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こちら、駒桜高校将棋部  作者: 稲葉孝太郎
第35局 まったり秋の団体戦(1日目・2014年11月2日日曜)
250/295

220手目 卒倒する少女

 菅原先輩は、長考からようやく顔を上げた。

「難しいな……読み切れねえ……」

 局面は既に終盤の入り口。

 四天王と五分で切り合いに持ち込めるなら、御の字だ。

「適当な受けがないから、攻めるぜ。2九飛成」


挿絵(By みてみん)


 本命きた。

 私は30秒ほど読み直してから4四龍。

 菅原先輩は4九龍と、金を取り合う。

 そして、私は5九香と受けた。

 ほとんど入れ違いに、菅原先輩は5八歩と叩いた。

「5三歩ッ!」

 私は叩き返す。

 同金、5四桂、同金。うッ、指し手が速い。

 私が読み間違えてる? ……いや、そうは思えない。桂金交換だ。

「同龍」

「5二金」

「5八龍」

 私は歩を払った。当然の同龍に、同香、5三歩。


挿絵(By みてみん)


 ここまでは読み筋通りだ。

 私の攻めに、菅原(すがわら)先輩の受け。駒割りは金香と角の交換。

 まったく悪くない。

 攻めを継続するなら、飛車打ちだと思うけど……どこに打つか……とりあえず、2二飛、3三角みたいに、角を打ち返される場所はNG。打つなら、3二か1二……3二か1二……あんまり変わらない……こともないか。3二なら、3七歩成に同飛成とできる。受けも考えると、3二の方が良さそうだ。

 ただ……3二飛打自体は、痛くもなんともない。逆に6五角とか見えて、危ないかも。この切り返しがあるなら、やっぱり1二に打って……いや、もっと厳しく、5四歩と味付けしたい気がする。5四歩、同歩、3二飛。これで6五角の筋を防ぎつつ、次に4三金とゴリ押しするくらいで、後手陣は崩壊しそう。例えば、ムリヤリ6五角としてきたら、4三金、4七角成、5二金、同銀、5一銀、同玉、4二金以下、先手勝ち。4七角成は疑問だから、4三金に4二桂も考えられるけど、それは5二金、同玉(同銀は4二飛成で桂得)と引っぱり出す順があるから、3二飛の時点で4二桂と受けるはず。

 要するに、現局面から5四歩、同歩、3二飛、4二桂まで見える。

 私は持ち時間を確認する。私が7分、菅原先輩が9分。

 ひとまず、必然的なところまで進めますか。5四歩。

「同歩」

 以下、3二飛、4二桂と進んだ。ふむふむ、読み筋は噛み合ってるわね。ここで、どうするかなんだけど……ちらっと思いついたのは、4四金の置き物。


挿絵(By みてみん)


 (※図は香子ちゃんの脳内イメージです。)

 

 一見ぼんやりしてるけど、4三金打と重ねていけば、さっきと同じになる。同金、同金、5二金、同金、同玉とか。これは先手がいい。

「4四金」

 私は一回空打ちしてから、4四に金を貼った。

 菅原先輩は、眉間に指を当てる。

「ん、そいつは……」

 なんですか、「それ悪手だろ」みたいな反応は。やめてください。

 菅原先輩は爪先で床を小突いて、それから長考に入った。

 い、嫌な予感がする。見落としてた?

 私も読みを再開した。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 別に見落としてないと思うけど。

「6五角」


挿絵(By みてみん)


 え? 受けなかった?

 私は反射的に、持ち駒の金へと指を伸ばした。

 人差し指と中指でそれに触れつつ、もう一度読み直す。

 4三金打、4七角成、5二金、同玉、5三金打……これは勝ちだ。でも、4七角成とできないなら、6五角と打った意味がないような……。

「……ん」

 私は目を細めて、少し前のめりになる。

 7六角打と重ねたら……8八銀、6五桂……あ、7七に打つ金がない。そっか。金を手放すと、8七の地点を1回しか受けれないんだわ。これは私の負け。

 危ない。ほんとに見落としてた。き、軌道修正可能?

