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Chaos_Mythology_Online  作者: 天笠恭介
第一章 バウンティハント
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4.逸脱領域 再会の仲間(二)


「うわっ――痛っ!」

「おー! アル兄!」


 鳳牙と違って上手く逃げそこなったフェルドが椅子ごと倒れて頭を打ち、何故かまったく驚かなかった小燕はぱっと顔を輝かせた。


「痛た……ああくそっ! おいアルタイル! なんてところから現れるんだお前は!」


 後頭部をさすりながら何とか起き上がったフェルドが、先ほどまでの冷静さをどこかに置き忘れたかのように逆さまになっている黒装束――アルタイルへ怒りをぶちまけた。


「うぬ。すまぬで御座る。連絡を受けてすっ飛んで参ったので御座るが、なにやら重要そうな話をして御座ったのでタイミングを計っていたので御座るよ」


 そんな事を言いつつしゅたっ、と腕を組みをしたまま床に降り立つその姿は、一部の隙もなく一目見て忍者と呼称せざるを得ないものだった。

 ただし、筋骨隆々ではち切れんばかりの巨体をどうにかこうにかぴっちぴちに収めているという、何かの冗談のような状態だったが。


「アル兄ー!」

「おお! 小燕殿。しばらくぶりに御座る」


 鳳牙やフェルドにしたのと同じように、小燕がアルタイルへ飛びつく。


 そんな彼女をアルタイルは余裕を持って受け止め、なおかつ父親が子供にするように高々と抱き上げてくるくる回転し始めた。

 十回ほど回転したところできゃっきゃと嬉しそうに笑う小燕を床に下ろすと、アルタイルはその巨体を鳳牙の方へ向け、


「鳳牙殿も元気そうで何よりで御座るな」


 その大きな手で鳳牙の頭をわしゃわしゃと撫で回した。覆面から覗く青い目は優しく笑っている。


「アルタイルさんこそ、いつも通りですね」


 されるがままに撫でられつつ、鳳牙は言葉を返した。平静を装ってはいるが、その実腰の尻尾は感情のままにぱたぱたと振られている。


 現実世界ではフェルドと知り合いで同じ大学に通うというアルタイルは、見た目通り『忍者(ニンジャ)』というトリッキーな職業についている。

 時間差で発動する罠玉(わなだま)や、状態異常やステータスダウンを引き起こさせる投玉なげだまを駆使し、パーティーではオールラウンダーな中衛としてなくてはならない存在だった。


 また、性格も豪快ながら気配りも出来るため、鳳牙にとってはまさに兄貴分と言っていい人物である。


「……まったく。驚かせるからせっかく用意してた飲み物もこぼれちゃったじゃないか」


 ぱんぱんとローブに付いたほこりを払いつつ、フェルドが小さくため息を吐き出した。

 なまじリアルでの知り合いであるせいか、フェルドはアルタイルに対してのみ先ほどのように素の感情を表に出す事がある。


「うぬ。それはすまぬで御座る。北部の探索で多少収入があった故、ここは拙者が持つで御座る」

「おー。アル兄太っ腹―」


 小燕の言葉に親指を立てて応えると、アルタイルは大股でカウンターに向かい、すぐさまメイドから新しい飲み物を受け取って戻って来た。


「ありがとうございます」

「うぬ。気にする事は無いので御座る。……ところでフェルド殿。先の話はこの一週間の話のようで御座ったが、拙者らが何をしていたかについてはもう話したので御座るか?」


 全員に新しい飲み物を配り終えたアルタイルが、その巨体で椅子をきしませながらフェルドに問う。


「いや、まだだ。君が帰って来てからの方がいいと思ってね」


 よくずれる眼鏡の位置を指で直しつつ、口調を元に戻したフェルドが問いに答えた。そしておもむろにローブの中を漁るような仕草をしたかと思うと、


「よいしょっと」


 どこからともなく丸められた大きな紙を取り出した。

 ちょうどテーブルに収まりそうなそれを彼がさっと広げると、白地の紙にはギザギザな線で描かれた不定形が描かれており、そこにいくつかの黒点と走り書きが為されている事が確認出来る。


