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Chaos_Mythology_Online  作者: 天笠恭介
第四章 サドンストライク
38/50

10.勇猛美麗 ゴルゴーン三姉妹・死舞




「あはははっ! いいわ。逃げなさい。抗いなさい。そして無様に、滑稽に散りなさい!」

「くっ……」


 死の颶風をまとう刃が鳳牙の鼻先を掠め、命の変わりに銀の頭髪がわずかばかり散らされる。

 攻撃を紙一重でかわした直後は攻め込む最大の好機であるはずなのだが、鳳牙は前に踏み込むべきところを迷わず後方に跳躍した。直後――


「あら残念。さすがに二回目は引っかからないのね」


 振り回しの勢いを利用した薙刀の石突による追撃が飛び込もうと思えば飛び込めた場所を通過する。その様を見て、鳳牙は未だわずかな痛みを発する己の右脇腹を撫でた。

 麗しの殺戮者であるステンノの得物は薙刀だが、その攻撃方法は刃の部分による斬撃や刺突に限らない。先頃普段通りの対応で懐に飛び込もうとした鳳牙は、ステンノの見事な武器捌きで見事に迎撃されるという苦汁を舐めさせられている。


 ――おかしいのは見た目だけじゃないって事だよな……


「鳳牙殿!」


 共闘中のアルタイルが投玉と罠玉を投擲しつつ鳳牙の隣に並んだ。状況は二対一と数の上では鳳牙たちが優勢だが、


「こんなものは無粋よ」


 面倒臭そうにステンノがふんと鼻を鳴らしたかと思うと、なんと彼女は薙刀でアルタイルの放った投玉を叩き落してしまった。避けるでも防ぐでもなく、その場で叩き落したのである。

 それはCMOというゲームシステムにおいてはあり得ない回避手段だった。罠玉にいたっては発動前に足で蹴って退けられてしまうのだから、もはやなんでもありだ。


「ぬぬ。よもやこのような相手がいようとは。よほど上手くやらねば拙者の存在意義が全面否定されてしまうで御座る」

「玉を封じられた程度で意義がなくなりはしませんよ。けど、ものすっごい戦い辛いのは確かですね。俺たちみたいな回避型よりは小燕みたいなタイプでガチンコに持ち込んだ方が面倒がなさそうな気がしますよ」


 言いながら、鳳牙は別の場所でエウリュアレと戦闘になっているであろう小燕とフェルドの様子をパーティーステータスから推測する。

 距離的にはそれほど離れてはいないのだが、乱立する石柱群が目隠しになって直接には様子を伺えないのである。

 ステータス上は小刻みに小燕のヒットポイントにダメージが入っている事が伺えるが、フェルドの支援を受けて危険領域に達するような事態にはなっていない。今のところは予定通りゴルゴーン三姉妹の次女を押さえつけているようだ。


 ――あと十三分くらいか……?


 鳳牙は体感時間から残り時間を類推する。それはこの状況を打破するために必要となる時間。相手を一網打尽にするために、今回の戦闘の要であるステラが提示した時間だ。

 その時間を稼ぎきるまで、鳳牙はなんとしてもステンノを自分に引き付け続けなければならない。


『メドゥーサが動いとう! みんな隠れる準備をするばい!』


 と、そんな事を考えている間にステラからの警告が送られてきた。鳳牙は隣のアルタイルとアイコンタクトをかわし、眼前の敵を警戒しつつもその背後にそびえるように存在する真白き大蛇と、その頭上でゆっくりと立ち上がろうとしている少女にも意識を向ける。


 ――さて、俺らはもらうわけには行かないぞ。


 じりじりと間合いを詰めてくるステンノを警戒しつつ、鳳牙はアルタイルとともに回避と迎撃のための構えを取った。


    ◇


 CMOはありとあらゆる神話の神々が登場するゲームだ。モチーフとなる神話の中には神というよりは魔物や悪魔として描かれているものも多数存在しているが、それらの一部も神に属するものとしてゲーム内に登場する。


 ゴルゴーン三姉妹はその一つで、毒の沼地に生息する蛇女(ラミア)族のボスという位置付けのモブだ。三体とも名称が異なるだけの同じグラフィックをしており、その姿はまさに魔物である。