 菅原先輩の表情は、さっきより軽くなっていた。私は焦る。

 ……攻撃を一旦中止するしかないか。

「3六飛成」

「もう少しじっくり考えるかと思ったが……」

 そうする時間がない。3六飛成で一発KOはないはず。

「4九飛だ」


挿絵(By みてみん)


 菅原先輩は、飛車を力強く打ち込んだ。

 これも厳しい。けど、4七角成、同龍、同龍には、5六角の返しがある。以下、4九龍と入り直すのは、8三角成が詰めろ(6一金まで)。7四角と消す暇がない。

 とりま、7六角打を防がないといけないから……。

「7六銀」

 私は、7六の地点を銀で埋めた。

 当初の構想からどんどんかけ離れてるけど、仕方がない。

「ここで中盤に戻るのか、キツいな」

 菅原先輩は、チェスクロを確認した。

 残り時間は、お互いに3分。

「こうなったら銀を目標にするしかないだろ」

 菅原先輩は、3五歩と打ってきた。

 これは同龍とできないから、6六龍。

 以下、4七角成、5九金(これを入れないと8八角、同玉、6九龍がある)、1九飛成、4三歩と進んだ。

「7四桂ッ!」


挿絵(By みてみん)


 これも強い返しだ。さっきから捻り合いになっている。

 7七龍、1一角。

 ぐッ! 強烈ッ!

 4二歩成、同銀、3四金打とムリヤリ受ける。攻守が逆転してしまった。

「攻め駒が足りねえ……」

 菅原先輩は、ニット帽の端を引っ張った。

「これなら5八馬と切った方が良かったか……いや……」

 独り言を呟きながら、菅原先輩は盤面全体を見回す。

 私の陣地に綻びはないはず。ゆっくり攻めてくるなら3六歩〜3七歩成だ。それは5四香と走って、5三歩、4三歩、5一銀、5三香成、同金、同金、同玉、6五桂、同馬、同銀、7七角成、同桂みたいな展開になりそう。勝ち確定とは言えないけど、勝算はある(こっちの王様は半分棺桶なのが難点)。

 とは言ったものの、菅原先輩の棋風的に、そっちじゃない気がするのよね。もっと過激に攻めてくるような……。

 ピッ。残り1分。

「やべえ、時間がねえ」

 菅原先輩は秒読みに入るのを避けて、3二香と打った。


挿絵(By みてみん)


 やっぱり過激だ。私も、貴重な残り時間を投入する。

 ……これも5四香が効きそう? 5四香、5三歩、4三歩、5一銀、5三香成、同金、同金、同玉、6五桂……ん? ダメかしら? 3四香が残ってるようじゃ勝てないかも。そもそも、4三歩に3四香、4二歩成、4四角、5二と、同玉でもダメなような……なにか他にうまい手は……。

 ピッ。私も残り時間が1分を切った。考えがまとまらない。5四香のあとで4三歩の路線は、どうにもならなそうだ。だとしたら……。

「5四香」

 残り40秒のところで、私は香車を走った。

 菅原先輩はノータイムで5三歩と打つ。

 ここで3三歩があるんじゃないかしら? 3三歩、同香、5三香成、同銀に、3三金左と交換を回避して、香車を取り切る。


挿絵(By みてみん)


 (※図は香子ちゃんの脳内イメージです。)

 

 4二銀とトリッキーな受けを見せてきても、同金とせずに(同金は7七角成があるから危険)、5四桂、5三玉、4二桂成、同金、同金、同玉。これはさすがにいい。

 ピッ。秒読みに突入した。私は残りの筋も読む。3三歩に同銀なら、5三香成、同金、同金、同玉、4三金打、6二玉と下がらせて、3三金直、同香、5三銀、7二玉。これで5筋は一段落する。相手も棺桶状態になるから、なんとかなりそう。

 ピッ。56秒のアラームが鳴ったところで、私は3三歩と打った。

「チッ、気付いたか」

 舌打ち禁止。

「同銀」

「5三香成」

 私は香車を成り込む。同金、同金、同玉、4三金打。

「トライするって手もあるんだが……」

 菅原先輩は、入玉を匂わせた。おそらく5四玉のことだろう。

 でもそれは、3三金直、同香、4四銀と縛る手が効きそう。以下、4六歩、5七桂と上部を塞げば、菅原先輩の王様は立ち往生で討ち取られてしまうはず。

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!