「……これ、もしかして『異端者の最果て』の地図ですか?」

「その通り。近くのメイド露店で白地図とペンが売ってたんだ。メモ書き用のペンはともかく白地図なんて見た事なかったけど、せっかくだから活用してみようかなって。なにせ外はさっき説明した通りだからね。とりあえずは内側に目を向けようって事で、僕とアルタイルでエリアの中を探索してみたんだ」


 元通り丸まろうとする紙をコースターの上に置いた飲み物で抑えつつ、フェルドは先ほどの話には出てこなかった自分自身とアルタイルの一週間の行動を話し始めた。

 それによると、現在までに完全に探索が終わっている場所はエリア中央の中心街以南という事だった。


「今のところ建造物があるのは今いる中心街と、南東の外れにある劇場くらいだけどね」


 フェルドの示す場所は、言葉通り地図の南東。打たれた黒点には『劇場』という説明書きがされている。


「それで、中心街からちょっと南に行ったところに畑オブジェクトがある。料理スキルが無いと使えないけど、野菜や果物の栽培が出来るみたいだね。種とかは露店に売ってたから」


 次の黒点は『中心街』と書かれた黒点に程近い場所に『畑|(野菜・果物)』と記されていた。距離としては徒歩で十分もかからない場所ということらしい。

 そこからやや南西に行った位置にも黒点が打たれているが、ここには猛牛(もうぎゅう)轟鳥(ごうちょう)王豚(おうとん)といった肉の食材をドロップするモブが群れているらしい。


「生産に必要な物がおおよそ揃っているって言うのは本当なんですね」


 そこまでの説明を聞いて、鳳牙はミコトが劇場で言っていた言葉を思い出した。一応は賞金首側の配慮ということなのだろう。


「後は西に小川が流れているから、体を洗ったりトイレなんかは今のところそこしかないよね。完全に露天だけど」

「うえ。のぞかれそうでいやだなぁ」


 フェルドの話を聞いて、小燕が顔をしかめた。男はさして気にしないものだが、女の子で中学生ともなれば当然羞恥心がある。なかなかに困った問題と言えた。


「うぬ。そうとなれば最悪の場合――」


 それまで黙っていたアルタイルが突然会話に参加したかと思うと、地図の上に置かれていたペンを手に取って白紙のままだった北西部分に大きな黒点を記し、その傍らに少し小さな黒点を打った。


「ここに湖があったで御座る。ただ淡水魚の他に海水魚も泳いでいた故、汽水湖なのかもしれんで御座るな。岸辺の水は塩辛くもなんとも無かったで御座るが」


 大きい黒点を指したアルタイルがそんな説明をし始める。食べ物に関しては本当に何でも揃うようだった。


「それと、畔には伐採可能な木が林になっていたで御座る」


 次いで、アルタイルの太い指は大きな黒点の隣に記した小さな黒点に移る。


「材木はここで手に入れるようで御座るな」


 アルタイルが説明を終えて指を離すと、ペンを受け取ったフェルドがそれぞれ新しい黒点に『湖|(魚)』と『林|(材木)』と書き込んだ。


「だとすると、残る北東にはきっと鉱床があるんでしょうね」


 地図に落とされた黒点の位置から判断して、鳳牙は空白になっている北東部分を指差した。


「後で俺が『獣化(ビーストフォーム)』でひとっ走り確認してきますよ。まあ、レア物のは無いって話ですから、多分他の素材としても使う金くらいまでですかね?」

「うぬ。おそらくはそうで御座ろうな」

「ここまで揃っていて金属関係が無いって事はないだろうしね」

「えー。ミスリルくらいあってもいいじゃん」


 小燕が金属製品に関係するところへ突っ込みを入れてきた。

 壁役である彼女は防御力マニアのきらいがあり、がっちがちに装備を固める事を好んでいる。鳳牙との再開時に被っていたバケツメットも、その見てくれから敬遠する者もいる中で気にせずフル装備だった。


