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大食らいな日々

 やっほー、私の名前は、木原(きはら)数江(かずえ)

 かずちゃんって呼ばれてるよ。よろしくね。

 趣味は、食べることと、寝ることと、ゲームに漫画、将棋かな。

 将棋を始めたのは、高校生からなんだけどね。まだまだ強くなるよ。

 今日はクリスマス。今は2年生の部員と、ケーキ屋さんに寄ってるところ。

 プチケーキ食べ放題だから、いっぱい食べるよ。もぐもぐ。

「おい、木原」

「ん? 何、(まどか)ちゃん?」

 円ちゃんは、あいかわらず男っぽい服装だね。

 学校では学ランだけど、私服はジーンズに男物のシャツとジャンパー。

 そういう格好してるから、やたらと女の子にじろじろ見られるんだよ。

「おまえ、ほんとによく食うな? 栄養はどこに行ってるんだ?」

 あ、タブー中のタブーに触れたね。

 身長は150センチないし、ぺったんこだけど……。

「これから大きくなるんだよ」

「高2からか?」

 円ちゃんは、ほんとにデリカシーがないね……典型的な男子だよ……。

冴島(さえじま)さん、他人の身体的特徴に触れるのは、よくありません」

 八千代(やちよ)ちゃんはこの点、常識人だよね。

 薄い本が趣味じゃなければ、なおグー。

「悪かったよ……つーか、純粋に驚いてるだけなんだが」

 まあ、それはよく言われるかな。

 パパとママとお兄ちゃんとお姉ちゃんにも、びっくりされるしね。

「どうだ、びっくりしたか」

 私が威勢よく言うと、円ちゃんはポケットに手を突っ込み、頭を掻く。

「びびったよ、降参」

 ワッハッハ。

 それにしても、円ちゃん、さっきから全然食べてないね。

 食べ放題で食べないのは、ただの損だよ。飛車損くらいの悪手だね。

「びっくりしたことと言えば、この前のポーンさんには驚きました。まさか、あそこまで将棋が指せるとは……私のデータベースも、海外の女流までは把握できていませんし、要注意ですね」

 だね。あの子は、かなり強いっぽいよ。

 でもでも、大会で当たったら、数江ちゃんスペシャルでこてんぱんにしてあげる。

 これぞ大和撫子魂。

「私に当ててくれれば、軽く捻ってあげるわよ」

 そう、そう。歩美(あゆみ)ちゃん、その意気だよ。

「何だ、姫野(ひめの)に触発されて、やる気出してんのか?」

「私は客観的に見て、そう言ってるだけ」

 ……そこは同意しないかな。

 歩美ちゃんは、自己評価が高過ぎるよ。

 ナルシストだよね、基本。感情を全然表に出さないし。

 歩美ちゃんが「キャー♪」って叫んだり「アハハ」って笑ったりしたところ、この2年間で一度も見たことないんだよね。見かけた人は、私に写メして欲しいかな。

「歩美ちゃんは、何かびっくりしたことある?」

「びっくりしたこと? ……ないわね」

 そっか……ないんだね……。

「円ちゃんは、何か驚いたことある?」

「おまえの食欲だッつってんだろ」

 むむ、そういう言い方はないんじゃないかな。

「もっと別のこと」

「別? そうだな……」

 円ちゃんは腕組みをして、目を瞑った。

 そ、そこまで真剣に考えなくても、いいんだけど。

「結構あるな……裏見(うらみ)がサーヤに負けたのもそうだし、期末考査で駒込(こまごめ)が赤点3コしか取ってないのもそうだし……」

「この歩美ちゃんを、あんまり舐めないで欲しいってことね」

 いや、ゼロにしようよ、そこは。

 ただ、歩美ちゃんの勉強効率は、ちょっと異常かな。数学や物理は無勉で平均以上だし、他の科目も直前に1、2時間勉強したら、そこそこ取れてるんだよね。社会科が全然ダメみたいだけど。

「そういう木原は、どうなんだ?」

「え? 私?」

 私は最後のプチケーキを頬張ると、じっと天井を見上げた。

 うーん……びっくりしたことね……。

「ないかな」

「ねーのかよ」

 別に怒らなくてもいいよね、ぷんぷん。


 ピッピピ ピッピピ

 

「ん? 何だ?」

 あ、これはね……。

「私の携帯」

「携帯? 目覚ましの設定ミスか?」

「違うよ、これから待ち合わせ」

 私は鞄を持って、席を立つ。

 お金はもう払ってあるからね。

「待ち合わせ? ……2年生会はどうするんだ?」

 そもそもね、クリスマスに女子会やってるのがおかしいんだよ。

「ごめんね、じゃ、また」

「おう、またな」

「次は来年ね」

「3学期にお会いしましょう」

 私はお店を出て、待ち合わせ場所に急ぐ。

 2年生会の会場から近くて、助かったね。

 でないと、ケーキが食べられなかったよ。

 ……………………

 ……………………

 …………………

 ………………

 あ、いたいた。

「みっちー、お待たせ」

「よぉ、木原」

 私はみっちーに駆け寄ると、そのまま……。

「おいおい……人前だろ……」

 ハグハグ……幸せ……。

 私はみっちーの温もりを感じた後、顔を上げる。

 あ、お顔が真っ赤。みっちー、可愛い。

「そういうのは、人がいないところで……ん? 口元に何かついてるぞ」

 口元? ……あ、きっとケーキだね。

 慌てて出て来ちゃった。ちょっと恥ずかしいかな。

「みっちーが取って」

「ほんとしょうがねーな……」

「ティッシュじゃなくて、チュッチュして」

「ば、バカッ! 何考えてんだッ!」

「冗談だよ」

 私はみっちーからもらったティッシュで、口元を吹いた。

「今日はどこ行く?」

「そうだなぁ……映画でも観に行くか」

「この前、ホラー観に行ったら、入れなかったじゃん」

「ありゃ学生証持参してなかったのが悪いんだろ。R指定だったからな」

 そうだね。私とみっちーって、中学生カップルに見えるみたい。

 みっちーもおちびちゃんだからね。だからこそ、私とお似合いかな。

「ま、歩きながら考えるか」

「そうだね」

 私とみっちーは、お手てを繋いで歩き出す。

 そう言えば、ケーキ屋さんで、何の話ししてたっけ?

 ……あ、びっくりしたことかな。

 みんなは最近、何にびっくりした?

 私はデートのあとで、ゆっくり考えよう、と。バイバイ。

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