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Chaos_Mythology_Online  作者: 天笠恭介
第三章 エンカウント
20/50

2.合同遠征 未来を目指して



「――それじゃあ、パーティー編成はこれで行こうか」


 フェルドの声かけに、それぞれが自分のパーティーメンバーの顔を見比べる。


 ハヤブサが秘密の花園から連れてきたメンバーは、『魔術師』のトウカと昨日『宴』に絡まれていた『司祭』のミルフィニアだった。


「うちのギルマスがようき世話んなっとんなあ。ま、今回もよろしゅう」


 快活な関西弁で話すのは二十過ぎくらいの女性キャラクター、トウカである。身長は鳳牙と同じくらいだろうか。外見はファンタジーでよく見るエルフよろしく金髪緑眼で耳が長い感じだ。

 着ている物も露出こそ少ないもののかなり薄手な生地のものであるため、身体のプロポーションがはっきりと分かってしまう。女性の少ない『真理の探究者』においてはかなり異色だった。


「あー、周りの男連中の視線は気になんねけど、性能ええし気に入っとんねん。しゃーないやん」


 とは本人の弁である。


 確かにCMOにおいて見た目と性能は必ずしもイコールではない。見た目が布なのに下位の金属装備より防御力が高いなどという事はざらなのだ。

 加えてステータスボーナスを優先させるととてもカオスな寄せ集めになったりするのだが、こちらは大抵のプレイヤーがコーディネートを優先させているのでそうそう見る機会はない。