 パーティー内では本人の知らぬところで癒し系に位置づけられている彼女だが、さすがにバケツメットまで着けた状態ではその可愛さも霞んでしまう。

 そのため、鳳牙も含め三人のパーティーメンバーからはすこぶる不評であった。


「だって今の装備ミスリル製だし。ミスリル採れなきゃ修理できないもん」


 ぶーぶーと口を尖らせた小燕が不平を漏らす。


 CMOにおいて武具はすべからく消耗品であり、設定された耐久値が〇になると壊れてなくなってしまう仕様だった。その防止のためには耐久値が〇になる前に修理を行い、耐久値を回復させなければならない。

 そして修理をするためには武具と同じ材質の素材を必要とするため、小燕の言う通りミスリル製の武具はミスリルが無ければ修理出来ないのである。


「これ御影じーちゃんの特注で銘入り品だから壊れるのいやー」

「ああ、そりゃ確かにもったいな――あ!」


 小燕の言葉に同意しかけて、鳳牙はすっかり忘れていた人物の事を思い出した。


「そうだ御影さんだ!」

「え?」

「うぬ?」

「むー?」


 突然大きな声を上げた鳳牙に、他の三人はいっせいに疑問符を表示させた。結局はゲームの世界とあってエモートは正常に機能するらしい。

 そんな無駄な発見は努めて無視して、


「いや、ほら、俺たちって御影さんから依頼を受けて神殺しに行って、その後でこんな事になってるじゃないですか。だからもしかしたら、御影さんはこの状況に疑問を持ってくれてるかもしれません」


 鳳牙は思いついた事を口にした。


 御影は正式名を天之御影命(あめのみかげのみこと)という年配の男性プレイヤーで、『武者(サムライ)』という戦闘職でありながら生産職の最高峰『(マイスター)』という職をも極めた猛者である。

 鳳牙たちの装備はほとんど御影の製作によるもので、その付き合いから素材の収集を頼まれる事が度々あった。


 そうやって素材収集の依頼をしたメンバーが、何の報告もなくそろって引退するなどという事態が普通であるはずが無い。現実の顔が見えない付き合いであっても、一人二人ではないのだ。


「そうか。確かに御影さんならイベントの賞金なんて興味ないだろうし、あの人の工房は元々他のプレイヤーもめったに近づかないエリアにある」

「うぬ。隠密行動にはうってつけの場所で御座るな」

「でも、どーやって『カルテナの森』に行くの? ってか、あたしこのエリアがどんなところなのかも知らないんだけど……」


 最後の小燕の発言を受けて、


「ああ、そっか。小燕と鳳牙はここに着たばかりだもんね。えっと、それじゃあ……」


 フェルドが一瞬動きを止めたかと思うと、突然笛を吹くような音が大きく鳴り響いた。


「……ん? フェルドさん、今のなんですか?」

「何って、メイドコールだよ」

「え?」


 さも当然のように言われ、鳳牙は思わず聞き返していた。それに対してフェルドが再び口を開きかけたところで、


「お呼びでしょうか? ウォンテッドネーム『賢人』のフェルド様」


 鳳牙たちのテーブル席から二歩ほど離れた位置に黒髪のメイドが音もなく出現していた。


「あ……」


 そのメイドを見て、鳳牙は思わず小さな声を出す。

 頭上に表示される名前はHAR‐七となっている。鳳牙を案内してきたメイドだった。

 彼女はちらりと鳳牙を確認して、しかしすぐさま視線をフェルドに戻し、


「ご用件を」

「ああ、ご苦労様。えっと、この二人にこのエリアから移動出来る場所についての説明をお願いできるかな?」

「lib。ご説明させて頂きます」


 深々と頭を下げた後、HAR‐七は空中を撫でるように手をスライドさせ、あの時のミコトのように何も映っていない真っ暗なウィンドウを表示させた。


「よろしいでしょうか? ……異端者の最果てから移動出来るエリアは全部で五つあります」


 HAR‐七の指が動き、黒一色だったウィンドウに不気味な色をした空と、これまた植物たちが映し出される。入ったら二度と外に出られなくなりそうな、呪いの森と形容するのが相応しいような感じだった。


「まずは専用エリア『世界の境界』。画像は森のように見えますが、ところにより沼地であったり砂漠であったり草原であったり荒野であったりと、大変バラエティに富んだエリアとなっております」


