猫まっしぐらな日々
はいはい、こんにちは。
猫山愛と申します。
日頃は喫茶店『八一』をご利用いただき、誠にありがとうございます。
今後とも、ご贔屓に。
「それじゃ、愛ちゃん、お疲れさま」
「お疲れさまです」
今日は、これで仕事もあがりです。
夜はお客さんが少なくて、マスターひとりでも回るんですよねぇ。
お先に失礼させていただきます。
赤い雲。オレンジ色の空。
夕方の駒桜市は、いつ見ても奇麗です。
「お、愛ちゃん、いい鰹節入ったよ、買ってかない?」
くんくん。これは美味しそうですね。
ニャンともお腹が減っちゃいます。
「では、ひとつ」
「まいどあり」
帰ったら、お味噌汁を作って、猫まんまを作りましょう。
私の大好物です。
え? どこに住んでるのかですって?
うふふ、もう少し行ったところですよ。
ここの裏路地を曲がりまして……と。
「あら、愛ちゃん、お帰りなさい」
「大家さん、ただいま」
このお婆さんは、アパート『百鬼夜行』の大家さんです。
月々の家賃が、なんと1万円ぽっきり。超お得。
住人は変わり者ばかりですけど、そこはご愛嬌。
「お友だちが、庭で待ってるよ」
「はいはい、もう食事の時間です」
ぐるりと裏庭に回りまして……。
ニャー ニャー ニャー
おお、今日もいっぱいですね。
それでは、みなさんがどんな情報を仕入れてくれたのか、拝聴、拝聴。
「ニャー」
「駅前のスーパーで大安売りですか。明日、行きましょう」
「ニャー」
「ええ? ミケさんがご懐妊? お相手は誰なんですかねぇ」
「ニャー」
ほお……この知らせは……。
「裏見さんが、個人戦で優勝しましたか」
彼女が優勝してしまうとは、姫野さんもだらしないですね。
この町の女性で、私の相手になる人は、いないようです。
名人戦では、手抜いてあげただけですから。うふふ。
男子の方は……捨神という少年が気になります。
彼の強さは本物ですね。アマチュア離れしてますよ。しかし、それもまた一興。
「他に、私の計画を邪魔できそうな人は……」
佐伯宗三……彼は、ちょっと要注意です。
手品師だけあって、私の技を見破られてしまうかもしれません。
怖いですねぇ、恐ろしいですねぇ。
「それでは皆さん、ありがとうございました。犬と保健所にお気をつけて」
情報収集は、これで終わりです。
そろそろ食事にしましょう。
ご飯は炊いてありますし、お味噌汁は温めるだけ。
鰹節を削って、贅沢なディナーに致しましょう。
っと、その前に……。
「今日も、戦利品を拝むとしますか」
部屋は四畳半。バス・トイレ・キッチンは共用。狭いです。
部屋が広くても、しょうがないですからね。
人間の考えることは分かりません。
さて、押し入れを開けまして……ニャハハ、見てください。このコレクション。
宗歩好の盛り上げ駒。 島黄楊。時価50万。
水無瀬書。影水作。時価100万。
盤もありますよ。
本榧盤6寸。柾目で15年乾燥もの。時価180万
この虎斑模様が奇麗ですねえ。西日に映えます。
こちらの日向榧6寸5分盤も、なかなかです。時価120万。
すりすりしたくなっちゃいます。
……え? どこにそんなお金があるのかって?
タダでもらったんですよ、タダで。本当ですよぉ?
駒桜市にあるという伝説の桜駒、ぜひこのコレクションに加えましょう。
どこにあるのかニャア?