 おそらくトウカの装備はボーナスとコーディネートを両立させているのだろう。

 鳳牙も色合いを統一した装備をしているので、トウカの言う事もよく分かる。

 性能が低いのであればいざ知らず、今更おいそれと変える事は出来ないというわけだ。


「……あ、えっと、きの、昨日はありがとうございました」


 わたわたと慌てながら頭を下げるのは、ハヤブサの連れてきたもう一人。桃色の髪に同色の瞳をした、こちらは高校生くらいの女の子だった。

 フェルドと同じようなゆったりとした白のローブに身を包み、頭にはミスリル製のサークレットを着けている。

 どこかふわふわとした印象の彼女は杖ではなく、魔導書をメインウェポンとしているらしい。


 魔導書は杖と違って各種エンチャントを付加出来ないため、リーチの短さも手伝って杖以上に接敵された場合の対処が弱い。

 その代わりに魔力関係のステータスボーナスが杖よりも優遇されており、微々たるものだが詠唱時間の短縮効果も存在する。

 ステラやトウカなど『魔術師』はほぼ確定的に魔導書を用いるが、マスタースキルの性質上『司祭』で魔導書を使用するのはあまりメジャーではなかった。


「えと、私、誰かを殴ったりするのは苦手なんです。だから職業も『司祭』なんですけど……」


 魔導書を胸に抱いたミルフィニアが気恥ずかしそうにもじもじとしている。

 これもまた『真理の探究者』にはいないタイプの女性だった。


 ――とはいってもうちの女性陣は小燕とハルナしかいないんだけどな。


 小燕はともかくハルナを人数に入れていいのかどうかは分からないが、鳳牙がチラリと視線を送ると何故か彼女はツンと鳳牙から顔を逸らしてしまった。

 どうも何か気に入らないようだが、何がそんなに気に入らないのかが鳳牙には分からない。仕方がないので放置する事にした。


「ギルドマスターであるハヤブサさんの守りを小燕で補いつつ、僕の支援とステラの魔法で安定性を重視したパーティーってとこかな」

「おー。あたしハヤ姉の護衛? 責任重大?」

「うちもがっつんやるばい」

「ははは。うん、期待させてもらおうか。でも、あたしだって守られるばかりじゃないよ」


 全員の職業適性など諸々の事情を考慮した結果、第一パーティーは小燕、ハヤブサを前衛に、後衛にフェルドとステラの四人パーティーになった。

 まかり間違ってもハヤブサを討伐されるわけには行かないので、フェルドは安定性重視とは言ったが戦力的にも申し分のないパーティーである。


 対して、


「こっちは俺とアルタイルさんそれぞれの回避力を生かしつつ、トウカさんとミルフィニアさんに支援してもらう感じですかね」

「うぬ。後衛の負担は最小限に。されど戦果は最大限に、で御座る」

「うちはそこそこに対人経験あるさかい、どでかい魔法ぶち込むんもやぶさかやないで?」

「あ、えっと、私は対人戦は不慣れですが、回復はがんばります! よ、よろしくお願いします!」


 第二パーティーは鳳牙を前衛、アルタイルを中衛に据え、後衛にトウカとミルフィニアを配置している。


 秘密の花園のメンバーは賞金首になって以後もパーティーバランスの関係上あまり頻繁には撃退マーク狩りを行えていない。

 その結果としてどうしても実戦経験に劣るものがるため、回避力に優れて被弾の少ないアルタイルと、対人において一撃必殺を誇る鳳牙を組ませる事で多少のアクシデントをものともしない編成としたのだ。

 回復魔法の支援はカウンター的に行ってもらい、スタミナの回復はその都度要請を飛ばす事で事故回避をする手はずになっている。


 鳳牙の見立てでは、この四人パーティーも並みのパーティーには決して引けを取らないはずである。


「よし。それじゃあもうじき御影さんも来るだろうから、それまでに物資の最終確認や補充は済ませて置くように。出発前に最終確認を取るけど、今の段階で何か質問はある?」


 フェルドの問いかけにその場の全員がそれぞれに顔を見合わせるも、手を挙げる者はいなかった。


「よし。それじゃあ何か必要なものがあれば――」

「私に何なりとお申し付け下さい。料金は頂きますが、おおよその物は入荷してあります。撃退マークとのトレード品も御座いますので、どうぞご利用下さい」


 フェルドの言葉尻に被せて、ずっと部屋の隅で待機していたハルナが静かに前へ出てお辞儀をする。と同時に、ネームの横に露店のマークが出現した。


「ねえねえもふもふ君」


 ハルナから物資を買う者たちを尻目に、つつつっと近寄ってきたハヤブサが鳳牙に耳打ちをしてきた。


「だれがもふもふ君ですか。……それで、なんですかハヤブサさん」

「いや、君らんとこのメイドさんってさ、何でいちいち露店マーク出したり引っ込めたりしてるの?」


 そんな質問をされて、鳳牙は思わず片眉を跳ね上げた。ハヤブサの質問の意味が分からなかったためだ。


「何でって、それが普通なんじゃないんですか? ハルナはこっちが申し出ない限り露店マーク出しませんよ」


 通常のノンプレイヤーキャラ露店と同じ買い物が出来るハルナだが、別件で動き回っている事も多いために鳳牙たちから要求を出さない限り露店経営をしていない。

 鳳牙たちとしてはそれが普通だと思っているし、色々と気の付くハルナに感謝もしているので、ついぞハヤブサの指摘を不思議に思った事はなかった。


「……ふーん。あたしらんとことはずいぶんと違うなぁ。あ、うちの子はローゼンって名前付けたんだけどさ。覚えてる?」


 言われて、鳳牙は『秘密の花園』でお風呂やらを借りていた時の事を思い返した。『秘密の花園』の管理メイドは覚めるようなワインレッドのボブカット髪にオレンジ色の瞳をしたメイドだったはずだ。

