新参者
※このお話は、横溝さん視点です。
大会の帰り道、まだ青空が広がっているなかを、私たちは歩いていた。
ときどき散歩のワンちゃんとすれちがう。かわいい。
それにしても裏見さん、将棋ができたんだ。知らなかった。
陸上部の有名人なのは知ってたんだけど。
私がそんなことを考えていると、サーヤちゃんが話しかけてきた。
「ねぇ、あの子、ほんとに強いの?」
正直に答える。
「わかんない……」
「猿渡先輩に負けたのは事実なのよね」
そうなんだよね。負けたのは事実。
だから人数合わせかも──と思ったけど、一局じゃわかんない。
それに姫野先輩が評価してるっぽいんだよね。
偵察するように、とほのめかしたのは姫野先輩だから。
「姫野先輩がマークするなら強いんじゃないかな……」
サーヤちゃんは後頭部に両手をあてて、空を見上げた。
「先輩からみたら、ほかの女子なんてどんぐりの背比べなんじゃない?」
「どうだろ……上級者だから正確に棋力が測れるかも……」
サーヤちゃんは「うーん」と言った。
とそのとき、うしろから男子の声が聞こえた。
ふりかえると升風の蔵持冬馬くんが手を振っていた。
「涼子ちゃん、横溝さん、追いついちゃった」
サーヤちゃん、急に機嫌がよくなる。
「冬馬ったら、帰るなら声かけてよ。いっしょに帰れたのに」
「ごめんごめん、千駄会長に呼び止められちゃって。みんな先に帰ったと思ってた」
サーヤちゃん、蔵持くんに急接近して横に並ぶ。
「冬馬、今日も勝ってたじゃん。かっこよかった」
「あれ? 観戦してた?」
「してたしてた。応援オーラをちゃんと送ってたから」
な、なんだか入りにくい感じになっちゃった。
私がおどおどしていると、蔵持くんは、
「そういえば、市立に新しい女子が入ってたよね。どうだった?」
とたずねた。
サーヤちゃんは真顔で、
「ふつうの子だった」
と答えた。
な、なんか質問とちがう意味で答えてる気がする。
蔵持くんは「そっかぁ」と言って、
「ふつうってことは初段くらい?」
とたずねた。
サーヤちゃんはきょとんとした。
「え? 将棋の話?」
「え? 将棋の話じゃないの?」
「んー……棋力はよくわかんないかな」
「人数合わせってわけじゃなかったんだよね、そのようすだと」
蔵持くんも裏見さんのことが気になるんだね。
そうだよね。だってこんどは新人戦があるから。
蔵持くんは、
「今回かぎりの助っ人なら、もう来ないかもしれないか」
とつぶやいた。
どうだろう……勘だけど来る気がする。
ライバル増えるなあ。どうしよう。