い過ぎだろ」
「冗談だよぉ。で、お相手は誰かなぁ?」
これ、言っちゃってもいいよね?
でないと、アドバイスもらえないから。
「今年の春に一目惚れしたんだけど……」
あのときは、いきなり視線が釘付けになっちゃった。
気付かれてないよね? 気付かれてたら恥ずかしいな。
「今年の春……一目惚れ……1年生か?」
うん。
「どんな感じの子だ?」
「おしとやかで、優雅で、大和撫子って言葉がぴったりだよ」
あれ? 箕辺くん、どうしたの? 顔色が悪いよ?
「く、来島はオススメしないぞ。ほんとにオススメしないからな」
「来島さんが、どうかしたの?」
「違うのか?」
「来島さんって、いま僕が言ったキーワードに全然該当してないよね?」
「そんなことはないぞッ!」
え? 今度は怒るの? なんで?
意味分かんない。
「うーん、おしとやかで、優雅で、大和撫子……ボクのことかなぁ?」
アハハ、葛城くんは大和撫子っていうよりは、バラだよね。
奇麗な男の娘には刺があるのさ。
「そもそも、俺たちが知ってる女子か?」
いい質問だね。
「知ってるよ」
「俺たちふたりが知ってるってことは……将棋部?」
うん。
「将棋が指せるのは、彼女の第一条件だよ」
「そ、それも凄いな……で、誰なんだ?」
なんか恥ずかしいな……身内にライバルがいたら、どうしよう……。
特に佐伯くんと女の子の趣味が被ってたら、困るよ。
彼はイケメンだからね。天堂にもファンがいるくらいだし。
でも、僕ひとりじゃ全然進展ないし、ここは思い切って……。
「市立の飛瀬さんだよ」
「ブーッ!」
汚いなあ。
「もうちょっと落ち着いて飲みなよ」
「ゲホッ! ゲホッ! それマジで言ってんのかッ!?」
「あれぇ、今日ってエイプリルフールだっけぇ?」
「まだ12月だよ」
団体戦が終わって、時間感覚がおかしくなっちゃったのかな?
「ほ、ほんとに飛瀬が好きなのか?」
うわぁ、急に恥ずかしくなってきちゃったな。
「最初に訊いときたいけど……どっちか、狙ってたりする?」
……………………
……………………
…………………
………………
ホッ、いないみたいだね。
「飛瀬さんに彼氏がいるってこともない……よね?」
「な、ないと思うぞ、さすがに」
そっか……ラッキーだね。
「ダイヤが転がってるのに、だれも拾わない状況なんだ」
「おまえには、いったい何が見えてるんだ……」
「どういうアプローチしてるのぉ?」
「葛城くんって、いつも痛いところ突いてくるよね」
「えへへぇ、こういうネタ大好きだよぉ」
「とりあえず、大会で当たったら、いっぱい話してるかな。あと、文化祭ではゼリーを差し入れしといたよ。ゼリーが好きだって言ってたから。それと……今度、食事に誘ったんだ」
オッケーしてくれたし、勇気を出して良かったよ。
「それって……全勝賞のやつか?」
「うん、それくらいしか口実なかったからね」
あの面子に全勝するなんて……ますます好きになっちゃった。
「で、どこに誘うんだ? マックとかは止めとけよ」
アハハ、さすがにそこまで非常識じゃないよ。
「駒桜シティホテルのフランス料理か、駒寿司で悩んでるんだけど」
「え……それ予算いくらだ?」
「2、3万かな?」
「ボクも誘ってぇ」
アハハ、それじゃデートにならないよね。
飛瀬さんはデートだと思ってないかもしれないけど。
「おまえんちは金持ちだからな……でも、あんまり金で釣るのはよくないぞ?」
「最初に奮発したら、あとで盛り上がりに欠けるんじゃないかなぁ?」
箕辺くんと葛城くんが同意見なんだ……従っとこうかな。
「じゃあ、ランクを下げて、桜釜飯にしようか」
「それでも不自然だな」
「だねぇ、全勝賞のご褒美が口実なんだから、カフェでいいと思うよぉ」
なんか予算が20分の1くらいになってるんだけど……いいのかな?
ま、愛があれば、そのうちなんとかなるよね。
お店は……ゲシュマックでケーキをごちそうしよう。それがいいや。
「今日は相談に乗ってくれて、ありがとう。このことは秘密にしといてね」
○
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「第5回、『どうすればカンナちゃんが捨神くんにモテるか会議』を開催するっス。なんとカンナちゃんは、捨神くんからお食事デートに誘われたっスよ」
「Hmm……将棋で全勝したご褒美だと思うのですが……」
「ふわぁ、このミーティング、意味あるのかな?」
「会議は踊る……されど恋は進まず……」