 また伝承の通りステンノとエウリュアレは不死身という設定になっているため、どれだけダメージを与えても倒す事が出来ない。つまりはプレイヤーの討伐対象はあくまで末妹のメドゥーサ一体であり、メドゥーサを討伐する事でステンノとエウリュアレも同時に討伐した事になる特殊モブでもあった。


 そう。CMOにおけるゴルゴーン三姉妹はあくまで姉妹全員が同じ姿形をしており、なおかつそれは蛇女であるはずなのだ。

 決して戦乙女がごとき神秘的な美しさで薙刀を振るう双子と、両手で顔を隠してしゃがみ込む少女の三姉妹ではない。


「金剛!」

「にゃっ!」


 鳳牙と小燕が同時に防御体制を取り、襲い来る激流を受け止めた。スキルの効果で硬質化した鳳牙の左肩と盾のように構えた小燕のクラミツハに薙刀の刃が直撃し、甲高い金属の衝突音が響き渡る。


「ぐっ!」

「重っ!」


 それぞれなんとか耐え切りはしたものの、そのあまりに重い一撃に声を漏らす事までは抑えきれない。

 咄嗟の行動にしては過不足のない防御だったのだが、威力を吸収しきる事が出来ずに鳳牙も小燕も若干のダメージを負ってしまった。


「あら?」

「ふーん?」


 まさに神速にして強烈な一撃を放ったステンノとエウリュアレの姉妹が自分たち攻撃を受け止められた事にわずかに首を傾げ、ぱちぱちと目を瞬かせている。

 その隙を逃さず、


「覚悟!」

「いただきばい!」


 アルタイルとステラが反撃に出た。しかし攻撃直後の硬直を狙ったはずのアルタイルの斬撃はステンノに難なくかわされ、ステラの火炎球三連弾もエウリュアレがバトンのように回転させた薙刀にかき消されて無効化されてしまう。


「このっ!」

「やあっ!」


 ならばと防御体勢を解いた鳳牙と小燕が再反撃を試みるが、相似の姉妹はその攻撃を素早く後方へ退く事で回避してしまい、空振りに終わった。

 彼我の距離が再び開いたところで、退いた姉妹が踊るような滑らかさで左右対称の構えを見せる。


「防がれたわね。エウリュアレ」

「防がれちゃったね。ステンノお姉さま」


 小鳥がさえずるような笑みを含んだ言葉。姉妹の瑠璃の瞳に喜悦の色が混じり、赤く艶かしい舌がぺろりと唇を舐めた。


「でも、それならメドゥーサをこのままにはしておけないわ」

「そうだね。それじゃあ、あの子に守ってもらおうよ。ステンノお姉さま」

「そうね。そうしましょう」


 クスクスと互いに笑みを交し合い、双子の姉妹は油断なく身構える鳳牙たちをよそに手に持つ薙刀を同時に大理石の地面に突き立てた。

 途端、姉妹の足元に青緑に発光する巨大な幾何学模様や特殊な文字の描かれた魔法陣が展開される。魔法陣は白い大理石の地面を滑るように移動したかと思うと、姉妹の背後でいまだに顔を押さえてしゃがみ込む少女の真下に到達したところで動きを止めた。


「さあ、来なさい。我らの眷属たる守護者よ!」

「さあ、来なさい。我らの眷属たる守護者よ!」


 それぞれ左手を右手を掲げた姉妹の宣言と同時に、魔法陣の中からとんでもないものが生えるようにして隆起し始める。


「おいおいおい……」

砦蛇(フォートレスボア)……?」

「なんという……」

「うへ。でか過ぎ」

「大変ばい……」


 周囲に存在する大理石よりもなお真白き鱗。丸太と形容するのも足りないほどに太い胴体。蛇特有の威嚇音も全身を打ち付けるような重低音であり、その巨大さはとぐろを巻いている状態だというのにそこらの石柱を超えてしまっている。

 らんらんと輝く赤い目は血に飢えた捕食者を想像させ、ただ見ているだけで恐怖心を抱きそうになる。

 その巨大な白蛇の頭上には姉妹が妹と呼ぶ少女が一人。それまでしゃがみ込んでいたはずなのだが、今は細く華奢な両足でしっかりと立ち上がっていた。

 思わず傍観してしまう鳳牙たちの視線の先で、少女はゆっくりと顔を覆わせていた両手を離していく。覗く顔立ちは髪の毛の色を覗けば双子の姉妹に良く似ていた。数年も立てば姉たちと同じく美人になるであろう事に疑いの余地はない。