 まるで遊園地のアトラクションを紹介しているような雰囲気である。ただしHAR‐七の声に感情が乗っていないため、鳳牙は機械音声のナレーションを聞いているような気分である。


「次に、『ドルミナス高原』の西北、崖下の神殿跡です」


 ウィンドウの画像が切り替わり、朽ち果てた神殿が映し出される。


「おー。あの見えない壁で絶対に行けない神殿跡かー」


 小燕が目を丸くしてウィンドウを見つめている。


 小燕の言う見えない壁というのは、キャラクターが崖から落ちないように設定された移動禁止区域の壁の事である。ウィンドウに映る神殿跡はその崖の上から見る事の出来るオブジェクトで、いずれ地下ダンジョンか何かの入り口として解放されるだろうと言われていたものだった。


「lib。神殿跡から崖の上へは、専用のトランスポーターが御座いますのでそちらをご利用下さい。転送場所はランダムな範囲に設定されています。逆に崖の上から神殿跡に戻る際は、そのまま崖から飛び降りてください。賞金首の皆様はこの場所の移動禁止設定を解除してありますので、自動的に異端者の最果てへ転送されます」

「うえ。アタシ、トビオリル、コワイ」

「安全は保障いたしますのでご安心下さい」


 小燕の片言ボケにも真面目に返答しつつ、HAR‐七は残りのエリアについての説明を続けていく。


 それ以降二つ目までの転送場所は、両方ともダンジョンであった。

 『廃都ベルクドレム』のアドラ城。「惑わしの森」とも呼ばれる『アストレイの森』。

 前者はモブの湧きが非常に多く、また再湧きも早い事。後者は地形がループしたり順路が変更されたりしてパーティーをバラバラにされる難所として知られている。


「最後がシルフェリシア大草原、エリアの中心地にある通称「雷神の領域」です」


 ウィンドウには雷が直撃している巨大な避雷針が映し出された。


 シルフェリシア大草原にはこの避雷針を中心に、かなりの広範囲に渡って間断なく雷が降り注ぎ続ける危険地帯が存在する。フィールドを通過するだけならわざわざその範囲を通る必要が無いため、何か目的でもなければまず近づかない場所だった。

 移動可能な五つの場所を確認して、鳳牙はとある事に気が付いた。全ての移動場所が待ち伏せされにくいか、あるいは不可能な場所なのである。


 考えてみれば当然だった。賞金首の出現位置が判明すれば、当然その場所に張り込んで不意打ちをかけるのが手っ取り早い。だが、移動可能な場所はその待ち伏せで長時間待機出来るほど生易しい場所ではない。

 必然的に賞金首たちがエリア移動の隙を狙われる事は少ないが――


「これ、移動先からの移動がすでに大変じゃないか?」


 鳳牙の疑問はそれだ。近づくのが危険な場所に転送場所を設定して待ち伏せ対策するのはいいが、そんな場所へ転送される賞金首たちもまた当然ながら大変である。


「lib。ご安心下さい。転送先のすぐ近くに一定時間専用のトランスポーターが出現し、同一エリア内の比較的安全な場所へランダムで移動する事が出来ます。移動先に待ち伏せの気配がある場合は最優先で選択肢から除外されますので、ランダム移動ポイント全てが待ち伏せ対象となっていない限りは不意打ちの危険性は皆無です」