 ころころとよく笑っていた顔が鳳牙の印承に残っている。本人の前では言えないが、いつも無表情なハルナとは大違いだった。


「まあ確かにあの子に比べれば表情豊かって事にはなるんだろうけど、結局作り物なんだよね。こっちで何か言わないとずーっとニコニコ顔でホールに立ちっぱなしだしさ」


 バリバリと粗野な感じでハヤブサが頭をかいた。綺麗に整えられたポニーテールがその振動でゆらりゆらりと揺れている。


「それに比べてあの子は結構好きに動き回ってるよね。その場その場の定位置はあるみたいだけど、絶対的な定位置がないって言うかさ」

「一応管理人室って事で一部屋持ってますよ?」


 鳳牙にしてみればそれはハヤブサの言葉に対する補足説明のようなものだったのだが、


「え? メイドに部屋割り当ててるの?」


 きょとんとした顔でハヤブサに聞き返され、


「え? だって寝泊まりする部屋は必要じゃないですか?」


 鳳牙もまたきょとんとした顔で質問し返してしまった。


「……寝泊りって、メイドって寝るの?」


 君は一体何を言っているんだい? という目で見られ、鳳牙は何か間違えたのだろうかと錯覚して思わず身じろぎをしてしまう。


「えと、寝ないんですか?」


 それでも何とか言葉を返すと、途端にハヤブサが腕を組んで悩み始めてしまった。

 驚きだわ、などとハヤブサがなにやらぶつぶつと言っているが、本人にしてもまともに声にしているつもりはないのか鋭敏な鳳牙の聴力でもほとんど聞き取れなかった。


「あ、あともう一つ驚いたのあった。ほら、ウェルカムドリンク。あれお金かかるでしょ?」

「そうですね。たしかギルド倉庫に入ってるお金を使ってるとか言ってましたね」


 調査や撃退マーク狩りでホームの外に出た後戻ってくると、大体の場合ハルナがドリンクを用意して出迎えてくれる。

 誰がお願いしたわけでもなくハルナが自発的に始めた事だが、特に誰も止めようとはしなかった。使用される金銭が微々たる物という事も一因だが、悪い気はしないというのが一番の理由だった。


「ホーム管理メイドが自分の判断でそういう物使うってのが信じられないよ。それじゃあまるで普通のプレイヤーキャラみたいじゃないか」

「………………」


 ハヤブサの言葉に、今度は鳳牙が考え込んでしまった。


 ――そういえばメイドコールも全部ハルナが来たから、他のメイドってまったく知らないんだよな。


 『秘密の花園』の管理メイドを除けば、その他の管理メイドはもちろんメイドコール待機メイドとの交流も一切無いと言っていい。

 そのため、鳳牙の中でのメイドの基準はハルナ以外にはいないのだ。


「まあ、あたしも自分ところと君らんところのメイドくらいしかよく知らないけどさ。少なくとも今までにメイドコールで呼んだメイドはローゼンと同じ受動タイプだったね。あの子、ハルナちゃんだっけ? みたいな能動タイプは見た事がないよ」

「はあ……」


 そうは言われても、鳳牙は生返事しか出来ない。そうして、鳳牙はハルナへと視線を向ける。

 当の彼女は注文を受けた物をそれこそ魔法のように出現させている最中だ。その能力は通常プレイヤーとはまったく異なるもので、つまりは彼女がバウンティハントイベントの主であるミコト側の存在であるという証拠でもある。


 ――けど――


 ハヤブサの言う通り、鳳牙も時折ハルナがノンプレイヤーキャラであるという事を忘れかける事がある。もしかすると、彼女たちメイドこそ人工知能か何かで制御されているという事なのかもしれない。

 好き放題にやっていたミコトは人間が動かしているのだとしても、その他の自由を制限されるメイドたちをそれぞれ人間が動かしているとは思えない。とすれば、掲示板で書かれていた人工知能が鳳牙たちではなくメイドたちに使用されていると考えれば、意味のある会話が出来るメイドたちの柔軟性もまま頷ける。