 そして閉じられていた瞼が開かれ、その下からさらけ出されるさざめく新緑の森とも小波のエメラルドオーシャンとも形容出来そうな緑の瞳。その惹き付けられる目に怪しい光が宿った瞬間――


「まずっ――全員物陰に隠れて!」


 フェルドの悲鳴に近い警告と、


「お待ちなさいな」

「逃げちゃ駄目だよ」


 残酷な笑みを浮かべた姉妹の第二撃が同時に行なわれた。


「ちいっ! 金剛!」

「わわっ! 絶対障壁!」


 フェルドの警告を受けて回避を試みようとした鳳牙だったが、再びステンノの標的とされてしまったために回避を中断して同じく再度金剛で攻撃を受けざるをえない状況になってしまう。

 結果として鳳牙はフェルドの指示通り物陰に隠れる事が出来ず、その場で釘付けとなってしまった。

 近くでは小燕もまたエウリュアレの攻撃を絶対障壁で防いでいる。おそらくはエウリュアレの攻撃と動きを見せたメドゥーサからもくるであろう攻撃に対処出来るようにするためだろう。物理ダメージしか防げない鳳牙の金剛と違って、小燕の絶対障壁は魔法ダメージも防ぐ事が出来るからだ。


 だが、小燕の絶対障壁でも防げない攻撃は存在する。


 傍目には鳳牙も小燕もほぼ無傷で相手の攻撃を防ぎきったように見えるだろう。金剛による防御でステンノの攻撃はやや貫通されたもののほぼ無力化しているし、小燕の絶対障壁はあらゆる物理・魔法ダメージを〇にする。

 だから鳳牙はともかく小燕のヒットポイントゲージはほとんど変動していなかった。ダメージログにも致命的なダメージを追った記録は残されていない。


 しかし鳳牙はステンノの攻撃を防いだ直後、メドゥーサの目が怪しい輝きを放った瞬間から身体に生じた異変を認識せざるを得なかった。

 一瞬にして喪失した足元の感覚。そしてその喪失感は下から這い上がるように足全体へ広がろうとしてた。防御体制のまま確認する鳳牙の足元は、すでに膝上の辺りまで灰褐色に変化してしまっていた。


「石化か!」

「正解よ」


 鳳牙の焦りの声に笑みを濃くしたステンノが大きく後方へ跳躍し、同じく跳躍していたエウリュアレともども着地と同時に蛇のように地を滑る動きで突っ込んでくる。今度は先の斬撃ではなく、突撃の勢いを乗せた刺突の構えだ。

 本来であればその大振りな挙動では簡単に見切られて回避されてしまうものだが、彼女らが狙う獲物である鳳牙と小燕は足が石になって身動きが取れない。固定された的への攻撃なのだから、当然にして見え透いていようがかわし易い大振りであろうが関係が無いのだ。


「やばば!」


 小燕がなんとかして逃れようともがいているが、すでに石化は下半身全体に達しているために上半身しか動かない。石化はフェルドのリカバーで解消出来るバッドステータスだが、さすがにこの短時間では詠唱が間に合っていなかった。


 迫り来る刃。よもやこの一撃で死ぬという事はないだろうが、そこから追撃をもらえば装甲の厚い小燕でも確実に死ぬ。死ねばスタート場所に強制送還だ。

 さすがにここまで来て最初からやり直しになるわけには行かない。


 ――虎の子一本目!


 迫り来るステンノの攻撃を凝視しながら、鳳牙は持ち物ボックスからディスペルポットを選択使用。灰褐色になっていた身体が七色に輝き、一瞬にして元の色へと戻る。


「え……?」


 瞬時に石化を解いた鳳牙に驚いたのか、ステンノが突撃してきながらもきょとんとした表情になっていた。

 鳳牙はそんなステンノを無視し、


「そう簡単に――」


 軸をずらして若干小燕の側へ身を寄せ、ステンノと並び突撃してくるエウリュアレも射程圏内に捉える。そして――


「――やられてたまるか!」


 大理石の床を渾身の力で踏み付けて豪震脚を発動。爆発的な膨張を見せた勁の波動が突撃してきていたステンノとエウリュアレに真っ向から襲い掛かった。


「ああっ!」

「きゃあっ!」


 強制ノックバック効果のある波動に触れた瞬間、姉妹は見えない壁にでもぶつかったかのようにのけぞりながら吹っ飛ぶ。まるで車にでもはねられたかのような飛びっぷりだった。