挿絵(By みてみん)


 引いたッ! ここは3三金直……ん、待ってよ。5四香の切り返しが気になるかも。3二金直、5九香成は勝てないし、5八歩と打つのも、同香成、同金、同馬で危ない。さらに、3三金直に同角という手もある。同金となっては、攻めが続かない虞も。

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

「5四桂ッ!」

 私は王手をかけた。

 菅原先輩はノータイムで7二玉と深く入る。

 王手は追う手になってなければいいけど……3三金直。銀を補充。

「……同香」

 同角じゃないんだ。なにか嫌な筋があった?

 いずれにせよ、これで一手稼げる。5三金。

 次に6二銀からのガジガジな攻めを見せる。

「6一香」


挿絵(By みてみん)


 ぐッ……ちょっと攻めが単純過ぎた……。

 けど、これで5五香の筋も消えたわ。

「6六歩」

 私は力強く、龍の横利きを通した。

「くそ、めんどくせぇことになったな」

 菅原先輩は59秒ギリギリまで考えて、2五馬と引いた。守備の方針だ。

 5二歩と打たれないうちに、私は4二桂成と成っておく。

「6九金」


挿絵(By みてみん)


 ご、ごり押しきた。

 同金、同馬。ここで8八……ん、8八玉に6六桂だと……?

 同龍、7八金、9八玉、8八金打……詰んでるッ! しまったッ!

 4二桂成が緩手だった。

 私は後悔する暇もなく、6七玉と上がった。

 1七龍、5七歩、5八金。張り付かれる。

「こ、これは詰めろ……?」

 私は必死に読む。詰めろ……じゃないはず。

 ただ、一手スキなのは間違いない。次に4六金で詰めろがかかるからだ。

 菅原先輩の王様に詰めろは……かかるわけないか。でも、5二成桂は二手スキ……なんだけど、なにかの拍子に5七龍〜5三龍と抜く手順が発生するかもしれない。そうなったら終わりだ。

 ピッ。5二成桂。結局、5三の金に紐をつけた。

 菅原先輩は、4六金と詰めろをかけてくる。

「5六金」


挿絵(By みてみん)


 この受けに賭ける。

「なんだそれ……受けになってるのか……?」

 菅原先輩は意表を突かれたのか、思わず眉をひそめた。

「5五歩、4六金、同歩、6一成桂、4七歩成……ヌルいか……?」

 それも厳しい。ほとんど菅原先輩に下駄を預けた状態だ。

 5五歩なら4六金、同歩、6一成桂として、一手稼げる。6一成桂は一手スキのはずだから……ん? 一手スキかしら? この形、振り飛車でよくみるような……。

「あッ!」

 私は慌てて口元を押さえた。6一成桂は一手スキじゃないッ! 詰めろよッ! 7一成桂と入って、8二玉、7二成桂、同玉、6一銀、8二玉、7一銀、同玉、7二金まで。7一成桂に同玉は、6二銀、7二玉、6一銀打、8二玉、7一銀不成、同玉、7二金。どう対処しても詰んでる。勘違いしてた。

「……素直にいくぜ。5五歩」

 4六金、同歩、8五銀。


挿絵(By みてみん)


 私は王様の脱出口を作った。放置だと5七金、同銀、5六金で詰んじゃう。

 4七歩成、6一成桂。

 そこで、菅原先輩の指が止まった。

「しまった……歩成りは手拍子だったか……?」

 可能性はある。5七金、同銀、5六金の方が怖かったから。

「一回受けるッ! 6一玉だッ!」

 私は5二銀と打って、7二玉に6三金と追っかける。

 8二玉。うぅ、さすがに詰めろが続かない。

「6一銀成」

 私は一手スキで我慢した。

 これで詰んでるのなら、仕方がない。

 菅原先輩は身じろぎもせず、盤面を見つめている。

「……まじい、読み切れねえ」

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!