 淡々とHAR‐七が追加の説明を行う。


 ――なるほど。ここも一応は賞金首側に配慮がなされてるってわけか。


 鳳牙は内心で相手の言葉を反芻する。今の説明の通りであれば、運頼みの待ち伏せに遭遇する事もないはずだ。安心というには程遠いが、まあまあの折衷案だろう。


「以上で移動可能エリアに関する説明を終了させて頂きます。……他にご質問は御座いますか?」


 汗一つかかず、あくまで無表情のままHAR‐七が確認を取ってくる。

 鳳牙はフェルドを見るが、彼が首を横に振ったので、


「いや、もうない」

「lib。それでは失礼いたします。また何かありましたら遠慮なくコール下さい」


 静かにお辞儀をして、HAR‐七はゆっくりとその姿を透けさせて消えていった。


「さて、というわけで転送場所に関しては頭に入れられたかな?」

「はい」

「はーい」


 鳳牙は頷き、小燕は手を挙げて応える。


「うぬ。しからば御影殿の工房へいかにして訪れるか、その作戦を練るで御座る。外は金に目が眩んだプレイヤーが溢れておる故、油断出来ないで御座るよ」

「そうだね。移動場所は目的地に一番近いシルフェリシア大草原だとして、帰りはどうするかだね。工房のあるカルテナの森の最奥にドルミナス高原への一方通行もあるから、草原へ戻るかそっちへ行くか決めておかないと」


 その後しばらくあーでもないこーでもないと議論を重ね、瞬く間に二日が過ぎた。


    ◇


「それじゃ、メイドをコールするよ」


 フェルドの言葉に、鳳牙たち三人は頷く。いつかのように笛を吹く音が響き渡り、


「お呼びでしょうか? ウォンテッドネーム『賢人』のフェルド様」


 目の前にメイドが出現した。


「あれ? またお前か」


 無表情なメイドの頭上に表示されるHAR‐七という文字列を見て、鳳牙が声を漏らす。


「lib。私では不都合が御座いますでしょか?」


 特に気分を害するでもなく、HAR‐七は淡々と鳳牙に問い返した。


「いや、コールってランダムなんだろ?」


 劇場でミコトに受けた説明によれば、舞台を埋め尽くしたメイドからランダムで召喚されるというものだったはずだ。そうそう同じメイドを呼び出せるとも思えない。


「lib。仰る通りメイドコールは待機中の我々から()()()()で参上いたします。なので、私が呼ばれた事におかしな点はありません」


 淡々と話す中でランダムという部分だけ少し強調させたHAR‐七が鳳牙を見据える。

 先ほどまでは普通だったのに、鳳牙は相手がどこか怒っているような印象を受けた。


「……もしもご不満であれば、再度コールしていただければ――」

「ああいや、別にそういうわけじゃない」


 鳳牙はやや慌ててHAR‐七の言葉を遮る。なんとなくだが、相手の言葉に今度はすねるような印象を抱いたせいだ。表情に変化はなく、声に感情が乗っているようにも思えないのだが、なんとなくそう見えたのである。


 ――まあ、錯覚か。


 内心でそう納得し、鳳牙はそれ以上考えるのを止めた。


「えっと、もういいかい? 悪いんだけど、僕ら四人をシルフェリシア大草原へ転送して欲しいんだ」


 鳳牙とHAR‐七のやり取りに首を傾げつつ、フェルドがHAR‐七に転送の依頼をする。


「lib。フェルド様、アルタイル様、小燕様、鳳牙様、以上四名をシルフェリシア大草原へ転送いたします」


 HAR‐七が両手を広げ、静かに目を閉じる。


「座標検索開始…………転送ポイントスキャン開始……スキャン完了。トランスポーター起動」


 HAR‐七が呟くと同時に、鳳牙たちの足元に青白い光を放つ幾何学模様が出現する。


「わおなにこれすげー」

「見た事ない魔法陣だな」

「うぬ。少々緊張してきたで御座る」


 それぞれがそれぞれの反応を返す中、鳳牙は無言で目の前のメイド少女を見つめていた。

 能力の解放で何らかの力場が発生しているのかエプロンドレスやセミロングの髪の毛がふわふわと浮かび上がっており、なんとも不思議な光景だった。


「転送ポイント選択完了……座標固定……、完了」


 すっと、HAR‐七が閉じていた目を開いた。青を帯びた闇色の瞳が鳳牙を映し、まるで吸い込まれるような印象を受ける。


「準備完了です。最終確認になります。宜しいですか?」


 HAR‐七の問いに、フェルドが黙って頷いてみせる。


「liberate。皆様がこの世界に自由と解放をもたらす鍵人(カギビト)とならん事を」


 HAR‐七がその手を重ね、静かにお辞儀をしたのと同時に、鳳牙の視界は一瞬にして暗転した。



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