「フェルドさん小燕にリカバーを!」

「分かってる! ――リカバー!」


 近くの柱の陰にいたフェルドに声をかけるのとほぼ同時に、彼がかざした杖から放たれた光が小燕を包み込み、小さな身体の胸辺りにまで及んでいた小燕の石化が解除される。


「アブネーアブネー」


 ふうとヘルメット越しに額の汗を拭う仕草をした小燕が、どこか片言のような発音で胸を撫で下ろしていた。

 そんな様子を確認して、鳳牙は吹っ飛んだ姉妹が起き上がろうとしている様を視界の端に捕らえつつ、その視線を大蛇に乗る少女へと向ける。


 ――またしゃがみ込んでる……?


 緑髪の少女は大蛇の頭上で再び両手で顔を覆ってしゃがみ込んでいる。最初に見たときはそれを泣いているように思った鳳牙だが、今となっては力を蓄えているようにしか見えなかった。


「状況がおかし過ぎるけど、ヒットポイントゲージの表示されない不死身の姉妹に石化睨みの末妹となればもう疑いの余地はないね」


 隠れていたフェルドがメドゥーサの様子を伺いながらも鳳牙たちに合流してくる。アルタイルやステラも同様に隠れる事を止めており、五人は再び揃ってゴルゴーンの姉妹たちと対峙する形になった。


「うぬ。しかしあの大蛇は何で御座るか」

「さっきフェルドさんが言っとうばってん、フォートレスボアって本当ばい?」

「うん。たぶん間違いないよ。巨大なアルビノの蛇。本来はリザードキング配下のボスモブだ」


 すっと眼鏡の位置を直したフェルドが、真白き大蛇について簡単な説明を行なう。

 フォートレスボア。通称『砦蛇』。騎乗者をあらゆる攻撃から庇う能力があり、範囲攻撃以外に騎乗者へ攻撃を届かせる事が出来なくなる。

 しかしその巨体さゆえに大方の範囲攻撃は騎乗者を射程圏内に捉える事が出来ないため、実質フォートレスボアを倒さない限り騎乗者を倒す事は不可能に近いというまさに砦のようなモブという事だ。


「しかもフォートレスボアは騎乗者に対して永続的な自動回復効果を発生させているんだ。だからちょっとした範囲魔法で狙い打ってもすぐに回復されてしまう」

「それじゃあ、メドゥーサを倒したければあの双子の攻撃を掻い潜ってフォートレスボアを先に落とさなきゃ駄目って事ですよね?」


 自分でそう言って、鳳牙は眼前に立ちはだかる相似の姉妹を見る。暗青色の瞳には怒りの炎が燃えており、先ほどまでのどこか余裕ぶった表情は吊り上がった眉毛同様に鋭いものへと変化していた。明らかに本気になりましたという感じである。

 先の二合は鳳牙とて全力というわけでもないが、果たしてあの姉妹を出し抜くようにフォートレスボアを討つ事など出来るだろうか。


 ――厳しいにも程があるだろ。


 絶対数では当然鳳牙たちの方が相手よりも人数が多い。仮にダメージを与えても仕方のないステンノとエウリュアレを一人ずつで抑える事が出来るのであれば勝機もあろうが、実際にはそういうわけにも行かないだろう。

 加えて今のところ直接攻撃はしてこないメドゥーサだが、またぞろいつあの魔眼による石化睨みを放ってくるか分かったものではないのだ。

 本来であれば見通しの利き辛い乱立する石柱の森も、フォートレスボアの頭上からでは広く見通す事が出来てしまう。

 つまりそれは、メドゥーサの魔眼の効果範囲が恐ろしく広いという事だ。石柱の根元にでも潜まねば回避不可能という状態である。


 考えるだに状況不利という中にあって、パーティー内に流れていた不穏な空気を消し去ったのはステラだった。


「えっと、フェルドさん。範囲攻撃なら届くと?」


 不意に放たれた言葉にフェルドが一瞬目をぱちくりとさせて、


「え? ああ、うん。物理スキルは射程の関係で難しいけど、魔法スキルなら問題なく届くはずだよ」


 じりじりと間合いを詰めてきているステンノとエウリュアレの挙動に注意しながらも、フェルドがステラに言葉を返す。小燕と並んで前面に立つ鳳牙だが、鋭敏な感覚は振り返らずとも仲間のそんなやり取りを教えてくれていた。