 菅原先輩は、6八馬と入った。私はノータイムで7六玉。

「くそッ! 入玉が見えるじゃねぇかッ! 5四銀ッ!」

 菅原先輩は、上部を封鎖しにかかった。

 私は6四金と引く。

「そいつは捕まえた感があるぜ」

 菅原先輩の指が、持ち駒から6三の地点に伸びた。


挿絵(By みてみん)


 え? 重くない?

 7一成銀、同玉、5四金、同金、6三銀が詰めろ……だけど、6七銀があるのか。同龍、同馬、同玉、5七金、7七玉……詰ま……詰むッ! 7八飛、同玉、1八龍、7七玉、6八龍、7六玉、6六龍までだわッ!

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! パシリ!

 私は6三同金と取った。同銀に再び考える。6二金は一手スキだけど、6四銀と立たれるのが先に詰めろになってしまう。ひとまず受けないといけない。

「6五香」

 私は6四銀の防止で、香車を打った。

 王様は窮屈になるけど仕方がない。

「6三香成が詰めろか……6四桂」

 桂馬で受けた? 歩じゃないの?

 同香……いや、同香は同銀で藪蛇になる。むしろ7五玉と上がって……7七馬、同桂、6七飛、7六金……うぐ、これは受けになってない。桂馬と取られちゃう。や、やっぱり同香で、同銀、7五金……ううん、違う、6六に利かせる意味でも6五金だ。同銀なら同玉でダイブ。

「同香」

「ん、取るのか?」

 取りますが、なにか?

「この手順違いを見落としてるぜ。7七馬だ」


挿絵(By みてみん)


 先に龍取り……?

 同桂、6八飛(詰めろ)、6五金(詰めろ回避)、6四銀……あ……れ……。

 6四銀が詰めろですってぇッ!?

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!

「同桂ッ!」

 即座に6八飛が下ろされる。

 6五金、6四銀。ここで同金は6六飛成の即詰み。

 私は7五金打と重ねた。6五銀、同金以下、千日手を目指す。

「千日手にはさせねぇ……1六龍」


挿絵(By みてみん)


 諦めないッ! 5六桂ッ!

「意外と寄らねぇな……」

 菅原先輩は、三たび舌打ち。

「6七金だ」

 6四金左、6六金、7五玉、6五金、同金、6三香、6四歩、6六金。

 超乱打戦になる。

「6三歩成ッ!」

 私は自玉が詰まない方に賭けた。

「ぐッ……」

 菅原先輩の顔色が変わった。

「くっそ、どっかで間違えたな……6五金」

「同桂」

「1四龍」


挿絵(By みてみん)


 うぐッ! 7三と、同桂、同桂成、同玉、7四銀の筋を消されたッ!

 ご、後手玉は詰まないの? かなり危ないように見えるんだけど……。

 例えば7二金、9二玉、8二金打、同銀、同玉……き、金がないッ!?

 いや、でも、こんだけあれば詰み筋がどこかに……。

 私は全身の神経を集中させる。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ! 見えたッ!

「7二金ッ!」

 私は周囲の駒が弾けるくらいのスピードで、金を打ち込んだ。

 菅原先輩は、バラバラになった駒も直さずに、9二玉と寄る。

 8二金打、同銀、同金、同玉。

「7三と」


挿絵(By みてみん)