「もふもふ君?」

「え? あ、いえ、すいません」


 知らぬ間に考え込んでしまっていたらしく、鳳牙はハヤブサの伺うような声で思考の海から這い上がった。そのまま話の途中で思考に沈んだ非礼を詫びようとして、


「さっきからハルナちゃんがちらちらとこっち見ながらなんとなく怒ってるみたいなんだけど、何で?」

「……は?」


 ひそひそと頭の獣耳に耳打ちされた内容に、鳳牙は再びきょとんとなってしまった。

 言われるままにハルナへと意識を向ければ、確かにややじと目で鳳牙を睨んでいる。と思いきや、次の瞬間にはツンと視線を逸らされてしまった。


 ――そういやさっきも同じような感じだったな。


 鳳牙はトウカとミルフィニアの自己紹介の時もハルナが同じような感じで怒っているような気に入らないような雰囲気だった事を思い出した。相変わらず何がなにやら分からない。


 だが、その様子を見ていたハヤブサには何か思うところがあったらしく、


「……ふーん。いやまさか、ねえ」


 なにやら分かったような分からないような感じでぶつぶつと独り言を漏らしていた。

 鳳牙は何か分かったのかと問おうとして、


「よう。そろってんな」


 突如出現した白髪着流しの老武者――御影の言葉にタイミングを奪われる事になった。


「おはようございます御影さん」

「おう。つってももう昼だがな。ああ、マリアンナと例の相手は時間通りに工房へ来るそうだ。俺らも用意が出来次第カルテナの森へ向かうぞ」

「分かりました」


 御影とのやり取りを終えたフェルドはその場にいる全員を見回すと、


「それじゃあ、善は急げって事で。皆、もう準備は整っているかな?」


 先の宣言通りに最終確認を始めた。

 他の面々同様、鳳牙もコクリと頷いてみせる。


「オーケー。それじゃあまずはパス付きのチャットチャンネル『探花』っていうのを作ったから、全員そこへ接続して。パスは『四九一五四二七』だから。あ、御影さんも入って下さいね」


 フェルドの指示を受け、鳳牙はチャットチャンネルウィンドウを展開。『探花』で検索をかけて該当チャンネルを指定。パスワードを入力してチャットに接続した。

 すると、


『皆入ったかな?』

『うぬ』

『げ、一番乗りをアル兄に取られた……』

『これでよかと?』

『入ったぜ』

『チャットチャンネルを使うのは久しぶりだな』

『入ったでー』

『だ、大丈夫です』


 【ささやき】に似た感じで全員の声が聞こえてくる。

 【ささやき】は最大で五人との同時通話しか出来ないため、二パーティー以上で連携を取る際にはチャットチャンネルと呼ばれる専用の音声通話部屋を開設するのが主流である。

 ギルドチャットとは異なるが、同じチャットチャンネルに入室している者同士でのみ会話が可能で、大勢で外部に声を漏らしたくない時などにも重宝されていた。


『よし。じゃあ次は進路の確認だ。まずは全員まとめてハルナさんにシルフェリシア大草原へ転送してもらう。その後はどういう経緯であれとにかくトリエルへのトランスポーター付近で一度集まるよ。雷神の領域からの移動用トランスポーターはパーティー毎で別々に跳んじゃうみたいだから、連絡は密に取って行こう』


 確認を取るようにフェルドが全員の顔を見回し、それそれに無言で頷きを返す。


『トリエルへの進入は、まず御影さんから行ってもらいます』

『おう。様子を探って報告をいれりゃいいんだな』

『ええ。元々ほとんど人のいないタウンですけど、僕らは割りとそっちの方で見られる事が多かったですからね。賞金稼ぎが張ってないとも限りませんから』


 フェルドの言うように、鳳牙たちが一番最初に一般プレイヤーと事を構えたのがカルテナの森である。それ以後も引越しのために何かと御影の工房へ足を運ぶ事も多く、必然的にカルテナの森で襲撃者の撃退を何度か行うことになった。

 人気のないエリアという事で攻略情報や地形情報などが少なく、結果として地の利を最大限に生かした鳳牙たちはその都度襲撃者の撃退に成功していた。しかし、二度三度と同じエリアで同じ賞金首が目撃されるとあればどうしても噂になる。