「確か、メドゥーサはあまりヒットポイントの多かないボスモブやったよね?」

「そうだね。でも、ここのモブは総じて強化されてるからいつもの基準は当てにならないけど」


 見た目からして別ものとしか思えない状態である。ステータス関係も『世界の境界』以外の既存情報は全く充てにならないと見るべきだろう。

 とはいえ、いくらおかしいとは言ってもこの最後の最後でさらに常軌を逸するという事も考え難い。なにせ鳳牙たちは現状揃えられる最大の装備を持ってこの場に挑んでいるのだ。それが手も足も出ずに一蹴などという事態になるなど考えたくもない。


「……そんならうちがなんとかするばい。申し訳なかばってん、みんなで二十分稼いで欲しいばい」


 ――え?


 鳳牙は誰かの遠ざかる足音を聞いて、それを捉えた自分の耳を疑った。しかし――


「え? あ、ステラ!」

「ステラ殿!?」

「ふぇ? ステラ姉?」


 仲間たちの驚きの声が発せられたという事実をもって、ステラがその場から遁走したという事実を認めざるをえなかった。加えて、


「あら? 黒い格好の女の子が逃げちゃったわね。エウリュアレ」

「逃げちゃったね。ステンノお姉さま」


 じりじりと怒り顔で迫ってきていた姉妹が目を瞬かせたのだから、もう疑問を挟む余地がない。

 一体どういうつもりなのかと鳳牙はステラへ【ささやき】を送ろうとして、


『メドゥーサの動向はうちが見張っとう。今からやる事の説明はこれからするけん、みんなはとにかく二十分間その二人を抑えて欲しいばい。絶対になんとかするったい!』


 逆にそんな【ささやき】が聞こえてきたかと思うと、鳳牙は視界の端にステラのクリスタルオプションたちが大蛇の方へ向かって行く姿を捉えた。上手く石柱に潜み隠れながら進んでいるため、鳳牙たちへ意識を集中させているステンノとエウリュアレには気が付かれていない。


 ――何をするつもりなのかまだ知らないけど――


 ステラは絶対になんとかすると言った。自分自身で良策を思いつけていない以上、仲間としてその言葉を信じる事に躊躇いはない。

 それは他の面々にしても同じようで、


「さて、どう割り振ろうか?」


 すでにステラの案を採用する事に決めたと見えるフェルドが四人での戦闘方法を確認してくる。


「うぬ。鳳牙殿。先ほど使ったディスペルポットはまだ残っているで御座るか?」

「後二本あります」

「うう。あたし持ってない……」


 ややしょんぼりと肩を落とす小燕だが、それは先の一戦ですでに判明済みだ。あの場面でディスペルポットを持っていれば使わないはずがない。


「僕も自分用の一個しか持ってないな。……じゃあ僕と小燕、鳳牙とアルタイルで分けよう。小燕の回避率だと攻撃を避けるのは難しいだろうし、ある意味ベストな分担じゃないかな」


 機動力のある鳳牙とアルタイルであればいざという時に遁走する手段もあるが、防ぎ耐える事に優れる小燕は最初から退路がない。しかしフェルドの支援があれば一人でも相手を抑える事は可能だろう。それだけの技量が彼女にはある。


「それで行きましょう。俺たちはステンノを引きます」

「じゃあ僕らはエウリュアレだね」


 即座に標的を設定。陣形を変えて全員で迎撃の構えを取る。


「あらあら。何かやる気になってるわよ。エウリュアレ」

「活きが良いのはいい事じゃない? ステンノお姉さま」

「そうね。活きが良いのはいい事よね。それだけ長く踊れるのだから」

「ええそうよ。きっとメドゥーサも喜んでくれるわ。苦痛にもがく玩具はとても愉快ですもの」


 姉妹が唇の端を釣り上げにやりと笑う。美しい彼女らのその笑みは、おぞましいほどに残酷だった。絶対零度の残虐性が鳳牙の全身を貫き、獣耳と尻尾がぴんと張って反応する。


「せいぜいあがきなさい」

「そして悶えなさい」


 見る者を恐怖させる笑みを張り付かせたまま、ステンノとエウリュアレが改めて武器を構えた。そして――


「さあ楽しみましょう。死の舞踏を!」

「さあ楽しみましょう。死の舞踏を!」




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