シャッターチャンスな日々
はーい、葉山ひかるでーす。
新聞部期待のエース、よろしくねぇ。
「おい、葉山」
おっと、さっそく部長からお呼びがかかったわ。
この前出した特ダネ、気に入ってもらえたのかな。
「はいはい、部長」
私の目の前に、パシリと記事が叩き付けられた。
「おまえ、なに考えてるんだ?」
「はい?」
「この記事だよ」
部長は記事の写真を、指先で小突いた。
「『学園に通う宇宙人、その実態独占スクープ』が、なにか?」
「んなもん出していいわけないだろ」
え? なんで?
「宇宙人ですよ? ムーもびっくりの特ダネですよ?」
「うちはムーじゃないんだよッ! ゴシップは書くなッ!」
ええ、ゴシップとは失礼な。
「待ってください、証拠写真なら、ちゃんと添付したじゃないですか」
「このUFOの写真か?」
部長は、青空に浮かぶ小さな点を指差した。
「そうです、そうです」
「こんなのは鳥か風船か人工衛星だって相場が決まってるんだよ」
「なんで言い切れるんですか?」
「おまえがUFOだって証拠を見せろ。でなきゃ悪魔の証明だ」
「だ、だったら、こっちの写真を見てください」
私はカメラを取り出して、とびっきりの極秘映像を見せた。
「女の子が空中に浮いてるんですよッ! これが宇宙人の証拠ですッ!」
「おまえ、フォトショで加工したらダメだろッ!」
加工してなーいッ!
「フォトショなんか使ってませんッ!」
「だったらアレか? 飛び降りてる瞬間を写したな?」
それもちがーうッ!
「時代劇の忍者みたいなトリック使ってませんッ!」
「とにかく、今度こんな記事書いたら、連載止めさせるからな」
えーい、この石頭めッ!
私は怒って、新聞部をあとにした。
こうなったら、正体を突き止めて、大手新聞社に売り込んでやるわ。
あとで泣きついても知らないんだから。
私はメモ帳を取り出して、一番最後のページをめくった。
駒桜、上町3−51
これこそ、職員室に忍び込んでこっそりと書き写した、飛瀬カンナの住所。
ここに行けば、その正体も掴めるはずよ。
いざ、真実の報道のために出陣ッ!
私は秋風をものともせず、チャリで上町に向かう。
そこはあんまり人が住んでいないところで、工場地帯だ。
いったいどんなところに住んでいるのか、お宅拝見よ。
「上町3丁目……3丁目……」
あった。
私は右折する。
「11番地……21番地……」
この様子だと、簡単に見つかりそうね。
「……あれ?」
私は急ブレーキをかけた。
「4丁目?」
目の前にあるのは、4丁目1番地。
私はうしろを振り返る。
「……3丁目49番地」
壁沿いに数字を探したけど、番地は49で終わっていた。
「……写し間違えたかな?」
私は自転車を降りて、それらしい建物を探した。
49番地は廃工場、47番地は怪し気なアパートだ。
うーん、このアパートが怪しいかな?
「『百鬼夜行』……変わった名前だね」
私はカメラを携えて、中庭を覗き込む。
「……」
ぼろっちいけど、普通のアパートかしら。猫がたくさんいる。
「こらッ!」
「うわッ!?」
私はびっくりして、カメラを取り落としそうになった。
商売道具ッ!
「きみ、なにをしてる?」
振り返ると、おまわりさんがいた。
「え、えーと……『私たちの町』っていう校内新聞の取材です」
ナイス嘘。
「高校生が、こんな危ないところに来ちゃいかん」
なんで? ヨハネスブルグかなにか?
「ここは、泥棒猫が出没するからな。本官は、その警備に当たっている」
え……この人、本物の警察官……?
コスプレ変質者じゃないよね?
「とにかく、帰りたまえ」
おまわりさん(?)は、そう言って、大通りへと戻って行った。
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ま、いっか。無視無視。
公権力に屈して、取材の自由が守れますかっての。
私はもう一度、垣根から覗き込む。
うーん……シャッターチャンスらしきものはないわね……。
こうなったら、Twitter用の猫画像でも撮ろうかしら。
ぽん
う、また肩を叩かれた。
「すみません、猫を撮影してる……だけ……」
「葉山さん……こんにちは……」
「か、カンナちゃん……」
い、いつの間に?
「ちょっと話したいことがあるんだけど……時間あるよね……?」
「え、あの……赤いカラコンなんかしちゃって……どうしたの……?」
「時間あるよね……?」
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えっくすふぁいる。