 結果として、カルテナの森は高額賞金首出没の穴場エリアという認識を与えてしまっていた。


 幸いにして御影との接点に関しては憶測の域を出ず、御影自身の交友関係が広いわけでもないために情報が漏れるような事にはなっていない。が、おそらく今回の件で鳳牙たちとの関係は完全に知られる事にはなるだろう。

 その後についての懸念がないわけでもないのだが、当の本人は特に気にした様子もなく、好きにしろと言ってくれていた。


『俺はトリエルに誰かいてもいなくてもそのままカルテナの森へ向かうって事でいいんだよな?」

『はい。状況を報告してもらいつつカルテナの森へ移動してもらって、トランスポーター付近に誰か潜んでいないかを確認して下さい』

『おう。分かった』


 ぴしゃり、と御影が自分の額を叩いてにやりと笑う。彼はそのまま懐からキセルを取り出すと、火をつけて紫煙をくゆらせ始めた。


 そんな姿を確認して、フェルドが視線を全員に向け直し、


『それで、まずトリエルに誰もいなかった場合。僕らも速やかにトリエルへ移動する。そして御影さんの報告を待ってカルテナの森へ移動。カルテナの森のトランスポーターで動きがなければとにかく工房まで一気に移動するよ。工房に入ってしまえば誰にも手出しは出来なくなるからね』


 第一方針を述べる。


 今回はとにもかくにも御影の工房へ至るのが目的だ。道中で戦闘を行わないですむに越した事はなく、また不必要に戦闘を行う必要もない。

 だが、必要であれば降りかかる火の粉を払えなければならない。


『次にトリエルに誰かいた場合だ。張り込みパーティーであればその人数と構成次第で潰すか逃げるか決める。あからさまに見張りであれば確実に応援を呼ばれるだろうから、カルテナの森の様子を御影さんに探ってもらって、誰もいないようであれば一気にトリエルを駆け抜ける』


 これが第二方針。仮にタウンエリアを見張られていても、フィールドエリアでなければ戦闘行為は行えない。すぐに応援を呼ばれたとして、カルテナの森のトランスポーター周辺で張られていないのであれば強行突破で駆け抜けるのが最良といえる。


『そしてもしカルテナの森で張り込まれていたら――』


 フェルドがすっと視線をずらし、


『先手はアルタイル、君に行ってもらう』


 腕を組んで話を聞いていたアルタイルを指名する。


『うぬ。任されたで御座る』


 ある程度予測をしていたのか、アルタイルは特に驚いた様子もなくフェルドの提案を受け入れた。


『トリエルを一気に駆け抜けて、カルテナの森に移動すると同時にありったけの罠をばら撒くんだ。それとタイミングを見て御影さんへパーティー申請を出して。一般プレイヤーの御影さんも賞金首パーティーに所属する事で攻撃に参加出来るようになるから、十分相手の出鼻をくじく奇襲になる』


 説明を加えて、フェルドが再び見影へと視線を移した。


『その時点で御影さんがギルマスだってばれますけど、いざとなればパーティーを外れる事で戦闘対象外に出来ますから、無理のない程度にお願いします』

『おうよ』


 キセルを加えたまま、御影が腰に差した刀を鍔鳴らせる。『匠』という生産職ではあるが、元々『武者』で鳴らした人物である。その実力は先の鳳牙との一戦でよく分かっていた。


『で、先鋒はそんな感じとして、僕たちはカルテナの森で戦闘が始まると同時にトリエルに進入。タウン内に誰がいようと一気にカルテナの森まで移動して、アルタイルたちが誘い出した敵を殲滅する。この時点でおおよその敵前衛は姿を現しているだろうから、鳳牙は『徹し』で確実に相手の人数を削って欲しい』

『はい』


 鳳牙は両の拳を打ち合わせて答える。鳳牙の一撃必殺は相手の戦力を確実に削る事が出来る。蘇生魔法は射程が短いため、例え相手にヒーラーがいたとしても前線で仕留めればそう簡単には復帰させる事が出来ない。