 菅原先輩は、一瞬きょとんとした。

「バラして8四銀打、同歩、同銀か……?」

 違います。

 菅原先輩は、私の持ち駒に視線を伸ばした。

 そして、ハッとなる。

「か、角があると詰み形じゃねぇか……」

 正解。私の王様を寄せるのに夢中で、自玉がおろそかになりましたね。

 菅原先輩は、がっくりと項垂れた。

「……俺の負けだ」

「ありがとうございました」

 私は大きく息を吐く。四天王の一角を仕留めたわ。金星。

 投了図以下は、同桂、7一角、9二玉、8一銀、同玉、8二銀、9二玉、9三銀成、8一玉、8二角成までの詰み。私の王様も詰めろだから、まさに一手違いだ。

「どこで間違えちまったかな」

 菅原先輩は9一の香車を空打ちして、それから首を捻った。

「4七歩成がヌルいんじゃないですか?」

「あぁ……そのへんか……」

 私たちは、局面を戻した。


挿絵(By みてみん)


「5七金、7六玉、6八馬だったか?」

「そっちの方が本命だと思いましたけど、なんかあったんですか?」

「今振り返ってみると、なんにもねぇな。6一成桂なら6七銀から詰み、7八金打なら6四銀が詰めろ。6八龍と取っても同金で詰めろ継続だ。完全に読み違えてたぜ」

 あらら、ポカですか。

「これがあるなら、私の敗勢ですね。4二成桂がヌル過ぎましたか?」

「そうか? 最終的に詰めろで間に合ってるなら、いいと思うぞ?」

 うーん……どうなのかしら……。

「でも先に詰めろを掛けれたのは、菅原先輩ですよね?」

「まあ、そうだが……」

 私たちは、問題の局面まで戻した。


挿絵(By みてみん)


「5八歩でしたか?」

「6九金が厳しいなら、そうだろうな。けど、そこまで厳しいか?」

 本譜を見る限りは、厳しいんじゃないかしら。

「仮に5八歩と打ったら、後手はどうします?」

「5二歩と打つぜ」

 これは手堅い……4二金とそっぽに逃げるしかない。

「これがあるなら、5八歩は全然ダメそうです」

「俺が思ったのは、6六歩と突かずに、さっさと5八歩だったんじゃないか?」

「6六歩が疑問でしたか?」

「2五で自陣に利かせられたからな。2五に馬さえいなけりゃ、5八歩に5二歩と打てないぜ。同金でノープロブレムだ。以下、3四香、6六歩とかだな」

 5八歩、3四香、6六歩、2五龍、5二銀……完全に手順前後だったか……。

「6二玉のところで、5四玉は入玉できねえのか?」

「それは……4三金って打ったところですか?」

 菅原先輩は、軽く頷いた。再び局面を戻す。


挿絵(By みてみん)


「とりあえず、3三金直ですよね?」

「そこで同香とするか同角とするかなんだが……」

「同香なら、4四銀の予定でした」

「そうなんだよな。4四銀は、5五歩、6四玉、6六歩の詰めろ馬取りがある」

 ということは、3三同角かもしれない。

 対局中はどっちもありそうだったけど、3三同香は明確になさそうだ。

「同角なら同金です」

「同香……6六歩か?」

 そこで突くんだ。まあ、入玉阻止なら、龍の横利きは通しておきたいところよね。

「4六馬、6五角、4四玉、3二角成みたいな展開ですか?」

「そのあたりは、なんとも言えねぇな。本線で読まなかった」

 私も、この入玉模様の順は、本線で読んでいない。

 これはこれで大変そう。

「終盤は、もうちょっといろいろあったと思うんですよね」

 4六金に対する5六金の受けとか。

「そうだな。俺の方も、あんなに危なくする必要はなかったぜ」

 むむむ、それは勝勢宣言ですか。

「こっちが勝つ順は、なかったですか?」

「4六金以下で、速度が逆転するところあったか?」

 質問を質問で返された私は、しばらく悩んだ。

「ないかもしれないですね……」

「5六金に5五歩も詰めろだったしな」

 そうなのよね。6一成桂と詰めろをかけても、5七金引、同銀、同金、同金、5六銀で、簡単に詰んでしまう。

 私たちが検討を続けていると、隣から捨神(すてがみ)くんが現れた。

「先輩、どうでした?」

「わりぃ、負けた」

「あ、じゃあ引き分けですね」

 ……え?

