腹黒い日々
「琴音ちゃんとかけまして、レッサーパンダと解きます」
「その心は?」
「腹が黒い」
私のおなかは真っ白ですよ。笑魅さんは、なにを言っているのやら。
「ところで、夏希さん、復讐に失敗したというのは?」
「会場に変な手品師がいて、ギャラリーを取られちゃいました」
変な手品師……。
「椿油の黒木さんですか?」
「いえ、見かけない男子です。多分、高校生だと思います」
ふむ……市内には、まだ私の知らないおかしな人たちがいるようですね……。
「もう一度、チャレンジして勝てますか?」
「イマイチ強さが分からないんですよね……レモンちゃんは?」
「正直、負ける気はあんまりしません」
檸檬さんは、少々自信過剰なところがあります。
2割引きで聞いておきましょう。
「つーかよぉ、今日はその話で集まったんじゃねぇだろ?」
「伊織さん、どうしました? 機嫌がよろしくないようで」
「さっさと団体戦のオーダー決めようぜ。受験勉強もあるんだしな」
「受験勉強と言っても、繰り上がり試験でしょう」
藤花は、凖一貫校。
高校へ上がるとき、学内試験組と学外試験組に分かれます。
学内試験は、そこまで難しくありません。
「繰り上がりでも落ちるやつは落ちるだろ。そこのネクラとかなぁ」
「私は2学期の中間考査で4位ですが、なにか?」
笑魅さんも、勉強はできるのですよね。
もっと学校に来たらいいと思うのですが。
出席日数が足りなくなりますよ。
「いいから決めようぜ」
「あ、この女、反論できなくて話題を変えましたよ」
「うっせぇ、しばくぞ」
「まあまあ、伊織さん、笑魅さん、そこまでにしましょう」
オーダーについては、あまり考える必要もないと思うのですが。
「で、誰が出て、どう並べる?」
「どう並べても勝ちですよ。3人制なんですから」
笑魅さんの言う通りです。
春はレギュラーが4人も休んで負けましたが、秋は違います。
「よし、出たいやつ、挙手しろ」
1、2、3、4、5……全員挙げてますね。
え? なぜ分かるのか、ですって?
衣擦れの音で分かりますよ。
別に超人的な聴覚は必要ありません。一度試してみてください。
「かーッ、こいつら出たがりだな」
「伊織先輩こそ、受験勉強で辞退したらどうなんですかー?」
「てめぇはアイドルごっこでもしてろ」
「ごっこじゃありませーん、ちゃんと事務所に所属してまーす」
喧嘩はしないように。
もちろん、私は出させていただきますが……誰から切るか……。
「笑魅さんは鬱の発作が出るといけないので、今回は辞退してください」
「そうだよ。笑魅は春に欠席したから、ペナルティな」
「これはイジメですね……間違いない……」
さて、もうひとり辞退してもらいましょう。
中学は3人制ですから。全国大会と一緒の方式です。
「伊織さん、最近の対戦成績は、どうなっていますか?」
「ん……まあまあ、かな」
「まあまあ、というのは?」
「トントン」
声が嘘を吐いていますね。
「檸檬さん、夏希さん、今のは本当ですか?」
「トントンじゃないですよ、私の方が勝ち越してます」
「ボクも、直近3ヶ月では勝ち越しています」
「なるほど、伊織さんは、受験勉強とバスケ部で忙しいようですね」
プレッシャーをかけまして……。
「くっそ、譲ればいいんだろ、譲れば」
はい、これで3人決まりました。
「で、並びはどうするんだ?」
「私、檸檬さん、夏希さんでいいです。どう当たっても勝てます」
「あーあ、さっさと高校に上がって、5人制で出てぇな」
オーダーの話はこれくらいにしまして……。
「裏見さん打倒の機会を、もう一度セッティングする必要があります」
「あのな……そんなのどうでもいいだろ」
どうでもよくはありません。
私は、しつこいのですよ。