 まずは確実に一人を仕留める。それが鳳牙の仕事だ。


『小燕とハヤブサさんは狙う相手を合わせてこちらも短期で仕留めて下さい』

『はいさー』

『了解した』


 身長差にして三十センチ近い二人は仲良く同時に返事をして、次に互いの拳を合わせあっている。

 鳳牙から見ても相性は悪くないようだった。


 それがフェルドにも分かるのか、彼はその様子ににこやかに頷いて、


『ステラとトウカさんは前衛が狙っていない相手の牽制をお願いします。出来れば倒せるのが最良ですけど、あまり一箇所に意識を集中せずに常に全体を見るようにして下さい』

『了解ばい』

『分かったでー』


 次に『魔術師』二人に指針を示す。どうやら今回はこの二人にも司令塔ポジションを担ってもらうらしい。

 作戦の性質上乱戦は避けられないという事と、回復に専念するためだろうと鳳牙は推測した。


『そして僕とミルフィニアさんはとにかく誰も倒されないように味方のヒットポイントの増減に神経を集中させる事。自分のマナポイントの残量にも気を付けてね』

『あ、は、はい!』


 口で言うのは簡単だが、実際には相当な負担である。それが分かっているのかいないのかいまいち鳳牙には読めなかったが、ミルフィニアは元気な声で返事をしていた。


『最終的には相手の規模にもよるけど、二パーティーまでならとにかく初撃の奇襲で相手前衛を三人以上削れれば一気に押し切れる。今回に限って後衛は前衛を壊走せてから対処する事になるけど、守り手がいなくなれば後衛を叩くのは難しくない』


 フェルドの言葉に、鳳牙はコクリと頷いて見せた。


 バランスを考えれば前衛は多くても三人が二パーティー分で六人。その半分を最序盤で倒してしまえばその時点でこちらと前衛の数がイコール、御影を含めれば上回る事になる。

 それぞれ一対一なら相手に後れを取ることはないだろうし、上手く前衛を押さえ込めればその間に後衛を叩きに行く事も出来る。

 そうなればもう勝負は決したようなものだ。相手パーティーは一気に瓦解するだろう。


『とにかく重要なのは速度。相手に何もさせない。それが出来れば絶対に勝てる』


 ぐっとフェルドが拳を握り込んだ。昨日から大まかな作戦を立案していたのだろうが、なかなかに自信があるようだった。


 鳳牙としては九人もの大所帯を御する自信はこれっぽっちもないので、『秘密の花園』でまとめ役を担っているハヤブサが特に突っ込みを入れない以上は特に何も言う事はなかった。


『よし。それじゃあ時間だし、行こうか』

『はい』

『うぬ』

『はいさー』

『行くばい』

『やっとか』

『了解だ』

『いつでも行けるで』

『よ、よろしくお願いします』


 全員の返事を確認して、フェルドがついとハルナへ視線を送った。

 すると、ハルナはその場で静かに一礼し、すっと両手を左右に開いた。


「lib。これより皆様、総計九名の転送を開始いたします」


 目を閉じたハルナの宣言と同時に、鳳牙たちの足元に青白い光を放つ幾何学模様が出現する。


「転送エリア、シルフェリシア大草原。座標検索開始…………完了。転送ポイントスキャン開始……スキャン完了。トランスポーター起動」


 転送準備が着々と進められ、力場によって発生する浮力がハルナの髪やエプロンがひらりひらりと舞い踊らせる。


「転送ポイント選択完了。座標固定……、完了」


 静かに闇色の瞳が開かれ、


「転送の準備が整いました。転送を開始してよろしいですか?」


 形の良い唇から淡々とした声で確認を取ってくる。

 フェルドがコクリと無言で頷くと、足元の青白い光はより一層強く輝き始めた。


「liberate。皆様がこの世界に自由と解放をもたらす鍵人(カギビト)とならん事を」


 深々と一礼するハルナの姿が一瞬にして闇に飲まれ、鳳牙たちはシルフェリシア大草原へと転送されていく。



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