 私たちは、顔を見合わせる。

「引き分けたのか?」

「1番席が千日手2回で引き分けです」

「他は?」

「僕と湯川(ゆかわ)くんが勝ってます」

 むむむ、来島(くるしま)さん、負けちゃったか。

 それに、松平(まつだいら)も負けたようだ。

「危ねぇ、2−3だと戦犯だからな」

「湯川くんを七将にしといて良かったですね。押井くんと逆なら負けてました」

 そんな話をしていると、飛瀬(とびせ)さんも姿を現した。

裏見(うらみ)先輩……どうでしたか……?」

「なんとか勝ったわ」

「引き分けですね……」

 飛瀬さんは、勝ってもあんまり表情が変わらない。

 もう少しハキハキしなさい、ハキハキと。

 そこへ、捨神くんが口を挟む。

「飛瀬さん、勝ったんだよね?」

 こくりと頷く飛瀬さん。

「可愛い上に将棋が強いって、最高だね」

「※◎△$@#*ッ!?」

 と、飛瀬さんが倒れたーッ!

場所:2014年度秋期団体戦 1回戦

先手:裏見 香子

後手:菅原 道真

戦型:超速vsゴキゲン中飛車


▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △5四歩 ▲2五歩 △5二飛

▲4八銀 △5五歩 ▲6八玉 △3三角 ▲3六歩 △4二銀

▲3七銀 △4四歩 ▲7八玉 △4三銀 ▲3五歩 △同 歩

▲4六銀 △3六歩 ▲2六飛 △5六歩 ▲同 歩 △同 飛

▲2四歩 △同 歩 ▲3五銀 △7六飛 ▲7七角 △4五歩

▲6八銀 △7四飛 ▲2四銀 △同 角 ▲5四歩 △同 飛

▲1一角成 △6二玉 ▲2一馬 △5二金左 ▲6六桂 △8四飛

▲2四飛 △同 飛 ▲3五角 △4四飛打 ▲4三馬 △同 金

▲4四角 △同 金 ▲4二飛 △5二歩 ▲5三歩 △5一銀

▲5二歩成 △同 金 ▲4一飛成 △2九飛成 ▲4四龍 △4九龍

▲5九香 △5八歩 ▲5三歩 △同 金 ▲5四桂 △同 金

▲同 龍 △5二金 ▲5八龍 △同 龍 ▲同 香 △5三歩

▲5四歩 △同 歩 ▲3二飛 △4二桂 ▲4四金 △6五角

▲3六飛成 △4九飛 ▲7六銀 △3五歩 ▲6六龍 △4七角成

▲5九金 △1九飛成 ▲4三歩 △7四桂 ▲7七龍 △1一角

▲4二歩成 △同 銀 ▲3四金打 △3二香 ▲5四香 △5三歩

▲3三歩 △同 銀 ▲5三香成 △同 金 ▲同 金 △同 玉

▲4三金打 △6二玉 ▲5四桂 △7二玉 ▲3三金上 △同 香

▲5三金 △6一香 ▲6六歩 △2五馬 ▲4二桂成 △6九金

▲同 金 △同 馬 ▲6七玉 △1七龍 ▲5七歩 △5八金

▲5二成桂 △4六金 ▲5六金 △5五歩 ▲4六金 △同 歩

▲8五銀 △4七歩成 ▲6一成桂 △同 玉 ▲5二銀 △7二玉

▲6三金 △8二玉 ▲6一銀成 △6八馬 ▲7六玉 △5四銀

▲6四金 △6三金 ▲同 金 △同 銀 ▲6五香 △6四桂

▲同 香 △7七馬 ▲同 桂 △6八飛 ▲6五金 △6四銀

▲7五金打 △1六龍 ▲5六桂 △6七金 ▲6四金左 △6六金

▲7五玉 △6五金 ▲同 金 △6三香 ▲6四歩 △6六金

▲6三歩成 △6五金 ▲同 桂 △1四龍 ▲7二金 △9二玉

▲8二金打 △同 銀 ▲同 金 △同 玉 ▲7三と


まで173手で裏見の勝ち

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